諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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52話 女の子が1番可愛い瞬間

 

「〜♪」

 

篠澤が位置につくと同時に音楽が鳴り始めライブが始まる。

 

篠澤の動きは3週間の成果が出ているのか今までよりも格段に動きのキレも声量も何もかもが1段階レベルが上がったと言っていいほどに洗練されている。

 

でも美波里のライブと比べられる水準にすら達してはいない…動きの迫力も、声に込められた細かい技術も、自分が持つ個性の表現だって…1つも美波里のライブに勝っていると言えるところなんてない…

 

「〜♪」

 

それなのに…美波里のライブよりも目が、心が釘付けになっている…

 

技術が足りていない所作も、楽しむこと以外何も考えてなさそうな無邪気な笑顔も、声量が足りてないか細い声すらも…篠澤の全てが愛おしく感じる…

 

自分の感覚を疑い客席に目をやる。だが見ている誰もが篠澤を愛しく感じているのか美波里が撒き散らした絶望を感じさせない程に声を上げペンライトを振り、トップアイドルのライブかと錯覚するほどに盛り上がっている。

 

「〜♪」

 

何だこれ…意味がわからない…篠澤のライブの魅力は見た目と動きで醸し出しす神秘性が魅力のライブだったはず…

 

なのに今は見ている全員に可愛いを正面からぶつけてくる…誰もが想像するアイドルの様なライブをしている…

 

神秘性と可愛さは似ている様で全然違う魅力…ミステリアスで手が届かないから感じる神秘性と親しみやすくて距離が近いと感じやすい可愛さは使う技術が全く違う。

 

この3週間神秘性を強めるレッスンばかりさせてきた筈なのに…何で…篠澤は自分の事をあそこまで可愛く見せれるんだよ…

 

「随分と化けたな。美波里にここまで対抗してくるとは…予想外だ」

 

いつの間には隣に居た黒井社長が口を開く。俺は篠澤のライブを目に焼き付けるのに夢中で思った事をそのまま口に出す。

 

「…対抗できてるんですか?」

 

「QUINTETは競技性が高いわけじゃないからな。審査員の好みにもよるが…美波里が撒き散らした絶望をここまで払拭されれば勝負は五分五分と言ったところだろう」

 

そんな現状を的確に分析できている黒井社長に、

 

「黒井社長…教えてください。何で篠澤はあそこまで可愛くなってるんですか?」

 

篠澤があそこまで愛おしい理由の答えを求めて呟く。

 

「…貴様はやはり大馬鹿者だ。本人が直接伝えていたではないか」

 

「好きって言われただけですよ…」

 

「はあ…プロデューサー志望なのに基本的な事も知らんようだな。漫画やドラマでよく言われてるだろう?『女の子が1番可愛いのは好きな人の前』だと。

 

あの子は貴様に可愛いと思って欲しくて誰が見ても愛おしいアイドルになっているんだ」

 

黒井社長の答えに俺の心に刻みつけられた絶望の黒い線が解けていくのを感じる。

 

はは…そっか…俺がプロデューサーじゃないといけないってのはそう言う理由か…

 

俺が居たからこんな…心が…魂が震えるライブができたんだ…

 

そんな諦めたはずの夢を…諦めたはずの人生を…もう一度頑張ろうと思える最高のライブに俺は…苦難ばかりの人生で初めて報われた気がした。

 

 

 

 

 

 

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