諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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新たなレッスンメニューとSSD

 

「ぜえ…あれ?今日は…朝練これで終わり?」

 

「ああ、俺が生徒会の手伝いでいない間のレッスンについて説明するから。ちょっとだけ体力を残しといてくれ」

 

生徒会の手伝いをする事になった次の日の朝、俺は篠澤の体力の限界が来る前に走るのをやめさせる。咲季の協力も得られたので星南達にも見せた過酷なレッスンをしてもらおうかと思っていたのだが…あれ限界まで追い込むから絶対倒れるんだよな…俺が見てない間に倒れられると色々と怖い。それにあのレッスンは美波里との勝負が決まる前、来年から本格的に動き始める予定だった頃に作った物だ今の状況に合っているとは言い難い。そんな不安もあって昨日の夜に篠澤1人でもできるレッスンを作り直した。俺は印刷しなおしたレッスン表を篠澤に渡す。

 

「…昨日の奴と全然違う。私これじゃ全然楽しめない、よ」

 

「俺が見れる様になったらもうちょっと苦しめる様にするから1週間だけこれで我慢してくれ。じゃないと心配で手伝いに集中できねえよ…」

 

「ふふ、心配してくれるんだ」

 

こいつ…俺が今までわざわざ朝練に付き合ってやってたのは何だと思ってるんだ…

 

「…プロデューサーとして当たり前だろ?大体お前ほっといたらすぐ倒れるまで自分のこと追い込むじゃん」

 

「うん、プロデューサーに会うまではよく死にかけてた。いつも誰かが助けてくれたけど誰も私の事を見つけてくれなかったら…ふふ、プロデューサーに会えてなかったかも」

 

「いや…笑えないんですけど…」

 

篠澤は起こりそうな最悪な未来を笑いながら話す。そういや出会った時も顔面からアスファルトに倒れそうになってたな…アイドルやってるならもう少し自分の体のこと大事にして欲しいんだが…そんな事を思いながら、

 

「まあ…俺が見れる様になったら何回か前の奴やってみるか」

 

「わかった。すごく楽しみ、だね」

 

篠澤のやる気を出す為に過酷なレッスンを約束しておく。篠澤のモチベもあげた所で俺は説明を始める。

 

「じゃあ説明するぞ。俺がいない間は身体の柔軟性を上げる為に2時間に1回くらいストレッチをする事、やる時は身体の筋肉がどうやって伸びてるのかを意識しながらやってくれ」

 

篠澤のライブの魅力は舞を踊る巫女の様な神秘性。篠澤自身の見た目と体力の無さ故の緩やかな動きが相乗効果を発揮してそう見えている。近しいもので言うならバレエのダンスだ。バレエでは動きを魅力的に見せる為に身体の柔軟性が何よりも求められる。篠澤のイメージする動き的に柔軟性を伸ばしてやればライブのクオリティは爆発的上がるだろう。

 

「時間はどれくらいやればいいの?」

 

「5分から10分。塩梅は篠澤に任せるよ。で、こっちがメインなんだけど、昼の授業と夕方の補習レッスン以外の時間は全部他のアイドルのライブ映像を見て良かった部分を言語化してくれ」

 

俺は篠澤広の成長のターニングポイントを思い出しながら説明する。

 

篠澤が身体的に1番成長したのは一条に預けてSSDを飲んだ時、あの時からレッスンの時も目に見えて倒れにくくなっていた。そしてアイドルとして1番成長した時はBegraziaのライブを見た時だろう。Begraziaのライブを見る事によって篠澤のアイドルとしてのイメージが固まり前座を務めた初めてのライブは見事最高に終わった。

 

篠澤は身体もアイドルとしてもまだまだ発展途上、成長の余地は有り余っている。だがQUINTETは3週間後、時間は限られている為伸ばすべき部分は選ばないといけない。後々のことを考えると1番伸ばしたいのは伸ばすのに時間のかかる体力なんだが…体力をつける為にも体力がいる都合上体力を伸ばしているとただでさえ体力のない篠澤は同時進行で他に能力を伸ばせなくなるので一旦置いておく。実際初めてのライブでは最後まで踊り切れてはいたのでこれからSSDも飲む様になるし多分大丈夫だろう…

