「えっ?泊まり込みなの?」
星南が仕事を見つけて来ると言ってから丁度1週間後、俺達は言っていた通り1日の遅れもなく仕事を見つけてきた星南に生徒会室に呼び出されていた。星南が探してくれたのと倉本自身が頼み込んでくれたみたいで条件に見合っている配信ができそうな番組プロデューサーを無事見つけてくれていたらしい…
らしいというのは話を聞く限り俺が頼んでいた物とかけ離れた企画が練られていたからだ。渡された企画書によると、倉本グループ運営するオープン予定のリゾート地を倉本家のご令嬢とその友人が紹介する旅番組。リゾート地のレジャー施設や観光スポットを巡り千奈お嬢様の魅力を日本中に知らしめる為の企画。
細かいところは一旦読み飛ばしたが大体こんな感じだ。企画したやつの自我が出過ぎているところは一旦置いておくとして…何でテレビ番組?しかも企画書を見る限り放送されるのはQUINTETが終わってからだし…いまいち星南の意図がわからない。
「そうなんですの!私からも倉本グループの皆さんにプロデューサーさんの誤解を解いて周ってお願い致しましたら、こんなに素敵な企画を考えて下さいましたわ!」
「おお〜千奈すごい。千奈とお泊まりするの初めて、だね。すごく楽しみ」
「私もですわ!たくさん思い出を作りましょう!」
「いえ〜い」
初めての友達とのお泊まりに2人はウキウキでハイタッチまでしている。微笑ましい光景だが、篠澤に関しては初めての仕事でしかもテレビなんだから少しは緊張しろよ…俺は楽しそうな2人を横目に星南に気になっていたこと聞く、
「すみません…お願いしてた話とだいぶ違いませんかね?」
「…貴方の頼まれていた事をやる条件としてこの仕事を頼まれたの。あなたも一緒に行く様に言われているからそのつもりでいてちょうだい」
「え?俺もいくの?行きたいのは山々なんだけど俺貧乏だから交通費とかその他諸々用意できないんですけど…」
「交通費や宿泊費は倉本グループが負担してくれるみたいよ」
「え?まじで?…有難いんだけどなんでそこまでしてくれるの?」
篠澤の分の交通費を負担するのは演者だから大企業の倉本グループが負担してくれるのはわかる、だが仕事に関係ないプロデューサーの分まで交通費を払うのは大企業とは言え聞いたことがないし何を考えてるのかよくわからない…そんな俺の疑問に星南は、
「多分…貴方を見極める事がこの仕事の1番の目的なんじゃないかしら。貴方倉本グループの当主と幹部達に目をつけられてるから…」
「は!?」
とんでもない事を言い放つ。俺は思わず声を上げて驚く。それに驚いた篠澤と倉本に謝ってから星南と部屋の端の方に行き小声で話し出す。
「いやいやいや…何でそんなことになってんの?確かに倉本炎上に巻き込みかけたけど…実際には被害出てなかったじゃん」
「ええ、炎上に関しては若さ故の過ちと認識してる人が多かったわ。逆に心配してる人すら居たくらいよ」
「じゃあ本当になんで…」
「これは私も誤算だったのだけど…千奈ったら貴方の作戦を本当に凄いものだと勘違いしてたの」
「…それまじ?」
「マジよ…千奈が当主や幹部の人たちに頼みに行った時に貴方の荒唐無稽な計画を自信満々に絶対成功すると語っていたの…」
「…なっ!?」
俺はあまりの誤算に頭を抱える。俺の作戦は文字通り一発逆転。一発を外せば俺と篠澤のアイドル奮闘記は終わってしまうようなとんでもない博打。ハイリスクハイリターンなんかでは言い表せない、(ハイ)×4リスクハイリターンくらいの作戦だ。言ってしまえば倉本や極月学園の2人も協力する必要がないと言うかしない方がいい作戦…
そんな俺と篠澤に以外にわざわざやる必要もない作戦をみんなに愛されている愛娘が自信満々に語ってきたら俺に騙されて利用されていると考えるだろう…やばい…俺の限りなく良いところだけを伝える交渉術がよく分からない方向に作用しやがった…
「…もしかして倉本グループの人達結構怒ってたりする?」
「まあ…中には怒ってる人もいるでしょうね…だからこそしっかりして頂戴。もし今回までやらかしたら配信どころじゃないわよ?」
なるほど…つまりこの仕事で行くリゾート地は俺が倉本千奈の友人として適切な人間かを倉本グループが判断する為の場所でもあるわけだ…何で問題を1つ解決する度に問題が更に湧いてくるんだよ…しかもどれも手に余るくらいにでかい問題ばっかり…そう考えて俺が最近の問題の大きさに頭を抱えて死にそうになっていると、
「不安なのはわかるけど考えても仕方ないわ…今できる事を精一杯頑張りましょう」
星南が慰めてくれる。星南とはここ1週間俺がやっていた営業と生徒会長業を交換していたようなものなのでお互いの苦労を知っている分1週間前より気さくな関係になっていた。苦楽を共にした戦友と言っても差し支えない、
「…それもそうだな。悪い、わざわざ頼み事聞いてくれたのに落ち込んだりして」
「気にしなくていいわ。気持ちは十分わかるもの…」
俺たちはお互いの苦労を感じ合った後、ほったらかしていた篠澤と倉本に向き直る。すると、
「うお!びっくりした…何でそんなに近いんだよ…」
篠澤が超至近距離で俺の事を睨んでいた?えっ…何で怒ってんの?
