諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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QUINTETに向けて

 

「ぜぇ…ぜぇ…もう動けない…死んじゃう…」

 

「なに寝転んでんだよ。まだ吐くまで走ってねえだろさっさと立て」

 

「ふふ…鬼畜…悪魔…」

 

配信から3日後俺は消えない黒歴史をネットに刻んでくれた篠澤にお礼として前から求めていた限界を大幅に超えたトレーニングをプレゼントしていた。

 

あの配信の後、俺の吐いている部分の映像がネットで拡散され3日経った今俺は完全にネットのおもちゃになっている…まあちょっと前にアイドルを馬鹿にしていた奴が馬鹿にしていたアイドルに制裁を受けると言うあまりにもスカッとする構成だからおもちゃにならない方がおかしいんだけど…だとしても話題になりすぎている。

 

あの映像はアイドル界隈だけじゃなくアイドルに興味がない人間の目に入っているようで街を歩くだけで主に若者からジロジロ見られる…ここまで注目されるのも長くて1ヶ月だろうが俺のキャリアに多大なる影響を与えた事は間違い無いだろう…俺就職できるのかな……本当になんで事に……

 

もう変えることの出来ない現実に泣きそうになりながらも、しばらく動けなさそうな篠澤の横にスポーツドリンクを置いて近くのベンチに座りNIAランキングを確認する。

 

「まあ…俺のプライバシーを捧げた甲斐はあるな…」

 

画面に映る10位という篠澤の順位を見て呟く。俺が吐いて完全に心が折れた後、配信は元々企画していたアイドルの別の魅力を見せる方向に戻っていき出演者の4人魅力を十分に見せることができた。配信の最後には篠澤がQUINTETに出場することを宣伝してくれており、あの配信は後々の影響を考えなければ大成功と言っていいだろう。

 

そうやって俺が現状を把握した頃、動くだけの体力を取り戻した篠澤が俺の隣に座って来る。

 

「ぜえ…プロデューサー…何見てるの?」

 

「NIAのランキングだよ。ほら篠澤10位になってるぞ」

 

「お〜すごい。配信は大成功、だね。私も頑張った甲斐がある」

 

「俺も篠澤も変な方向で話題になりすぎてる事を除けばな…見ろよこれ。俺が吐いてる動画いいねつきすぎだろ…配信の告知よりついてるんだけど…」

 

「ふふ、すごい人気。私も鼻が高い」

 

「嬉しくねえ…」

 

いつも通りどこかズレている篠澤との会話を終えた後、俺は篠澤にQUINTETまでの方針を伝える。

 

「…で、憂さ晴らしで追い込んどいてアレだけど今日からQUINTETまで俺が生徒会を手伝ってた時と同じレッスンメニューにするからQUINTETまでには体調を完璧にしておいてくれよ」

 

「わかった。でも…勝算なんてほとんど無いのにギリギリまで頑張らなくていいの?」

 

「2、3日頑張らなくて何かが変わる実力差じゃねえから別にいいんだよ。体調を万全にして本番で篠澤が覚醒することに賭ける」

 

美波里がどこまで実力を上げているかわからない今これが最善策だ。前座を初めてのライブだって実力以上の結果を出してくれたんだ、あとは篠澤を信じて備えるだけ。もし負けた場合は…俺に憂さ晴らしさせれば篠澤はなんとかなるだろ。そんな最悪の想定をしている俺の横で、

 

「ふふ、私が実力以上のライブができなかったら勝算すら出てこないなんて…相変わらず無茶な作戦、だね。負けたらどんなお願いされるのか考えるだけでも…ゾクゾクする」

 

篠澤は相変わらず楽しそうに負けた時のことを考えている。

 

「…楽しそうにしてる所悪いけど多分篠澤にはそんな酷いお願いしないと思うぞ」

 

「どうして?」

 

「あいつ試験で勝っても負けた子が可哀想とか言って全然喜ばねえ変な奴だからな、負けても篠澤が困るようなお願いはしないだろ。俺はどうなるかわかんないけど…」

 

去年の美波里を思い出しながら語る。よく考えれば競い合って高め合って行く初星にはあいつは向いてなかった…極月学園に転校してから驚くくらいに売れてるし、きっとこれで良かったんだよな。そんな事を思いすこし悲しくなっている俺を、

 

「じゃあ大丈夫じゃない。私達は一蓮托生プロデューサーの大変な事は私にとっても大変な事。だから絶対に勝とう、ね」

 

篠澤は励ましてくれている。…もういい加減美波里に未練を抱くのはやめよう、今の俺は篠澤広のプロデューサーなんだから。

 

「…そうだな。それにこの前の配信で俺の人生設計が破綻したからな。ここまでして勝てないといよいよ俺の将来に希望がなくなる。負けたら養ってもらうから覚悟しろよ」

 

「プロデューサーはすぐに問題を起こしちゃうから養うのすごく大変そう」

 

「まあ…問題は起こすけど金はマジで使わないから結構バランス取れてると思う…滅茶苦茶問題起こすけど…」

 

「ふふ、そんなに心配そうにしなくても大丈夫。私がプロデューサーと一緒にいて1番楽しいと思う時は頭を抱えて苦しそうな顔をしながら問題を解決しようとしてる時だから」

 

「…それ養ってもらったら篠澤の機嫌取る為にずっと苦しむ事になりません?」

 

そう言っていつもみたいに冗談を言い笑い合った後、篠澤のストレッチに付き合ってから女子寮に送る。その後は夏休みで特に学園に用もない俺は家に帰る為にバス停に向かってバスに乗る。

 

もう少しで去年に因縁にけりをつけれそうで感傷的になっているのか俺はバスに揺られながら少し思いにふける。美波里が極月学園に行ってからどこに行ってからどこに行っても何をしても少し余裕ができればずっと後悔が頭をよぎっていた。

 

でも篠澤のプロデュースを始めてからはそんな少しの余裕すらくれないとても大変で苦しい日々が始まった…何も足りてない篠澤がどうやって成長するかで常に頭を悩まし、遅れている勉学にも励んで、篠澤のプロデュースの過程でできた友人とも仲を深めつつ、生活費を稼ぐためのバイトまで…初星学園に入学して美波里に捨てられるまでの日々を思い出すような忙しくて色々足りてない俺ですら満たしくれる日々。

 

理由もわからず失って取り戻すことすら諦めた日常が戻って来てくれた…本当に

 

「こんな日々が続いてくれないかな…」

 

俺の心から漏れ出たささやかな願いが叶う事を祈りながら窓から見える夕日を眺める。

 

だけど心のどこかでわかっていた。俺のクソみたいな人生は幸せを感じた後に必ず不幸が待ってる事を…

 

_____________________________________

 

 

QUINTETの前日、夕陽が滲む頃俺は、961プロの近くにある公園に来ていた。理由は単純今まで連絡をフルシカトしてくださっていたアイドルに呼び出されたからだ。

 

「…で、話ってなんだよ美波里」

 

「来てくれてありがとうございます。できればお茶でもしながらゆっくり話したいんですけど…時間もないので単刀直入に言います。初星学園をやめて961プロに来てくださいプロデューサー」

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