 

この3週間で篠澤の1番伸ばすべき部分はアイドルとしてのイメージだろう。これが多分1番短期間で効果が出る気がする。実際Begraziaのライブを見ただけで今まで最後まで踊れなかった「初」が最後まで踊れる様になったんだ。篠澤と似た様な魅力を持つ初星学園の卒業生のライブ映像を見漁れば動き自体の質も上がってくるはず、そこにストレッチで伸ばした身体の柔軟性が加われば…美波里に勝てる確率も少しは見えてくるはずだ。

 

「言語化…プロデューサーに話したらいい?」

 

「まあ相手できる時はそれでもいいけど、できない時はノートに魅力的に感じた部分とその中で自分が真似できそうな部分を書き写して後で見せてくれ」

 

俺がレッスンの内容を説明し終えると、

 

「わかった…じゃあ今日からあんまり会えなくなっちゃう、ね」

 

篠澤は寂しそうに呟く、いや…確かに今までよりは減るけど朝練と帰る前に会うから結構会うだろ…

 

「まあな…でも今までが会いすぎてただけだからな?俺がやる事ないからレッスンに付き合ってただけで普通なら営業行ってるんだぞ。美波里に勝てたらこうなるから今のうちに慣れておいてくれ」

 

「わかった。今のうちにいっぱいプロデューサーに甘えておく、ね」

 

そう言って篠澤は座っている距離を詰めてくる。こいつ…俺が今注目を集めている人物な事を忘れてないよな?どこで誰が見てるかわからない為できれば今すぐにでも離れたい所だが約束のせいで強く出られない俺は、

 

「…まあ約束もあるからな」

 

抵抗しない理由を呟く。

 

「あ…!そうだった」

 

「え?」

 

最近色々ありすぎてすっかり忘れていたのか篠澤は驚きの声をあげる。忘れてたのかよ…言わなきゃよかった…

 

「じゃあご飯食べるから運んで欲しい」

 

篠澤は早速両手を広げてお姫様抱っこを要求してくる。出たよアイドル活動が終わりかねないおねだり…いくら朝の7時で初星学園の敷地内とは言えわずかでもそんな可能性がある事をしたくないので俺はダメ元で少しだけ抵抗してみる。

 

「いや…飽きたりしないの?」

 

「うん。何回されても嬉しい。お姫様抱っこは女の子の夢」

 

「…いくら夢でもやりすぎたらマンネリ化するだろ?またご褒美貰える時に備えてある程度違うお願いした方がいいんじゃない…?」

 

「…それもそう、だね。なら一緒に朝ごはんを食べよう」

 

俺の言い分に納得したのかはたまた何かを思いついたのか篠澤はニヤニヤしながら足早に女子寮に歩いていく。滅茶苦茶不安だ…けどとりあえずアイドル活動に支障が出る画像は撮られなくなったな。そう思って俺は大人しく篠澤についていき咲季に朝飯を貰いにいく。

 

「おはよう!もう朝ごはんできてるわよ!」

 

女子寮に着くと、咲季が朝ごはんの用意を終えてRe;IRIS3人はすでに食事を始めていた。俺は一応咲季の機嫌を取る為に昨日の軽口を実行しておく

 

「ありがとう。お姉ちゃん、いつも助かるよ」

 

「え〜もう!気にしなくていいのに〜あ、そうそうはいこれ、2人の分のSSDよ!」

 

効果は抜群だったのか篠澤の朝ごはんと俺の分のSSDまで出てきた…もうさっさと飲んだ方が楽だな…俺は貰ったSSDをそのまま口に入れる。相変わらずクソまずい…息をしない様にしてできる限り味を感じない様に努力すると昨日よりかは飲みやすく30秒もかからない内に飲み終えた。

