諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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最終日

 

「このリゾート地に居るのも今日で最後か…」

 

俺はビーチではしゃぐ篠澤と倉本を眺めがら呟く。篠澤が持ち込んだ面倒くさい状況はあったものの撮影は滞りなく進んで夕方には飛行機で東京へ帰る最終日、俺のやるべきだった番組スタッフと仲良くなるのもそれなりには上手くいった。大浴場があるから話の流れで裸の付き合いができたのが大きかっただろう。篠澤と倉本も特に怪我する事なく最後の撮影を楽しそうに取り組んでいる。

 

今撮っている番組のエンディング流すらしい2人がビーチではしゃいでいる画が取れたら飛行機に乗るまで自由時間だ。この仕事を完璧に終わらせる為にも、

 

「氷渡さん…もうそろそろ仲良くしませんか?」

 

「結構です。仲良くして部屋に連れ込まれたくないので」

 

俺の隣に座っている氷渡に話しかける。俺への警戒心がMAXになっている氷渡の誤解を解いておかないと…帰った時に倉本グループに殺される…

 

「いや…それ倉本さんが寝落ちしちゃったから仕方なく部屋に泊めただけなんですよ」

 

「…エントランスにお願いをしに行けばいい話ですよね?簡単な解決法があったのに担当アイドルに劣情を抱いて部屋に招いた事を千奈お嬢様のせいにするのはやめていただけますか?」

 

俺の言い訳に氷渡は少し怒りながら反論してくる。いやそうなんだけど…そんな事すら思いつかなかったのお前に脅されて疲れ果ててたからなんですけど…そんな事を思ったがこれ以上この話題を続けても藪蛇でしかないので俺は一旦話題を変える。

 

「…氷渡は自由時間何する気なんだ?やっぱり倉本と遊ぶの?」

 

「貴方を見張ります。放っておいたら何するかわからないので」

 

「いや!俺そこまでの問題児じゃないんですけど!」

 

「この仕事が始まる前に貴方の経歴は把握していると伝えましたよね。…家庭環境も悪く素行も悪く、実際に初星学園で問題を起こして担当アイドルから見限られている方が何を言ってるんですか?」

 

氷渡は聞く耳持たずと言った態度で俺への警戒心は強まる一方だった。

 

…ここまで嫌われてると普通に喋ってるだけだと誤解を解くなんて一生かかっても無理だな…本当にどうしたもんかな…俺はしばらく考えた後、ダメ元で氷渡に話しかける。

 

「なあ…そこまで調べてるなら俺が初星学園を辞めなかった理由気になってんじゃねえの?」

 

「…そうですね。話を聞くところによると今担当アイドル、篠澤様との出会いも全くの偶然だとか。何の勝算があって残ったのか少しだけ興味があります」

 

「まあ端的に言うなら夢だからって話なんだけど…俺が過ごしてた環境はお前達とは悪い意味で違いすぎるから本当に理解したいなら少しだけ身の上話を聞いてくれ」

 

「はあ…特にやる事もないですし。どうぞ」

 

氷渡は少しは気になってくれているのか素直に俺の話を聞いてくれる。これが効果的かはわかんねえけど…とりあえず本音で喋るか。俺は幸せだった頃に思いを馳せて語りだす。

 

「俺が覚えてるのは物心ついてからだ、貧乏だったけど愛されて育ったから毎日楽しく笑って過ごしてた。でも小学3年の時に親が死んでからは絶望だらけだった…親が死んだ時、親が貧乏だったから残ってるものなんて何もなくて、親戚連中は俺の事を厄介物として扱ってしばらくしたら養護施設に叩き込まれたんだよ。

 

そこも別に悪いところじゃなかったんだ…けど施設にいた奴らと反りが合わなくてさ、俺クソ浮いてたんだよな。そんな所に居るのが嫌で学校には真面目に通ってたんだけど、そこですら恥ずかしい名前のせいで馬鹿にされててさ…そこで見ないふりしてた事に気づいたんだよ。もうこの世界に俺の事を愛してくれてる人は誰も居ないんだって…

 

それに気づいた瞬間幼いながら生きてる意味がわかんなくなってさ。もう何もかもめんどくさくなって惰性で中学生くらいまで文句をつけられないくらいにいつもの生活を送ってたんだよ…そんな時にアイドルに出会った。施設のガキがテレビで見てたアイドルのライブ見てさ、なんて言うか…ビビっと来たんだよ。これが俺の夢なんだって、これに関わる為なら何でもできるって…そこからは色々調べて初星学園を知って死ぬ気で勉強して合格したんだ。まあそれからも絶望は続いていたんだけどな」

 

「…結局夢だから諦めきれなかったって事ですか?」

 

「いや、そう言うわけじゃない。貧乏な奴は諦める事に慣れてるからな、去年あいつが転校してからはぶっちゃけ辞めようと退学届を持って帰った事も何回かあった。

 

