諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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2話 実力把握

 

 

時間は15時、授業が終わった篠澤がダンスレッスンをしている時間だ。昨日あさり先生に色々と怒られながら顛末を説明して色々と誤解を解いた後、俺が篠澤をプロデュースできるのか確認した。今の俺は授業すらサボって特別課題を出されている落ちこぼれ、そう簡単にプロデュースできるわけがないと思っていたんだが……授業に出れば大丈夫らしい。まあ今の嫌われ具合でクラスに顔を出すのは中々にハードだがそれだけでまた問題を起こした奴にプロデュースさせてくれるなんて……本当に……この学園は懐が広い。

 

だから今日篠澤の実力を見てプロデュース方針を決める。昨日バイト終え家に帰ってから寝る前にどんな実力でもすぐ動ける様にある程度方針を考えてきた。実技0点は正直未知数だ、臨機応変にプロデュース内容を変える必要がある。

 

久しぶりにそんなことを考えているとあまり寝れなかったが…幸運なことに今日入れてるはバイトはない。これを終わらせて清々しい気持ちで布団に入ろう。そんなことを思いながらレッスン室のドアに手をかける。

 

「失礼します」

 

「あ、来てくれた」

 

「ここで来なかったらやばいだろ……」

 

何故か安心している篠澤と会話しながらダンストレーナーに挨拶をしに行く、

 

「斉藤。話は聞いてるよ今日はしっかり見て行ってくれ」

 

「急なお願いですみません。今日はしっかりと見学させてもらいます」

 

そんな社交辞令を済ませた時篠澤が俺の腕を指でツンツンと触れてくる、

 

「…なんだよ」

 

「苗字斉藤って言うんだ。名前は?」

 

「……内緒」

 

「お前名乗ってすらなかったのか!?」

 

ダンストレーナーが驚きの声を上げる。我ながら非常識だとは思うけどこいつも名乗ってもないやつにプロデュース頼んでくるのは何なんだ…

 

「まあプロデューサーって呼んでくれよその方が俺もありがたいし」

 

「むぅ…わかった」

 

篠澤は渋々納得してくれたみたいだ。篠澤は少しため息をついた後こっちに来てと俺に手招きをする。俺は素直に従って篠澤と2人の女の子の前に少し過剰に距離をとって立つ。

 

「紹介する私の友達、千奈と佑芽」

 

そう言って篠澤は一緒にレッスンを受ける友達を紹介してくれる。見るからに明るく活発そうな子が佑芽で緊張しているのか体がガチガチになっている子が千奈らしい。

 

確かこいつら課題で調べた奴らに含まれてたな……元気な方が首席の姉に負けないくらいの身体能力を持つ妹でビビってる方が親が大金持ちの奴だっけ?いや……何この濃いメンツ。大卒JKにお嬢様にそのうち結果出しそうな奴…?友達紹介するのはいいけどもっと気楽に話せるやつにしてくれ……しかもお嬢様俺見てめっちゃビビってるし……

 

はあ…しょうがねえ…とりあえず落ち着くまでは猫かぶってやるか。俺は営業をしていた時の自分を思い出して出来る限り笑顔で話し出す。

 

「今日から篠澤さんをプロデュースさせていただきます斉藤です。俺のことは好きに呼んで下さい。これからよろしくお願いします」

 

「花海佑芽です!よろしくお願いします!」

 

「よ、よよ、よろしくお願いしますですわ」

 

「わー、私の時と全然違う」

 

……どうやら俺の営業スマイルでは緊張をほぐせなかったらしい。お嬢様が怖がってる理由はなんとなく想像がつくが…

 

「千奈ちゃん、なんでそんなに緊張してるの?」

 

「し、篠澤さんのプロデューサーさんの噂を耳にしまして…」

 

「どんな噂?」

 

「担当アイドルに闇営業をさせるとか…パワハラがすごいだとか他にも色々…」

 

「そんなことしてるの?」

 

「してたら退学だろ!トレーナー笑ってないで説明してくださいよ!」

 

やっぱり噂でした…この一連のやり取りにダンストレーナーはケラケラと笑って全然頼りにならない。信頼関係が構築できてないのに俺が説明しても意味がないだろ……

 

「すまんすまん。倉本、安心しろそいつの噂のほとんどは根も葉もない物だ。そいつは去年問題を起こした時に徹底的に調べられている。もし噂が本当なら退学になっているだろうな」

 

ダンストレーナーは根を上げた俺に代わって俺の身の潔白を証明してくれた。信頼している人間のお墨付きもあってか金持ちお嬢様もあからさまに怯えることは無くなった。憂いが消えた俺は咳払いをした後改めて挨拶を行う、

 

「こほん……そういうことだからこれからよろしく。一応去年もプロデューサーやってたから何か困った事があったら気軽に相談してくれ」

 

