「プロデューサー聞いて欲しい。この前私の後にライブをした子達がね、担当プロデューサーと遊園地に行ったんだって。いいライブをしたからご褒美なんだって」
篠澤がこんな事を言い始めたのはライブから1週間後そろそろプロデュースを次の段階に上げようとしていた頃。
「…素直に行きたいって言えよ」
「プロデューサーと遊園地デートがしたい。連れて行って」
「デートはしないけどご褒美に連れて行ってやるよ。次の休みにでも行くか?」
「今日行く」
「お前は毎回急がないと死ぬの?昨日から朝練ランニングに変えてるから疲れてるだろ?」
「今日はやってないから大丈夫」
「…ジョギング慣れるのに1ヶ月くらいかかってなかった?」
「大丈夫元気いっぱい」
篠澤は胸を張って自信満々に告げる。…嫌な予感はするがライブの時も自信満々だったし大丈夫か。
「はあ…しょうがないな」
「本当?なら早く行こう」
俺たちは準備をして遊園地に向かう。道中は朝の10時と言う微妙な時間なおかげで空いており、篠澤も体力を温存できたみたいだ。
学園から1時間ほどかけてついた遊園地。新しいアトラクションなどはあまりないが人の多さも丁度いい古き良き場所だ。子供の時に一回行ったきり行く事がなかった場所に正直テンションが上がっている。
「おぉ……遊園地初めて来た」
「俺は今日で2回目、ご褒美だからエスコートしてやるよ」
そんな事を言いながらチケットを買い遊園地に入場する。
「で、何乗る?ジェットコースター?観覧車?お化け屋敷?今日は何でも付き合ってやるぞ!」
そんな俺の問いに、
「………疲れたから休みたい。」
篠澤は疲れ果てた様子で答える。言わんこっちゃない…俺は幼い頃の記憶を頼りに篠澤をベンチに案内する。
「見つけた」
屋根がついて日陰になっているベンチ机もついており何か食べる時にも利用できる場所だ。今日は心地よい風が吹いており夏とは思えないくらいに涼しい。
「大丈夫か?」
篠澤を座らせて道中で買っておいたお茶を渡す。
「うん、ありがとう」
「まあ時間はまだまだあるししばらく休んでから遊園地を楽しもうぜ。」
そう言って隣に座り俺たちの間にゆっくりとした時間が流れる。遊園地の音楽や子供達の楽しそうな声が聞こえてきてリラックスしながら幸せな空気を浴びれる…遊園地の新しい楽しみ方かもしれないな。篠澤と来なきゃ気づけなかった。そんな悪くない時間がしばらく過ぎた時、
「プロデューサーに聞きたいことがある」
沈黙に飽きたのか篠澤が質問してくる。
「何でも聞けよ〜」
俺はベンチでだらけてたのもあって適当に返事をする。
「じゃあプロデューサーのタイプはどんな子?」
「…遊園地でする話じゃないだろ」
「いいから答えて」
篠澤はそう言って俺の回答を急かしてくる。篠澤は今日はずっとデートを強調している。このまま俺のタイプそのまま伝えても自分と結びつけてニヤニヤする事が目に見えてる…なら、
「おっぱいが大きい子」
「ふーん佑芽がいいんだ」
「…おっぱいが大きくてお淑やかな子」
「じゃあ莉波だ」
篠澤と正反対の特徴を言って意地悪をしてやろうとした俺の思惑は、とんでもない反撃を呼ぶ事になった。
「生々しいから具体例出すのやめろ…てか急になんだよ…」
「今私はライブもできる立派なアイドル。今までアイドルを目指す為に頑張ってたから明確な目標がない。それで新しい目標にしたいからプロデューサーの理想のアイドルが知りたい」
篠澤は質問の意図を説明してくれる。相変わらず回りくどい…それにしても理想のアイドルか…いざ言われると難しい。
俺はアイドルのライブを見て心が惹かれるままにプロデューサーを目指し始めた。だからこれだ!って言う明確な要素があるわけじゃない…でもそれでも言語化しようとすると、
「俺の理想のアイドルは絶望して諦めたくなっててもライブを見るだけで前を向いてまた明日も頑張ろうって思える。そんなアイドルだな」
