「いや電話して起こせよ…」
俺はわざわざ俺の部屋まで来ている篠澤にぱっと思いついた解決法を伝える。
「大浴場に行ってたからスマホ部屋に置いてきてる」
「1人で行ってたのか?」
「ううん。千奈がのぼせちゃって先に帰っちゃった」
「…なるほどね。じゃあ俺が代わりに電話してやるよ」
「多分起きないと思う。私しばらくドアの前で助けを求めてたのに反応がなかったから」
「何その悲しい状況…」
珍しく苦しい状況に興奮していない篠澤を横目に俺は倉本に電話をかける。だが篠澤言う通り俺の電話に千奈が出る事はなかった…まあ今日はぶっ通しでレジャー施設の撮影だったから疲れが出たんだろうな、2人してバナナボートに乗って吹き飛ばされてたりしたし…
しかし本当に篠澤の事どうしよう…解決方法はありそうなんだが…今日はもう頭使い過ぎて何も思いつかない…そしてそんな疲れた俺の頭でもわかる。仕事で来ているホテルに女の子を連れ込んでいる事が氷渡にバレたら俺の評価が更にとんでもない事になる…氷渡…そういや氷渡もこのホテルに泊まってるんだっけ?
「あ!そうじゃんお前氷渡の部屋に泊めてもらえよ」
「私香名江の部屋知らない」
「ええ…」
疲れた頭で思いついた起死回生の一手も通じなかった俺は頭を抱える。マジでどうしよう…明日も撮影あるから2人でロビーで時間潰すわけにもいかねえし…そこまで考えた時いい加減脳みそが限界だったのか急にめんどくさくなり、
「まあ…折り返しで電話くるかもしれないし、とりあえず部屋で待ってろよ」
とりあえず倉本が起きるのを待つ事にした。
「そうしよう。ふふ、プロデューサーの部屋楽しみ」
「いや…1人部屋だからお前らの部屋の方がでかいぞ」
なぜか嬉しそうにしてる篠澤にツッコミながら俺たちは部屋に入る…頼むから出来るだけ早く起きてくれよ…それから2時間後、
「…いよいよここに泊まらせるしか無くなってきたな」
千奈から折り返しの電話がかかってくる事はなかった。時間はもう23時、正直眠気が限界だ…今ならどこでも寝れるそう確信できるくらいの眠気が俺を襲っている。この2時間で色々と覚悟を決めた俺は、
「はあ…しょうがねえな。ベット使っていいからちゃんと寝ろよ」
篠澤にベットを譲って眠るための準備に入る。この部屋にはベットが1つしかなく必然的にどちらかが床で寝る事になるのだが…流石に篠澤を床で眠らせるわけにもいかないからな、
「…プロデューサーはどこで寝るの?」
「そりゃ床だろ。椅子で寝ても疲れ取れねえし」
「私プロデューサーに頼みに来てるのにプロデューサーよりいい環境で寝るのはすごく落ち着かない。プロデューサーがベットを使ってほしい」
「いいって気にすんなよただの合理的な判断だから。お前はただでさえ体力少ないんだから出来るだけいい環境で回復しろ。明日も撮影あるんだぞ」
「駄目。プロデューサー今日すごくしんどそうにしてる、よ。プロデューサーがベットを使うべき」
「…いいから使えって」
「嫌」
篠澤も譲れない部分があるのか会話が平行線に入って終わる気配がない。めんどくさい…今なら全然床で爆睡できるから寝させてください…そんな会話に終止符を打とうと思ったのか、
「私にいい案がある」
篠澤が自信満々に胸を張って主張してくる。正直嫌な予感しかしないが…他に案もないので一応聞いてみる。
「…どんな案?」
「私達がベットで並んで寝ればこの問題は解決」
「馬鹿かお前!別の問題出来てんだろうが!未成年ホテルの部屋に連れ込んでる今の状況ですら犯罪ギリギリなのに…ベットで並んで寝たら犯罪じゃん!」
「大丈夫。この事は誰にも言わない」
「そういう問題じゃねえって…絶対駄目だからな。リゾート地で逮捕とかマジで笑えないんだよ…」
俺は篠澤のやばすぎる案に駄々を捏ねまくって別の案を捻り出そうと疲れた頭に鞭を打つ。こいつは本当に何考えてんの?やばい…急いで別の案を考えないとこの案を通される…何とか別の案を捻り出せ…そんな頭を抱えている俺に篠澤は、
「…プロデューサーまだなんでも言う事聞く期間な事忘れてるの?」
自分の案を拒否する事ができない理由を告げる。そういえばそうだった…最近言ってこねえから完全に忘れてた…クソ…思い出せ何回かこのお願いを退けているんだ…その時どうしてたっけ…
「えっと…ほ、ほら!アイドル活動に支障が出るから…」
「大丈夫。ここは人目につかない」
「いやでも…」