すでに化けの皮がはがれ始めた俺の態度に千奈と佑芽は少し見合わせた後、

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「改めてよろしくお願いしますわ!」

 

元気よく挨拶を返してくれた。誤解は解けたと思っていいだろう。挨拶を終えた後2人は軽く体を動かしてレッスンに備えている。俺は昨日倒れていた事を思い出し今日のコンディションを聞くために篠澤の近くに行く、

 

「で、どうだ?自信の程は」

 

「ふふん、プロデューサーは驚くことになる」

 

そう言って自信満々に胸を張る。

 

そうして始まったダンスレッスン確かに驚くべき結果だった。まさか開始10分で倒れて保健室に運ぶことになるとは…こいつが自信満々の時は気をつけよう…

 

 

___________________________

 

 

俺は意識を失った篠澤を保健室に運び込みベットに寝かせる。今日はありがたいことに保健室には先生がいた。先生によると命に別状はなくただの疲労困憊+脳貧血らしい。昨日倒れた理由もおそらくそれだろう。まあ身体を見てもわかるが……絶対今まで運動してないやつだからな。こうなるのは当たり前っちゃ当たり前だ。

 

しかしいくらなんでも体力無さすぎないか?今までどうやって生きてきたんだよ…しかしまあ、今日倒れたのは俺が浮かれていたせいだ。久しぶりのプロデュースなのに下調べも予測もしなかった俺が悪い……こんなのこいつの経歴や身体つきで予想できた範疇だ。自責の念を感じながら篠澤が目覚めるのを待つ。

 

保険の先生は篠澤を俺に任せてどこかに行ってしまった。秒針の音だけが響く室内、1秒ごとに鳴らしている針の音が病院での嫌な記憶思い出させてくる不快な時間。本当に…待ってるだけの時間は嫌いだ。

 

秒針の音を聞き過ぎて鬱陶しくなってきた頃、

 

「……見慣れた天井」

 

不安な気持ちをかき消すかの様な一言と一緒に篠澤は目覚めてくれた。篠澤の空気の読めない発言に呆れかえって大きくため息をついた後、

 

「保健室の天井を見慣れるのやめてくれ」

 

倒れることに慣れ切った一言にツッコミを入れておく。

 

「どうだった?私の実力」

 

篠澤はこの状況よりも俺の評価が気になっているのか起き上がった後間髪入れずに聞いてくる。こいつ……自分が心配されてるって1ミリも思ってなさそうだな…俺は心配してたことを隠すように、

 

「小学生の方がマシ。今までどうやって生活してたんだよ」

 

俺は満面の笑みで答えた。

 

「ふふ、プロデューサーは毒舌、だね」

 

篠澤はそんな棘のある言葉を嬉しそうに受け止めている。……本当によくわからん奴。

 

篠澤が目覚めるまでの間少しだけ今後のことを考えていたんだが……プロデュースするって決まったのにこいつのことを知らなすぎる。これじゃプロデュース計画が立てにくい。

 

俺は少し悩んだ後、

 

「それで、なんでアイドルになろうと思ったんだ?」

 

改めて根本的な質問をする。

 

今更過ぎる気がするが…こいつにとってのアイドルを明確にしよう。

 

「私に一番向いてないと思ったから」

 

「…どういうこと?」

 

「向いてないアイドルなら私が全力で頑張っても長い間苦しくてつらい思いができると思ったから」

 

「……ちょっと考えをまとめる時間もらえる?」

 

「うん、わかった」

 

俺にプロデュースしてほしいと言った時点で分かってはいたが想定以上の変わり者らしい…そんな事より篠澤が話していた内容に少し違和感がある。

 

今までこの質問をされたアイドル達は大体憧れの人やなりたい未来の自分のことを話していた。多少輪郭がぼやけていたとしても形ある夢の話をしてた。しかしこいつは今の話をしている…もしかして

 

「アイドルになりたいわけじゃないねえの?」

 

思考がまとまった瞬間言葉が口から漏れた。篠澤は少し考えた後、

 

「…私はアイドルを目指すためにこの学園に入学した。」

 

困ったような表情で答える。

 

「目指すためか…」

 

篠澤のことが少し分かった気がする。想像だが身体能力以外の能力は軒並み高いせいで人生うまくいきすぎて簡単に手に入れれる賞賛や成功に飽きてしまったのだろう。それで苦痛や苦難伴った成功を求める様になってしまったと…羨ましいことこの上ない…俺とは真逆の人生を送ってんじゃねえか…

 

そんなうまくいっていたであろう人生と比べて今日のレッスン動きは本当にひどいものだった……自分の手足に振り回されとてもダンスと呼べない動き、言葉で言い表せないくらいにお粗末でほかの二人と比べても圧倒的に劣っている動き。俺なら周りと比べて今にでも辞めてしまうような何もかもうまくいってない状況なのに…こいつは…

 