 

「くう〜健康になった気がする…ありがとう美味しかったよ」

 

「それは良かったわ!言ってくれればいつでも作るから遠慮せず言って頂戴!」

 

「流石お姉ちゃん太っ腹だな…」

 

俺の心にもないお世辞は効果覿面だった様で咲季は協力を惜しまない姿勢を見せてくれる。うれしいけどうれしくない…一条に怒られない様にする為に俺が咲季の機嫌を取っていると篠澤が服の裾を引っ張ってお願いをしてくる。

 

「プロデューサーお願いがある。朝ごはんを食べさせてほしい」

 

ニヤニヤしてた理由はこれか…また危ういお願いだがまあここには初星学園の関係者しかいないし多分大丈夫だろう。

 

「はいはい、何から食べますか?」

 

「パサパサチキンから食べたい」

 

俺は箸でパサパサチキンを掴み落とさない様に気をつけながら篠澤の口に持っていく。篠澤は口に入れたパサパサチキンをよく噛んで飲み込んだ後、

 

「ふふ、いつもより美味しい」

 

「…なら良かったよ」

 

嬉しそうに報告してくる。

 

「じゃあ…次はこれが食べたい」

 

「はいよ」

 

一度食べさせただけじゃ満足しなかったのか篠澤は次に口に入れるものを指定してくる。なんか既視感あると思ったらあれだ、動物園の餌やりコーナーだ…篠澤がモルモットに見えてくる。俺が普段しない行動に驚いているのかRe;IRIS3人は俺たちを凝視している。

 

「…なんだよ」

 

「貴方達いつの間に付き合ってたの?」

 

「付き合ってねえよ…」

 

「何で付き合ってもないのにそんなことしてるんですか?」

 

「プロデューサーは私に酷い事をした償い期間中。私のお願いなら何でも聞いてくれる、よ」

 

「何でも言う事を聞くって…一体何したの?」

 

「私の目の前で私の事生徒会に任せて学校を辞めるって言い出した」

 

「…なにそれ?最低だね」

 

「もう充分に反省してるから責めないで…」

 

「…何でそんな事言ったんです?」

 

「星南に同情して貰おうと思って…」

 

「「「……。」」」

 

理由が他の女に同情してもらう為と言う終わりすぎている理由だったせいかRe;IRIS3人はすごい顔で俺の事を見た後黙って食事を摂り始めた。俺が悪いんだけど辛い…

 

「プロデューサー、早く食べさせてほしい」

 

「はい…」

 

俺はこんな空気になった原因を作った奴の口に次々と皿に乗っている食料を運ぶ。そしてRe;IRIS3人が食べ終わってからしばらく経った後、

 

「ごちそうさまでした」

 

気まずかった朝ごはんはやっと終わってくれた。

 

「ごちそうさまでした…っておい。SSDまだ飲んでないだろ早く飲めよ」

 

俺がどれだけ苦労してそれを作ってもらったと思ってるんだ。

 

「飲ませてほしい」

 

「いや…飲み物は自分で飲んだ方が良くない?」

 

「大丈夫。私はプロデューサーを信じてるから、ね」

 

「そうですか…」

 

もう色々めんどくさくなった俺は篠澤に言われた通りSSDを篠澤に飲ませていく。篠澤は何を思っているのかすごく楽しそうにしながらSSD飲んでいる…こいつ本当にすごいなこれマジでまずいのに…そう思って感心していると、

 

「ゲホ!ゲホ!ぐ、苦じい!」

 

SSDが気管に入ったのか咳き込み鼻からSSDを吹き出している。

 

「ああ!もう…だから言っただろ。大丈夫か?これで顔拭けって」

 

「ッ…!ゲホ!ふ、拭いて欲しい…」

 

「いや懲りろよ…」

 

そんなこんなで始まった生徒会お手伝いウィークは特に問題が起きることも無く星南が仕事を見つけてくるまで平和な時間が過ぎ去った。

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