「で、飯は何を食ってんだ?」
騒動が鎮まった後、俺たちは女子寮にある食堂の端の方席であまり目立たないように本題について話す。
「今作ってもらってる。プロデューサーの分もある、よ」
「えっいいの?」
「おじいちゃんが大量に食材を送ってくるからいいんだって」
朝飯代が浮くだけではなく現役アイドルの手料理が食えるらしい。マジか!アイドルの手料理なんて金持ってようがそうそう食べれるもんじゃない。まさに初星学園に通っている者の特権だろう、
「プロデューサー嬉しそう」
そんな考えが表情に出ていたのか篠澤に心中を見抜かれる。
「だって現役アイドルの手料理だろ?そうそうありつけないだろ。早起きは3文超えて3万円の得だな」
「ふふ、じゃあ私も今度作ってあげる、ね」
「まじで!料理できたんだ」
「うんん、できない」
…期待した時間を返して欲しい。
「…なんで期待だけさせたんだよ」
「余りにも嬉しそうだったから。また練習する、ね」
いじけた俺に篠澤は微笑む。天才のこいつのことだ案外早く習得してきてびっくりさせられるかもしれない。今後の楽しみが一つ増えた時1人の女の子が歩いてくる。
「貴方が広のプロデューサーね、私は花海咲季よろしくね!」
花海咲季、あさり先生からの課題で真っ先に調べた女の子。今年の高等部入学生の首席、総合的な能力値は学園内でも上位には入るほど実力者。
それを示すのが彼女の所作、動き1つ1つから自信が溢れ出ている。今の篠澤がこの子と試験で勝負をしても勝てる確率は天文学的に低いだろう、そんな彼女が俺に挨拶をしてくる。
「俺はプロデューサー科2年の斉藤だ。好きな様に呼んでくれよろしくな」
俺は噂を知られているのかわからないので最低限の自己紹介で様子を見ておく。咲季は噂を知らないのか特に動揺することもなく普通にしている。
そんな咲季の後ろにはさっきのトゲトゲした雰囲気の女の子と明らかに俺を見て動揺している黄色い髪の女の子がいた。えっ?この人数の朝飯作ってんの?すげえなこいつ…
「貴方も食べるんだ」
トゲトゲした雰囲気の子は俺に嫌悪感を感じているのか少し圧のある表情で話しかけてくる。
「まあ…アイドルの手料理食べる機会なんてそうそうないからな」
「ふ、じゃあ出てきたらガッカリするね」
「なに?その言い方。」
その言葉を皮切りにトゲトゲした雰囲気の子と咲季は睨み合って威嚇しあっている。知り合って間もないのに険悪な雰囲気になるのやめてくれ…気まずい…
「まあいいわ。盛り付けてくるから大人しく待ってなさい」
そう言って咲季はキッチンに向かっていく。会話を回していた人がいなくなり少しだけ気まずい時間が流れそうだったので、
「挨拶はまだだったよな。プロデューサー科2年の斉藤だ、そっちの子もよろしく」
俺は2人に自己紹介をした。2人は少し驚いたかの様な顔をした後、
「私は月村手毬」
「藤田ことねで〜す」
2人は緊張が解けたのか少し明るく挨拶を返してくれた。気まずい朝ごはんにならなそうで助かる…
「それにしても斉藤先輩って噂と全然違いますね。噂だととんでもない人になってますけど〜」
「ちなみにどんな噂?」
ほとんどは事実無根だがたまに事実も混ざっているので俺は一応藤田に聞いておく。
「最近聞いたのは心配してくれた人に殴りかかったって奴ですね。話してみれば普通に会話もできるしやっぱり噂って信じない方がいいですね!」
「ああ〜それは……事実」
「ええ…」
顔を逸らしながら答える俺に藤田は思いっきり引いていた。なんでこういう時に限ってほんとのやつ出てくんだよ…
「ふん、あなた問題児だね」
「お前が言うなっての」
勝ち誇っている月村に藤田がツッコミを入れるそんなやり取りをしていると、
「さあ、これがお姉ちゃん特製朝ごはんよ!」
咲季が人数分の朝ごはんをテーブルに置いていく。
「えっ…?」
俺は思わず目の前に置かれた朝ごはんを凝視する。
持ってこられた皿には錠剤と色が違うペースト状の何かが仕切りで分けられた皿にこれでもかというほどに満ち満ちに詰められていた…まるで生物実験施設の非検体出される飯。
