目指せ!QUINTET!
「私達が帰還した、よ」
「そしてなんと!言ってた契約書持ってきたぞ!これで探してくれるよな?」
「…え?もう持ってきたの?」
俺は美波里との邂逅の後、協力の条件である契約書を星南に渡すために篠澤と一緒に生徒会室に訪れていた。
あの後感極まって篠澤に背中をさすってもらいながらベンチで20分くらい泣いてしまった…それもあって篠澤が気を使ってできるだけ早く動こうと昼食すら取らずに初星学園へと戻ってきた。
そのおかげで12時に近くに初星学園に戻って来れ生徒会室で昼食とっていた星南達に会うことができた。
しかしまあ…我ながら本当に情けない…まさか15歳の女の子に慰められながら泣くことになるなんて…
保健室で会話を聞かれてた時も中々恥ずかしかったが…それを大きく更新する事になるとは…このまま更新され続けたらどうしよう。そんな将来の不安を胸に秘めつつ俺はできる限り普段通りに星南に話しかける。
「…貴様。その契約書は本物だろうな?偽物なら冗談じゃ済まないぞ?」
「本物だよ!ちゃんと961プロの印鑑押してあるだろ!」
そんなあまりに仕事が早い俺を雨夜は疑ってくる。俺だって流石に偽造文書行使罪は犯さねえよ…
俺はツッコミつつ星南に契約書を渡す。そして生徒会室にいる全員が俺の事を疑っているのか契約書を確認している星南を覗き込む、
「本物ね…」
「本物だな…」
「本物ですわね…」
「俺ってそんなに信用ないの?」
そして覗き込んだ全員が本物である事に驚いている。雨夜はまだわかるけど星南と倉本にまで疑われると悲しいんだけど…
「ごめんなさい。だって余りに仕事が早いんだもの。貴方のいつもの姿と余りにもかけ離れてるから…」
星南は少しだけ動揺しながら疑った理由を包み隠さず語る。少しはオブラートに包んでよ…
「ふふ、日頃の行いって大事、だね」
「…そうだね」
露骨に落ち込む俺に篠澤は昨日と同じ言葉を投げてくる。こんなに身に染みる言葉だったんだ…
「しかしまだ1日も経ってないのに契約書を持ってくるとは…思っていたよりやるじゃないか。少しだけ見直したぞ」
「すごいですわ!これで計画が進みますわね!」
落ち込む俺を見てか雨夜と倉本が俺の事を褒めてくれる。少しだけ見直してもらったのにこの話しないといけないのが悲しい…
「あ〜それなんだけど…ちょっと問題が発生して…」
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「…って事でQUINTETに出なきゃいけなくなりました」
「本当に…!貴様らは馬鹿なのか!?既に問題山積みなのに何故さらに問題を増やす!!」
俺は協力してもらってる手前隠し事をするのも気が引けるので美波里との対決の概要とそうなった経緯を俺の情けない部分を省き、そのせいで辻褄が合わなくなった話の整合性をとるため美波里に2人でブチギレた事にして説明した。
そのおかげで雨夜は怒鳴り声をあげ、星南は頭を抱え、倉本は青い顔をしている。反応が多種多様で少し面白いな、
「しょうがないだろ?篠澤さんの気に障っちゃったんだから。なあ?」
「うん、私すごく怒ってる、よ」
「貴様らは我慢と言うものを覚えろ!」
雨夜は完全に頭に血が昇っている様で少し怖い、今日は黒井社長にかましてきたのもあって感覚が麻痺してるから余り恐怖を感じないが…
しかし雨夜がいるとちゃんとツッコミを入れてくれるから安心してふざけられるな。
「…如月美波里って最近テレビにも出てる961プロの子よね?ライブ映像を見たことあるわ。記憶が正しければ私のライブと比べても遜色なかったはずよ」
「篠澤さん…そんなにすごい方に勝負を挑んだんですの?」
「うん。負けた方がなんでも言う事を聞く条件で」
「一体何を考えているんですの!」
倉本も星南も動揺を隠しきれないみたいで動揺が表情に出ている。懐かしいな…俺も篠澤に初めて無茶振りされた時こんな感じだった。仕方ない、ここはこんな無茶振りに慣れている俺が空気を変えてやる。
「まあ、過ぎたこと言ってもしょうがねえだろ。こっから美波里に勝てばいいだけだからな!」
そんな俺の前向きな発言とは裏腹に、
