「…あなたはこの人とどういう関係なんですか?」
美波里はスマホを取り出して篠澤に画面を見せる。画面に映っていたのはNIAで今1番話題になっている動画、彼女のプロデューサーが極月学園の生徒を叱責している動画だった。
「その人は私のプロデューサー」
篠澤の答えに美波里は苦虫を噛み潰したような顔をした後、
「なら、あなたに提案があります。極月学園に転校しませんか?」
篠澤を極月学園に勧誘する。そんな突飛で魅力的な提案に篠澤は、
「大丈夫」
一呼吸も置かずに答える。
「…どうして?現在進行形で迷惑をかけられてますよね?それに実力が足りない仕事だって問答無用で取ってくるし悪い所をあげればキリがないですよね?」
そんな篠澤に驚いたのか美波里は捲し立てる様にプロデューサーの悪い所を上げる。
「そうだね。でも、私はそれを求めてる。想像もしてない問題を起こしてくれるプロデューサーと一緒にいれば毎日が楽しい」
プロデューサーの悪い所を肯定的に捉えて楽しんでいる篠澤に、
「…なにそれ」
美波里は少し苛立った様に呟く。そんな意図がわからない質問の意味を篠澤が聞こうとした時、
「極月学園の制服着てる奴がいると思えば…プロデューサーがいない間にアイドルを引き抜こうとするとか、随分と極月学園に染まってるな、美波里。」
話題になっていたプロデューサーが仕事を終えて合流した。
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「…お久しぶりですプロデューサー」
「…お前のプロデューサーは黒井社長だろ?苗字で呼べよ」
俺は想像もしていなかった再会にどうしていいかわからず隠しきれない敵意で言葉を紡ぐ。
「…動画見ましたよ。相変わらず好き放題してますね。本当に…去年から何も変わってない」
そんな俺にムカついたのか美波里は少し笑って俺の失敗を馬鹿にしてくる。
「どこかの誰かさんが出した記事のせいで変わる余裕なんてなかったんでな」
「…相変わらず軽口が得意なんですね。それなら腰も軽くして初星学園を辞めたらどうですか?」
「……。」
俺は予想してなかった反撃に思わず口を閉じる。…本当に変わったな。去年は時々やらかしていた俺に文句の一つも言わなかったのに…本当に愛想尽かされたのか…そう考えて少し落ち込む俺に、
「反省するどころか起こした問題の規模で言うなら去年より大きいんですよね?それに私の代わりにこんなよくわからないアイドルを選ぶなんて…あなたはプロデューサーに向いてないと思います。それなら…」
美波里は攻撃の手を緩める事はなかった。向いていない…半年間一緒に頑張った相手に言われるとキツイな…でも言われても仕方ない…俺は相談すらされずに転校されるくらいダメなプロデューサーだからな…そんな耐えるしかなかった発言を、
「それ以上プロデューサーの事を悪く言うなら許さない」
不快に思ったのか篠澤が話を遮ってまで言い返してくれる。…珍しいな篠澤が話を最後まで聞かないなんて…怒りを感じるほどには好意的に見てもらえている事に嬉しく思っていると美波里が篠澤に向き直した。美波里の標的は俺から篠澤へと移っていったのを感じる…
「…あなたに関係ないでしょ?」
「関係ある。今は私のプロデューサーだから」
「あなたあの2人に馬鹿にされるくらいお粗末なアイドルなんでしょ?あなたじゃ私の代わりになれないと思いますけど」
「そうかもしれない。でも私の方がプロデューサーと仲が良い。わざわざ美波里の代わりになる必要がない」
「…え?」
美波里は篠澤の予想外の切り返しに驚きの声をあげる。いや…庇ってくれてるのは嬉しいんだけどそう言う話だっけ?
「それにプロデューサーは私の事美波里の代わりだなんて思ってない」
「…まあそれはそうだな」
美波里は最初からある程度なんでもできてたからな。俺もレッスン内容に頭を悩ませることなんてなく仕事をとってくる事に専念できた。篠澤は替わりと言うには色々と足りてなさすぎる…美波里の実力を認めている俺の発言をどう捉えたのか、
「…私があなたより劣ってると言いたいんですか?」
美波里は篠澤によくわからない返答をする。
…だからそう言う話じゃないだろ。こいつら議論の発展の仕方がよくわからん…このままだと碌でもない事になりそうだ…今の内に止めておこう…そう思ってこの険悪な雰囲気の中どうやって切り込むか考えていた時俺の予想は、
「うん。私美波里にだけは絶対に負けない。なんなら勝負してあげてもいい、よ」
「篠澤さん?」
当たる事になる。こいつ…!また無茶苦茶な事言い出しやがって!俺は急いで篠澤の口を塞ごうと動き出したが…
「へ〜。そこまで言うなら丁度NIAが開催されてるのでアイドルならライブで勝敗をつけましょう。勝負に負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞くと言う事で…ただ今私とあなたじゃ釣り合ってないのであなたが負けた時プロデューサーも私の言う事を聞いてください」
「は?」
もう遅かった。篠澤に触発されたのか美波里まで滅茶苦茶な事言い出してるし…ほんとに何この状況…
「私達は一蓮托生。言われなくてもそのつもり」
「ちょっと待って」
「なら勝負の場所は私の仕事都合もあるので3週間後のQUINTETという事で」
「わかった」
「…俺の話も聞いてくれない?」
俺を置いてとんとん拍子で決まった勝負に頭を抱える…なんで問題が1つ解決する度に新しい問題ができるんだよ…そうやって頭を抱える俺に美波里は、
「あ、そうだプロデューサー。あなたにするお願いは中々にハードになると思うので覚悟しておいてくださいね」
去年の鬱憤を晴らすかの様に脅した後、事務所の方角に歩いて行った。色々言いたい事はあるが敢えて一言にしぼることにする…なんで俺が!お前らの勝負の連帯保証人にされてんだよ!