「ねえねえ、今どんな気持ち〜?嵌めた相手に呼び出されるのってどんな気持ち〜?」
「…言わなくてもわかるでしょう?とても不愉快です」
倉本グループからのリゾート紹介の仕事を終えてから1週間後、計画の最終段階である配信を行う当日、俺は極月学園から呼び出した白草四音と藍井撫子の2人を煽っていた。
あの後氷渡とも悪くない関係を築けたおかげか、誤解も解けて東京に帰ってからも倉本グループは惜しみなく力を貸してくれた。そのおかげで俺の計画、『篠澤の知名度を俺以上にする配信』ができる環境が1週間で用意する事ができた。QUINTETまで後1週間…1週間もあれば話題になる為の時間も充分に確保出来る。NIAに入ってからこんなに上手く事が運んだのは初めてだ…
「あ、あの黒井社長に言うことを聞かせるなんて……い、一体どんな手段を使ったんですの?」
藍井はどんな想像をしているのかすごく怯えながら尋ねてくる。俺は、
「まあ…俺1人の力じゃ黒井社長も首を縦に振らなかっただろうな。でもこっちには倉本がいる!お前らが馬鹿にしてた倉本千奈はあの倉本グループのご令嬢だ!」
「なっ…!」
「ええ!?」
この前のお返しをする為に事実をぼかして倉本をダシに使う。流石にそこまでは把握していなかったのかその言葉に白草と藍井はどんどんと顔を青くしている。……この反応…あの時倉本グループの名前出してればこいつらも大人しくしてあんなことにならなかったんじゃないか?そんな事を思っている俺に、
「く、倉本グループってあの倉本グループですわよね…」
「ああ、日本有数の大企業知らない奴はいないと言ってもいい程に幅広い業種を手がけていて最近はリゾート地なんかも作ってる倉本グループだ!」
「ひぃぃぃぃ!!とんでもない状況になってますわ!?」
藍井が冷や汗をかいて少し心配になるくらいに顔を青くしてして取り乱す。その横で白草は、
「…なるほど。実力に見合わないくらいNIAランキングの順位が上がっている思えば随分と卑怯な真似を…お里が知れますね」
コネを使った事をよく思ってないのか文句を言っている。本当に隙あれば皮肉挟んでくるなこいつ…まあ俺は別に慣れてるけど、倉本に世話になってる以上これを放っておくのはよろしくない。それにここには倉本の事が大好きな人ばかりなんだ…他の人に聞かれるとマジで良く無い。そう思った俺は、
「別に卑怯じゃないだろ。お前らだって成績と行儀がよかったら961プロのコネ使えるじゃねえか。自分たちが成績も行儀も悪いから使わせてもらえないからって妬むのやめてもらえます?」
「…憶測で語らないで下さい。私達も黒井社長から目をかけてもらってます。嫌われ者のあなたとは違うんですよ」
「え?自分たちもコネ使ってるのに倉本に文句言ってたの?器狭すぎでしょ君〜」
「この…!!」
白草の牙を折る為に言い伏せておく。にしても…この前の白草と比べると随分歯切れが悪い物言いをしているように感じる。まあ倉本グループがバックについてるのはビビるよな…俺も死ぬ気で氷渡のご機嫌取りをしてたから気持ちわかるわ…
そうして2人に同情しつつもプレッシャーをかけて少しだけ今までの鬱憤を晴らした後。俺は、
「まあ…言いたい事があるのも初星学園の事をよく思ってないのもわかってる。その上で仕事を頼みたい、ちゃんと協力してくれるならお前らの見せ場もある様に企画を考えてるから一旦休戦って事で協力してくれないかな?」
2人に一時休戦を申し込む。
「…まあいいでしょう。今は協力する方がメリットも多いでしょうし…撫子もそれで大丈夫ですよね?」
「そ、それは大丈夫なんですけど…私達は倉本グループの方達にどう思われていますの?」
藍井はすごい量の冷や汗をかきながら聞いてくる。こいつどんだけビビってんだよ…仕方ねえな…
「…どうだろ。星南が交渉してるからいまいちわかんねえんだよな…まあもし怒ってたとしても今日の奴頑張ってくれるならなんと言いくるめとくよ」
「貴方…!意外と良い人ですわね!わかりました!この藍井撫子誠心誠意与えられたお仕事励まさせていただきますわ〜!」
プレッシャーがかかりすぎていた藍井をなんとかした後、俺は2人を企画の説明をしてくれる番組スタッフまで送り届けて配信に向けて準備を始める。極月の2人も黒井社長に何か言われているのか思っていたより協力的だったな。あと少しでこの2週間の集大成だ…頼むから上手くいってくれよ…
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「初星極月対抗配信〜!!」
「「「「いえ〜い!!」」」」
時間は進んで夕方、特に問題が起きる事なく配信は始まった。倉本グループ全面協力の元、カメラ、スタジオ、番組スタッフ、配信するチャンネルまで学生アイドル達の企画とは思えないほどにクオリティの高いものが揃った。
