諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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実力把握

 

「……ってことがありました」

 

保健室に先生を連れて行った後、本日の目的を果たしに職員室に行ったところ約束の時間を大幅に遅刻…連絡をしなかったことにあさり先生に叱責をくらい何があったのかを説明していた。

 

「女の子を助けるなんて偉いですね。けど今度からは連絡してください先生心配しましたよ」

 

最初は怒っていたあさり先生も話を聞くに連れて笑顔を取り戻してくれて助かった。普段ずっと楽しそうにしている分怒らせると死ぬほど怖い…

 

「それでプロデュースすると約束しちゃったんですけど…俺ってプロデュースできますかね?」

 

初星学園で学生をプロデュースする場合何個か課題をクリアして先生たちに許可をもらっていないとできない。去年はやる気満々で成績優秀だったこともあり4月から許可をもらえていたのだが…今の俺は授業をサボってあさり先生に補習を受けさせてもらっている立場だ。去年の様にすんなりとは行くまい…

 

「先生に任せてください!やっとやる気出してくれたんですからなんとします」

 

そんなあさり先生の頼れる姿にほっと息吐く。

 

「その代わり授業には毎日来ること、そうじゃないと先生許可しませんからね」

 

腫れ物扱いの今の状態でクラスに顔を出すのは正直すごく嫌だ、嫌なんだが、それよりも嘘つきになるのは俺の信条に反するのでもっと嫌だ…

 

「…わかりました」

 

「言質とりましたよ」

 

別に話す相手がいないわけじゃないし、まあ最悪空気になればなんとかなるだろう。

 

「それで担当になる篠澤さん少々特別な子ですがプロデュース方針など決めてますか?」

 

「今の実力わかんないんで明日レッスン見学させてもらってからですね」

 

そのあとはあさり先生と他愛のない話を続けた。いつも30分くらいはそのまま喋る。きっと心配して色々聞いてくれているのだろう。心配されるのは慣れてなくて歯痒さが少しあるが嬉しく思う。

 

「それにしても同じ日にプロデュースする子を見つけてくるなんて本当に仲がいいですね。一条くんも今日報告に来たんですよ」

 

「…そうですか」

 

そういえばしばらく一条と喋ってねえな。一条に限らず騒動の後、クラスメイトとは誰とも連絡を取っていないんだが…ふと腕時計に目をやると時間は14時を回っていた、

 

「あ!あさり先生すいません今日ちょっとバイトがあって…」

 

「わかりました。頑張ってくださいね」

 

あさり先生に会釈をして足早に職員室を去る。息苦しく感じていた敷地内、少しだけ息がしやすくなった気がする。この出会いが何かを変えてくれることを祈ろう…

 

____________________________________

 

〈次の日〉

 

時間は15時、約束のダンスレッスンの時間だ。今日篠澤の実力を見てプロデュース方針を決める。昨日バイト終え家に帰ってからどんな実力でもすぐ動ける様にある程度方針を考えてきた。実技0点は正直未知数だ、臨機応変にプロデュース内容を変える必要がある。

 

そんなことを考えているとあまり寝れなかったが、幸運なことに今日は特に予定はないこれを終わらせて清々しい気持ちで布団に入ろう。そんなことを思いながらレッスン室のドアに手をかける。

 

「失礼しまーす。」

 

「あ、来てくれた」

 

「来ないわけがないだろーが」

 

篠澤にツッコミを入れながらダンストレーナーに挨拶をしに行く

 

「斉藤。話は聞いてるよ今日はしっかり見て行ってくれ」

 

「はい。しっかりと見学させてもらいます」

 

そんな社交辞令を済ませた時篠澤が俺の腕を指でツンツンと触れてくる、

 

「…なんだよ」

 

「苗字斉藤って言うんだ。名前は?」

 

「内緒」

 

「お前名乗ってすらなかったのか!?」

 

ダンストレーナーが驚きの声を上げる。我ながら非常識だとは思うがこいつも名乗ってもないやつにプロデュース頼んでくるのは何なんだ…

 

「まあプロデューサーって呼んでくれよその方が俺もありがたいし」

 

「むぅ…わかった」

 

篠澤は渋々納得してくれたみたいだ。篠澤は少しため息をついた後こっちに来てと俺に手招きをする、

 

「紹介する私の友達、千奈と佑芽」

 

そう言って一緒にレッスンを受ける同級生を紹介してくれる。見るからに明るく活発そうな子が佑芽で緊張しているのか体がガチガチになっている子が千奈らしい。

 

この子の緊張を解くためにも少し猫を被って挨拶をしておこう。俺は営業で身に着けた爽やかなスマイルで挨拶を行う。

 

「今日から篠澤さんをプロデュースさせていただきます斉藤です。俺のことは好きに呼んで下さい。よろしくお願いします」

 

「花海佑芽です!よろしくお願いします!」

 

「よ、よよ、よろしくお願いしますですわ」

 

「わー、私の時と全然違う」

 

