「〜♪」
「千奈すごく可愛い」
NIAの初日。会場では開会式とライブパフォーマンスがある。ライブパフォーマンスは事前に申請しておけばNIAに参加しているアイドルなら誰でも参加ができる。
一曲歌って踊り司会と少し喋って退場していくそんな自己紹介代わりのちょっとしたライブ。それ故に篠澤が前座を務めた会場ほどは大きくなく収容人数もそれなりの会場でやる。
それの午前の部に篠澤と倉本が出演する。今日は千奈のプロデューサーの星南がBegraziaで仕事が入ってしまい千奈の面倒を見る事になった。それで篠澤と出演者の待機場所で千奈のライブを見守っている。
「そうだな。倉本もだいぶ形になってきるな」
倉本は篠澤と実力が近いこともありよく合同でレッスンを受けているので俺も大体実力は把握していたつもりだったが…ライブで見る倉本はいつもとはレベルが違う。
普段からマスコット的な可愛さを纏っているがライブではそれが前面に押し出されており老若男女誰もが可愛いと思いやすいライブになっている。ライブパフォーマンスの質を上げていけば万人ウケするすごいアイドルが出来上がりそうだな…
落ちこぼれだった倉本を見出した星南は本当にすごいな…プリマステラなのにプロデューサーとして見る目もあるとかちょっとズルくない?
「ふふ、負けられないね」
篠澤は一緒に頑張って来た友人の成長を喜んでいるのか嬉しそうに話す。
「随分と弱気だな。篠澤はもっとデカい舞台で成功してるんだぞ?勝ってもらわないと困る」
篠澤と倉本は違う魅力で戦っているアイドル、だから単純比較はできないが…現時点ではライブパフォーマンスの実力も拮抗しているため好みによって意見が分かれるってところだろう。もし倉本と戦う事があればこのNIAでどちらが成長できたかに勝敗がかかっている。それならこっちの方が有利だ。
篠澤は4月から基礎体力を磨いていたおかげでレッスンも倒れるまでの時間が延びた。今までの時間でも倉本と実力が拮抗していたんだ…普通に考えれば最近の篠澤の成長スピードは倉本よりも早い。NIAで順当に成長していけば勝つのは篠澤だろう。それもあって俺は篠澤を煽る。
「最近私の評価がすごく高い気がする。どうして?」
「俺と同じでやる時はやってくれる奴だってわかったからな、そりゃ評価も上がるだろ」
「…そうなんだ」
篠澤は苦難が減ると思ったのか少し残念そうに呟く。せっかく褒めてやったのにほんっとに面倒くさい奴だな…俺は少し考えて
「…おかげで実力が足りてない無理な仕事も取ってきやすくなったし、これからは今までとは別の方法で苦しくて辛いアイドル活動を提供してやれそうだから安心してくれ」
篠澤が求めているものを提供する。
「ふふ、やっぱりプロデューサー私の事わかってる、ね」
「性格はな。NIAに出てる理由忘れたのか?」
「じゃあ早く理解してほしい。ここからは1人でも大丈夫だから観客席で私のライブ見て来てもいい、よ」
「いや…倉本のこと任されてるしいいよ」
そう言って篠澤の提案を断る。確かに観客席で見た方が効率よく分析できるが…倉本を放置して何かあったら星南に殺される…
「千奈なら私が見てるから大丈夫」
「いや全然安心できないから大丈夫」
「むう…いいから行って」
篠澤は力ずくで待機場所から追い出そうと俺の背中を押してくる…がひ弱な篠澤に負けるわけもなく俺はその場に立ち止まり様子を伺う。しばらくすると篠澤は疲れたのかぜえぜえと大きく息を吸い始めた。これ出て行かなかったら篠澤の体力無くなって元も子もなくなるな…
「はあ…じゃあ終わったら朝飲み物買った所に集合な」
「ぜぇ…わかった…千奈のことは任せて」
俺は泣く泣く既に疲労困憊の篠澤に倉本の事を任せて観覧席に行くことにした…
「〜♪」
俺が観客席に着くのとほぼ同時に始まった篠澤のNIAが始まって最初のライブ。俺は携帯で録画しながら早速分析を始める。倉本のライブの主題が「可愛い」なら篠澤のライブの主題は「美しい」だろう。体力と筋力があまりなくて早く動けないだけだが、それが事情を知らない奴には見た目と合わさって巫女が踊る舞の様に動きにゆとりを持たせている様に映る。
動きのキレもこの前のライブよりもよくなっておりレッスンの成果が順調に出ている様で少し安心する。だけど何だろう…この前よりあまり惹かれない。まああそこの設備はレベルが高かったからそれだろうが…そんな事を思っているとライブは終わりを迎え、篠澤は司会の人から一言を求められる。
「ぜぇ…初星学園の篠澤広…応援よろしく、ね」
それだけ言って倒れそうになりながら舞台からはけて行った。おいこれ絶対倉本にお世話される奴だろ…俺は観覧席から離れて篠澤にメッセージを入れる。
『ヘトヘトで退場してたけど大丈夫か?』
『大丈夫だけど着替えたりするから時間かかるかも』
