出会い
桜舞い散る時期、プロデューサー科の人間なら心躍らせ担当アイドル確保に奔走する季節。
そんな季節に俺は校内のベンチで頭を抱えていた。理由は至って簡単、諦めたはずの夢に引きずられてこの学園に残ってしまったからだ…
「ほんと…何やってんだろ」
俺は現状を憂いて呟く。
今は絶賛授業と授業の間の休み時間。授業を受けるならすぐにでも教室に向かわないといけない時間。だが今の俺には夢を実現するための授業なんて受ける気が起きない…
それもあってここ数日、人通りの少ないこの場所でサボりを決行している。
金持ちでもない俺は奨学金を借りてこの学園に通ってる。将来返さないといけない金だ。一銭も無駄にはできない…
とはいえ、何もやってない今夢を思い出させて来る授業には出たくないし、近くで上手く行ってる同級生を見たくない…くだらない理由だが今の俺には大きな理由だ。
この学園は懐が大きい。くだらない理由でサボったりする俺に配慮して1人でもできる課題を与えて評価をくれている。今週の課題はアイドル科の新入生を調べてまとめてくる事。プロデュースの基本、情報集めの課題だ。今日はそれを担任のあさり先生に渡しに来た。
もうそろそろ約束の時間になるので職員室に向かってもいいんだが…あさり先生はいい人すぎて迷惑しかかけていない現状、喋れば喋るほどに自分が情けなく思えてきて辛くなる…
だからこうしてベンチに座り時間ギリギリまで現実逃避に走っていた。そんな何をしても自分のことが嫌いになっていく現状に俺は、
「せめて…もう一回プロデュースできればあきらめもつくんだけどな…」
叶うわけない願いをこぼす。
そんな現実逃避をしている俺の前に1人の少女が歩いてくる。その少女が近くを通る時俺の目はその少女に釘付けになった。その少女の容姿が心に響く程に好みだったわけじゃない。
心配になるくらいに悪い顔色をしながら強風に吹かれた花よりもフラフラと歩いていたからだ…あれ放っておいて大丈夫か?俺が声をかけたところで怖がられるのがオチだから放っていた方がいいんだろうが…人通りが少ない場所でサボっていた為ここには俺以外に誰もいない…俺は大きなため息をついた後、
「君大丈夫?」
少女に向かって歩きながら声をかける。
「……………………………」
少女は気づいてないのか俺の問いかけに答えることもなくふらふらと歩き続ける。久しぶりに怖がられる以外の対応を受けて少し戸惑いながら少女を眺めていると、
「………………………きゅう」
「ちょ!?」
可愛い断末魔と共に前方向に勢いよく倒れた。幸い俺の反射神経によって地面に接触する前になんとか受け止めれたが、
「おい!大丈夫か?」
腕の中の少女は声をかけても体を揺さぶっても反応を示さない…完全に意識を失っている。もう一度周りを見渡すがさっきと変わらず人はいない…つまりこの状況を俺1人でなんとかする必要がある…
「くっそ…滅茶苦茶めんどくせ〜」
俺は意識を失った少女を持ち上げ保健室へ歩みを進める。さっさと職員室に行けば良かった…
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「疲れた〜」
少女を保健室のベットに寝かせた後一息つく。
怪我人が出たのか保健室に先生の姿は見られず少し休んだら探しに行かないといけない。幸い道中は休み時間も終わりかけだったこともあり誰にも見られることなく運べた、ただでさえ碌でもない噂ばかりなんだこれ以上増やしたくない…俺は呼吸を整えた後、
「あとは先生に任せるか…」
そう呟く。これから情けない気持ちになるのが確定しているんだ、これ以上面倒くさい事は起きてほしくない。休んでいた椅子から立ち保険の先生を探しに職員室に足を運ぼうとした時、
「ん……んん………」
少女が目を覚ました。先ほどとは違い顔色も良く数段可憐に見える。透き通る肌や白い髪など銀木犀の花を思わせる様な出立ちに俺は少し見惚れてしまった。まあ少し華奢すぎるので木というよりかは枝なんだが…
「起きたか、痛い所とかないよな?」
俺は少しだけ見惚れていたのを誤魔化す様に話しかける。
「ん…大丈夫。ここどこ?」
「保健室。覚えてるか?ふらふら歩いてぶっ倒れたの」
「覚えてる。運んでくれたの?」
この様子だと受け止めきれずに頭を打ったとかはなさそうだな。
「そうだよ、なんなら頭を打たない様に自分の身を顧みずキャッチまでしてな見ろよこの肘、滅茶苦茶痛えよ」
袖をまくりながら軽い傷ができていた肘を指差して見せつける。少女はそんな俺の嫌味ったらしい態度に、
「ふふ、ありがとう」
満面の笑みで返してくる。普通困る所だろ…調子狂うな。
「…まあとりあえず寝てろ。俺は先生呼んでくるから」
