1話 出会い
桜舞い散る時期それは出会いの季節。それはこのアイドル養成学校『初星学園』でも変わらない。この時期はプロデューサー科の専門大学生が学園中を彷徨き学園1のアイドル『プリマステラ』になり得る逸材を探す。そして高等部のアイドル達は少し不審とも思えるプロデューサー科の人間に警戒しながらもスカウトされる事を期待をしながらレッスンに励む。
そんな初星学園の誰もが心躍らせ新たな出会いを待ち侘びている季節に俺は校内のベンチで1人頭を抱えていた。理由は至って簡単、諦めたはずの夢に引きずられてこの学園に残ってしまったからだ…
「ほんと…何やってんだろ」
俺は現状を憂いて呟く。今は絶賛授業と授業の間の休み時間。授業を受けるならすぐにでも教室に向かわないといけない時間。だが今の俺には夢を実現するための授業なんて受ける気が起きない…それもあってここ数日、人通りの少ないこの場所でサボりを決行している。
金持ちでもない俺は奨学金を借りてこの学園に通ってる。将来返さないといけない金だ一銭も無駄にはできない…とはいえ何もやってない今夢を思い出させて来る授業には出たくないし、近くで上手く行ってる同級生を見たくない……くだらない理由だが今の俺には大きな理由だ。
この学園は懐が大きい。くだらない理由でサボったりする俺に配慮して1人でもできる課題を与えて評価をくれている。今週の課題はアイドル科の新入生を調べてまとめてくる事。プロデュースの基本、情報集めの課題だ。今日はそれを担任のあさり先生に渡しに来た。もうそろそろ約束の時間になるので職員室に向かってもいいんだが…あさり先生はいい人すぎて迷惑しかかけていない現状、喋れば喋るほどに自分が情けなく思えてきて辛くなる…
だからこうしてベンチに座り時間ギリギリまで現実逃避に走っていた。
「それにしても……今年の1年は変なのが多いな」
まだ職員室に行く気になれない俺は課題を改めて見直しながら現実逃避を続行する。
初星学園のアイドル科の高等部は、中等部から内部進学してきた奴らと心機一転高等部から編入してアイドルを目指す奴らがいる。普通に考えてより多くの時間をかけている内部進学組の方がが優秀な奴が多くなるんだが……今年は編入生に優秀な奴…と言うよりプロデュース次第で化けそうな奴が多い。
陸上で大人を唸らせる成績を残せる身体能力を持ち首席まで取った奴、幼少期バレエで世界を沸かせてた奴、家が大金持ちでコネありまくりの奴。パッと上げただけでも色物だらけ。本当に…今年は豊作だな。どうせプロデュースするなら内部進学してる奴より編入してくる奴の方が色々といい。正直高校生でアイドルを目指すなんてやろうと思えば小学生からできるアイドルでは遅いくらいだ。それなのにこの学園に入学してくるやつはまず間違いなく熱量がある、熱量がないやつは入試で払い落とされるからな。熱量があれば多少の無茶振りは喜んでこなしてくれる。俺が得意なプロデュース的にも……
そこまで考えて思い出す。
「はは……馬鹿だろ。誰が俺の事プロデューサーにしたいんだよ……」
自分が去年担当アイドルに捨てられていた事実を、周りに死ぬほど迷惑かけた噂の原因を、自分が夢を諦めた理由を……
そんな事変えられない過去を振り返って嫌気がさしている俺の前に1人の少女が歩いてくる。その少女が近くを通る時俺の目はその少女に釘付けになった。その少女の容姿が心に響く程に好みだったわけじゃない。学園関係者にあまり関わりたくない俺が心配になるくらい悪い顔色をしながら強風に吹かれた花よりもフラフラと歩いていたからだ…
あれ放っておいて大丈夫か?変な噂まみれの俺が声をかけたところで怖がられるのがオチだから放っていた方がいいんだろうが…人通りが少ない場所でサボっていた為ここには俺以外に誰もいない……俺は大きなため息をついた後、
「君大丈夫?」
少女に向かって歩きながら声をかける。
「……………………………」
少女は気づいてないのか俺の問いかけに答えることもなくふらふらと歩き続ける。久しぶりに怖がられる以外の対応を受けて少し戸惑いながら少女を眺めていると、
「………………………きゅう」
「ちょ!?」
可愛い断末魔と共に前方向に勢いよく倒れた。幸い俺の反射神経によって地面に接触する前になんとか受け止めれたが、
「おい!大丈夫か?」
