諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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49話 美波里の思い

 

「そしてプロデューサー…貴方は私が満足するまで私のマネージャーになってもらいます」

 

俺が知っている美波里なら言う事がない言葉の数々に俺は、

 

「ふ…ざけんな!!いくらなんでも口約束のレベルを超えてるだろ!そんな命令無効だ!負けたって聞くわけないだろ!」

 

「プ、プロデューサー…落ち着いて」

 

美波里に掴みかかる勢いで大声を上げる。篠澤が腕を掴んで静止してくるほどにあまりに感情的な俺に、

 

「別にいいですよ?聞いてくれないなら聞くしかないようにするだけなので」

 

「…あ?」

 

「黒井社長から聞きました。公園で久しぶり顔を合わせたあの日、黒井社長を脅して契約を取ったんですよね?私のお願いを聞いてくれないならその情報をマスコミや暴露系配信者達に送ります」

 

「……。」

 

「貴方達は今話題沸騰の2人なので…どうなっちゃうかわからないですね」

 

美波里はタチの悪い脅迫を笑顔で伝えてくる。そんな異常な言動を繰り返す美波里を刺激しない様に冷静で波風を立てない対応をしようとしたが…一晩中自己否定を繰り返してきた俺には、

 

「なんで…そこまでするんだよ…」

 

恐怖を隠して取り繕う余力なんて残ってはなかった。

 

「ふふ…極月学園に行ってからの1年間……私すごく頑張ったんですよ?貴方に相応しいアイドルになる為に…貴方に相応しい条件を揃える為に…それなのに顔も見たくないなんて…酷いです。…だから私も貴方に酷いことをします。その子を捨てて私が満足するまで側で支えてください」

 

「ふ、ふざけんな!そんなのお前が勝手に極月学園に行って勝手に辛くなってただけだろ!大体お前がさっさと俺に連絡を取ってれば…」

 

「貴方だって……!!私に会いに来てくれなかったじゃないですか…」

 

美波里は去年出会ってから初めて声を荒げて話を遮ってくる。

 

「…は?」

 

俺はそんな見たことない姿に思わず呆気に取られてしまった。

 

「……何も言わずに行っちゃったから…理由を聞きに会いにいてくれたら謝ろうと思ってたのに……。なのに…結局会いに来てくれなかった…」

 

美波里は目に涙を浮かべながら思いを吐き出してくる。罪悪感が刺激される姿に思わず否定しようと試みるが、

 

「そんなの…!勝手に極月学園に行ったお前が…」

 

そこまで口にして俺の頭には1つの疑問が浮かび上がる。

 

…本当に美波里だけが悪いのか?

 

人生をかけてもいいと思っていた担当アイドルに捨てられた事実と向き合うのが怖くて篠澤と出会うまで現実逃避をし続けた俺が本当に悪くないと言えるのだろうか

 

もし俺が担当アイドルの事ならなんでも知ってる一条みたいな奴だったなら……そもそも美波里が極月学園に引き抜かれることなんて無かったはずだ…

 

篠澤を心配して動いた星南みたいに俺が極月学園に乗り込んでいたのなら…きっと美波里は昨日みたいに理由を説明してくれたはずだ…

 

どれだけ心配をかけても怒りを露わにせず最後まで俺の話を聞いてくれた篠澤みたいに美波里の話をちゃんと聞いてあげていれば…美波里が傷ついてこんな行動をとることなんて無かったはずだ…

 

俺がもっと美波里の事を信じていれば…俺がもっと自分のことを信じていれば…俺がもっと普通の人生を歩んでいれば…俺が…諦める事に慣れていなければ…

 

僅かな沈黙の間に果てのないもしも話を繰り返した俺の頭には1つの結論が浮かび上がる…

 

 

 

 

 

 

担当アイドルはおろか自分の間違いすらまともに見れていない俺なんかがプロデューサーという夢を追いかけてもいいんだろうか。

 

