諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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保健室での相談

「あなたにも倒れられると困るので少し休んでください」

 

保健室に運ばれて数時間経っても目を覚ます気配のない男を心配そうに見つめる篠澤に一条が声をかける。

 

「誰?」

 

「これは失礼しました。そこで眠ってる奴の友人の一条と言います。貴方は篠澤広さんですよね?彼から色々聞いてますよ」

 

「プロデューサーの友達なんだ…」

 

篠澤は少し悩んだ後口を開く。

 

「…ねえ、プロデューサーは私の事どんな風に言ってた?」

 

「…楽しそうに語ってましたよ。貴方のポンコツ具合を」

 

一条は篠澤の不安を見抜き篠澤のプロデューサーを思わせるような軽口で返す。

 

「ふふ、私の前とあんまり変わらない」

 

少しだけ笑った後またしても篠澤の顔が曇り出す。

 

「…何か気になることでもあるんですか?良ければ相談に乗りますよ」

 

「…私プロデューサーの邪魔になってない?」

 

「なってないですよ。彼の夢も貴方あってこそですから。」

 

「…そっか」

 

「心配なら本人に聞いてみますか?」

 

「…素直に教えてくれないと思う」

 

「なら彼が目覚めた時この部屋のどこかに隠れて聞き耳を立ててください。私が篠澤さんをどう思ってるのか聞き出しますよ」

 

一条がそう言うと篠澤は面白そうなアイデアに目を光らせ、

 

「おお〜ナイスアイデア。それで行こう」

 

ノリノリで受け入れた。

 

「じゃあ篠澤さんの隠れる場所は…」

 

「ここにする」

 

篠澤はプロデューサーが眠っているベットの下に指を指す。

 

「…灯台下暗しとは言いますが、いつ起きるのかわからないのでもう少し快適な場所の方が良くないですか?」

 

「ここがいい。暗くて埃っぽくて息をするだけで苦しい…想像しただけで楽しそう」

 

「…そうですか」

____________________________________________

 

「って事があった」

 

「さいですか…」

 

俺は自分の発言を思い返して頭を抱える。もうプロデューサーの威厳なんてねえじゃねえか!クソ…一条覚えとけよ…俺は動揺を隠して話しかける。

 

「…で、聞き耳立てた感想は?」

 

「プロデューサーが私のことを好きなのは良いけど束縛が激しいのは困る」

 

篠澤はこれ以上ないくらい嬉しそうに苦情を伝えてくる。クソうざい…これに言い返す材料がないのがウザさに拍車をかけている…

 

「…はいはい。で、話があるんじゃねえの?」

 

「否定しないんだ」

 

「あれ見られたら否定したところでだろ…」

 

篠澤はひとしきりニヤニヤした後咳払いをして本題を話し始める

 

「プロデューサー。私の事思うならしばらく休んでほしい」

 

「…それは嫌だ。」

 

「どうして?」

 

「俺が今無理しなかったら俺の過去がお前に迷惑かけるかもしれないから…」

 

俺は篠澤の問いに本音を濁しながら答える。今が順調なのは俺でもわかる。でもそれは今がアイドルとしての活動を何もしてないからだ。

 

篠澤の問題点は体力が無さすぎてライブすらできない事。だがライブができるようになりアイドルとして活動を始めれるようになる頃には篠澤は人並みに体力をつけて動ける様になっているだろう。そうなった時…今のままではその時に仕事を用意できない。

 

仕事が用意できなくて苦労している俺を見たプロデューサー科の奴らは考えるだろう…俺がプロデュースした方がいいんじゃないか?一回引き抜かれてる奴ならいけるんじゃないか?と、そうなったら去年の二の舞だ。

 

無理していたのだって篠澤のためなんかじゃない…俺はただ怖いんだ…もう見限られたくない…そんな俺の本音を濁した言葉に篠澤は、

 

「プロデューサー…私はそれを求めてる」

 

「…はい?」

 