腕の中の少女は声をかけても体を揺さぶっても反応を示さない…完全に意識を失っている。もう一度周りを見渡すがさっきと変わらず人はいない…つまりこの状況を俺1人でなんとかする必要がある…
「くっそ…滅茶苦茶めんどくせ〜」
俺は意識を失った少女を持ち上げ保健室へ歩みを進める。さっさと職員室に行けば良かった…
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「疲れた〜」
少女を保健室のベットに寝かせた後一息つく。
怪我人が出たのか保健室に先生の姿は見られず少し休んだら探しに行かないといけない。幸い道中は休み時間も終わりかけだったこともあり誰にも見られることなく運べた、ただでさえ碌でもない噂ばかりなんだこれ以上増やしたくない…俺は呼吸を整えた後、
「あとは先生に任せるか…」
そう呟く。これから情けない気持ちになるのが確定しているんだ、これ以上面倒くさい事は起きてほしくない。休んでいた椅子から立ち保険の先生を探しに職員室に足を運ぼうとした時、
「ん……んん………」
少女が目を覚ました。先ほどとは違い顔色も良く数段可憐に見える。透き通る肌や白い髪など銀木犀の花を思わせる様な出立ちに俺は少し見惚れてしまった……流石アイドル養成学校。相変わらず顔面偏差値高いな……
「起きたか、痛い所とかないよな?」
俺は少しだけ見惚れていたのを誤魔化す様に話しかける。
「ん…大丈夫。ここどこ?」
「保健室だよ。覚えてるか?ふらふら歩いてぶっ倒れたの」
「覚えてる。運んでくれたの?」
この様子だと受け止めきれずに頭を打ったとかはなさそうだな。
「そうだよ、なんなら頭を打たない様に自分の身を顧みずキャッチまでしてな見ろよこの肘、滅茶苦茶痛えよ」
俺は少女に袖をまくりながら軽い傷ができていた肘を指差して見せつける。少女はそんな俺の嫌味ったらしい態度に、
「ふふ、ありがとう」
満面の笑みで返してくる。普通困る所だろ…調子狂うな。
「…まあとりあえず寝てろ。俺は先生呼んでくるから」
既にあさり先生との約束の時間が過ぎている今、これ以上時間をかけているとあさり先生に怒られそうなので野暮用をさっさと済ませようとこの場をあとにしようとしたが、
「まって」
少女がそれを阻んできた。
「…なんだよ」
「あなたはプロデューサー科の人?」
「そうだけど…」
「私は篠澤広。貴方は?」
篠澤広……確か調べてくる様に言われた新入生にそんな奴がいた気がする…確か飛び級してる天才少女だっけ?有望株っぽいし色んなところから嫌われてる俺と一緒にいても碌なことにならないだろう……夢を諦めた今わざわざ将来有望な奴の未来を汚したくない。ここは適当にビビらせて距離をおこう。そんな事を思い俺は、
「名前は言いたくねえ、けど俺の噂はお前も知ってると思うぞ?去年担当アイドルに逃げられた性悪プロデューサーそれが俺だ」
最悪な自己紹介をする。本当にクソみたいな自己紹介だ…自分で言ってて胸が痛くなる…そんなこれ以上ないくらい最悪な自己紹介に篠澤は、
「やっぱり…ふふ、噂通りすごく面白い人、だね」
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせながら称賛してくる。何この反応……
「じゃあもう一つ質問。今担当してるアイドルはいない?」
「…聞かなくてもわかるだろ。いねえよ」
「なら私をプロデュースしてほしい」
「は?」
篠澤の言葉に思わず声が漏れる。…まさに青天の霹靂。出てくるはずのない言葉に思考が止まる。
「…もう一度聞くけど本当に俺の噂知ってるんだよな?」
「知ってる。レッスンの強度がすごいって聞いた、よ」
「それ以外にもあっただろ?…アイドルを転校するまで追い込んだクソ野郎とかさ……」
俺の噂は学内だけで広がってるわけじゃない。初星学園はトップアイドルを輩出する名門校それだけに注目度が高い一度変な噂が広がるとネットを通じて世界に広がることもある。それに俺の一件は他校も絡んでいるこっちが黙っててもあっちから漏れる。噂をする人間が増えれば内容はどんどん誇張され伝わっていく…そうやって噂が噂を呼び今や俺は立派な初星学園の汚点となっていた。俺がこの学園に通えているのも事情を知ってる学園長の心遣いってだけだ。
「知ってる。すごい言われようだった」