退学届を書いてる時は、苦しい状況が終わってくれるんだ…やっと絶望から抜け出せるって思いながら書いてたよ。でも毎回書いてる途中で何故か両親の顔を思い出して…もう少しだけ足掻いてみようと退学届をゴミ箱に捨てるんだよ。

 

俺は、人が絶望に抗う時本当に心の支えになるのは夢なんかじゃ無くて心の底から楽しかった思い出だと思うんだ。俺は何と無くで初星学園に残ったわけじゃない…きっと天国にいる両親に背中を押されて初星学園に残ったんだ。

 

だからできるなら自由時間は俺の事は気にしないで倉本と一緒に遊んでやってほしい。倉本には色々と助けてもらってるからさ…アイドルやっててしんどいなって思う時に支えになる様な思い出をできるだけ作ってやりたいんだよ」

 

俺は氷渡に少し前から考えていた貧乏で不幸な奴なりの恩返しの仕方を語る。

 

倉本は恵まれてる。倉本がどれだけ天真爛漫でも倉本千奈を知る人間の母数が増えればそこに悪感情を持つ奴が現れる。そう言う奴に倉本が傷つけられた時楽しい思い出が沢山あれば随分と楽になるはずだ。

 

俺は絶望で塗装された道の歩き方は知っているが倉本や星南が歩いている称賛と幸運で満ちた勝ち組の道の歩き方は知らない。2人とも周りの人間に好かれてるからきっと困った時はその場にいる奴が助けてくれるだろう。何に困るかもわからない俺が助ける状況になんてならないはずだ…

 

助けてもらった分の借りを返したくても返せない状況…だからせめて俺が歩いて来た道で役に立った物をあいつらに与えてやりたい…

 

「…そう思うなら貴方が作ればいいのでは?」

 

「俺より氷渡の方が倉本と仲良しだろ?だから任せた!心配なら氷渡から見える範囲で日向ぼっこでもしてるから頼むよ、俺なんかじゃいい思い出は作ってやれないと思うからさ」

 

「……」

 

俺は笑いながら氷渡に語りかける。唐突にとんでもなく重い自分語りをしたせいで流れる空気は最悪で胃が痛くなる…

 

俺が倉本グループや氷渡からここまで疑われているのは、俺の経歴と倉本が語る俺の人物像が繋がらないせいで俺がどういう人間なのかいまいち理解ができなくて困っているからだと思う、

 

それも当たり前だろう。自覚してるが俺は悲惨な人生を歩んでる割にそこまで暗い人間じゃない側から見れば相当に歪な存在だ。それに倉本グループで俺を疑っている人達も氷渡もそれなりにいい環境で育って来ただろう、少なくとも養護施設で育ってる俺よりかは絶対に育ちが良いはずだ、育つ環境が違えば考え方も違ってくる、そして考え方が理解できない奴はすごく怖い。俺が養護施設で浮いていたのもそのせいだ…不幸な目に合ってるくせにヘラヘラしているあいつらが最初は理解できなくて怖かった。でも一緒に暮らすうちに自分の現状や自分の身に起きたことに向き合うのが苦しくて見ないふりをしているだけと気づいた時からは親近感が湧いたもんだ…だから俺の考えている事を伝えた。…これ以上は無いくらいに自分を曝け出した…これでまだ疑われたら本当に打つ手がない…これで何とかなってくれればいいが…

 

その後は俺も氷渡も言葉を発することなく時間が過ぎていった。時間が経てば経つほどに気まずさが増してる気がする。自分でこの空気にしといてあれだが…この場から逃げたい…そんな今までとは別の苦しみが発生していた状況は、

 

「2人共〜こちらで一緒に遊びましょう〜!」

 

撮影を終わらせて浮き足立っている倉本によって終わりを告げた。

 

「お、終わったらしいぞ。じゃあ俺はここで待ってるから2人をよろしくな」

 

俺はそう言って氷渡に2人を任せる。しかし、

 

「…何言ってるんですか?千奈お嬢様が呼んだのは私と貴方です。貴方来ない理由を私の口から説明するのは嫌なので大人しくついて来て下さい」

 

氷渡はそんな俺を逃さなかった。

 

「えっ?いや…良いって俺がいたら氷渡が楽しめないだろ?ここで大人しくしてるから楽しんできてくれ」

 

「私は千奈お嬢様が楽しそうにしてくださると楽しめます。…なのでそう思うなら千奈お嬢様を全力で楽しませてください」

 

氷渡は俺を一瞥もしないままそう言って倉本に向かっていく。これは誤解が解けたで良いんだろうか…まあもし違ったとしても、

 

「…それなら任せてくれ!倉本の事笑顔にさせるのは初星学園で1番うまいからな!」

 

気を使いまくる仕事が終わったんだ…少しくらい楽しんでもいいよな。

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