倒れる瞬間までレッスン室の誰よりも楽しそうに笑っていた。やりたいことすら噂のせいでできずにふてくされていた俺にはその笑顔がすごく眩しくてすごく羨ましく思えた。

 

「ふふ、私のこと見捨てたくなった?」

 

しばらく黙っていたせいか篠澤は嬉しそうに聞いてくる。だから俺は、

 

「何を勘違いしてるのかわかんねえけど俺はうれしく思ってただけだぞ?これから毎日限界まで追い込んでも逃げられなさそうだって」

 

こいつの思い通りにならないようにできる限り笑って楽しそうに語った。

 

「ふふ、やっぱり私の目はまちがってなかった。プロデューサーはすごく鬼畜」

 

反応を見るに逆効果だったみたいだが……これから始まる篠澤広のプロデュースこいつの実力的に辛いことまみれだろうが俺もこいつみたいに笑える日が来るんだろうか。まあ……そんな事どうでもいいか。俺はプロデュース方針を決めるために改めて篠澤のやりたい事を確認する。

 

「で、一応確認だけど篠澤のやりたいことって苦しいレッスンをできるだけ長く味わいたいであってる?」

 

「あってる。できる様になる?」

 

あってんのかよ…半分冗談のつもりだったのにこいつは本当にぶれないな…なら…

 

「…わかった。じゃあまず身体を作ることから始めよう。明日朝寮でご飯食べるよな?」

 

まずは食べてる物の確認だ。ここまでガリガリで虚弱だと絶対食べてる物が悪い。長く苦しんでもらうためにも、出来るだけ長くレッスンをしてもらうためにもそれなりの身体がいる。

 

「うん。寮の食堂で食べてる」

 

「じゃあ何食べてるか確認して改善できそうなら改善しよう。」

 

「わかった。明日の朝待ってる、ね」

 

その後は少し喋ったあと篠澤を寮まで送り届けた。地平線が赤く滲む頃、急いで職員室に向かいあさり先生に篠澤のことを相談した。あさり先生は授業を免除できるかもしれないと言っていた。やはり高校生で大卒資格を持っているのは相当強いのだろう。色々調べたら思っていたより簡単に申請できたので午前の授業を無くしてもらった。あいつに勉強なんて必要ないんだ。朝から動いてもらって昼までに回復させ夕方にも動いてもらう。成長期だからできる荒技だな。

 

その後ダンストレーナーとも今後のレッスンメニューについて相談する。明日徹底的にできることとできないことを調べてしばらくは篠澤のできることに合わせたメニューにするつもりだ。流石に前転くらいはできるだろ……小学校はこっちで通ってたんだろ?……できるよな?そうやって奔走していたら時刻は19時を回っている。職員も帰り始めて学園には人の気配がほとんどしなかった。今日できることはもうないので俺も帰宅する。

 

帰り道バスに揺られながら景色を眺める。今日は少ししか眠れてないのもあり気を抜くとすぐに眠ってしまいそうだ。明日からは授業にも出ないといけないしやることやって就寝しよう。

 

______________________________________

 

 

ヂリリリリリリリ

 

喧しいアラームを止めて起き上がる。脳みその機能を落としたままシャワーを浴び歯を磨いて着替える。最低限身だしなみを整えたら朝ごはんは食べない派なのでそのまま家を出てバスに乗る。

 

時刻は朝5時半、バスだと初星学園までは1時間ほどかかるので着く頃には篠澤は起きているだろう。バスの中では今日の夕方にやる身体測定のメニューを考える。

 

「次は初星学園前。初星学園前。お降りのお客様は手元のボタンを押してください。」

 

そんなことをしていると時間はあっという間に過ぎ目的地につきそうだ。俺は降車ボタンを押してバスを降りる。

 

バス停がある学園の周りは未来のアイドル達が朝練としてランニングをしている。俺は彼女達を眺めながら女子寮に向かう。今は葉桜が見え始めた頃、太陽も程よく出ており1日が始まる雰囲気を全身で浴びれるいい時間だ。そんな久しぶりに感じた季節のいい部分を思いながら女子寮の前まで来た時俺は考える。

 

……これどうやって入ればいいんだ?

 

いやまあ、あさり先生に女子寮に行くことは話したから警備員さんに言えば入れてもらえるんだろうけど……問題は俺の評判だ。朝の女子寮にやばい噂まみれの奴が入って人を探してうろうろしてたらとんでもない騒ぎになりそうな予感がする……てかさっきランニングしてた生徒たちに滅茶苦茶嫌な顔されてたし……しょうがない、篠澤には悪いが迎えに来てもらおう……俺はおもむろに携帯を取り出して気づく、

 

連絡先交換してねえ…

 

なんで昨日交換してなかったんだ…えっどうしよう…俺はその場で頭を抱える。いきなり苦難が押し寄せてきやがった……

 

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