「いや〜女の子が焼き幼虫食べるんだよ?男の子の君はもっとすごいもの食べなきゃ駄目でしょ〜」
遠野さんにキレている俺を司会がよくわからない理論で反論してくる。
「いやいやいや!おれアマゾンの先住民族じゃないんですよ?こんなの生で食ったら絶対変な病気にかかるじゃないですか!俺だけ罰ゲームじゃないんすよ!命の危機なの!!」
「大丈夫!労災は降りるよ!」
取り乱している俺にカメラの後ろの定位置に戻った遠野さんは司会の反論に援護している。
そういう問題じゃねえんだよ!クソ!司会と番組プロデューサーがカオスな状況に当てられたせいか完全に悪ノリ始めてやがる…もう食うしか無いのか?いやでも…焼いてる奴なら頑張れるけど…これは流石に…
そんな追い詰められている俺に、
「…焼いてある幼虫ならいけるんですか?」
隣に座っている白草がカメラ目線のまま話しかけてくる。
「…多分。でも流石に生は無理…見てみろよ、これ口の中で噛み砕かなきゃいけないんだぞ…」
「…変な想像をさせるのやめてもらえますか」
俺と白草は皿の上でクラブのパリピくらい動き回っている幼虫を眺めて顔を青くする。
「…なら取引と行きましょう。私がその生きている幼虫をなんとかするので焼いてある3匹を食べていただきたいのですが…」
白草は俺に小声で取引を持ちかけてくる。俺は、
「最高の提案だな…提案してるのがお前じゃなければな、俺の事嵌めたの忘れたのか?」
白草の事がまだ信用できなくて断る。いくら同じ状況に苦しむ共演者といえど俺はこいつに一回嵌められているそう簡単に信じてやらない…白草はそんな俺の、
「信頼がないのはお互い様です。今の状況も企画書に書いてありませんでしたから。それに…このままでは1番被害を受けるのは貴方では?」
痛いところをついてくる。確かに…このままじゃ俺も生の幼虫を食わされて3人も焼き幼虫を食わされる…そうなったら同時に2つの大企業を敵に回した俺の人生は終わるだろう…くそ…受けるしかねえじゃねえか…俺は覚悟を決めて最善の選択を取りに行く。
「それもそうだな…で?内容は?」
「秘密です」
「おい…本当に信じていいのかそれ…」
「その方が成功率が高いんですよ。それにこのままだと配信がとんでもない空気になりますよ」
「それも…そうだな…」
俺がこうして悩んでいる間にも配信は進んでいる。
「む、無理ですわ!」
「大丈夫、千奈がやれば出来る子なの私はずっと見てきた。だから、千奈ならできる、よ」
「篠澤さん…」
隣では篠澤が嫌がっている倉本が幼虫を食べれるように応援している…うん…悩んでる場合じゃねえ!
「で、答えをお聞きしても?」
「わかった、白草を信じるよ。生のやつは頼んだぞ」
俺は藁にもすがる思いで白草の提案を承諾した。
「ええ…任せてください」
心なしか白草がニヤリと笑っていたような気がするが、
「あの〜いいですか?」
気にせず俺は白草を信じて手を上げる。司会者はすかさず話を広げに来た。
「はい。なんでしょう?」
「ここにいるアイドルの皆さんには僕のせいで迷惑をかけてきました。なのでどうせ僕も幼虫を食べるなら罪滅ぼしをさせてください」
「と言うと?」
「視聴者さんが見たかったアイドル達の嫌がる画は十分に撮れたでしょう?なら皆さんの焼き幼虫は僕が食べますよ」
「お〜っと何と言う気概でしょう拍手〜」
「プロデューサーさん…助かりましたわ…」
「貴方…私本当に酷い勘違いを…」
倉本と藍井は司会に言われたと通り拍手をしながら俺を称賛している。そんな2人に続くかのように、
「まあ、なんと男らしい…そこまでしてくださるなら少しくらいご褒美があってもいいかもしれませんね」
白草が俺を褒めながら箸で焼き幼虫を摘み、
「はい、あ〜ん」
俺に食べさせようとしてくる。
「白草さん…それ貴方のファンにまた怒られません?」
「大丈夫です。ファンには私から説明しますので」
「ちゃんとしてくれよ…」
俺は覚悟を決めて差し出された幼虫を口に入れる。口の中はほとんど余白というものがなく上の歯と下の歯を離していないと入りきらないくらいに幼虫は大きい…これを噛み切るのは勇気が尋常じゃないくらいいる。口の中に大きな不快感を持ちながら覚悟を決める。
幼虫を噛み締めた瞬間、最初に感じたのはグミを思わせるようなぷにぷにとした食感だ…しかしグミとは違い所々固いところがあるせいで口の中の幼虫の輪郭を頭に思い描いてしまう、そんな不快感溢れる食感…
その食感を乗り越えた後幼虫の外皮が破られ口の中に夏の山の匂いを思わせるような腐葉土の味が口の中を包んでいる。その香りに内臓が今すぐに吐き出せと唸り始めているのを感じる…
ここで噛むのをやめて今すぐに吐き出したいそんな思いを乗り越えて一回、また一回、咀嚼していく。幼虫が無駄にデカすぎるせいでよく噛まないの飲み込めない…