こんな感じだ、絶望ばかりの人生に夢をくれたあんなライブをできるアイドルを俺は育てたい。
「この前のライブはどうだった?」
「まあ…悪くなかった。あくまで前座としてはだけどな。俺の理想のアイドルには程遠いからこれからに期待してる」
「ならもっとレッスン頑張らないといけない、ね」
篠澤は答えに満足したのか拳を握り意気込んでいる。
「せっかくのご褒美遊園地なんだから他にも聞きたい事があるなら今の内に聞いてくれよ」
「じゃあもう一つ質問。何で私の過去を聞いてこないの?多分プロデュースの役に立つと思う、よ」
「篠澤が俺の過去を聞いてこないから。だから俺も篠澤の過去は聞かない。」
俺の言葉に篠澤は少し驚いたような顔をする。
自分をプロデュースしてる奴の過去や経歴なんて気になって当然。周りに陰口叩かれてるプロデューサーなら尚更だ。
けど篠澤は一度も聞いてこなかった俺が過労で倒れて迷惑をかけた時ですら不満点だけを伝えてきた。気になったし聞きたかったはずだ、それでも聞かないと言う選択をしてくれたなら…その配慮をできる範囲で返すべきだろう。
「それに俺は手段を選ばない人間だから聞いちゃうとその過去をどうやって生かすかに舵を切るからな。多分アイドル活動がだいぶ簡単になるけどそれでもいいのか?」
大卒高校生アイドル。うまくやればこの肩書だけでありとあらゆるテレビ番組に引っ張りだこだろう、けどそれは篠澤の求める物とは違うはずだ。
「それは…困っちゃう、ね」
「なら今のままゆっくりと駆け上がって行こうぜ」
「ふふ、プロデューサーは私のことよくわかってる」
篠澤は嬉しそうに距離を詰めて座り直してくる。
「全然理解できてねえよ…例えば何でアイドルだったんだ?他にも色々あっただろ?向いてないことは」
俺は前から気になってたことを聞く。
きつい仕事と聞いて1番最初に出てくるのはブールーカラーの職種だ。昔からアイドルに触れ合っていたなら1番に出てくるのも分からんでもないが…その場合大学に行かずに堅実に目指していただろう。と言うか…研究職だって徹夜三昧でしんどいと聞くし考えれば考えるほどわざわざアイドルになろうとした理由がわからない。
「…聞いたら多分プロデューサーは笑うと思う」
「笑わねえから教えてくれよ」
しばらくの沈黙の後、
「…可愛く…なりたかったから…」
篠澤は顔を赤くして恥ずかしそうに話す。今まで見せてこなかったその仕草があまりに可愛くて
「…ふふ、フハハ」
この感情を笑いに変換しないとどうにかなりそうだった。
「やっぱり笑った」
篠澤は何とも言えない顔で俺を見てくる。
「ごめんごめん。初めて見たからびっくりしたんだよ、お前の女の子っぽい所」
「何それ。もっとちゃんと見て欲しい」
俺の誤魔化した発言に篠澤はどんどん不機嫌になる。やばい、ご褒美で連れてきてるのに嫌な思い出にさせるのはまずい。俺は、篠澤の肩に手を置き目を合わせて、
「ごめんごめん言い方変えるわ。こほん…初めて見たよ、お前の可愛い所」
ご機嫌になってもらおうと賭けに出る。
「…プロデューサーはずるい」
篠澤は顔を真っ赤にし顔を逸らして抗議してくる。こっちを向いてくれなくなってしまった…普段あまり褒めない分効果覿面だったらしい…やばいやりすぎた…耳まで真っ赤にしている篠澤になんて言葉をかけたらいいかわからなくなって
「…なんか食べ物とか買ってくるよ。」
逃げるように買い物に行こうとする。
「待って。」
篠澤はそんな俺を逃すほど甘くなかったらしい。いつもみたいに裾を引っ張っての主張ではなくしっかりと俺の手を掴んできている…怒ってないことを祈りながら恐る恐る振り返る
「今日はご褒美デートだから一緒に行こ」
「…わかった」
篠澤は今日の天気と同じくらい雲一つない晴れ渡った笑顔で語りかけてくる。俺はデートじゃないと言う言葉を飲み込んで機嫌を取る事にした。