「おお〜人がいっぱい」
当日会場はHIF間近と言うこともあり熱気に包まれている。この会場は毎年HIFユニット部門のアイドル達が毎日のようにライブを開催している場所。
初星学園の持ち物だからチケットの値段も相場よりもかなり安い。そのせいで競争率は高くいつも人が賑わっている場所だ。そんなライブの最前列をくれた星南には本当に感謝しかない。俺たちはグッズやペンライトを買った後チケットに書いてある席の前についていた
「佑芽が出るライブ…楽しみだね」
「ああそうだな。なんてったて今一番熱いと言っていいユニットだからな…もうすぐで始まるけど倒れるなよ」
「私もレッスンで体力をつけた。今なら倒れない。任せてほしい」
いや…昨日も自信満々に頭から倒れてただろうが…心配だ…そんな事を思っていると、
「みんな〜!!」
佑芽が元気にステージ袖から飛び出してきた。それに続いて他の2人も出てきて流れるように一曲目が始まる。
「「「〜♪」」」
3人が一体となったライブ。1人1人が持ち味を生かし能力を掛け算のように高め合っている。バイトができるようになって初めて行ったアイドルのライブを思い越されるような魂が震えるライブ…俺が諦めていた夢を思い出させるようなライブ。
俺の夢は魂が震えるようなライブをできるようなアイドルを育てる事。昔辛くて仕方なかった時、たまたまテレビで映っていた女の子達みたいなアイドルを育てる事。去年はそれに固執しすぎて全てを失ってしまった。だから諦めようとして捨てたはずなのに捨てきれず頭の片隅に放置されていた夢すら拾い上げてしまう…そんなライブだ。
こんなライブに篠澤はどう思っているんだろう。気になり隣を見てみると、篠澤も目が離せないみたいでペンライトも降らずただ眺めている。視線の先には佑芽がいた。こいつも思う事があるのだろう、プロデューサーとして少し観察するべき場面だが、今はこの魂の震えに身を任せたい…
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「いや〜最っ高だったな!」
俺たちはライブが終わった後近くのベンチに並んで座り篠澤に話しかける。今日のライブは篠澤の動きの違和感改善のために来た。
言わば勉強しに来たはずだったのにそんなこと忘れて楽しんでしまった…本当に最高だった、こういう時一緒に来た誰かと感想を話し合って楽しい気持ちを共有したい…したいんだが…
「…うん」
篠澤はうつむきながら言葉を返す。ライブが終わってから篠澤の様子が少しおかしい、どこか上の空で何か考え込んでいる…
なんかライブ見に来たら思ってたよりすごくなかったのでやめようか迷ってますとか言われそうな雰囲気なんだが…俺は恐る恐る
「…ライブどうだった?」
感想を聞いてみる。篠澤は、
「楽しかった。」
いつもの顔に戻り答える。よかった…ひとまず安心。
「…じゃあなんでそんなに浮かない顔してんだよ」
「…わからない」
俺が理由を聞くと篠澤はまた浮かない顔に戻ってしまった。
…まあ原因ならわかってる。ライブ中篠澤の目線の先にはずっと佑芽がいた。自分はうまく行ってないのに同じところから始めた奴がここまで成功してるとそれは言葉にできない歯がゆさがあるもんだ。
俺も咀嚼するのに時間がかかった感情…思春期の敏感な心には相当来るものがあるんだろう。まあこいつも人より頭がいいだけでまだ思春期の女の子、ここは人生の先輩としてばっちり導いてやろう。俺は篠澤に体を向けてカウンセリングを始める。
「ライブ中佑芽のことずっと見てたけど何か感じたのか?たとえば悔しいとか」
「私が?なんで悔しくなるの?」
「レッスンずっと一緒に受けてただろ?なのに佑芽だけ急成長して…ちょっとくらい何か思うだろ?」
「佑芽と私は違う。佑芽は最初から凄かった。誰よりも早いのにおっちょこちょいでそそっかしくてよーいどんで転んじゃったうさぎさん。私より先にライブするのも当たり前の話だと思う。だから悔しいとかそう言うのは…変だと思う」
「変じゃねえよ、悔しくて良いんだよ。保健室にいた俺を運んでくれた奴いるだろ?あいつの方が実績も評判も何もかも上で、勝ってるところなんか一つもないのに俺は悔しい。身近なやつに先を越されたらそう思うのは当たり前なんだよ」
俺は情けないことを言いながら篠澤がいつもやってるみたいに胸を張る。
「そう…なんだ。今まで負けたりとかなかったから」
篠澤はそんな当たり前のことに驚いたような様子で何かを噛み締めるかのような表情をした後
「ふふ…知らなかった。大好きな事で負けるのすごく苦しいね。身体が熱くて、心臓が痛くて………そわそわする」
篠澤は心底嬉しそうに伝えてくる。
俺は篠澤をプロデュース上で常に不安を感じていた。苦しいレッスン以外アイドル活動に興味があるようには思えなかったから、いつか飽きてまた別の苦しめる何かを見つけてどこかに行ってしまう…ずっとそんな気がしていた。
とんだ杞憂だった…きっと頭がいいから自分にはまだできないことだと割り切ってやりたいと口にしなかったんだろう。本当に分かりにくいアイドルだ…俺はアイドルを好きでいてくれたことがうれしくて思わず立ち上がって話しかける。
「じゃあそんな感情を知らない篠澤さんにいい事を教えてやる。好きな事で追い抜かれた相手を追い抜き返す時って死ぬほど気持ちいいんだぜ」
「どのくらい?」
「今までの胸も踊らない成功とは比べ物にならないくらい。お前がアイドルのこと好きで好きでたまらなくなるくらい…だから佑芽も星南も咲季も藤田も月村も全員負かして笑ってやろう!」
「ふふ、できる気がしない…」
「そりゃあ難しいだろなんてったてプロデューサー科の落ちこぼれとアイドル科の落ちこぼれだぜ?背伸びしても勝てないって…」
ちょっと前まではそんな現状が嫌だった。なんとかして変えたいと変えてやらなきゃと思ってた。けれど、
「でもその方が好きだろ?全力でままならない日々を送らせてやるよ」
「本当に………プロデューサーは鬼、悪魔、でもそう言う所が好き」
今はそう言う状況で頑張るのも好きになってしまった。本当に…毒されたなでも悪いはしない。
「じゃあ直近の目標はライブを成功させるってことで」
今日は大成功だ。篠澤がアイドル好きなのもわかったし、対抗意識も煽れた。動きの違和感に関しては経過を見ていこう。そう思い、いい感じにまとめて帰ろうとした所、
「わかった。でも直近じゃない。すぐにやる」
篠澤はやる気満々に宣言する。
「え?いつやんの?」
「明日」
「え?場所は?」
「プロデューサーに探してきてほしい」
「は?」