俺は頭を抱えながら今の状況がどれだけやばいのかを認識する。
この配信の目的は篠澤の知名度を爆発的に上げて視聴者に篠澤広というアイドルに興味を持ってもらうこと…その為には大前提配信を楽しい雰囲気で終わらせないといけない。
なのに…なのに…!あの馬鹿が無茶苦茶しやがったせいで空気が終わってるんですけど!何より不味いのは篠澤が食ったせいでもうあの幼虫を食べないと言う選択肢が消えてしまったこと……別に食べないことも出来るが…1人が食べたのに他のやつが食べないなんて状況、すごく微妙な空気になる。そうなれば最後、美波里に勝つために必要な目的が達成困難になるだろう…
だからと言って…あの3人にあんなものを食べさせた場合…3人の心に傷を残すだけではなくアイドルとしてのイメージも傷つけてしまう為…961プロと倉本グループが俺を殺しにくる…つまり3人が食べても地獄食べなくても地獄…今の流れのままだと駄目だ…何とか流れを変える展開を考えないと…
俺は流れの変え方を模索する。だがこれは生配信、俺が考えている間も残酷な事に流れは変わり続ける。
「えっ…と味はどうですか?」
とりあえず場を繋げようと思ったのか司会は篠澤に幼虫の食レポを求める。
「噛んだ瞬間に口の中が土の風味で満たされて飲み込むのを体が拒否して来て……ふふ、とても苦しくなる味」
篠澤は心底幸せそうに語る。もう何なのあいつ…その食レポを聞いて、
「そっか……じゃあ他の人も食べてもらって…」
「は!?」
「え!?」
何を思ったのか司会が良くない流れを後押ししてくる。そんな状況に極月の2人は驚愕の声を上げ、助けて欲しいのか倉本が泣きそうにながら俺に視線を送って来ている。
おい…あの司会何考えてんだよ!!てめえは倉本が泣きそうになってんの見えてねえのか!!倉本が泣いたら俺もお前も終わりなんだぞ!!やばい…助けてやんねえと俺の人生が終わる…
場を回すことしかできていない配慮が足りない司会にキレているのは俺だけじゃなく、
「こ、こんなもの食べれるわけないだろ!」
「そ、そうですわ!大体何で私たちがこんなもの食べないといけませんの!」
今まで行儀良くしていた極月の2人がカメラも忘れて取り乱している。
「いや…君たち炎上してたじゃないか。その贖罪と思えばこれくらい…」
「どう考えても過剰でしょう!大体そんな事言うならあそこにいる男がまず食べるべきだろ!」
「いや…でも…彼は…」
無能な司会が変に言いくるめようとしたせいで幼虫の矛先が俺に向いて来た。勘弁してくれ流石にそんなもん食いたくねえよ…大体俺演者じゃないんだから出れるわけないだろ。そんな俺の前提は、
「いけるよー!」
「は?」
後ろから遠野さんが覆して来た。俺はそんな事を言い出した理由がわからず遠野さんに詰め寄る。
「ちょっと…なに言ってんすか?炎上の原因がこの配信に出たら更にカオスな空間になるのが目に見えてるじゃないっすか」
「で、でもこのままだとすごい事になるでしょ?だから口の上手い君が出て場を何とかして欲しい……」
遠野さんはパニックになっているのかすごい量の冷や汗をかきながら俺を説得しようとしている。
「いや…どうやって何とかするんすか…ただ出ていっても俺がネットでたたかれるだけですよ…」
「それは……彼女たちの代わりに食べてあげたらいいんじゃないかな」
遠野さんのとんでもない無茶振りに更に頭が痛くなってくる。
「…まじでいってんすか?」
「まじだよ…もうそれ以外に取れ高を取りつつ何とかする方法がないでしょ。それに…あんなの千奈ちゃんに食べさせたら僕倉本会長に殺されちゃうよ…」
遠野さんは青い顔をしながら俺に懇願してくる。
確かに想定外すぎる状況に司会が場を回す事以外考えられなくなってる今、軌道修正する人間が必要で、流れ的に違和感なくできそうなのは俺くらいなんだが……あの幼虫3匹も食わなきゃいけないの?いくら毎朝ゲロみたいなドリンク飲んでゲテモノに慣れてるとはとはいえ普通に嫌なんですけど…だけど他に方法もないんだよな…
俺は他に案も思いつかなかったため覚悟を決めるために大きく息をついた後、
「はあ……仕方ないっすね…何とかするんで面白く撮ってくださいよ」
遠野さんの提案を受け入れた。幼虫を全部食べた後に配信であいつらに謝ればファンの溜飲も下げれるかもしれないし案外悪くないかもしれない…そう自分を納得させた時、
「本当かい!?じゃあ君の分の幼虫も取ってくるね!」
「え?」
遠野さんがそう言って幼虫を取りに行った…いやまあ…確かに俺の分も出さないとおかしいから仕方ないんだけど…つまり俺4匹も食べないといけないの?
「……あのおっさんマジで覚えとけよ」
承諾した事を若干後悔しつつ俺は自分の分を食べ終わって楽しそうに3人を眺めている篠澤が座っていた倉本と白草に挟まれた席に座る。
「それじゃあ自己紹介をお願いしま〜す!」
「ど、どうも〜初星学園のプロデューサー科に通ってる斉藤です。どうぞよろしくおねがいします」
司会に促されて俺はとりあえず当たり障りのない自己紹介をした。…カメラの前に立つのってこんな感じなんだ……緊張で吐きそう…そんな緊張してガチガチになっている俺を、
「ふふ、プロデューサーすごく緊張してる、ね。今の表情すごく面白い」
篠澤はいじってくる。ねえこいつぶん殴っていい?誰のせいでこんな事してると思ってんの?そんな事を思いながら篠澤を睨んでいる俺を放っておいて司会は配信を進めていく。
「それで誰から食べますか?」
「この人からです」
「この人からですわ」
極月学園の2人は流れるように1番手を譲ってくる。こいつら…
「はい…僕が原因で炎上したので僕から食べさせて頂きます…」
少しムカつくが俺以外が食べ始めると俺が代わりに食べるのが難しくなるのでこれでいい。そしてタイミングよく、
「君の分の幼虫持ってきたよ!」
遠野さんが皿を持ってきた。俺は少し目をつぶって気持ちを整える。普段からペースト飯と激まずドリンクを頂いているんだ…こんなの見た目がキモいだけで目をつぶって食べれば大体いつもの食事と変わらないはず…SSDを飲むときのように味わう事をやめて飲み込めば大丈夫だ。そうやって自分を励まし迫り来る困難に立ち向かおうと目を開いた俺の前に出された皿を見て俺は絶句する。
皿には…土から出されて命の危機を感じているのか身を捩りながら6本の足を自由気ままに動かしているカブトムシの幼虫が置かれていた…
「すみません……俺のやつなんか動いてるんですけど……」
「焼いてる時間なくて…生でもいけるよね?」
生の幼虫を持ってきた遠野さんはありえない無茶振りをしてくる…頭が痛くなり続ける展開にいい加減我慢の限界に達した俺は、
「いけるわけねえだろ!!馬鹿かお前!!」
いらない事しかしないおっさんに敬語も忘れて怒鳴りつけた。