諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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一番星の訪問

俺が復帰してから約2週間が経った。この2週間俺はプロデュース方針はそのままに篠澤の理解に時間を費やした。その結果…俺が2週間前に感じていた違和感は確信へと変わった。

 

「…なんかいい方法ないかな」

 

俺は事務所代わりの教室で呟く。篠澤広はやる気に満ち溢れたアイドルだ。レッスンはサボらないしどれだけ過酷なレッスン内容でも文句を言うどころか興奮しながら倒れるまで走り続けるまっすぐなアイドル。

 

そのまっすぐな目線の先にあるのは苦しいレッスンを楽しむ事。着実に成長できる素晴らしい特性と言える。問題は…目線の先にアイドル活動が無い事、アイドル活動に対して興味がなさそうな事。

 

最近初星学園の生徒が始めに覚える曲「初」のレッスンに着手したのだが…篠澤の動きに違和感がある。篠澤のダンスの動きに意味を感じない。

 

篠澤は感覚派ではない理論派だ基本的に動きを理屈で理解してる節がある、だから見てればなんとなくで動きに込めた意味がわかったりする事もあるんだが「初」の振り付けではそれがない…

 

それが理由なのかわからないが通しで踊り切った事が一回もない。2ヶ月も体力作りに充てたんだ体力的には問題ないはず。だからそうなってしまう原因が篠澤のアイドル活動に対して興味が薄いせいだと…思う。理屈ではうまく説明できないが直感でそう感じる。

 

それでここ数日ずっと解決策を模索しているのだが…何も思いつかない。こんな時にプロデューサーなら機転を利かせてうまく行くように誘導したいんだが…

 

「なんも思いつかねえ…」

 

圧倒的な経験不足…去年はこんな根本的な事で悩んでねえからわかんねえし、興味を持たせるためにアイドル活動したくてもできる水準に達してねえ…相談したくても最近は一条もHIFに向けて忙しそうだし…

 

マジでどうしよう…そんなことを思っていると、

 

「失礼するわ!」

 

「えっ…」

 

一番星、十王星南によって勢いよく事務所の扉が開かれた。自信満々にそして来ることがない人物がドアを開けたため驚いて眺める事しかできなかった…しばらく気まずい沈黙で時間が流れた後、

 

「…来ちゃ駄目だったかしら?」

 

星南は欲しい物をねだる時の子供のように恐る恐る呟く。それで俺は我を取り戻し、

 

「そんなことねえよ。ただあまりにも現実味のない状況だったからびっくりしてただけだ。悪かったよお茶出すから座ってくれ」

 

百点満点の返しをしておく、まあフリーズしてたのが-200点くらいあるからプラマイマイだが…そんなことを思いながら急須に茶葉を入れお茶を用意する。

 

お湯を沸かしている間沈黙が流れていたがあまり気まずくなかった。学園長と雰囲気が似ているからだろうか。数分後、お湯が沸いたので急須に入れ俺と星南の分を交互に少しずつ入れていく。

 

「できたぞ。篠澤お気に入りの緑茶でございます。十王様の口に合うかわかりませんがごゆっくり味わってください」

 

俺は先ほどのフリーズしていた事を無かったことにする為できるだけ明るく淹れたてのお茶を差し出す

 

「ふふ、ありがとう。いただくわ」

 

星南はそう言って俺が淹れたお茶を早速飲んでいる。お茶を飲んでいるだけなのに何故か絵になってるな…十王はしばらくお茶を味わった後、

 

「美味しいわね…」

 

感想を述べる。

 

「まあそこそこ良いやつだからな。それで、どうかしたのか?」

 

そんなプリマステラに俺は少し警戒しながら要件を問う。こいつは最近ユニットを作って一条同様HIFに向けて忙しかったはず、それなのに俺なんかに会いに来るということは…また俺が何かやらかしてるはず…

 

「一旦色々落ち着いてきたから様子を見にきたの。体調の方は大丈夫かしら?」

 

「えっ…ああ、まあそこそこだけど」

 

「そう、ならよかったわ。」

 

星南はそう言いながら笑いかけてくる。えっ、それだけ?学園1のアイドルがわざわざ心配して様子見にきてくれたって事か…俺はその事が嬉しくて、

 

「なになに?俺のこと心配してくれてんの?」

 

思いっきり調子に乗った。

 

「…するに決まってるでしょ。知り合いが倒れたのだから」

 

そんな俺に星南も呆れながら言葉を返す。プロデューサー科の成績優秀奴らでもここまでプリマステラに心配されねえだろ!へへ、どうだ俺だって本気出せば…

 

