諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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これからの事

篠澤がステージ上向かって位置に着く。ざわついていた観客達も篠澤の登場によって鎮まりライブが始まるのを待っている。

 

位置についてから数秒後、青白く光っていたステージが白く輝くと同時に音楽が走り始めた。

 

「〜♪」

 

曲は「初」初星のアイドルなら誰もが一番最初に歌う曲だ。それ故他のアイドルとの違い、自分の持ち味をどれだけ出せてるかそこが大きな評価基準だ。レッスンの時は自分の持ち味とかを考えるレベルになかったため何のアドバイスもできてない。

 

だから今回のライブはまず最初から最後まで通しで歌い踊れることが目標だった…だったんだが…

 

「〜♪」

 

レッスンの時に見られていた動きの違和感が限りなくなくなっており、点と点が点在しているかのようなダンスとも呼べなかったお粗末な動きが流れるような一本の線の様になっている。

 

そのおかげで一つ一つの動きから余裕が生まれ外見との相乗効果で舞を踊る巫女の様な神秘的な雰囲気を描きだしている。レッスン中には指摘する段階にすらなかった他との差別化までこのライブの中でやってのけやがった…そのおかげで観客も見飽きたであろう「初」のダンスに魅了されている。

 

「〜♪」

 

本番に強いとかいう次元じゃねぇ…何なんだよこいつ。俺は憂いも吹き飛ぶ篠澤の覚醒に釘付けになっていた。

 

「ありがとうございました」

 

「「「「「ワアアアア!!!!!!」」」」」

 

曲は最後まで無事に終わり会場は無名のアイドルの神秘的なライブにありえないくらい盛り上がっている。今日は大成功と言っていいだろう

篠澤は肩で息をしながらこっちに向かってくる。

 

俺はあのライブに相応しい言葉を紡ぎ出そうと頭を悩ませながら待つ、

 

「はあ…プロデューサー。きゅう……」

 

「ちょ!?」

 

篠澤は限界を迎えて顔から倒れ込む。幸いにも距離が近かったので受け止め大事には至らなかったが…篠澤は完全に意識を失っている。

 

「まあ、よく頑張ったな」

 

そのままスタッフさんに救護室の場所聞き篠澤を運ぼうとすると準備をしていたRe;IRISたちと目が合い

 

「後は任せた」

 

「は〜い」

 

「ええ」

 

「まかせて」

 

激励を送り篠澤を救護室へ運ぶ。あのライブに相応しい言葉を考えながら。

 

_____________________________________________

 

救護室についてるモニターを眺める。篠澤が温めておいた会場がさらに熱気に包まれている。流石Begraziaの対抗馬なだけはある。モニター越しでも伝わる迫力が凄い。

 

…正直今回は失敗に終わると思っていた。星南が言っていた事、「ステージ上の自分がイメージできていない」これが解決したところで体力がまだ心許ない。日々のレッスンで長期的に動く体力は少し身について日常生活に支障が出る事は減っていたが短期的に激しく動く体力は育てていなかった。

 

だからこれまでプロデューサーをさせてくれた恩返しのつもりで失敗する前提で色々動いていたのに…何から何まで想像の範疇から逸脱する面白いアイドルだ…そんな事を考えていると、

 

「……ん」

 

救護室まで聞こえてくる歓声に呼応するように篠澤が目を覚ます。

 

「おはよう、いつもとは違う天井だな」

 

「ふふ、私のセリフ取られちゃった。ライブは成功した?」

 

篠澤は褒められるのを待っているのかわかりきった事を聞いてくる。俺は、

 

「この歓声聞けばわかるだろ?大成功だよ!いや〜お前も俺と同じでやる時はやるんだな!見直したよ!篠澤広は見てて最高に面白いアイドルだ!」

 

望み通り全力で褒めちぎる。

 

「ふふ、ふへへ……ふぅ。」

 

篠澤は喜びを噛み締めていると思えば感情がリセットされたように真顔になった。何それ…どう言う感情なんだ…篠澤の切り替えの早さに俺も少し落ち着きを取り戻し会話を続ける。

 

「それにしてもよく踊りきれたな。やっぱりBegraziaのライブは参考になったみたいだな。星南にまたお礼言いに行こうぜ」

 

「うん、星南には感謝してもしきれない。でもそれだけじゃない、よ。プロデューサーが信じてくれたから最後まで踏ん張れた。プロデューサー私のことを信じてこんなすごいステージを用意してくれてありがとう。すごく楽しかった」

 

篠澤はステージの上での興奮がまだまだ残っているのか子供の様に目を輝かせて感謝の気持ちを伝えてくる。

 

「…楽しめたんなら良かったよ。まあ俺と言うプロデューサーを持てたことをありがたく思ってくれ」

 

「うん、とても感謝してる。でもだからこそ言っておきたい。プロデューサー私は趣味でアイドル活動をしている…だからそこまでしてもらってもプロデューサーの夢は叶えられない、よ?」

 

篠澤は申し訳なさそうにそして困った様に笑う。そんな篠澤に俺は、

 

「…今更すぎるだろそこも込みでプロデュースしてるっての。それにお前以外にプロデュースさせてくれる奴なんて居ないんだ将来のために夢なんて後回しだろ」

 

歯に衣着せぬ本音で語る。

 

「ふふ、打算的だね」

 

「まあな。でもそれ以上に思ってる事もある」

 

「どんな事?」

 

「お前のプロデュースは上手くいかないことばかりでその分成功した時がすごく楽しい。だから打算抜きでも俺は篠澤のプロデューサーでいたい」

 

俺は篠澤に手を差し出して、

 

「だから…その…これからもよろしくな」

 

握手を求める。俺もライブの興奮が残ってるのか自分でもわかるくらいの臭い台詞に少し恥ずかしくなる。

 

「うん!これからもよろしく、ね」

 

篠澤はこれ以上ないくらい最高の笑顔で握手を返す。普段の苦しいことをしている時に見せる笑顔とは違う純粋な女の子としての笑顔に手を離すのが少し名残惜しくなった時、勢いよく扉が開かれて、

 

「広!あなたすご…何で床に寝転んでるのよ」

 

「いきなり扉開いたからびっくりして転けたんだよ…」

 

咲季が救護室に入ってきた。俺は思わず篠澤と距離を取ろうとして座っていた椅子から転げ落ちた。変なこと考えてたから過剰に反応しちゃったじゃねえか…篠澤も俺を見てクスクスと笑っている。

 

咲季の後ろには藤田と月村そして一条もいた。ライブ終わりな事もあってかRe;IRIS の3人はテンションが高く床に転がっていた俺をスルーして篠澤の周りを囲み三者三様に褒め始めている。俺はそんな光景を少し離れたところから見たくて救護室の入り口の近くにいた一条の隣に立つ。しばらくアイドル達を眺めた後、

 

「その…我儘聞いてくれてありがとう」

 

俺は一条に改めてお礼を言った。

 

「その言葉だけじゃ全然足りません。と言いたいところですが今回はこの景色に免じてチャラって事にしておきます」

 

一条はそう言って楽しそうにしているRe;IRISの3人を眺めて頬を緩ませている。ライブを成功したアイドル達が和気藹々と語り合うどこか懐かしく思える空間が俺と篠澤の長かった序章の終わりを告げている様な気がした。

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