どうやら俺の営業スマイルでは緊張をほぐせなかったらしい、怖がってる理由はなんとなく想像がつくが…

 

「千奈ちゃん、なんでそんなに緊張してるの?」

 

「し、篠澤さんのプロデューサーさんの噂を耳にしまして…」

 

「どんな噂?」

 

「担当アイドルに闇営業をさせるとか…パワハラがすごいだとか他にも色々…」

 

「そんなことしてるの?」

 

「してるわけないだろ…」

 

やっぱり噂でした…この一連のやり取りにダンストレーナーは俺のことをニヤニヤと見つめ俺がこの状況をどうするのか楽しそうに観察している。信頼関係が構築できてないのに俺がなんとかできるわけないだろ…

 

「トレーナー…笑ってないで何とかして下さいよ…」

 

「すまんすまん。倉本、安心しろそいつの噂のほとんどは根も葉もない物だ。そいつは去年問題を起こした時に徹底的に調べられてるもし噂が本当なら退学になっているだろうな」

 

ダンストレーナーは根を上げた俺に代わって俺の身の潔白を証明してくれた。憂いが消えた俺は改めて挨拶を行う、

 

「そういうことだからこれからよろしく。一応去年もプロデューサーやってたから何かあったら気軽に相談してくれ」

 

すでに化けの皮がはがれ始めた俺の態度に千奈と佑芽は少し見合わせた後、

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「改めてよろしくお願いしますわ!」

 

元気よく挨拶を返してくれた。誤解は解けたとみていいだろう。挨拶を終えた後2人は軽く体を動かしてレッスンに備えている。俺は今日のコンディションを聞くために篠澤の近くに行く、

 

「で、どうだ?自信の程は」

 

「ふふん、プロデューサーは驚くことになる」

 

そう言って自信満々に胸を張る。

 

そうして始まったダンスレッスン確かに驚くべき結果だった。まさか開始15分で倒れて保健室に運ぶことになるとは…こいつが自信満々の時は気をつけよう…

 

 

 

 

 

俺は意識を失った篠澤を保健室に運び込みベットに寝かせる。今日はありがたいことに保健室には先生がいた。命に別状はなくただの疲労困憊らしい、昨日倒れた理由も疲労困憊だと言っていた。なので多分昨日の疲れも残っていたので相当早くダウンしたんだろう。

 

しかしいくらなんでも体力無さすぎないか?こいつ今までどうやって生きてきたんだよ…しかしまあ、今日倒れたのは俺が浮かれていたせいだ。久しぶりのプロデュースなのに下調べも予測もしなかった俺が悪い…自責の念を感じながら篠澤が目覚めるのを待つ。

 

保険の先生は篠澤を俺に任せてどこかに行った。秒針の音だけが響く室内、1秒ごとに鳴らしている針の音が病院での嫌な記憶思い出させてくる不快な時間。本当に…待ってるだけの時間は嫌いだ。

 

そうして秒針の音を聞き過ぎて鬱陶しくなってきた頃、

 

「見慣れた天井」

 

不安な気持ちをかき消すかの様な一言と一緒に篠澤は目覚めてくれた。呆れかえって大きくため息をついた後、

 

「…保健室の天井を見慣れるのやめてくれ」

 

倒れることに慣れ切った一言にツッコミを入れておく、

 

「どうだった?私の実力」

 

篠沢は間髪入れずに聞いてくる。自分が心配されてるって一ミリも思ってなさそうだな…俺は心配してたことを隠すように、

 

「小学生の方がマシ。今までどうやって生活してたんだよ」

 

俺は満面の笑みで答えた。

 

「ふふ、プロデューサーは毒舌、だね」

 

篠澤はその言葉を嬉しそうに受け止める。

 

…本当によくわからん奴。目覚めるまでの間、今後のことを考えていたんだが…プロデュースするって決まったのにこいつのことを知らなすぎる。これじゃプロデュース計画が立てにくい。

 

俺は少し悩んだ後、

 

「それで、なんでアイドルになろうと思ったんだ?」

 

改めて根本的な質問をする。

 

今更過ぎる気がするが…こいつにとってのアイドルを明確にしよう。

 

「私に一番向いてないと思ったから」

 

「…どういうこと?」

 

「向いてないアイドルなら私が全力で頑張っても長い間苦しくてつらい思いができると思ったから」

 

「……ちょっと考えをまとめる時間もらえる?」

 

「うん、わかった」

 

俺にプロデュースしてほしいと言った時点で分かってはいたが想定以上の変わり者らしい…そんな事より篠澤が話していた内容に少し違和感がある。

 

今までこの質問をされたアイドル達は大体憧れの人やなりたい未来の自分のことを話していた。多少輪郭がぼやけていたとしても形ある夢の話をしてた。しかしこいつは今の話をしている…もしかして

 

「アイドルになりたいわけじゃないねえの?」

 

思考がまとまった瞬間言葉が口から漏れた。

 