「「「……。」」」
生徒会室の空気は凍りついた。あれ…?おかしいな…なんでこんな空気になってるんですか?自分が作り出した空気にどうしていいか分からず固まる俺に、
「はあ…それもそうね。じゃあこれからどうするのか聞かせてもらえる?」
星南が助け船を出してくれた。流石プリマステラ困った時にいつも助けてくれる。俺はお礼としてこれからの俺たちの動きについて説明する。
「わかった。まず篠澤は配信以外の営業はできる限りやらない」
「それは何でかしら?」
「QUINTETでの勝率をできるだけ上げるためだ。勿体ぶりに振りまくって篠澤に対する期待値を上げまくって少しでも審査員の興味を引く。こうすれば少しだけ篠澤が有利になるはずだ」
NIAの順位を決めるのは票数、基本的には票集め。
だがオーディションは従来通りライブの質で勝者が決まる。どれだけ有名だろうが関係ないアイドルとして優秀な奴が勝利を掴む。だからと言ってレッスン以外でできることがない訳じゃない。
審査員だって社会で生きている人間知っているアイドルや期待しているアイドルにはどれだけ気をつけていても少しだけ好意的に見てしまう。俺の作戦ははそれを意図的に起こそうと言う訳だ。
「またリスクが高い方法だな…期待に応えられなかった場合どうなるのかわかっているのか?」
「わかってるよ…失敗したら篠澤のアイドル人生が終わるな」
期待されていると言うことは精神的リソースを割かれていると言うこと、人間限られたものを支払うときには必ず見返りを求めるそれに応えられなかった場合…篠澤のアイドルとしての信頼がが地の底にまで落ちるだろう。
一度失った信頼を取り戻すのは大変だ。学生の間に取り戻すことはできないんじゃないかと錯覚するほどに…そんな俺のハイリスクハイリターンな作戦を篠澤は、
「ふふ、そうなんだ…それすごくゾクゾクする、ね」
楽しそうに肯定する。
「楽しそうな所悪いけど…広貴方今の実力のままじゃほぼ100%でそうなるわよ」
「だろうな…だからQUINTETまでの3週間で篠澤にはアイドルとして5段階くらいレベルアップしてもらう。その為のレッスンももう考えてある。ちなみに無理くり成長してもらうから滅茶苦茶辛いぞ」
俺は昨日黒井社長に見せる資料を印刷するついでに印刷しておいたレッスンメニューをカバンから取り出して机に広げる。
「…ちょっとこれ休む時間ほとんど無いじゃない」
「こんなの死んでしまいますわ!」
「いくら根性のある篠澤でも耐えられるとは思えん…今すぐにでも考え直せ」
レッスンメニューを見て星南達はドン引きしている。それもそのはずこれは元々篠澤を喜ばせる為に2週間に一回くらいでやらせるつもりだった限界まで頑張るレッスン。3週間もやらせるには無理がありすぎるものだ…だけど俺はわかっている。篠澤は、
「プロデューサー…どうしてこんなレッスンメニューにしたの?」
「な〜に俺の為に怒ってくれたちょっとしたお礼だよ。この3週間滅茶苦茶苦しくなるから楽しみにしてろよ」
「貴方は本当に…最高のプロデューサー」
俺にこう言うのを求めているってな!まあ本当に無茶でしかないレッスンだけどこれくらいやらないと勝ちの目すら見えないからな!苦しくなる未来を想像して笑い合い打倒美波里に闘士を燃やしている俺たちにドン引きしている倉本と雨夜とは違い、
「…貴方達がそこまでやるなら千奈のプロデューサーとして、プリマステラとして負けてられないわね!2人とも1週間頂戴、1週間で配信の件何とかしてみせるわ!」
星南は対抗意識を燃やしてきた。計算していた訳じゃないがこうなってくれたら星南以上に頼れる奴はいない、なんて言ったってプリマステラ、学園一のアイドルなんだ。
「燕1週間生徒会を開ける事になるけど生徒会の事任せるわね」
「はあ…仕方ない。使えそうな奴も見つかったし生徒会は任せておけ」
そう言って雨夜は星南の頼みを聞く。へ〜厳しい雨夜のお眼鏡に適う奴がいたんだ。同じ事を思ったのか倉本が雨夜に質問する。
「雨夜先輩使えそうなお方って一体誰の事なんですの?」
「自分で言ってて少しムカつくが…こいつの事だ」
雨夜はそう言って俺の肩に手を置いてくる。
「…え?」