諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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氷渡香名江の脅迫

 

「篠澤広のプロデューサーを務めさせていただいてる斉藤と申します!至らぬ点も多いとは思いますが本日から3日間よろしくお願いします!」

 

俺は倉本グループから受けた仕事の初日。東京から飛行機で1時間半のフライトの後、現地で合流した番組スタッフ達に頭を下げて挨拶をする。

 

星南の想定が正しいならこの中に倉本グループの当主から俺が倉本の近くに置いておいて大丈夫な人間かを判断する命を受けている奴がいるはずだ。ここからは誰に対しても気は抜けない…できる限り猫を被って好印象を持ってもらおう。そんな嫌な想定に頭を悩ませ緊張していた俺は、

 

「ああ、君が噂のプロデューサー君か!星南ちゃんから話は聞いてるよ、千奈ちゃんの代わりに怒ってくれたんだって?生活に問題が出たりしてないかな?」

 

番組スタッフのフレンドリーさに呆気に取られた。

 

「えっ?…あ、はい!全然問題は起きてません」

 

「そっか〜ならよかったよ。僕は番組プロデューサーの遠野って言います。短い間だけどよろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします!若いので体力だけは有り余ってますから荷物持ちでもなんでもやるので気軽に声をかけてください!」

 

「はは、気負ってるのはわかるけど君は自分の担当アイドル見てないと駄目でしょ。広ちゃんとついでに千奈ちゃんの面倒しっかり見ててね。頼んだよ」

 

そう言って遠野さんは機材の確認に戻って行った。あれ…聞いていた話と違うな…想定よりだいぶ受け入れられてるぞ?もしかして杞憂だったのか?もしかして本当に炎上に気を遣ってくれただけなのか?俺がリゾート地を憂いなく満喫できる可能性見出してた時、

 

「プロデューサー遅かった、ね。何してたの?」

 

先に合流していた篠澤が時間がかかっていた理由を聞いてくる。

 

「…空港自体初めてだったから迷ったんだよ。篠澤は海外行ってただけあって慣れてるな」

 

「ふふん、空港では頼ってくれてもいい、よ」

 

「じゃあ帰りにおすすめのお土産教えてくれ」

 

「空港に売ってるお土産はネットで買えたりする物も多い。だからお土産は空港以外で買った方がいい、よ」

 

「お〜流石。留学してた奴は違うわ」

 

俺は普通に為になる事を言っている篠澤を誉めておく。篠澤は誉められて嬉しいのか胸を張って誇らしそうにしている。そんな篠澤の後ろから倉本と何度か見た事のあるメイド服を来た女の子が歩いてきた。

 

「お久しぶりです」

 

「いや…2時間くらい前に会ったばっかりだろ」

 

「2時間もです!ですよね篠澤さん!」

 

「うん千奈の言う通り、高校生とって2時間はとっても長い時間。プロデューサーは歳を重ねて体感時間が変化してる」

 

「俺君たちと4歳しか変わらないんですけど…」

 

俺たちがいつも通りの雑談を終えた後倉本が、

 

「そうでした、プロデューサーさんに紹介したい方がいるんですの。いつも私の身の回りのお世話をしてくれているメイドさんの香名江ですわ!ほら香名江も自己紹介してちょうだい」

 

横に連れていたメイドさんを紹介してくれる。

 

「千奈お嬢様の身の回りのお世話をさせていただいております氷渡香名江と申します。以後お見知りおきを」

 

氷渡は倉本に雰囲気が似ており優しいメイドさんであることは容易に想像できる。倉本メイドさんにお世話されてるんだ…普通に羨ましい…恵まれている倉本に嫉妬を覚えつつも俺は、

 

「俺は篠澤のプロデューサーをしてる斉藤です。これからよろしくお願いします」

 

氷渡の自己紹介に負けない様に俺の中で出来る限り礼儀正しい挨拶をした。それでも氷渡と比べると相当お粗末な挨拶だ…いい加減礼儀作法勉強しないとな…

 

そうしてひと通り俺たちのやりとりが終わった後、

 

「広ちゃんと千奈ちゃんちょっといい?」

 

仕事で聞きたいことでもあるのか遠野さんが2人を呼んでいる。2人は呼ぶ声に向かって行き俺も篠澤のプロデューサーとして2人に着いていこうとした時、

 

「…少しよろしいでしょうか」

 

氷渡が俺を俺を止めてくる。

 

「別にいいけど…どうしたんだ?」

 

「仕事に入る前に伝えておこうと思いまして」

 

その一言と共に氷渡の雰囲気がガラッと変わり、千奈のメイドさんに相応しい優しさ溢れる雰囲気から一転まるでここだけ冬になったかの様な冷たい空気を纏い始めている。その余りの変わり様に俺は少しだけ氷渡の事が怖くなった…そんなビビっている俺を氷渡は、

 

