『この動画が再生されてるという事は斎藤君の提案を断ったと言うことじゃろう。去年散々迷惑をかけておいて1番の被害者の些細な願いすら叶えてやらん意地の小僧に伝えておく事がある。え〜おほん。もし斉藤君の計画が実行されなかった場合記事のせいで飛んでしまった仕事の損害賠償を請求させてもらう』
「なっ!?」
学園長の敵対宣言に黒井社長は驚きの声をあげる。これが俺の秘密兵器『学園長の威を借りる』だ。
去年この記事が出た時初星学園のプロデューサー科の被害は尋常じゃなかった。なんせ問題の生徒の名前が伏せられた為仕事を依頼する側は誰が信頼できて誰が出来ないのかわからない状態だった
大きい仕事は大きい会社が振ってくるもの、大きい会社にはそれなりのコンプライアンスが求められる。万が一にでも担当アイドルをパワハラしてる奴に利益が入るなんて事大きい会社であればあるほどあってはならない。
だからプロデューサー科が取ってきていた大きな仕事は軒並み吹き飛んだ。黒井社長がこんなでかいビル建てるくらい金持ってるとは言え…美波里1人で回収が見込める額では無いはずだ。
それに損害賠償を請求される事態になればマスコミが嗅ぎつける。100プロの元社長と961プロの社長の法律を使ったガチバトル…こんなに面白そうな記事を書ける題材なんて他にないはず。
しばらくすれば事細かに黒井社長が行ったプロデュースを分析された記事が出るだろう…そうなれば去年の初星学園みたいに961プロは色んな人間を巻き込んで大ダメージを受ける。
去年自分の悪い所を散々考えたからな…この交渉で俺に足りないものはわかっている。それがわかったなら後は簡単だ…それを補う方法を考えるだけだ。
『それだけじゃないぞ。去年は斉藤君に止められてやらんかったんじゃが…わしは教育者として生徒の世間からの不当な評判を正す義務がある。断った場合初星学園から記事に対して声明文を出させてもらう。この点を踏まえ交渉に挑んでくれたまえ、以上』
秘密兵器ははこれにて終了。俺は勝ち誇った顔で黒井社長に判断を委ねる。
「…らしいっすけどどうしますか?」
「貴様…!そんな事をすれば美波里の評判が地に落ちることすらわからんのか!?自分がスカウトしたアイドルが落ちぶれる所を見たいというのかね!」
黒井社長は美波里を使って俺の良心を刺激してくる。
黒井社長はよくわかっている。去年俺が学園長を止めた理由…この記事を訂正すれば美波里のアイドル活動に大きな支障が出るからだ。
どこまで計算かは知らないが、去年の俺は訂正すれば美波里が炎上する罪悪感で苦しくなりかと言って記事を放置しても俺が初星学園の嫌われ者になる。どっちをとっても俺が最悪な気分になる事は確定する最低最悪な状況だった…
だから俺は放置する事にした。俺の夢が終わる事より美波里を傷つけることの方が嫌だったから…出来る事なら美波里をだしに使う方法だって本当は使いたくなかった。
何も言わずに俺の元を去った言えど元担当アイドルをだしに使って交渉するなんて…でも、
「そんなもん見たくないですよ。でも今の俺は篠澤広のプロデューサーなんで篠澤がアイドル活動出来なくなるくらいなら俺のことを捨てたアイドルくらい利用してやりますよ…で?どうするんすか?分かってるとは思いますけど俺が反論するのと初星学園が声明文を出すのでは重みが全然違うんでよく考えた方がいいと思いますよ?まあ…選択肢なんてないと思いますけど」
俺がどれだけ美波里に未練があろうとも物事には優先順位がある。俺はなんとしても篠澤がアイドル活動が出来なくなる状況はなんとかしないといけない。俺から奪ったんだ美波里の事は黒井社長がなんとかしやがれ、
「くっ…貴様誰にそんな口を聞いている!」
「俺の人生滅茶苦茶にした人でぅえ〜っす」
「こ、こいつ!調子に乗るんじゃない!」
俺は口の利き方くらいしか言うことがなくなった黒井社長に白目をむいてベロを出し首を振って声を振るわせながらさっきまで皮肉のお返しをする。ハハ、ざま〜みろ〜顔真っ赤にして怒っちゃって…本当に最高だな!写真に撮って家に飾りたいくらいだ。
「で?どうするんですか?僕散々我慢したんで〜もう待てないっすよ〜帰っちゃおっかな〜」
「くっ…!どこまでも調子に乗りおって…!」
俺の散々な煽り様に黒井社長は我慢の限界を迎えそうになっている。
だが黒井社長はここで感情に任せて俺を帰す人間じゃない。961プロは金の力をライバル事務所に嫌がらせをしたりする程に勝つ為ならなんでもする。だからここで俺を帰すなんて言う負けが確定する選択肢なんて取るわけがない。
正に勝負は戦う前に決まっているって奴だ。
その後黒井社長は15分ほど俺を同情させようとしたり961プロに引き抜こうとしたりと悪あがきをしまくっていたが最終的には、
「分かった…提案を受け入れよう…」
俺の計画に巻き込まれる事になった。
「ありがとうございま〜す。あ、契約書でもらっていいですか?星南に協力してもらう為の条件なんで」
「…秘書を呼ぶからあとは秘書に頼め」
黒井社長は疲れ果てた様子で社長室から退室していく。黒井社長は出ていく時、
「…全く、聞いていた話と違うではないか。これではあの条件が…」
少し困った様に呟いていた。条件?…まあよくわかんないけど俺には関係ない話だろ。それよりこれで星南に力を貸してもらえる…俺は達成感と黒井社長相手に優位に立つことができた事で得られた万能感に酔いながら契約書の到着を待った。
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昼下がり、平日なこともあり人が少ない公園で、
「ふふ、デートどこに行こう」
どこか銀木犀の花を思わせる容姿の少女はこの後の予定を楽しみにしながらプロデューサーを待ってる。ベンチに座り足をぶらぶらとさせながら吹く風を心地よく思っている彼女は誰が見ても幸せそうだった。
そこに961プロに向かっている極月学園の制服を着た女の子が歩いてくる。金木犀の花のような髪色に薔薇の様な可憐さを纏いながら篠澤広の方に歩いてくる。女の子はベンチまで来た時足を止めて篠澤に話しかける、
「…違ってたらすみません。あなたって初星学園の篠澤広さんですよね」
「そうだけど…誰?」
「私は如月美波里、あなたに聞きたいことがあるんです」
そう言って美波里は篠澤の真正面に立つ。彼の知らないところで彼に関わりが深い2人のアイドルが今、邂逅する。