理解し難い言葉で返してくる。

 

「ただでさえ色々足りてない私が悪評まみれで取れる選択肢が少ないプロデューサーと歩く茨の道…想像するだけでままならないそんなアイドル活動…とっても楽しそう」

 

篠澤は理解が追いついてない俺に熱弁してくる。

 

「…お前が求めてるプロデューサー像がよくわかんないんだけど」

 

「私が求めてるのは適切に私を把握して毎日限界ギリギリまで追い込んで、倒れた私を台車に乗せて恥ずかしい姿を女子寮のみんなに晒した挙句吐きそうになるくらいご飯を食べさせてくる…そんなままならない日々をくれるプロデューサー」

 

「ええ…」

 

聞いてて自分でも少し引いてしまう所業の数々を恍惚とした表情で語る篠澤に俺はドン引きしてしまった。

 

俺は篠澤広と言う人間の理解が浅かったらしい。楽に成功するのに飽きて苦しみの先にある成功を掴み取りたいのかと思っていたが…失敗を全身で感じたいだけの変な奴だった…

 

「ふふ、その目いいね…」

 

篠澤は俺の軽蔑の目線にすら興奮している。こいつはマジでなんなんだよ…

 

「というか…それって今の俺だろ?この際だから言ってくれよ、やって欲しいこととか変えて欲しいところとか」

 

「…?特にないけど」

 

「なんでだよ…」

 

「プロデューサーは私のことをちゃんと見てくれてるから。それにやりたい事だって全部やらせてくれてる。不満に思うことなんて1つもない、よ」

 

「んな…」

 

「だから無理はしないで欲しい。プロデューサーが倒れて目が覚めないかもって思った時すごく胸がきゅっとなって…とっても辛かった…私苦しいのは好きだけど辛い気持ちだけなのはとっても嫌…」

 

篠澤は話し始めてから初めて辛そうに語る。

 

去年の一件、周りから1番言われた言葉は自業自得だった。自分でもそう思ったし直していきたいとも思った。

 

けど…1番不満に思っていたやつが俺から離れてしまったから自分の悪い所を言ってくれる人が消えて俺は俺の悪いところがわからなかった。どこを直せばいいかわからなくて次第に自分を構成する要素全てが漠然と悪く見えてきて全部が間違いだと思えた。

 

だから無理をしても生まれ変わろうと思っていた。けど篠澤は間違いだらけのありのままの俺を楽しんでくれている…そんな篠澤に俺は、

 

「…お前がそこまでいうなら俺はもう完璧になろうとしないし自分の悪評を拭おうとして無理したりしないからな?お前1人でアイドルしてた方がマシなくらいに苦労かけるかもしれないけど…本当にいいんだな?」

 

最後の警告を告げる。プロデューサーとして0点の発言だ。見限られたってなんの文句も言えないそんな発言を、

 

「ふふん、望むところ」

 

篠澤はいつも通り胸を張って笑っていた。それが間違いだらけで情けない所しか見せてない俺を受け入れてくれたような気がして

 

「お前って…本当に変だよな」

 

思わず笑ってしまった。俺は心のどこかに引っかかっていた嫌なものが取れてくれた様な気がしてベッドに上半身を預ける。

 

「あ〜あ本当にここ1ヶ月無駄に苦労した〜」

 

「プロデューサーはやっぱりポンコツだ、ね」

 

「…ああそうだな。まさかポンコツアイドルに言われて否定できない日が来るとは思ってなかったよ」

 

「これからはポンコツコンビとして頑張ろう、ね」

 

ポンコツアイドルとポンコツプロデューサーの2人で歩く茨の道か…

 

「本当にままならねえ日々になりそうだな…」

 

「でもきっと楽しい、よ」

 

それを悪くないと思っているのは篠澤に良くない影響をうけているんだろう…

 

「まあ、退屈だけはしなさそうだな」

 

だけど久しぶりに未来が明るく見えた気がする。

 

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