もし飲み込めず嘔吐でもしようものなら配信自体がぽしゃる…それだけはプロデューサーとして避けなければいけない。一噛み一噛みに俺がなんのために篠澤のプロデューサーをしているのかそして俺と美波里の関係に蹴りをつけるためにどれだけ重要か思い出しながら心を奮い立たせ咀嚼していく。そうして30回ほど咀嚼した後…
ゴクン。
やっと飲み込む事ができた…
「…食べました」
もう帰りたい…篠澤はなんでこれ目を輝かせて食ってたんだよ…俺は自分の担当アイドルの変人具合をひしひしと感じる。正直なところすでに満身創痍と言っても差し支えがないほどに精神負荷がすごい…しかし、
「では…その…これもお願いしますわ」
俺が食べないといけない幼虫は後2つある…倉本と藍井が申し訳なさそうに端で幼虫を摘んで列を成している。
「もう一気に食べるから一緒に入れてくれ…」
「流石に入り切らないのでは…」
「無理にでも押し込んでいいから…もう時間かけたくない」
俺の言葉と共に2人は俺の口に焼き幼虫を押し込んでくる。口の中に満ち満ちに詰められた幼虫にメンタルが完全に死んでいくのを感じる。俺は…感情と思考を殺して黙々と咀嚼をしていく。そしてしばらく経った後…
「飲み込みました…」
「素晴らしい!視聴者の皆さん彼に賞賛のコメントを!」
何とか幼虫を食べ切った…時間を見てみれば3分くらい経っている。ノーリアクションで配信の時間を3分も使ってしまったがこれで焼いてある幼虫は何とかなった…あとは白草に任せよう…
「プロデューサーさん…大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない…美味しい物食べたい…帰りに奢って…」
そんな事を倉本に言いながら机に伏せていると、
「おお〜、四音ナイスアイディア」
軽々と幼虫を食べ切った奴がよくわからない事を呟いている。そしてそいつは手を後ろに隠して俺に近づいてくる。そうして机に伏せている俺の横に来た時、
「プロデューサー、まだ私あーんしてない」
ふざけた事をぬかしてくる。こいつ…
「…俺の心配してくんない?あとお前の分は自分で食ってただろ…」
「うん。だからこれを使う」
篠澤後ろに隠していた手を前に出す。その手に握られていたのは白草が処分するはずだった元気に動いている幼虫だった…俺はそれを目の前に出された事に驚いて、
「ちょ!?お前まじふざけんな!なんのために俺3匹も食ったと思ってんだ!」
椅子から飛び起きて篠澤と距離を置く。こいつマジでふざけんなよ!配信でそんな事言ったら…というか白草!あいつどこ行きやがった!何で処理せずにこの馬鹿にこんな危険なもん渡して…そこまで考えた時、
「痛い痛い痛い!」
「篠澤さん今です!早く食べさせてあげてください!」
いつの間にか後ろに居た白草に腕の関節を極められて俺は地面に座り込む。それでも腕の痛みは止むことはなく俺は痛みで身動きが取れなくなっていた。こいつ…もしかして俺にあーんで食べさせたのは篠澤が自分もやりたいって言い出す事を予測してやったのか!?計算高すぎるだろ!!
「くっそ!…てめえはなから俺に全部食わせるだったんだな!騙しやがって!」
「あんな提案信じる方が馬鹿なんだよ!これでこの幼虫もお前が食えば全て解決で次の企画に行けます!さあ!配信の成功を祈って大人しく食べてもらおうか!」
もう取り繕うことすらしてない白草はそんな事を言いながら俺が抵抗できないほどに関節を極めてくる。
「痛てえ!!ちょっと!?加減しろよ馬鹿!!腕取れちゃうって!!」
「さあ!篠澤さん!早く食べさせてあげてください!」
「わかった。プロデューサー口を大きく開けて欲しい」
俺の悲鳴はなかった事にされ篠澤が幼虫を持ってどんどん近づいてくる。
「ちょ!?今までマジでごめん!!謝る!謝るからそれ顔に近づけてくるのやめて!!目の前でそれが暴れてるのグロすぎるって!!」
「あ〜ん」
「んぐ!?」
俺の謝罪も虚しく篠澤は問答無用で生きてる幼虫を口の中に押し込んでくる。幼虫は命の危機を感じたのか俺の口の中で暴れ回り俺の心をどんどん蝕んでくる…
くっそ!もうこうなったらさっさとこいつを食ってこのクソみたいな企画を終わらせてやる!そう思い幼虫を口の中で噛み砕いた時、
「うぇ…」
俺はあまりのショックに思わず崩れ落ちて口の中の物を吐き出す。そんな俺に思わず白草と篠澤も距離を取る。
「ふふ、プロデューサーすごい顔してる」
「ち、ちょっと…吐いたら配信的に駄目ですからね」
あ…やばい…これはダメだ。
幼虫を噛み砕いたせいで口いっぱいに広がる幼虫の中で熟成された焼いてるものとは比にならない腐葉土の香り。舌にまとわりつく砂の様なざらざらとした感覚。口から溢れ出てくる幼虫の黒い体液…そんな処理できない不快感を一度に味わった俺は、
「これやば…オエエエエエエ!!!」
その場でゲロを撒き散らかした…幸い俺が吐いた瞬間に遠野さんが映像を切り替えてくれたおかげでその後も配信を続ける事はできたが…NIA初日に撮られた物以上のとんでもない醜態がネットに刻まれる事になった…