諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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久しぶりの教室/新しいレッスンメニューとよくない噂

 

授業5分前、俺は教室の扉の前で立ち止まっていた。正直今からでも帰りたい…だけど約束したからには最後までやらないとな…俺は、

 

「プロデュースするには…頑張るしかないか」

 

そう呟いた後痛くなり始めた胸の辺りを軽く叩き気合を入れてドアを開ける。入った瞬間一瞬の静寂が教室を包み全員の視線が俺に向く。向けられたのはたった数秒、しかし1分にも感じられるほど不快にまとわりついてきた。気がつくとさっきまでの静けさが嘘の様に各々休み時間を過ごしていた。だけど意識だけはこちらに向いている様で、

 

「あいつ辞めてなかったんだ」

 

「俺なら散々迷惑かけといて今更戻ってこれないけどな」

 

「てかあいつ今日朝に騒ぎ起こしてたらしいぞ」

 

話題はほとんどが俺の事だった。気にしていないと言えば嘘になる。だけど去年迷惑を死ぬほどかけたんだ…言い返す権利もないだろう。

 

どうにも出来ないことを気にしても仕方ないので出来る限り後ろで端の方の席に陣取る。後5分も経てば授業も始まり俺の話題だって消え去るそれまでの我慢だ…そう思っても消えてくれない精神を蝕んでくる喧騒を、

 

「久しぶりですね」

 

一条がかき消してきた。一条司、去年は3年生をプロデュースして半年ほどであのプリマステラ十王星南と戦えるまで育てた敏腕プロデューサー。問題を起こすまでは1番話していた友達だ。一条は相変わらず敬語で話しかけ隣の席に座ってくる。

 

「…そうだな」

 

俺は散々迷惑をかけた手前どんな顔して話せばいいのかわからずぶっきらぼうに返した。

 

「あさり先生に聞きました。あの有名人篠澤広さんをプロデュースすると、よく受けてくれましたね」

 

一条はそんな俺の気持ちを察してくれたのか話題を作ってくれて話しやすくしてくる。そんな気遣いを迷惑をかけた奴から受けるとは思わず…少しだけ嬉しくなった。そんな気持ちを悟られないようにできる限り普段通りに話し出す。

 

「生憎だが、篠澤の方から頼んできたんだよ」

 

「貴方の噂知らなかったんですか?」

 

「知ってたよ。その上で頼んできたんだよ、意味わかんねえだろ?その上すぐ倒れて保健室に運ばれるし…色々と特殊な奴だよ」

 

こうやって話していると去年を思い出す、こうやって自分達がプロデュースしてるアイドルの話をよくしていたっけ…

 

「そういやお前もプロデュースし始めたんだろ?」

 

「ええ、アイドル科1年の花海咲季さん月村手毬さん藤田ことねさんこの3人をユニットとしてプロデュースさせていただいてます」

 

えっ?それって朝一緒に飯を食った3人だよな?

 

「あいつらを?クソ仲悪いだろ」

 

「ええ放っておくとすぐ喧嘩してますね。」

 

一条は笑いながら答える。…こいつはそういう奴が趣味なのか?去年プロデュースしていたのも光るものはあったが問題児で有名だった生徒だ。

 

そうやって話しているとチャイムが鳴りあさり先生が教室に入ってきた。先ほどまで感じていた息苦しさはもうない…一条が気を回して話しかけてくれたからだろう。俺の罪悪感を見抜いて気負わない様に対処する…なんかプロデューサーとして負けた気がする…そんなことを考えながら久しぶりの授業に臨むプロデューサーとして胸を張れるように。

 

 

 

…夕方授業から解放された俺は、

 

「マジか…」

 

「心臓…爆発しそう…」

 

レッスン室で頭を抱えていた。

 

効率的なプロデュースには篠澤の身体能力を正しく理解することが必要だ。これまでで体力がないのは十分に理解したので体の柔軟性や筋力などを図るため小学校や中学校の体育でやる倒立や側転、前転に前屈色々やらせてみたところ…