人に散々迷惑をかけて…一緒に夢を追いかけていたアイドルを傷付けて…人が悲しむ所を見るのが嫌だった美波里に人の未来を奪う選択を取らせるまで追い込んだ俺は…夢を追いかける権利なんてあるんだろうか。

 

そんな自己否定に黙り込んでいる俺を見て、

 

「ええ、私が悪いんです。私は悪い子なので…」

 

俺が言おうとしてた事を察した美波里はどこか諦めた様な顔をして話し出す。

 

「でも…そんな私でもいっぱい我慢して苦しみながら頑張った分は報われないと嫌なんです。極月学園に行ってからすごく辛くて…でも私が悪いから誰にも相談なんかできなくて…悩みすぎてもう他のことはどうでも良くなりました。なのでどんな手段を使ってでも欲しいものは手に入れます」

 

美波里は感じていた苦しみを語りながら足を進め俺の横を通り過ぎ篠澤の前に立つ。

 

「私に負けたら篠澤さんはアイドルを辞めてください。もし辞めないのならどんな手段を使っても貴方のアイドル人生を妨害してアイドルというものが嫌いになるまで嫌がらせをします」

 

美波里は…俺が好きだった金木犀を感じさせるような少女は腐り果て…不快な匂いを漂わせる食虫植物の様なやさぐれた少女がそこに立っていた。

 

「篠澤は…関係ないだろ…」

 

そんな美波里に精一杯の反論をしようと試みるが…

 

「関係あります。だってこの子がいるから来てくれないんでしょう?」

 

「………。」

 

自分が引き起こした碌でもない展開に完全に俺の心は完全に折れて言い返す言葉すら出てきてはくれなかった…

 

「わかった。それでいいから早く出ていってほしい」

 

そんな俺を庇う様に篠澤は美波里のお願いを受け入れる。

 

「…そうやって担当アイドルできるのも今の内なので楽しんでおいてくださいね」

 

美波里はそんな捨て台詞と共に楽屋から出ていってくれた。緊張状態が解かれた俺は楽になりたい一心で座っていた場所に戻り、

 

「俺の…せいで…」

 

俺だから起きたハプニングにそう呟いた。そうして自分の駄目なところを心の中で上げ続ける今日の夜行った事を繰り返そうとした時、

 

「プロデューサー…大丈夫?」

 

「え……?ああ……」

 

篠澤が心配そうに俯いていた俺の顔を覗き込んできた。

 

そうだ…俺にはまだ篠澤が居る今の俺は篠澤のプロデューサーだ篠澤がアイドルをできなくなるなんて言う結末だけは避けなければいけない今の美波里は誰が見てもコンディション最悪できっとまともにライブパフォーマンスなんて出来っこないこの3週間頑張り続けた篠澤ならなんとかしてくれるまだ諦めるのは早いあの時だって失敗前提で組んだライブをなんとかしてくれたまだやれるここで諦めたら俺だけじゃない篠澤まで夢を諦める羽目になる少しでも勝率を上げる為に自分を取り繕え篠澤が安心してライブできるように自分をごまかして明るく振る舞え大丈夫俺は黒井社長に我儘を通させたプロデューサーだこんな状況だって…

 

張り詰めて千切れてしまった心を立場と屁理屈で結び直した俺は、

 

「…大丈夫!それと…安心してくれ!どうなっても俺がなんとかするから!とりあえず今はライブに向けてストレッチ始めようぜ!」

 

限界を迎えている心をを隠すように笑顔を貼り付けた。

 

「……うん。わかった無理しないで、ね」

 

「無理しなきゃいけないのは篠澤だろ?この前みたいにこの状況をなんとかしてくれよな!」

 

そう言って俺は篠澤の体をほぐす準備を始める。まだ負けると決まったわけじゃない…この3週間の積み重ねで美波里に勝ってやる…

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