既にあさり先生との約束の時間が過ぎている今、これ以上時間をかけているとあさり先生に怒られそうなので野暮用をさっさと済ませようとこの場をあとにしようとしたが、
「まって」
少女がそれを阻んできた。
「…なんだよ」
「あなたはプロデューサー科の人?」
「そうだけど」
「私、篠澤広。貴方は?」
篠澤広?確か調べてくる様に言われた新入生にそんな奴がいた気がする…確か飛び級してる天才少女だっけ?有望株っぽいし俺と一緒にいても碌なことにならないだろうから適当にビビらせて距離をおこう。そう思い俺は、
「名前は言いたくねえ、けど俺の噂はお前も知ってると思うぞ?去年担当アイドルに逃げられた性悪プロデューサーそれが俺だ」
最悪な自己紹介をする。本当にクソみたいな自己紹介だ…自分で言ってて胸が痛くなる…
「じゃあ今担当してるアイドルはいない?」
「…聞かなくてもわかるだろ。いねえよ」
「じゃあ私をプロデュースしてほしい」
「は?」
篠澤の言葉に思わず声が漏れる。…まさに青天の霹靂。出てくるはずのない言葉に思考が止まる。
「…もう一度聞くけど本当に俺の噂知ってるんだよな?」
「知ってる。しごきがすごいって聞いた、よ」
「それ以外にもあっただろ?」
噂は学内だけで広がってるわけじゃない。初星学園はトップアイドルを輩出する名門校それだけに注目度が高い、一度変な噂が広がるとネットを通じて世界に広がることもある。それに俺の一件は他校も絡んでいるこっちが黙っててもあっちから漏れる。
噂をする人間が増えれば内容はどんどん誇張され伝わっていく…そうやって噂が噂を呼び今や俺は立派な初星学園の汚点となっていた。俺がこの学園に通えているのも事情を知ってる学園長の心遣いってだけだ。
「噂を知っててなんで俺なんだよ…」
「利害の一致。あなた以外プロデューサーになってくれそうな人いないから。あなたも担当アイドルになってくれる子いない、よね?」
「俺は別に探してねえ。てかお前飛び級してる天才なんだろ?そんな輝く宝石みたいな奴がなんでプロデューサーつかないんだよ?」
俺は感じた疑問を口に出す。多少実力がなかったとしてもメディア展開する上で大きな武器があるこいつみたいな奴はプロデュース次第で大きく伸びる。自分の腕に自信がある奴ほど狙いに来そうだが…
「私、実技0点」
「は?」
篠澤は誇らしそうに語る。実力が無さすぎたらしい…
「…なんで入学できたの?」
「面接の時変なおじいちゃんが見込みがあるって」
変なおじいちゃん?学園長のことか?あの人マジで何考えてんの?…多分こいつは新入生の貧乏くじだな、いくらプロデュースする相手がいないからとは言え見えてる地雷には流石に触らない。
それに…俺の悪いうわさは学園内じゃ知らない奴の方が少ないくらいに広がっている。本当に俺以外にプロデュースしてくれる奴がいないとしても1人で頑張っていた方がまだマシなはずだ…そう考えた俺は、
「俺は落ちこぼれ育てるほど優秀じゃねえんだよ。それに俺はもうプロデュースする気はねえ」
適当に理由をつけて部屋を出るために扉に手をかける。だが、
「じゃあなんで初星学園に残ったの?噂じゃ問題をおこしたの去年の冬だった、よ」
篠澤の本質を突いた問いに思わず固まる。問題が起きたのは去年の11月頃だった…その事を考えると胸が苦しくなるから今まで深く考えていなかったが…篠澤に言い返す為に今一度何で辞めなかったのかを考える。俺が去年辞めなかった理由…
「……夢を諦めるのだってそれなりの理由がいるんだよ」
出てきた理由は単純だった。まだ夢を諦めるには苦痛も間違いも足りてない。それくらい夢が光り輝いて目が離せないだけだ。
「じゃあ私をプロデュースしてほしい。私は落ちこぼれだから嫌気がさすかもしれない、よ」
篠澤は自信満々に自分の不出来さを主張してくる。そんな天才とは思えない年相応の馬鹿さが窺える提案に俺は悩む。
これはチャンスだと思うが…流石に実技0点は面倒見切れないだろう。俺だって優秀なプロデューサーって訳じゃ無いんだ…もう一度間違えて終わるよりこのまま夢は夢のままで心に仕舞い込んでしまった方が傷つかなくて済むんじゃ無いのか…でもこんなチャンス今後絶対訪れない…そんな堂々巡りな考えが頭の中で交錯する。
…俺はしばらく考えた後、
「はあ…わかった。お前をプロデュースするよ」
提案を受けることにした。これからの人生自責より他責で夢を諦めたと考えた方が気分が楽そうだからだ。それに…諦めるならやれるだけのことをやって諦めたい。
「ほんと?」
「ここで嘘ついてもなんの意味もないだろ。明日から始めるからとりあえず今日は休めよ」
そう言って今度こそこの部屋を出て保健の先生を探しに行く、
「これからよろしくねプロデューサー。」
久しぶりの呼ばれ方に少し頬を緩ませながら。