 

何もできない…あまりに何もできないので大幅にレベルを下げて片足立ちをやらせてみたところ10秒も持たない。それどころかその確認作業だけで疲れ切って動けなくなっているありさまだ…

 

「お前ほんとにアイドルに向いてないな…」

 

「ふふ、今すごく楽しい。心臓が鳴りやまなくて…息ができなくて…生きてるって感じがする」

 

「…それ死にかけてない?」

 

朝の下調べが何の意味もねえじゃねえか。頭どころか胃も痛くなってきた頃、

 

「プロデューサー、私のこと見捨てたくなった?」

 

篠澤は相変わらず笑顔で聞いてくる。

 

「…まあな、だけど残念なことにお前以外にプロデュースさせてくれるアイドルがいないんだ。だからお前には死ぬ気で体力つけてもらうぞ」

 

笑顔には笑顔で対応しておく。そんな地獄の日々が続くことが確定した状況ですら、

 

「ふふ、プロデューサーは私の扱いがすごくうまい」

 

篠澤は地面に寝転びながら新しいおもちゃを買ってもらった子供の様な笑顔を見せる。今日の授業であさり先生は言っていた

 

『プロデューサーなら担当アイドルのことはしっかりと理解してください。』

 

こいつのことが理解できる時は来るのだろうか…

 

_________________

 

 

「プロデューサーは…はあ…本当に…はあ…鬼畜…」

 

「おう、最高のプロデューサーだろ」

 

朝から疲労でぐったりと倒れている篠澤を見下ろし篠澤が歩いた距離を記録する。昨日レッスンが終わった後ダンストレーナーと相談した結果今できるレッスン内容はほとんど老人の朝の体操と変わらないものになった。

 

しかしそんなことゆっくりやっていてはこいつがアイドルとして活動できるのは俺が卒業してからになる…だから朝に限界までジョギングさせて体力と筋力をつけ夕方のレッスンでストレッチなどをメインにすることで怪我をしにくい身体を爆速で作ってもらう計画だ。

 

「目標の7キロには4キロ足りなかったな。これ毎朝やってもらうから覚悟しろよ」

 

ここ数日で少し篠澤のことがわかった気がする。最初は躊躇なく自分の体を痛めつけようとするからただのドMかと思ったが…痛みや苦しいことが好きというよりできないことに挑戦する行為自体が好きなんだろう。だから基本的にレッスンメニューはできない前提で作ってる。

 

「ふふ、動けないのにさらに追い込んでくる、そういうところが好き」

 

御覧の通り効果覿面だ。

 

こいつのこういう部分は使える。基礎的なものが足りてないこいつには面白くもない基礎練習ばかりしてもらうつもりだった。

 

だが基礎練習はステージの上で踊る輝かしアイドルのイメージとはかけ離れているひたすら地味な反復作業、特にこういう体を作るためだけのレッスンはモチベーションを保つのが難しく塩梅が難しいものなんだが…こいつは追い込めば追い込むほど楽しそうに取り組んでいる。

 

経過を見ないと何とも言えないが…この調子なら来年にはアイドルとして活躍もできるかもしれない…今までの何もできなかった状態とは大違いだ。…これなら近いうちにプロデューサー科の奴らを見返せるかもしれない。俺は自分の散々な噂を払しょくできる希望が見えたことに思わず笑みがこぼれる。

 

「プロデューサー、そろそろ朝ごはんの時間」

 

篠澤はそう言って気持ちのいい妄想に水を差してくる。時刻は7時ちょうどくらい5時半からうごけなくなるまで歩かせた。つまり1時間半で3キロしか歩いてないってことだ…1時間半の平均歩行距離は大体7キロ。半分以下しか歩けてないこれが7キロ歩ける様になるにはいつになることやら…

 

「そうだな。動けるか?」

 

「動けない。運んでほしい」

 

篠澤は俺に向かって両手を広げてくる。何を求めてんだよこいつは…

 

「わかった。ちょっと待ってろ」

 