「…プロデューサー最近星南とすごく仲がいい、ね」
篠澤はすごく不機嫌そうに俺に詰め寄ってくる。
「いや別にそんな事な…お前〜もしかして最近あんまり構ってやれてないからいじけてんの?」
「わかってるならもっと構ってほしい」
俺のいじりに篠澤は恥ずかしげもなくそんな事を言い放つ…まあ篠澤も15歳で家から離れてるから寂しいんだろうな。こいつの雰囲気からして愛されて育ってるだろうし…それを俺で紛らわしてたのに俺があんまり構えなくなったから寂しくて怒っているんだろう…うん、きっとそう言う事だろう。
「まあ…安心してくれ。その仕事俺も着いていくみたいだから先週よりかは構ってやれるぞ」
俺は篠澤の機嫌を取るために企画書に載っていなかった俺の仕事への参戦を伝えておく。
「そうなの?」
「ええ、倉本グループの計らいで炎上に巻き込まれた千奈とその友人2人に2泊3日の休暇兼仕事をもらったの。まだグランドオープン前だから人も少ないし最終日の夕方の飛行機に乗るまでは自由時間になってるから3人で楽しんで来てちょうだい」
星南は倉本グループから話されたであろうそれっぽい理由を倉本と篠澤に伝えている。ちゃんと表向きの理由もあるんだ…倉本グループの本気度が伺えて余計に怖くなってきたんですけど…そんな俺とは対照的に倉本と篠澤は目を輝かせて喜び合っている。ほんと元気だなこいつら…そんな2人を放っておいて星南に今後の方針を聞いておく、
「…で、この仕事が始まるのって夏休みに入る3日後とかだろ?その間にやる事とかってあるか?」
「そうね…千奈はここ最近毎日のようにテレビに出てるから大丈夫だと思うけど…広はこれが初めてよね?」
「うん。アイドルの仕事自体初めて、だよ」
「なら、尚更練習しておいた方がいいわね」
「今回のお仕事はリゾート地の紹介なんですよね?こちらで練習できる事なんてあるんですの?」
「そうね。ほとんどは現地じゃないとできない事ばかりだけど…実は1つここでもできることがあるの。それは食レポよ!」
そう言って星南は自信満々に胸を張る。
「確かに…練習するだけなら別にご当地グルメじゃなくてもいいもんな」
「流石星南お姉様ですわ!」
「ふふ、そうなの。でも1つ問題があって…私そんなに料理が得意じゃないのよね…」
星南の発言と共に3人の期待の眼差しが俺に向けられていることに気づく…
「いや…俺も貧乏飯以外作れないよ」
料理はこだわり出すと器具から食料までかかる金が跳ね上がる。貧乏学生が手を出せる趣味ではない…そんな俺の回答に星南はニヤリと笑った後、
「仕方ないわね!私に当てがあるの!今から頼んでくるから待ってなさい!」
「え?」
怒涛の勢いで生徒会室を走って出ていく。なんかあいつ…急にテンション上がりすぎじゃない?俺は明らかに様子のおかしい星南を1人にするのが不安で生徒会室を2人に任せて追いかける。
生徒会室から出て少しだけ走った後、何とか星南に追いついた…星南余程すごい人物に当てがあるのか早足気味に女子寮へと歩いていく。女子寮って事はアイドル科の生徒に頼むのか?俺は最近のアイドル科の生徒達からの冷たい視線を思い出して星南に
「ねぇ…それって俺も知ってる人?俺の最近の噂酷すぎて初対面だと受けてくれる気しないんだけど…」
「安心してちょうだい。貴方の友人がプロデュースしてるアイドルだから」
俺が友人って呼べるやつは一条くらいだな…ならRe;IRISの誰かって事か?3人の中で料理できる奴といえば毎朝ご飯を作っている咲季だろうか。あいつの飯…マシになったとはいえ食レポの練習になるとは思えないんだけど…そんな俺の予想は、
「あ!いた!」
外れていたようで。星南が向かって行った先には藤田がベンチに座っていた。へぇ〜あいつも料理できるんだ。
「ご機嫌様ことね!今日も可愛いわね!」
「せ、星南先輩…お疲れ様で〜す…」
…何でこいつ星南にビビってんだ?俺は少し様子の変な藤田に、星南に続いて挨拶をしておく。
「お疲れ」
「…どう言う組み合わせです?」
藤田は見慣れないメンツが訪ねてきた事に動揺しているのか青い顔をしながら関係性を聞いてくる。
「彼とは千奈がNIAで勝ち抜く為の協力関係よ。最近は生徒会にも協力してもらってるの」
「へぇ〜…」
「そんな事よりことねにお願いがあって来たの」