「予想していたかは知りませんが、私は当主様から貴方が千奈お嬢様の近くにいる者として相応しいのか見極めるように言われています。当主様に悪印象を持たれたくないのであれば行動に気をつけてください…斉藤騎士様」

 

遠慮なく脅してくる…なるほど…当主の命を受けてる人は番組スタッフじゃ無かったのね…なんか滅茶苦茶俺のこと警戒してるみたいだしこの仕事の間に出来る限り誤解を解かない…ん?ちょっと待て、

 

「…なんで俺の名前知ってんの?」

 

俺は今年に入ってから誰にも教えた事のない自分の恥ずかしい下の名前を口にする氷渡に怯える。

 

初星学園では学園長と教師陣の配慮で基本的に苗字呼びなんだぞ…?重要書類以外名前を出す事がない様に徹底してくれてるから仲がいい一条くらいしか知らないのに…なんで…

 

氷渡は困惑を隠しきれていない俺に遠慮する事なく続ける。

 

「初星学園プロデューサー科2年斉藤騎士(さいとう ないと)。幼い頃に両親を亡くし高校卒業までは養護施設で育つ。現在は奨学金を借りつつ市営住宅にて一人暮らし…倉本グループが本気を出せばこれくらい簡単に調べられます。

 

今回は当主様の命令ですので千奈お嬢様の頼みであっても起きた事と私の所感はそのまま伝えさせていただきます。…その結果当主様が貴方を千奈お嬢様の友人として相応しくないと判断した場合…どうなるかは言わなくてもわかりますよね」

 

ああ…なるほど俺の事を倉本グループが尋常じゃないくらいに警戒してる理由がわかった…

 

その過去知られてたら玉の輿狙ってると思われますよね…俺は倉本グループの俺に対する警戒度の高さとこの仕事中に警戒心MAXの氷渡の誤解を解かないといけないと言う大きすぎる課題が現れた状況に心が折れそうになりつつも、

 

「はい…信頼していただけるように努めます…」

 

できるだけ好印象に映る様になんとか笑顔を取り繕った。本当になんで俺だけこんな気持ちでリゾート地に…

 

____________________________________

 

 

「もう…帰りたい…」

 

俺は初日の撮影が終わった後ホテルの部屋で嘆いていた。嘆いている理由は単純、脳疲労がえぐい…

 

この仕事中俺がやるべき事は篠澤の体調管理とと番組スタッフに気に入られること。

 

篠澤の体調管理は言わずもがな、ただでさえ体力のない篠澤が初めての仕事で張り切って倒れる事がない様に俺が判断して水分補給なり休憩の提案だったりをしないといけない。篠澤は放っておいたら無理しまくる奴だから全然気が抜けない…

 

番組スタッフ気に入られるのは配信の企画を考える時円滑に話が進む様にするため、ある程度の信頼関係がないとこちらの要望が通りにくい状況になる恐れがあるのでそれを防ぐためにできる限り仲を深めておきたい。

 

なのに…誰も教えてくれないから配信をしてくれる人が誰なのかそもそも配信をやってくれる人この仕事に来ているのかすらわからない…

 

だから誰が配信をしてくれる人でもいい様に、「間違いを犯したがしっかりと反省してやる気の溢れる好青年」を常に演じているんだが…

 

これが普段の俺とかけ離れすぎててマジで精神が削られる。その上行動一つ一つ氷渡にどう思われるかを考えながら動いているせいで滅茶苦茶しんどい…受験の時ですらこんなに頭使ってねえよ…

 

だけどやっと気を抜ける…この仕事の男性陣のメンバーが奇数になると言う事で仕事が終わった後に気を使いたくなかったのか俺に気を遣ってくれたのか1人部屋に通して貰えた。

 

ベットが1つにテレビに机と椅子があるだけの雰囲気だけ高級なビジネスホテルみたいな部屋で本当にリゾート地に来てるのかよくわからなくなってくるがもう正直そんな事どうでもいい…

 

風呂も入ったしもう俺を邪魔するものは何もない…このまま眠気に身を委ねて脳みそを出来る限り休めよう…そう思って意識を落とそうとした時、

 

「プロデューサーいる?」

 

部屋の扉からノックと共に篠澤の声が聞こえる…もう眠すぎるから無視して寝ていた事にしよう…そう思い狸寝入りを決めていると、

 

「プロデューサー…困った事になった助けてほしい」

 

篠澤は俺に助けを求めてくる。こんな夜更けに問題を起こすんじゃねえよ…そんな事を思いながらも目覚めを悪くしたくなかった俺は起き上がり扉を開ける。

 

扉の前にいた篠澤はお風呂上がりなのか前髪を下ろしており雰囲気がいつもと違う。元気な時なら少しくらいドキッとしたんだろうが…今は眠くてそれどころじゃない…

 

「はあ…どうしたんだ?明日も早いんだから早く寝ろよ」

 

「プロデューサー…千奈が寝ちゃったから部屋に入れなくなった。今日はプロデューサーの部屋に泊めてほしい」

 

「…はい?」

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