「…私はアイドルを目指すためにこの学園に入学した。」

 

篠澤は少し困ったような顔をした後に答える。

 

「目指すためか…」

 

篠澤のことが少し分かった気がする。身体能力以外の能力は軒並み高いせいで人生うまくいきすぎて簡単に手に入れれる賞賛や成功に飽きてしまったのだろう。それで苦痛や苦難伴った成功を求める様になってしまったと…羨ましいことこの上ない…俺とは真逆の人生を送ってんじゃねえか…

 

そんなうまくいっていたであろう人生と比べて今日のレッスン動きは本当にひどいものだった…自分の手足に振り回されとてもダンスと呼べないお粗末なほかの二人と比べても圧倒的に劣っている動き、俺なら周りと比べて今にでも辞めたいうまくいってない状況なのにこいつは…

 

倒れる瞬間までレッスン室の誰よりも楽しそうに笑っていた。やりたいことすら噂のせいでできずにふてくされていた俺にはその笑顔がすごく眩しく見えてすごく羨ましく思えた。

 

「ふふ、私のこと見捨てたくなった?」

 

しばらく黙っていたせいか篠澤は嬉しそうに聞いてくる。だから俺は、

 

「何を勘違いしてるのかわかんねえけど俺はうれしく思ってただけだぞ?これから毎日限界まで追い込んでも逃げられなさそうだって」

 

こいつの思い通りにならないようにできる限り笑って楽しそうに語った。

 

「ふふ、やっぱり私の目はまちがってなかった。プロデューサーはすごく鬼畜」

 

反応を見るに逆効果だったみたいだが…

 

これから始まる篠澤広のプロデュースこいつの実力的に辛いことまみれだろうが俺もこいつみたいに笑える日が来るんだろうか…

 

「で、一応確認だけど篠澤のやりたいことって苦しいレッスンをできるだけ長く味わいたいであってる?」

 

「あってる。できる様になる?」

 

あってんのかよ…半分冗談のつもりだったのにこいつは本当にぶれないな…

 

「…わかった。じゃあまず身体を作ることから始めよう明日朝寮でご飯食べるよな?」

 

「うん」

 

「じゃあ何食べてるか確認して改善できそうなら改善しよう。」

 

「わかった。朝待ってる、ね」

 

その後は少し喋ったあと篠澤を寮まで送り届けた。地平線が赤く滲む頃、急いで職員室に向かいあさり先生に篠澤のことを相談した。

 

あさり先生は授業を免除できるかもしれないと言っていた。やはり高校生で大卒資格を持っているのは相当強いのだろう。色々調べたら思っていたより簡単に申請できたのでこれからは身体づくりに集中できるだろう。

 

その後ダンストレーナーとも今後のレッスンメニューについて相談する。明日徹底的にできることとできないことを調べてしばらくは篠澤のできることに合わせたメニューにするつもりだ。

 

流石に前転くらいはできるだろ……できるよな?そうやって奔走していたら時刻は19時を回っている。職員も帰り始めて学園には人の気配がほとんどしなかった。今日できることはもうないので俺も帰宅する。

 

帰り道バスに揺られながら景色を眺める。今日は少ししか眠れてないのもあり気を抜くとすぐに眠ってしまいそうだ。明日からは授業にも出ないといけないしやることやって就寝しよう。

___________________________________________________

 

ヂリリリリリリリ

 

喧しいアラームを止めて起き上がる。脳みその機能を落としたままシャワーを浴び着替える。朝ごはんは食べない派なのでそのまま家を出てバスに乗る。

 

時刻は朝5時半、初星学園までは1時間ほどかかるので着く頃には篠澤は起きているだろう。バスの中ではレッスンメニューを考えるためにのためありとあらゆる運動やエクササイズの動画などを見漁る。…一応使わないと思うが高齢者のリハビリ体操なんかも確認しておこう。

 

「次は初星学園前。初星学園前。お降りのお客様は手元のボタンを押してください。」

 

そんなことをしていると時間はあっという間に過ぎ目的地につきそうだ。俺は降車ボタンを押してバスを降りる。

 

バス停がある学園の周りは未来のアイドル達が朝練としてランニングをしている。俺は彼女達を眺めながら女子寮に向かう、今は葉桜が見え始めた頃、太陽も程よく出ており1日が始まる雰囲気をひしひしと感じていた。そうやって女子寮の前に来た時俺は思う。

 

……これどうやって入ればいいんだ?

 

いやまあ、あさり先生に女子寮に行くことは話したから入ってもいいんだろけど…問題は俺の評判だ。朝の女子寮にやばい噂まみれの奴が入って人を探してうろうろしてたらとんでもない騒ぎになりそうな予感がする…しょうがない、篠澤には悪いが迎えに来てもらおう…俺はおもむろに携帯を取り出して気づく、

 

連絡先交換してねえ…

 

なんで昨日交換してなかったんだ…えっどうしよう…俺はその場で頭を抱える。いきなり苦難が押し寄せてきやがった…

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