『了解。終わったら連絡くれ連絡来てから集合場所に向かう』
『わかった』
そういや着替えの事頭から抜けてたな…どうやって時間潰そうか。流石にただ待ってるだけじゃもったいないし、
「必要かわかんねけど…敵情視察と行きますか」
そうして俺は観覧席に戻って行った。
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「おせぇ…」
時刻は12時、もう待ち始めて30分たった。女の子の準備は時間がかかるとは言え気になる…正直気になりすぎて敵情視察がどうでもよく思えてきた…
「はあ…集合場所で待ってよ」
俺はそう呟いてから集合場所へ向かうことにした。
今日の昼飯はどうしようか…せっかく倉本がいるんだお嬢様が普段食わない様な庶民の食い物を食べさせてやりてえな。庶民の食べ物…庶民の食べ物…駄目だ普段外食しねえからたまに食う二郎系ラーメンしか思い浮かばねえ…
そんな事を考えながら歩いていると合流地点の近くに少し人だかりができていた。何人かはスマホを取り出して撮影している。なんかめんどくさいことでも起きたのか?そう思い人だかりの中を覗いてみると、
「取り消してくださいませ!わたくしと篠澤さんだけならともかく、初星学園全体を悪く言うのはいけませんわ!おかしいですわ!」
人だかりの中心に倉本と篠澤と黒髪とピンク髪の極月学園の制服を着たアイドルがいた。あの2人は確か倉本の前にライブしてた…何とか四音と何とか撫子だっけ?連絡がないと思えばなんか揉め事に巻き込まれてるじゃねえか…星南に怒られるからやめてくれ…
「千奈、千奈。私の悪口はおっけー、ってと?」
「……今日のわたくし達は言われても仕方ないと思いますわ…」
「やれやれ…お話になりませんね。あなた達のような惰弱なアイドルばかりなら初星学園恐るるに足らず。我々極月学園の敵ではありません」
見た目からの印象だけでも気が強そうな黒髪の何とか四音が勝ち誇る。
「今後は慎み深く道の隅を俯いて歩くことですね。」
「プリマステラも3組も出てこない初星学園なんてちっとも怖くありませんわっ!」
四音に続いてピンク髪何とか撫子も煽りに加わる。いまいち状況が掴めないが…篠澤も倉本も揉め事を起こすようなタイプじゃないし一方的に絡まれてる感じか…本当に…極月学園にはこんなのしかいねえの?
「うぐぐぐぐぐぐ〜」
倉本は悔しそうに唸っている。ここまで悔しがられると馬鹿にしがいがあるんだろうな…
「おーい。倉本、篠澤、飯食いに行こうぜ〜」
流石に見ていられなくなったので2人に声をかける
「篠澤さんのプロデューサーさん!丁度いいところに!この方達酷いんですの!私たちだけならともかく…初星学園まで馬鹿にして!初星学園の名誉だけでも何とかしてください!」
倉本は初星学園を馬鹿にされたのが余程悔しいのか俺を頼ってくる。頼られるのは信頼されてるのが伝わってきて嬉しいんだが…
「いや無理、実際その通りだろ」
「酷いですわ!」
「ふふ、流石プロデューサー。千奈にも容赦ない」
俺は倉本の救援要請をバッサリ切り捨てる。
星南だったらプリマステラという実績があるためこいつらに言い返せたかもしれないが…プロデューサー科の落ちこぼれとアイドル科の落ちこぼれ組が何か言ってもただの負け惜しみだ。
「まあ、そんなのをプロデュースしてるだけあって随分と負け犬根性が染み付いているみたいですね」
俺が特に気にしてなさそうなのが面白くないのか四音が絡んでくる。
「まあな…天下の極月学園さんのおかげで悪評まみれなんでね。まあオーディションで2人と当たる時は手加減してくれると助かるよ」
「ふふ、初星学園の名も随分と地に落ちたものですね。こんな恥知らずがプロデューサーをしているなんて」
「プギャ〜〜〜!ここまでプライドがない方を見たのは初めてですわ〜♪」
そう言って極月学園の2人は俺のことを見下して馬鹿にする。
まあ、あの2人の言ってる事も別に間違っちゃいない。実際ライプパフォーマンスも篠澤や倉本に比べて格段に良かった。人の事を馬鹿にするだけの実力はある。それに初星学園で注目されている奴らは今年NIAにほとんど出ていない。だから今年のNIAの初星学園は実際大した事はない…悲しいけど事実だ否定する事はできない。
…でも俺は2人が毎日レッスンに打ち込んでいるのを知っている。実力が大きく離れてしまった友達に追いつこうと毎日必死に限界まで頑張っているのを見ている。結果が出ていなくてもその行動は尊い物であり決して馬鹿にされるような物じゃない。だから俺は、
「あ!お前ら2人は今日でアイドル人生終わるから関係なかったよな〜ごめんごめん忘れてくれ」
豪快に笑いながら大声で言い放つ。ここで言われっぱなしじゃ倉本を任せてくれた星南にも顔向けできないし…言い返せないならせめてこいつら2人を死ぬほど嫌な気持ちにさせてやるよ。