「噂を知っててなんで俺なんだよ…」
「私を助けてくれたから。本当に噂通りの人なら目の前で倒れられたとしても見捨てるか私に変な事してたと思う。それなのに貴方は私をわざわざ保健室まで運んでくれた。やっぱり噂は当てにならない、ね」
篠澤は噂と違って俺を人として信頼できると伝えてくれている。またとないチャンスに少し胸が躍っているのを感じる。だが……
「それに関しては同意だな。けどそれだけが理由ならお断りだ。流れてる噂は出鱈目ばかりだけど中には本当のやつもある。噂が全てじゃないけどお前が見た俺だって全てじゃない……一応聞くけど他に理由はあるのか?」
俺の悪いうわさは学園内じゃ知らない奴の方が少ないくらいに広がっている。……半端な理由で俺をプロデューサーにすると碌なことにならない。俺だってアイドルが好きでこの学園に入学したんだ……これから頑張ろうってやつの足を引っ張りたくない。
「利害の一致。私にはあなた以外プロデューサーになってくれそうな人いないから。あなたも担当アイドルになってくれる子いない、よね?」
「……俺は別に探してねえ。てかお前飛び級してる天才なんだろ?そんな磨けば光る宝石みたいな奴がなんでプロデューサーつかないんだよ?」
俺は俺の問いに対する返答に感じた疑問を口に出す。多少実力がなかったとしてもこいつにはメディア展開する上で大きな武器がある。こいつみたいな奴はプロデュース次第で大きく伸びる。自分の腕に自信がある奴ほど狙いに来そうだが…
「私筆記テストは満点だけど実技は0点」
「……実技0点?」
何故か誇らしそうに語る篠澤に俺は聞き返す。実技0点って何?アイドル関係ない盆踊り踊っても10点は取れるだろ……こいつはとんでもないポンコツだ……
「……なんで入学できたの?」
「面接の時変なおじいちゃんが見込みがあるって」
変なおじいちゃん?学園長のことか?あの人マジで何考えてんの?……多分こいつは新入生の貧乏くじだな。実力ないのに下手に偉い人に気に入られてるせいで色々とやりにくい。いくらプロデュースする相手がいないからとは言え見えてる地雷には触らない。それに……やっぱり今のこいつを輝かせる方法を思いつかない。一緒にいるだけで迷惑をかける今の状態でメリットすら提示できないなら……関わるべきじゃない俺はこれ以上自分のことを嫌いになりたくないんだ……だから、
「……俺は落ちこぼれ育てるほど優秀じゃねえんだよ。それに俺はもうプロデュースする気はねえ」
自分の信条を曲げ嘘をつき部屋を出るために扉に手をかける。だが、
「じゃあなんで初星学園に残ったの?噂じゃ問題をおこしたの去年の冬だった。プロデュースをする気がないなら進学せずに学校を辞めてないとおかしい」
篠澤の本質を突いた問いに思わず固まる。問題が起きたのは去年の11月頃だった…その事を考えると胸が苦しくなるから今まで深く考えていなかったが…篠澤に言い返す為に今一度何で辞めなかったのかを考える。俺が去年辞めなかった理由…
「……夢を諦めるのだってそれなりの理由がいるんだよ」
出てきた理由は単純だった。まだ夢を諦めるには苦痛も間違いも足りてない。それくらい夢が光り輝いて目が離せないだけだ。
「じゃあ私をプロデュースしてほしい。私は落ちこぼれだから嫌気がさすかもしれない、よ」
篠澤は自信満々に自分の不出来さを主張してくる。そんな天才とは思えない年相応の馬鹿さ加減が窺える提案に俺は悩む。
これはチャンスだと思うが…流石に実技0点は面倒見切れないだろう。俺だって優秀なプロデューサーって訳じゃ無いんだ…もう一度間違えて終わるよりこのまま夢は夢のままで心に仕舞い込んでしまった方が傷つかなくて済むんじゃ無いのか…でもこんなチャンス今後絶対訪れない…そんな堂々巡りな考えが頭の中で交錯する。
…俺はしばらく考えた後、
「はあ…わかった。お前をプロデュースするよ」
提案を受けることにした。これからの人生自責より他責で夢を諦めたと考えた方が気分が楽そうだからだ。それに……諦めるならやれるだけのことをやって諦めたい。
「ほんと?」
「ここで嘘ついてもなんの意味もないだろ。明日から始めるからとりあえず今日は休めよ」
そう言って今度こそ部屋を出て保健の先生を探しに行く、
「これからよろしくねプロデューサー。」
久しぶりに聞いた呼ばれ方に少し頬を緩ませながら。