「それに、生徒会長として立て続けに女子寮で問題を起こしてる人に一言言っておかないと思ってね」

 

「この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

冷たく言葉を放つ星南の豹変っぷりに俺は怖くて机におでこをつけて謝る。くそぉ…最初の認識であってたじゃねえか…滅茶苦茶怖い…どうやって許してもらおう…そんな事を考えていると星南が吹き出し、

 

「ふふ、冗談よ。元気そうでよかったわ」

 

笑いかけてくる。よほど面白かったのか星南は俺の反応を見てお腹を抑えて笑っている。

 

「威厳がある奴にそのふざけ方されるとマジでわかんないんだけど…」

 

「ごめんなさい、貴方の反応が面白くてつい」

 

こいつといい篠澤といい俺の事おもちゃ扱いしてくるのはなんなんだよ…俺は頭の中で篠澤と星南を並べた時ふと思い出した。確か千奈が言っていた最近生徒会に入って星南にプロデュースを受けてるって…じゃあこいつ今アイドル兼プロデューサーってわけだよな?相談相手にピッタリじゃん!

 

「十王さん…お茶ついでに相談しても良いですかね?」

 

俺はできるだけ下手にでながら相談を持ちかける。

 

「星南でいいわ、何かしら?」

 

「その…篠澤のことなんだけど…」

 

______________________________________

 

 

「…多分ステージに立つ自分を想像できてないんじゃないかしら」

 

星南は俺の相談を聞いてそう結論づけた。

 

「アイドル活動は基本的に日常生活で経験しないようなことばかりだから最初はどうしてもぎこちなくて上手く動けなくなるものよ。貴方が感じてる違和感もそれじゃないかしら」

 

おお〜すげえいきなり答えが出てきた。しかしそれと同時に今じゃ解決できないこともわかった…アイドル活動まだできねえよ…

 

「じゃあ今の所現状維持でゆっくり慣らすしかねえか…」

 

「そんなことないわよ?」

 

「えっ?まじ?」

 

「イメージさえ固められれば良いのだから。イメージしやすいように色々な経験をさせてあげれば良いのよ」

 

「でもあいつアイドル活動できる体力ないんだけど…」

 

「別にアイドルとしてじゃなくても経験できるものはあるわよ」

 

そこまで言って星南は答えを出し渋る。あとは自分で考えろって事だろう。アイドルじゃなくても経験できるイメージを固めれる場所…?俺はしばし考えたのち、

 

「…ライブに連れて行くって事か」

 

「ええ、そうゆうことよ」

 

答えを導き出す。解決方法はわかったしかも今はHIFに向けて初星のアイドル達がこぞってライブをしている時期、ライブを見るにはうってつけのタイミングだ

 

…問題はこの時期のライブは人気すぎてチケットがもう取れねえんだよな…もっと早く気づけてればなんとかできたのに…解決方法が見つかったのに上手くいかない現状に頭を抱える俺に星南は咳払いをしながら、

 

「こほん…ここにBegraziaの最前席のライブチケットが2枚あるわ」

 

ライブチケットを広げて見せびらかしてくる。そんな星南に俺は、

 

「星南様…靴でも舐めましょうか?」

 

どこまでもプライド捨てれることを暗に伝えておく。

 

「しなくて良いわよ!…これはこの前のお詫びよ。遠慮しないで受け取って」

 

星南はそう言ってチケットを俺に渡してくる。こいつ良い人すぎない?あの時星南は篠澤を心配して動いていた、悪いのは周りの目を気にせずに振る舞っていた俺だ…これを受け取るにしても星南に少しでもいい事がないと俺が納得できねえ…俺はしばし悩んだあと、

 

「じゃあ遠慮なくもらうよ。確か貸しあったよな?これで貸し借り無しだ、これからは初星学園のプロデューサー同士助け合っていこうぜ」

 

先輩風を吹かす。手助けの確約、正直今の俺にできることはこれくらいしかない…

 

「ええ、何かあれば頼るわ。じゃあそろそろ私は失礼するわね。ライブ楽しみにしてなさい!」

 

そう言って星南は颯爽と事務所から出ていく。本当に忙しい中これを渡しに来ただけらしい。人間ができすぎてるだろ…なんか借りとか言ってた自分がすごく情けなく思えてきた…

 

「はあ…お茶でも飲も」

 

そんなこんなで淹れ直したお茶は太っ腹すぎるプリマステラへの劣等感で苦味が増した気がした。

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