毎朝食っていればその内人間として大切な何かを失いそうな朝ごはんに思わず絶句する。えっ?何これ?これがアイドルの手料理?というかそもそも料理なのかこれ…
「言ったでしょガッカリするって」
困惑している俺を見て月村は勝ち誇った顔で言う、それを聞いた咲季が不機嫌そうな顔で月村を睨み2人はまた睨み合いを始める。俺を喧嘩の火種にしないで…
「ガッカリしてねえよ。びっくりしただけだ」
俺は場を納めるために言葉を選んで発言する。ガッカリしてないと言えばそんなことはないが…それよりも驚きが勝っていたのも事実。その言葉に今度は月村が不機嫌そうになり咲季が嬉しそうになっていた。
「流石広のプロデューサーね、味の感想も聞かせてちょうだい!」
「いただきます」
今まで静かだった篠澤は喋ったかと思うとプレートに入っているペースト状のものを目を輝かせながら次々と口に運んでいく。いや…これ口に入れるの結構覚悟がいるんだが…いまいち覚悟が決まらなかった俺は篠澤に耳打ちして味を聞き出す。
「なあこれどんな味すんの?」
「不思議な味。食べてると身体がゾクゾクする」
「…違法な物とか入ってないよな?」
「失っ礼ね!これがレシピよ!」
机に叩きつけられたレシピを確認する所々知らないものが入っているが必要な栄養素が入っておりその吸収を助ける栄養素すら満遍なく入っている。まさに考え抜かれた完全栄養食だ。
「……すげえなこれ。これ食ってれば他に何もいらねえじゃん」
「何年も私を支えてきた食事よ。さあ早く食べて感想を聞かせなさい!」
中身はわかったのであとは勇気を出して口に運ぶだけなんだが、なぜか月村と咲季が俺に注目している。製作者はわかるけどなんでお前まで見てくんだよ…すごく食べずらい…
しかしそう思ってても仕方ないのでなんとか気持ちを整えてスプーンを持ちペースト状の何かをすくい、
「…えっ美味しいじゃん」
そのまま口に入れて思わず声が漏れる。
少し…いやだいぶケミカルな味はするが全然食べれる。カロリーメイトやベースブレットのクセをもっと強くした触感最悪食い物って感じだ……
うん、まずくはないけど食いたくはならねえわこれ、これを喜んで食べてる篠澤に少し引きつつ黙々と食べていく。そんな俺を見て、
「なっ!?」
「ほら見なさい手毬!私の料理は美味しいのよ!」
「そんなのポンコツとポンコツのプロデューサーがおかしいだけでしょ!大体まずいなんて言ってない耐えられないって言ってるの!」
2人は今にもつかみかかりそうな勢いで口喧嘩を始める。
まあ月村の言うこともわからなくはないこれは毎日食べるのはきついだろう。美味しいんだが…一口で飽きる…俺は貧乏学生やってるので毎日同じ物を食べることに慣れているが、そうじゃない奴にとって一口で味に飽きるこれを毎日食わされるのは拷問と言っても差し支えない所業だろう…
けんかに巻き込まれたくないので言わないが。そんな周りの視線を集めている2人を横目に篠澤に伝えなきゃいけないことを伝えておく、
「そうだ、篠澤今日から午前の授業免除だから。午前中は回復に努めてくれ」
「レッスンは増やさなくていいの?」
「今のレッスンすら最後までできてないのに増やすわけないだろ。まずは体力をつけろ」
「そっか…」
篠澤はガッカリした様に呟く、苦しいレッスンがしたいって言っていたこいつのことだレッスンが増えると思って期待したんだろう。やる気を出してもらうためにも、
「まあ心配しなくても朝から晩まで限界まで動いてもらうから楽しみにしててくれ」
昨日のように笑いながらきつい未来を約束しておく、
「プロデューサーは出会って数日なのに私の扱いが上手い」
篠澤は目を輝かせながら称賛と受け取っていいのか困ることを言ってくる。こいつの趣味に合わせていたら良くない噂が増えそうなんだが…
その後は今日のレッスンでやることや雑談をしながら朝食を終えた。月村と咲季は言い合いは食べ終わっても続いていた…