「…せめて1週間後とかになりませんか?」
俺は敬語使い懇願の姿勢を見せるが
「嫌、明日やる」
篠澤の決意は硬いらしい。
「いやふざけんなよお前!大体振り付け通しでできた事一度もないだろ!」
「今ならできる。私を信じて欲しい」
篠澤は先ほどの俺みたいに自信満々に胸を張る。
「お前がそうやって自信満々な時は大体駄目な時だ!なあ1週間後で良いだろ?振り付けの確認して場所探してたらちょうど良いって」
「…そっか。今までやりたい事を全部叶えてくれたプロデューサーならできると思ったけど…我儘言ってごめん、ね」
「なっ…」
篠澤は露骨に肩を落として落ち込む。ふ〜んそんな風に思ってたのか…いやいやここで止めないのは馬鹿すぎるだろ…うん、どんだけ考えても絶対にやめた方がいい…いいんだが…なんでも叶えてくれるすごいプロデューサーって思われてるんなら思われてたいし…どうしよう…俺は悩みに悩んだ結果、
「…別に出来ないとは言ってないだろ」
篠澤の中の自分を壊さないように取り繕ってしまった。一旦これで様子を見てみよう。反応が薄ければ冗談って事に…
「本当?」
篠澤は俺の言葉にすごく嬉しそうに前のめりで確認してくる。くっそ…そんな顔されたらやっぱ嘘で〜すとか言えねえじゃん…
「ああもう!手段選ばなきゃできる!できるけど…失敗したらとんでもない事になるのはわかってるよな?それでもやるんだな?」
俺は篠澤に最終確認をとる。もし明日ライブをできるようにしたとして、無理言ってやらしてもらう事になる手前失敗すれば篠澤の信用は地の底まで落ちる。信用は大事だ今の俺はそれがなくて苦労している…だからやるからには成功しか許されないハイリスクローリターンな選択…篠澤は、
「うん、私は明日ライブをする」
失敗した未来を想像してかすごく楽しそうに宣言する。本当にこいつは…
「はあ…わかった。じゃあ俺はこれから色んなところに頼み込みに行くから1人で帰れるよな?」
「うん。頑張るね」
寮に帰るくらいで頑張らないでください…俺は篠澤を信じて駅に向かって走り出す。
「じゃあ明日の朝迎えに行くから!ちゃんと休んどけよ!」
俺は篠澤が見えなくなるくらい走ってから電話をかける。嫌われ者の俺がこう言う時に頼れてなんとかしてくれるやつそんなの1人しかいない…
「もしもし。一条、お前今どこにいる?」
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「いや〜マジで助かったよ。ありがとう!一条!」
「……。」
篠澤の無理難題に取れる手段を全て使って答えた俺は無理を聞いてくれた友人にお礼を言いにRe;IRISの楽屋に顔を出していた。
結果から言うとライブはできる様になった、幸運にも唯一の友達一条くんの担当アイドル達がライブをする日だった…だったんだが…篠澤には不釣り合いすぎる場所、昨日Begraziaの3人が立っていたステージだ。
我ながら博打が過ぎる…この会場はそうそう取れるもんじゃないHIFに向けて大事なこの時期にこんなお願いを聞かせたため一条君はすごく不機嫌みたいで目も合わせてくれない。俺は無視をしてくる一条を置いておいてRe;IRISの3人に声をかける。
「3人もお疲れ様」
「お疲れ様で〜す」
「お疲れ様」
「お疲れ様!」
一条から詳細を聞かされてないのか3人とも元気に挨拶を返してくれる。
「いや〜昨日はびっくりしましたよ〜女子寮の食堂にくるなりプロデューサーに土下座するなんて…」
藤田はドン引きしながら噂になっているであろう昨日の俺の行動について話し出す。
そう俺が一条に無理を聞かせた方法、それは承諾するまで人前で土下座をやめない事。一条は合理的だが情に厚い人間、そんな人間が友人に地べたに這いつくばってお願いされたら断ることなんてできない人の目があれば尚更だ、これが俺の最終手段。
できる社会人は結果を出せる奴、プライドや尊厳なんて結果さえ出てればあとからついてくるもんだ。そんな事を思いながら俺は
「俺、やる時はやる男なんだ」
自信満々に胸を張る。
「…それ土下座に対して使ってもカッコよくないわよ」
「それにしても昨日の土下座ほんと滑稽だった。人前でよくできるね」
ドン引きしている藤田と咲季とは対照的に月村は鼻で笑いながらイジってくれている。正直こんくらいの方がありがたい。
「なかなか見られるもんじゃねえからな?成人男性の土下座。脳裏に刻んどけよ」
「そんなもの刻ませないでください」
俺の冗談に今まで黙っていた一条が口を開く。よし、無茶言いまくっていたからもっと責められると思ったけど一条も詳細は伝えてないみたいだしボロが出る前に退散しよう。そう思い篠澤の楽屋に踵を返そうとした時、
「そんな事より聞きたかったんだけど大丈夫なの?あのポンコツが最後まで歌える気がしないんだけど」
月村がいらない事に気づきやがった。俺は一条を見てみるが…怒りに満ちた表情でお前が言えと伝えてくる。普段怒らない人が怒ってるのすっごく怖い…俺が言葉に詰まっていると、
「ちょっと手毬!私たちが一番よく知ってるじゃない。毎日広が頑張ってるのは…大丈夫…大丈夫よね?」
咲季が篠澤を庇ってくれていた…が言ってる途中で篠澤が倒れまくって台車で運ばれているのを思い出したのか咲季は不安そうに俺を見てくる。俺は思わずそっぽを向いて口を紡ぐ。その俺の行動で3人は距離を詰めて圧をかけてくる。
「…なんで黙るんです?」
「さっきまでの調子はどうしたの?」
「ちょっと、答えなさいよ」
「…正直どうなるかわかんないです」
「「「は?」」」
圧がすごい…めっちゃ怖いんですけど…言葉を選ばなければ殺されるそんな錯覚すら起こす状況にたじたじになっていると、
「通しでできた事一回もないみたいですよ」
「「「はあ!?!?」」」
黙っていた俺に痺れを切らしたのか一条は事実を3人に伝える。
「いやいやいや!ちゃんと断ってくださいよ!倒れられたら空気ぶち壊しじゃないですか!」
「わかってたんですが…」
俺は一方的に一条と肩を組みながら、
「こいつとお前らより付き合い長いんだぞどうやったら断れないかぐらいわかって土下座したに決まってんだろ」
「ほんっと!最低ね!」
「わ〜ドン引きなんですけど…」
「控えめに言って死んでくれない?」
3人は畳み掛けるように三者三様の悪口を浴びせてくる。ひどい言われよう…こいつらの俺への好感度は完全に消え去ってしまったみたいだ。これ以上ここにいると場も俺の心も持ちそうにないので、
「罵詈雑言はライブが失敗に終わってから言ってくれ!んじゃあ!一条無理聞いてくれてありがとう!」
「は!?本当にこいつは…」
俺は3人の怒りの矛先を一条にずらして楽屋から退散する。失敗したら俺は多分死よりも恐ろしい事が待っているだろう…そんな事にならない為にも篠澤に激励を送らないと…