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最近、巷では高収入を謳い犯罪行為や詐欺のカモにする危険なアルバイト――『闇バイト』と呼ばれるものが横行している。
『闇バイト』なんて言葉が作られる前から似た様な内容のバイトは存在していた。昔は、風俗店の店員やヤクザと仲良くなって仕事を紹介して貰ったこともあった。
特殊な事情でひとつの職場で長く働けない僕にとって、そういった『闇バイト』に分類されるバイトは、纏まった金額が得られる割の良い仕事である。
......と、それっぽく語ってみたものの実際は、よくわからない会社が開催するよくわからないイベントに主催者代理として挨拶をしたりとか、容器から変な物体を取り出して数分後に仕舞う作業を繰り返すとか、理解出来ないが危険とは思えない仕事ばかりやってきた。
そんな僕が唯一危機を感じたバイトの話をしようと思う。
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19■■年。夕日に照らされた落ち葉が秋の風に乗って宙を舞う東京のとある洋食料理店前。実家を出て以来、何処にも根付かずに放浪していた僕は、今日も人伝てに紹介して貰ったバイトに従事すべすこの店を訪れていた。
窓越しに掲げる「CLOSED」と書かれた看板が来客を拒んでいるが、気にせずドアノブを捻りドアを開ける。
チリンチリン、と来客を知らせるベルが鳴ると厨房からシェフ兼オーナーのOさんが直ぐに姿を見せる。
「いらっしゃい。■■■君だね?」
「はい」
20代か30代前半ぐらいだろう。1人で店を回してると言うOさんの容姿は、ガッシリとした肉体でありながら爽やかな笑顔が威圧感を感じさせない。
肉体労働の客商売を1人でやってるのだ。しかも東京で店を構えてるのだから、この容姿は必然なのかもしれない。
「こちらの席に座ってください」
促されるまま厨房から一番近い席に移動するも、座る前に1つ確認する。
「あの、Oさん。今回のバイトの内容についてですが」
「ええ。お出しする料理を残さず食べて頂く。報酬は1万円です」
腹を満たせるだけじゃなく金まで貰える。普通ならヤバい食材を使っていると勘繰るだろう。
「もし、問題無ければ教えて欲しいのですが、何か危険な食材を使用してるとか...ですかね?」
僕の疑問にOさんは、大袈裟に笑いながら否定する。
「違いますよ!当店では時折、お客様から食材を提供して頂いて調理する事もあります。今からお出しするのは、昼間に提供して頂いた食材の残りを調理した物です!」
「はあ......なんたって全部食べないんですか?」
「とてもグルメなお客様でして、新鮮な食材の特定の部位のみを好む方なのです」
「それで、他の部位を捨てるのは勿体ないからバイトに食べさせていると?」
「その通りです!」
この時の僕は、高級な牛か何かの希少部位の話だと思っていた。丸々一頭買ってきて他の部位は捨てるなんて勿体無い。美食家の考えは理解出来ない。と呑気に思っていた。
一応、納得して席に座ると早速料理が出される。
1品目は、ハンバーグ。
ハーブか何かでしっかり下ごしらえがされてるお陰か、薄味の和風ソースを絡めると風味が口いっぱいに拡がる。
「(美味いけど....なんて言うか、肉の味があまりしない...)」
2品目は、ユッケ。
食中毒の恐れがあるらしく、薬味をしっかりと和えて食べて欲しいと指示された。
「(これがユッケね.......なんか硬いし薬味のせいか妙な臭みがある。好みじゃないな)」
3品目は、ピザ。
贅沢にも大量に散りばめられた肉とブルーチーズの独特な風味か合わさり初めて体験する味を提供してくれる。
「(ブルーチーズは好みが結構別れるって聞くけど、僕は好きかも)」
ピザを食べ終えたところで尿意を催した。
「すみません。トイレに行きたいんですけど」
「そちらの通路を真っ直ぐ進んで右手にございます」
「ありがとうございます」
立ち上がった直後、チリリリン!と黒電話が着信音を鳴らす。
「はい!■■・■■■■(店名)です!」
予約の電話だろう。そう思いながらもちょっとした好奇心から聞き耳を立てた。
「ああ!八雲様でしたか!ええ!......ええ.....そういう事ですか...」
Oさんの声が小さくなる。止めればいいのに...いや、この時はやって良かったか、忍び足で近付き盗み聞く。
「........ええ.....となりますとですね、ええ...スグにでも...あっいや、丁度今ですね食事係のバイトが来てまして、彼ならスグにでも"調理出来ます"!」
直後、電気が走ったかの様に身体が飛び跳ね走り出していた。
「〜〜〜"ッ!!」
Oさんが後ろで何かを叫んでいるが気にしない。ドアを蹴破り逃走する!
「(調理!?調理するって言ったよな!僕をッ!)」
そこで気付いてしまった。「八雲」なる客に対して僕を調理しようとしたとなれば、あの料理らに使われた肉は"人肉"ではないか......と。
「――――――――ッッッ!!?」
胃の中に入っていた物を全て吐き出す。一瞬、吐瀉物が真っ赤な血を纏う内蔵に見えたが気のせいだった。
行き交う人々が訝しげに視線を向ける。
誰かに声をかけられた気がしたがスグに走り出していた。向かうは当然交番だ。
「あのッ!!!」
息も絶え絶え。滑り込む様に交番に入ってきた僕を、警官は驚いてスグに駆けつける。
「どうしましたッ!?」
「そこッ....■■・■■■■(店名)で人の―――ッ」
「蛇に睨まれた蛙」とはこの時の事を言うのだろう。全身が硬直し口が動かなくなる。店名を出した途端、驚き動揺していた警官の表情が突然真顔になったからだ。
警官は、僕の肩に手を置くと他人事...無関心の様にアドバイスする。
「その店で何を知ったか知らないが忘れなさい。そしてスグに東京から出て行った方が良いだろう。詮索するならば、私は君を店に送り返さなければならなくなる」
「.............はい」
それからどうしたかは覚えて無い。気が付いたら僕は横浜にいた。
それ以来、僕は1度も東京には行っていない。