「プロデューサー、どう?可愛い?」
「ああ。最高に似合ってるよ俺が節操なかったら告白してる」
QUINTET当日、ライブ会場の楽屋でライブの衣装を身に纏い感想を求めてくる篠澤に、自己嫌悪と後悔で眠れなかった俺は心配をかけないようにいつも通りの軽口を叩く自分を演じていた。だが…
「…プロデューサー何かあったの?」
「いや別に何もないけど…何で?」
「今日ずっと変、だよ。それに目の下にクマもできてる…寝れてないの?」
一晩中自分の事を否定し続けた今の俺には篠澤を騙し切れるほどの余力がなかった…
ただでさえ勝てるかどうかわからない勝負なんだ…いらない事で篠澤のメンタルを削りたくない…そう思った俺は篠澤の肩に手を置いて目を合わせ、
「ああ実は……篠澤のライブが楽しみすぎて眠れなかったんだよ」
篠澤が喜びそうなことを言ってみる。遊園地で遊んだ時こんな感じで喜んでたからこれでやる気出してくれるだろ…そんな俺の思惑は、
「……。」
叶う事はなく篠澤はすごく不機嫌そうな表情を見せ始めた。あれ…?前はこんな感じで照れてなかったっけ…?
結構頑張ってカッコつけたのに不発に終わった俺は気まずくなって少し距離を置いて咳払いをする。
「じー」
篠澤はそんな俺の行動を許す事はなく開けた距離を詰め、口で効果音を奏でながら圧をかけてくる…
「だから俺の心配より自分の心配を……」
「じー」
「ほら!後1時間半でライブ始まるしストレッチでも…」
「じー」
「…ああ!もう!あったの!眠れなくなるくらいの悩み事があったんだよ!」
そんな篠澤に俺が根負けするのは時間の問題だった…
「最初からそう言えばいい」
「…大事なライブ前に俺の個人的な事で心配させるわけにもいかねえだろ」
「プロデューサーはお馬鹿さん。言ってくれないほうがもっと心配する、よ」
「それは…そうですね…」
篠澤は相談してくれなかった事に怒っているのか不機嫌そうに正論をぶつけてくる。ライブ前に担当アイドルからしっかり目に怒られている現実に心が痛くなる…そんな怒られて落ち込んでいる俺を見て、
「だから話して欲しい。私がちゃんとライブに集中するために、ね」
反省してると思ってくれたのか篠澤はいつもの雰囲気に戻ってくれた。
「わかったよ…先に言っとくけど結構情けない話だからな」
「大丈夫。そんな姿はいつも見てる」
「そういえばそうですね……」
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「…プロデューサーそれはちょっと酷いと思う」
「だよな…俺もそう思う」
昨日美波里と会ってから俺がしてしまった事を洗いざらい全て話した後、話を聞いた篠澤の率直な感想に同意する。
美波里は態度こそ俺の気持ちを一切考えてなくて酷かったが……条件や提案している内容には誠意を感じられた。じゃないと篠澤を極月学園に向かい入れるなんて条件は出ないはずだ。極月学園は少数精鋭入れる奴は限られている。現状篠澤は誰が見たって極月学園に入れるだけの実力はない…
そんな価値のある1枠をあのがめつい黒井社長から取って来るのは相当苦労しただろう…それなのに俺は表面的な態度だけ見て酷い事を言ってしまった。黒井社長と交渉する大変さは知ってる筈なのに…本当にプロデューサーとして失格だ…
「でも美波里もすごく酷い…何も言ってくれないだけでもこんなに心配するのに何も言わずに居なくなって謝るより先にそんな提案するなんて…プロデューサーじゃなくても怒っちゃう、よ」
「そう…なのかな」
自己否定のしすぎか美波里にも悪いところがあると言ってくれる篠澤の意見に対してもどこか疑問を感じてしまう…美波里のことに関してはもう自分でどうすればいいのかよくわからない…自分で考えて動いたらまた昨日と同じことになる気がする…だからこそ俺は、
「なあ…俺どうするべきだと思う?」
信頼している篠澤に意見を求める。
「そんなの決まってる。今日のライブが終わったらしっかり美波里に謝る。悪い事をしたと思ってるならそれしか無い」
「でも…あんな事言ったらもう会ってくれないだろ…」
「ふふん、プロデューサーは大事なことを忘れてる。私達と美波里はこのQUINTETで負けた方が何でもいうことを聞く条件で勝負をしてる。美波里がプロデューサーに会いたくなくてもお願いすれば会ってくれる、よ」
篠澤はそう言って胸を張る。お願い…そう言えば負けた方が何でも言う事を聞くんだっけ…確かにそれを使えば嫌でもあってくれるだろうけど…
「…いいのか?お願い俺が使っても」
「うん。元々私が美波里にお願いしたい事なんてなかったから。…でもタダじゃあげない、よ。代わりにプロデューサーが私のお願い何でも1つ聞いて欲しい。この前みたいに何かと理由をつけて断らない約束で、ね」
篠澤は俺が申し訳なく思わないようにか交換条件を出して来る。いやお前それ…美波里に勝つ前提じゃねえか…
そんな格上のアイドルと戦う前の新人アイドルとは思えない負けを一切考慮に入れてない篠澤に俺は思わず笑ってしまった。
「はは、それが狙いかよ。わかった、俺以外に迷惑がかからないなら何でも言うこと聞くよ」
「ふふ、じゃあ約束、だね」
篠澤はそう言って小指を立てた手を俺の前に出して来る。
「ああ、約束だ」
俺は篠澤の小指に約束を絡める。
すごいな…人に話すのってこんなに気持ちが楽になるものなんだ…美波里の事は今まで誰にも相談した事なかったから知らなかった…
「それにしても…何で篠澤の大事なライブ前に俺がメンタルケアされてんだよ…」
「私たちは一蓮托生 。助け合うのに状況なんて関係ない」
「…そう言ってくれると助かるよ」
俺がいつも通りの様子に戻ったからか篠澤もいつもみたいに楽しそうな表情に戻ってくれた。本当に…いつも助けられてばっかりだな…
そんな大事なライブ前と思えない楽観的な空気が楽屋を包んでいた頃。
コンコンと扉から音が鳴った。音の主はこちらが声をかける前に入って来て。
「へえ……似合ってますねその衣装」
篠澤に声をかける。俺はその人物見て思わず2人の間に割って入った。
「ふふ……そんなに私って信用ないですか?別に何もしませんよ」
美波里はヘラヘラしながらそんな事を呟いている。美波里は顔を知っている俺でも一瞬不審者と勘違いするくらいに顔色も所作も何もかもがおかしい…なのに今までの積み重ねもあってかちゃんとアイドルだと認識できるそんな異質な雰囲気を纏っている。
「いや…今のお前ちょっと変だぞ?そんな状態でライブ前に何しに来たんだよ」
「……昨日帰ってから色々考えてたら思い出したんですよ…そう言えばQUINTETで勝った方が負けた方に何でも言う事を聞かせられる話だったと…。なので篠澤さん……私が勝ったらアイドルを辞めてください」
そんな俺が知ってる美波里なら言うはずがない発言に俺は、
「………は?」
時間が止まった様な感覚を久しぶりに味わった。