「とりあえずここにかけなさい」
「わ、わかりました」
学園長の想定外の反応に俺は素直に言われた通りに椅子に腰をかける。これも学園長の策略か?笑い飛ばされた事で俺が作り出した申し訳ない空気感を吹き飛ばされた…
くっ…そんな手を使ってまで俺を退学にしたいのか…けど俺がそれくらいで諦めると思うなよ…
「倉本君と篠澤君に話は聞いておるよ。災難じゃったの」
「いえ…初星学園の名前を背負っているのにこんな大事にしてしまってすみません」
「そう固くならんでも良い。お主が想像してる様な事にはならんから安心せい」
「はい…」
安心させてくる学園長の思惑とは対照的に俺は表情と声のトーンを暗くしていき猛省している自分を演出する。よっしゃ!安心させてくるってことは絶対停学だろこれ!これで退学あり得ねえだろ!学園長…1週間でお願いします…それ以上は、この状況を何とかしようと動くには遅すぎる…そんな俺の強欲な願いは、
「お主の処分は反省文を作文用紙5枚分書いてくる事じゃ、1週間以内にあさり先生に提出しなさい」
上回る形で叶う。ん?反省文だけ?…なるほど学園長も人が悪い。軽い罰を最初に言ってびっくりさせる気だな、だがその手には乗らない、俺は覚悟を決めて学園長に尋ねる。
「その…他の処分は?」
「ん?これだけじゃぞ」
「えっ?反省文だけっすか?」
「今回は事故のような物じゃからの。今後は気をつけるように」
あまりの都合の良い展開に頭が混乱する。
「…ドッキリとかじゃないっすよね?実は退学でした〜みたいな」
「それはドッキリとは言えないんじゃないかの…処分の内容が不満かね?」
学園長は処分の内容を何回も疑う俺に問いかけてくる。やばい!しつこく聞きすぎたか?俺は慌てて、
「いや!滅茶苦茶有難いです!…でも…その自分で言うのも何ですけど俺問題児っすよ?問題児が敷地外で大問題起こしてんのに反省文だけって…風評被害とかもありますし…学園長が何か言われたりするんじゃないんですか?」
疑ってしまった言い訳をする。
「そんな事気にしなくてよい。学園長として生徒を守るのは当たり前じゃ」
学園長は俺を安心させる様な笑顔で語りかける。教育者の鏡の様な発言、学園長の器の大きさと人柄の良さを同時に感じて心が温かくなる。俺が普通の生徒ならその言葉で納得できていただろう…でも、
「…それだけでそこまでしてくれるんですか?」
俺は初星学園の問題児。生徒はもちろん教員にすら鬱陶しく思われている落ちこぼれ…そんなのに優しくするなんて絶対に裏がある…そんな気がして学園長の真意を探る。
「まあ…強いて言うならワシがお主を気に入っておるからじゃな」
「え?そんな理由で?てかそれって…職権乱用じゃ…」
「おほん、去年は特にそうじゃったが、お主はやりたい叶えたいと思った事に一直線じゃ。手段を選ばず必要とあらば周りを巻き込み規模を大きくして台風の様に走り去る。それなのに終わってみれば巻き込まれた者も通った場所も笑顔が溢れるそんな不思議なプロデュースをしておった」
「別に…そんなにすごくないですよ…俺の突飛な発想を実現してくれた俺以外のプロデューサー科の奴らが優秀ってだけです」
「そうかもしれんな。でもわしは高く評価しておる。わしはもっとお主のプロデュースが見たい!それじゃ理由にはならんかの?」
学園長は俺が納得してないのを見て重い処罰を与えなかった理由を語る。気に入っているから…俺のプロデュースが見てみたいから…一代でこんな学校まで作るくらいすごい人に認められている事実が心に染み込んでくる。
本当はこのどうしようもない状況に抗う方法もいくつか思いついていた…
でも1人じゃできない事ばかりで深く思考することを放棄していた。
去年は確かに上手く行った事もあった…けど最後は俺は何も言われずに担当アイドルに捨てられた。捨てられた理由がわからないから去年の自分の行動全てが間違いに感じられて俺の特技だった「人を頼る」行為そのものが怖くなった。
だから篠澤のプロデュースできる限り俺1人の力でやろうと思っていた。でももう1人でどうにかなる様な状況じゃない…色んな人に頭を下げて協力してもらわないとどうしようもない…なのに…
人を頼ったからそうやって頼りないところを見せたからあいつに捨てられたんじゃないか…全部1人でできるところを見せないと篠澤にも同じ選択をさせてしまうんじゃないか…そんな思考が拭いきれなかった自分への不信感が助けを求めることを拒んでいた…
けど、こんなにすごい人が周りに助けてもらいまくる情けないプロデュースを肯定してくれているんだ…もう一度だけ自分を信じていいんじゃないかと思えた。
「…学園長ありがとうございます」
俺は色んな意味を込めて学園長にお礼を言う。
「うむ、なら話は終わりじゃ。他にも謝りに行くところがあるんじゃろ?もう行っても良いぞ」
「そうっすね。星南にも謝らないといけないんで…これから怒られてきます」
「星南は怒ると怖いからのぉ… 気をつけて行くんじゃぞ」
学園長は生徒会室に向かう俺の足がすくむ様なそんな激励を送ってくる。俺が扉の手をかけた時、
「そうじゃった。最後に一つだけ聞いておきたい事がある」
学園長が声をかけてくる。
「何ですか?」
「お主は今苦境に立たされておる。ワシが守ると言っても限度があるからの。そう時間も経たん内に去年の事も掘り返され悪評は業界内外に知れ渡る事になるじゃろう。…別の道に行くとしても生活に困らない様にワシが取り計らってやれん事もない。もし責任感で動いているならもうここで諦めなさい誰もお主を責めはせん」
学園長は最後まで俺のことを心配して別の道を提示してくれている。別の道か…それも悪くないだろうでも、
「…こんな事で諦めれるなら俺は去年で初星学園を辞めてますよ。それに最近は担当アイドルの影響で簡単に上手く行くとやりがいをあんまり感じなくなったんでこのくらいが丁度いいまであります」
脳裏にへばり付いて離れない感情がその楽な道を拒否している。篠澤の初めてのライブ、失敗前提で組んだ俺のプロデューサー人生が終わりかねなかったあのライブ…それが前座として大成功で終わった時の感覚。
今までの人生で味わった事のない最高に愉快で苦しいそんな感覚が脳裏にへばり付いて離れない。あの感覚をもう一度味わいたくてたまらない。
今回の件も似た様なもんだ。このままじゃ俺のプロデューサー人生が終わって、計画が全部うまくいけば篠澤がNIA上位に輝けるかもしれないそんな最高に愉快で苦しい逆転劇。…本当に良くない影響を受けている気がする。だけど…まあ悪い気はしない
「まあ見ててください…この、ままならない状況を頼れる人頼りまくってみんなで大団円迎えてやるんで!」
「…そうか。じゃあ頑張って来たまえ。応援しておるぞ」
「はい!」
俺は学園長に大見得を切って扉へ向かう。扉についた時ふと名案を思いついて、
「それと学園長。俺の周りを巻き込むプロデュースが見たいなら近いうちに巻き込みに行くんで覚悟してくださいね」
軽口を叩く。
「ワッハハハ!望むところじゃ」
学園長は笑いながら承諾してくれている。これで計画が1つ進んだ。次は謝るついでに協力者をゲットしよう。この学園で1番凄いアイドルの協力者を、