篠澤の動作は見なかったことにしてあるものを取りに行く。篠澤にこのレッスンをやらせれば倒れることは目に見えていた。

 

俺はできるプロデューサーだ、できるプロデューサーとは問題解決能力が高いやつの事を言う。俺は校門に止めていた台車を取ってきて、

 

「そこのお嬢さんこれに乗りな」

 

少しだけカッコつけながら乗る様に促す。

 

「…プロデューサー流石にそれは恥ずかしい」

 

篠澤は不機嫌になって抗議してくる。

 

「いや運ぶ手段これ以外にあるか?」

 

「ん」

 

篠澤はさっきと同じように両手を広げて何かを要求している。多分あれだな抱っこしろって言ってんだろうな…

 

「いや、緊急時以外やらねえよ…意識失ってないお前を抱っこして女子寮に持っていったら変な噂になるだろ」

 

「台車に乗せる方が変な噂立つ」

 

「そっちの方がマシだろ」

 

「むう」

 

ええ…篠澤が納得して台車に乗ってくれないとマジで抱っこ以外に運ぶ手段がなくなるんだが、とりあえず納得させる方法を考えろ…篠澤が納得してなおかつもしやる羽目にやってもまだ被害が抑えられる方法…

 

「…目標の7キロ1時間半で歩ける様になったら運んでやるからしばらくはこれで我慢しろ」

 

「…わかった」

 

俺のご褒美作戦に渋々納得した篠澤を台車に乗せて女子寮に向かう。なんでこいつはいきなりアイドルの道を閉ざそうとするんだ…

 

道中、朝練が終わって緊張が抜けたからか少し目眩がするくらいの眠気が襲ってくる。

 

最近朝から動くことが増えて寝不足だ…送り届けて篠澤が飯を食い終わってからは授業が始まるまでベンチで仮眠でも取ろう…来る途中すれ違ったアイドル科の生徒たちから軽蔑のまなざしを向けられた気がするが気にしないでおこう…

 

____________________________________________________________

 

あれから2週間が経った。流石は成長期といったところだろうか、オーバーワークに適応するために体に筋肉がついたおかげで片足立ち10秒はギリギリできる様になった。

 

まあ正確には9秒なんだがだが…5秒もキープできなかった2週間前に比べると大きな進歩だ。だが所詮はオーバーワークで手に入れた力。そろそろ休みが必要だと思い先ほどダンストレーナーと相談して今日の夕方のレッスンは休みにしてもらった。

 

それを今から伝えに行くために篠澤の教室に向かう。連絡先は交換したのでメールでもいいんだが教室に顔を出す時間も減った今クラスに馴染めてるかも気になるし直接伝えに行っている。

 

学園はいつも通り平和そのもので歩いているだけの道中は少し退屈を感じてしまうほどだった。去年はアイドル科の子とすれ違ってるだけでワクワクしてたんだけどな…慣れとは怖いもんだ。

 

そんな事を考えながらアイドル科1年2組の教室がある校舎まで来た。が…いつもと違う。アイドル科は女子しかいないせいでプロデューサー科の男性が歩いているだけでそれなりに視線を感じていたのだが今日は感じない。

 

というより目的の1年2組の教室の前に人だかりができそこに皆が注目しているみたいだ。何が起きているのか気になるので人だかりの隙間から中を覗いてみると、

 

「ごきげんよう、広」

 

「星南、どうしたの?」

 

生徒会長そしてプリマステラでもある十王星南が篠澤に会いに来ていた。何?あいつ問題でも起こしたのか?そんなタイプには見えなかったけど…あいつの知らない一面を見れそうでワクワクしてきた。怒られてたら後でいじってやろう。俺はできていた人ごみに紛れながら2人を観察する。

 

「ちょっと…ね。それより調子はどう?困ってることはない?」

 

「うん、大丈夫」

 

「…そう、じゃあ単刀直入に聞くわね貴方のプロデューサーのことよ」

 

ん?おれのこと?

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