極め付けは司会をしている芸人さんだ。バラエティ番組のひな壇の常連、司会をメインでやってる人ではないが普段トップレベルの司会に触れているからか場の空気を温めながら滞りなく配信を進めていく。
ここまで成功が約束されているとすごく気が楽になるな…少し緊張が解けた俺はこの配信の企画を一緒に考えた遠野さんに気になっていた事を聞いてみる。
「そう言えば…結局1番最初の企画、企画書でも秘密にしてましたけどなにするんですか?」
この配信の企画は全部俺と遠野さんを含めた番組スタッフ達で考えたものだが…1番最初の企画、掴みの企画だけは遠野さんが1人で考え誰にも伝えていなかった。多分のあの4人も知らないはず…
「ここまで来たらもう見た方が早いと思うよ。ほら丁度テーブルに置かれて言ってるだろ?」
言われた通り篠澤達に視線を移すと、4人の目の前には高級レストランとかで出てきそうな皿の上に銀の蓋(クローシュ)が被せてあり中身が確認できないものが置かれていた。…なんだあれ?全然やる事の想像つかねえな…
「じゃあ蓋を取って中身を確認してください!」
司会の人のその一言で4人全員が同時に蓋を取る。それと同時に、
「えぇぇぇ!!」
「な、なんですのこれ!?」
「……聞いていないんですが?」
白草、藍井 、倉本の3人が同時に青い顔をしてすごいリアクションをしている。
…すげえ反応だ。ここからじゃ肝心の中身が見えねえ…なんだあれ?俺は近くのモニターで配信の映像を確認しながら様子を見る。
「はい!1個目の企画は〜ゲテモノ食い競争〜!4人にはこれから焼いてあるカブトムシの幼虫を食べていただきます!」
……は?え?カブトムシの幼虫出してんの?ちょっと待ってそれは流石にやりすぎなんじゃ…
「いや!アイドルにやらせる事じゃないだろ!」
同じ事を思ったのかとんでもない事を言い放っている司会の人に白草はツッコミを入れている。白草の反応はまだマシな方で…
「こ、こんなのアイドルが食べて良いものじゃありませんの…」
「そもそもカブトムシさんは食べ物じゃありませんわ…」
倉本と藍井は泣きそうになりながら幼虫を見つめて怯え出している。
うん。これ放って置いたら俺殺される奴だ。俺はこんな頭のおかしい企画を今まで秘密にしてやがったおっさんに詰め寄る。
「ちょっと…遠野さんどんな企画考えてるんですか!こんな事やらせたら倉本グループと961プロに俺が怒られるんですけど!」
「はは、大丈夫だよ。最初に衝撃的な展開にして配信を見ている人たちを釘付けにする為だから、本当に食べさせる気なんて無いから安心してほしい」
遠野さんはいつもの調子でこんな展開にした理由を話す。
「いや…食べさせる気がないって…生配信っすよ?出したのに食べないとか見てる人冷めません?」
「普通の生配信ならそうだね。でもこれはアイドルの生配信だから大丈夫だよ。彼女達が嫌がる絵が撮れればそれで良いんだよ」
遠野さんは自信満々に自分の企画を語る。
なるほど…これぞ経験の成せる技だな。本来虫を出しておいて誰も食わないなんて展開配信として全く面白く無いが…アイドルがメインの配信となれば話は別だ。アイドルファンは面白い物を求めて配信を見ているわけじゃ無い、アイドルの違う一面を見たくて配信を覗いている。嫌がる絵さえ撮れれば実際に食わなくてもそれを供給できる。企画を考える時重要だと言っていた部分をこんな形で出すなんて…すげ〜これが番組プロデューサー…素人じゃ思いつかない考え抜かれた一手に尊敬の念を感じる。
「…そんな事考えもしなかったです。やっぱり本職の方ってすごいですね」
「はは、それほどでもないよ〜。まあ生放送だから誰かが食べたら全員食べる流れが出来ちゃうけど僕でも食べれない物食べるアイドルなんていないからね」
「そうっすね!焼いてるとはいえ虫食うなんて誰もが嫌がる事やる奴なんてアイドルにいる訳…」
俺はそこまで言って気づいてしまった。
誰もが嫌がる苦しい事…
あそこにいる4人の中に1人だけそんな事を喜んでやりそうな奴がいる事に…!やばい!今すぐ止めないと良くない流れができる!
「…遠野さん!今すぐに虫を下げ…」
「ごちそうさまでした」
「え?」
「え?」
「は?」
気づいた時にはもう遅く篠澤は嫌がる3人の横で黙々と焼きカブトムシの幼虫を完食して共演者全員をドン引きさせていた…
マジで食いやがったあいつ…ちょっとは躊躇しろよ…あまりにも早いフラグ回収に俺は頭を抱えて座り込む。
「え…食べたの?」
司会の芸人さんもあまりの出来事に場を回す仕事を忘れて動揺している。もちろんこの場をまとめる遠野さんも予想していなかった状況に開いた口が塞がらないようで口を大きく開いたまま篠澤を眺めている…
完全に放送事故じゃねえか…この状況どうすんだよ…