「ええ…でも私も最近HIFに向けて忙しいしナ〜…」
藤田は星南のお願いの内容を聞く前に断ろうとしている。珍しいな…俺の話ですら基本的に最後まで聞いてくれるのに。あれか?俺がいるから星南ですら解決できない問題を押し付けられると勘違いしているんだろうか…星南はそんな藤田に臆することなく話し始める。
「ええ、わかってるわ。見返りがないと受けてくれないわよね」
「いや…別にそう言うわけじゃ…」
「私に協力してくれるなら日給10万その日のうちに直接渡すわ!」
「え!?」
「は?」
星南が提示した余りにも常軌を逸した報酬額に俺と藤田は驚きの声をあげる。
「いや〜…流石にそんな金額は…」
藤田は星南の高額な報酬をちらつかせる交渉術にドン引きしている。いやまあそうなるよな…こんな提案超怖いもん。しかし本当に何なんだこの交渉術…十王家秘伝の技だったりするんだろうか。星南は何でもできるからもしかしてこの反応も計算してたりするのか?俺は星南を信じてもう少し様子をみようと任せていると、
「もしかしてこれじゃ足りないかしら?くっ…仕方ない…足りない分はお爺様に借りて来るわ!欲しい金額を教えてちょうだい!」
「ちょっと待てお前」
星南がすごい事を言い出したので流石に止めに入る。うんわかった。十王家秘伝の交渉術でも何でもないわ。星南が死ぬほど交渉下手なだけだわ…良く仕事とって来れたなマジで…そんな様子のおかしい星南に、
「か、勘弁してくださーい!!」
恐怖したのか藤田は大声を上げながら逃げてしまった。
「あ…行っちゃった。いつもこうなるのよね…どうしてかしら…」
「当たり前だろ…お前交渉下手すぎない?」
俺は何故か客観性を失っている星南にツッコミを入れておく。
「へえ…じゃあどこがおかしいのか教えてもらえるかしら」
星南はムカついたのか初めて会った時のような冷徹な態度で改善点を求めてくる。初めて会った時に比べて全然怖くね〜
「まず…と言うか藤田が逃げた1番の理由だけど金額釣り上げ過ぎ。高額の報酬を見せびらかして人を雇うって手口が闇バイトなんだよ…まともな奴は怖くて受けてくれないって」
「くっ…!で、でも推してるアイドルの手料理にはそれくらいの価値があるじゃない!」
「いやまあ分からんでもないけど…」
俺の言い分に言い返せないのか星南は感情論で反論して来る。まあ俺もアイドルの飯に3万の価値とか言ってたから共感できるけど…てか星南って藤田のこと推してたんだ…ん?ちょっと待てこいつもしかして…
「…お前もしかして藤田の手料理が食べたくて練習とか言い始めたんじゃないよな?」
「ええ、そうよ!私はことねの手料理を食べれて千奈と広も食レポの練習ができる完璧なプロデュースでしょう!」
星南は自信満々に欲望に塗れたプロデュースを語っている…この自分の要望をある程度押し通す感じ本当に学園長にそっくりだな。こんな感じで十王の血を感じる事になるとは…色々と呆れそうになるが星南にはいつも助けられてばかりだからこれくらいの些細な願いは叶えてやりたい、
「まあ…いつも世話になってるし俺が交渉するよ。いつも朝飯一緒に食ってるから藤田のことは大体わかるし」
「…へえ詳しく聞かせてもらえる?」
そんな思いもあって交渉を代わりにする事を提案すると藤田と一緒に朝ごはんの部分が引っかかったのか星南は俺に詰め寄って来る。こいつ…藤田が絡むと面倒くさい!
「篠澤と藤田が一緒に飯食ってんの!」
「何それずるい…私も寮で暮らそうかしら…」
何この人…自分が好きな物に対して手段選ばなすぎて怖いんですけど…もうさっさと願いを叶えてやろう…
「はあ…とりあえず交渉するときに必要だから報酬の限度額おしえてくれ」
「10万円よ」
「お前…本気で学園長に借りて来るつもりだったの…?」
プリマステラの執念怖…俺は星南の狂気じみた執念といきなり限度額まで報酬を釣り上げる異常行動にビビりながら藤田が逃げた方向に歩いていく。その後俺が普通に説明したら藤田は時給2500円でこの話を受けてくれた。そして次の日特に問題が起きることもなく食レポ練習会は開催された。篠澤と倉本は食レポはそんなに上手くなかったが表情豊かで顔を見れば食べているものの美味しさが伝わって来るので多分何とかなるだろう…まあ誰よりも美味しそうに食べてたのは星南だったんだが…