ああ…もうどうしよう。今の疲れてる脳みそじゃ大卒JKのはちゃめちゃ理論を論破できる気がしない…多分俺が嫌だと駄々こねても篠澤が満足出来そうな他の案を提示できない今無駄に時間を掛けるだけで最終的に今ある案の中から選ぶ事になるだろう…篠澤の案なら犯罪を犯す事になるがこいつも満足するからすぐ寝れて明日に備えられる、俺の案は絶対篠澤が駄々を捏ねてめんどくさい事になるからすぐには眠れないだろう…俺は仕事か法律どちらを優先するか回らない頭で必死に考えた後、
「もうそれでいいから早く寝よう…」
仕事を優先する事にした。篠澤が何を企んでいるのかわからないけど爆速で寝てやれば関係ない。俺は部屋の電気を消して楽しそうにベットに寝転び掛け布団に包まっている篠澤から出来るだけ距離を置いてベット端の方にに寝転ぶ。
「プロデューサー、掛け布団に入らないの?」
「お前が入ってるなら入らない」
「そうなんだ。じゃあ近くで眠る、ね」
篠澤はそう言って掛け布団包まったまま俺の逃げ場が無くなるほどに距離を詰めてくる。
「ちょ!来んなよ!わかった入る!入るから距離感保ってくれ!」
俺はお泊まりでテンションが上がっているのか距離感がおかしい篠澤を抑えながら急いで掛け布団に入る。あ〜もうほんとに疲れる…もうお願いは叶えてやったんだこれ以上めんどくさい事になる前にさっさと寝てこの煩わしい状況を無くしてやろう。
そう思った俺は意識を落とそうと目を瞑る。昔から眠る時はいつも自分の感覚に集中する事で自分の体調を確認しながら明日に備えている。いわゆるナイトルーティンって奴だ、
今日の調子は…疲れもあってかなんか変だな…視覚の情報が入ってこなくなったせいか他の感覚を強く感じる。
触覚は掛け布団を共有していることで伝わってくる篠澤の体温を、
嗅覚はお風呂上がりのせいでまだ体に馴染みきっていない石鹸の匂いを、
そして聴覚は鼓膜が震えるほどに高鳴っている俺の鼓動を……うん。
眠れるわけねえだろ!この状況で誰が眠れるんだよ!心拍数上がって超目が覚めてるよ!明日も早いんだからマジで寝かせてくれよ…何もできないのにドキドキだけするのクソ虚しいって…現状に不満がで始めた俺に、
「プロデューサー」
「…なんだよ」
「私の水着姿どうだった?」
篠澤は昼の撮影で着ていた水着の感想を聞いてくる。めんどくさい…褒めたら絶対喜んで距離詰めてくるじゃん…だから俺は、
「ガリガリ過ぎてもっと飯食ってほしいと思った」
デリカシーを捨てて好感度調整を行うことにした。
「むう…プロデューサーのいじわる。そんな事言うなら私にも考えがある」
そんな俺の対応に腹を立てた篠澤は俺の腕に腕を絡めて俺たちの間の距離をほとんど0にしてきた。
「ちょ!?お前何してんの!?」
「嫌なこと言ったお返し」
「言葉で返せよ!マジで離れろお前…興奮して眠気吹っ飛ぶから!」
「ふふ、プロデューサー私で興奮してるんだ」
俺の言葉に篠澤は嬉しそうに笑っている。
「こんな状況で女の子に抱きつかれたら誰だって興奮するわ!マジで寝れなくなるからやめろ…」
「わかった。じゃあ代わりに腕枕してほしい」
こいつ…マジでやりたい放題だな…拒否してやりたいがこれ以上眠気を失いたくないので素直に従っておく。
「はあ…ほらこれでいいだろ?もう早く寝てくれ…」
「ありがとう。プロデューサーの腕すごく落ち着く…」
「…そうですか」
やっと眠気が出てきたのか篠澤は眠そうに呟く。もうさっさと寝てくれ…そんな俺の思いは叶う事なく篠澤は眠気に抗って話しかけてくる。
「プロデューサー…」
「何だよ…」
「こんな時間に2人っきりは初めてだから」
篠澤はそう言うと息がかかるくらいに距離を詰めて、
「…ドキドキする、ね」
耳元で囁いてきた。
こいつ…!マジでふざけんなよ!普段から距離感のおかしいお前に勘違いしない様に俺がどれだけ自分のこと律してると思ってるんだ!それなのに…こんな状況で耳元で囁いてくるとか…もうこれキスしても許されるだろ!というかキスさせろ!もう法律とかどうでもいい…こんな状況で何もしないのは篠澤に負けた気がして嫌だ!次いらん事しやがったら問答無用でキスしてやる…明日から気まずくてしばらく目も合わせられなくなっちまう様な濃厚なキスをな!さあ!好きにからかって来いよ!
そう意気込んでから数分後…
「……すぅ」
「………」
眠気が限界だったのか篠澤は寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。…え?こいつマジで?こんなに俺のことドキドキさせといて寝たの?………まあ初めての仕事で疲れてただろうししょうがないな…うん…でもまあ…勝手に盛り上がってた俺すごい馬鹿みたいじゃないですか…
その夜俺は興奮が冷めるまで1人で天井を見つめて過ごした。横に興奮した原因がいるせいで全然冷めなかったが…