改めて先日は不快な思いをさせたり心配をおかけして申し訳ありません。迷惑をかけた分は面白い作品で返すつもりなので気長に待ってください!
「ありがとうございました…!」
「「「「「ワァァァァァ!!!!!」」」」」
会場を包み込んでいた絶望に怯むことなく全力で自身の可愛さを伝えて来た篠澤のライブに会場は今日1番の盛り上がりを見せている。そんなライブに……改めて自身のプロデューサーとしての実力不足を実感する。
出会った頃、俺は篠澤にはなりたいアイドル像がないと判断した。それは篠澤の言動からアイドル自体が苦難な道を歩くための手段としか思えなかったからだ。だから俺は今までずっと篠澤広というアイドルが1番輝きやすい神秘性という魅力を強化するレッスンを組んできた。
神秘性と可愛さは真反対の魅力。もし……篠澤が何も考えずに俺のレッスンメニューだけをこなしていたのならここまでのライブはできていないだろう……このライブで見せた細かな動きも声の出し方も表情の移り変わりもそのどれもが一朝一夕では成し得ないものだった……
きっと篠澤は俺が自分の尻拭いに忙しくてレッスンを見てやれない間ずっと1人で考えていたんだろう。自分がなりたいアイドルとはどういう魅力を持つのか、なる為にはどんな技術が必要なのか…
そして…ここまで可愛く笑って…歌って…踊って…好きな俺に篠澤広は可愛い女の子だと思ってもらおうとしたんだ…はは……そんなの……そんなの……!
好きになっちゃうだろ!!俺お前のプロデューサーなんですけど!!担当アイドルを好きになっちゃったら色々問題あるじゃん……本当に俺はプロデューサーとしてのタブーを何個犯せばいいんだよ……
そんな複雑な感情に飲まれながら歓声に包まれて楽しそうに笑う篠澤のことを眺めていると、
「…見惚れている所悪いが。貴様の聞きたいことに答えたんだ今度はこちらの話を聞いてもらうぞ」
横に立つ黒井社長がステージの方を見ながら少し真面目なトーンで話し出す。
「…別にいいですけど。美波里の事で損害賠償とかはやめて下さいよ俺金ないんで」
黒井は俺の言葉にステージに向けていた視線をこちらに向けて、
「そんなこと見てればわかる。…なに貴様が知りたい事を教えてやろうと思ってな……気になるだろう?美波里が何故貴様の元を去って961プロに行ったのか」
俺が去年から1番の気になっていることを話そうとしてくる。
「……そりゃ気になりますけどわざわざ教えてくれる理由はなんですか?」
俺は意図のわからない黒井社長の言葉に少し警戒しながら言葉を待つ。
「もし今日この場所で貴様の担当アイドルに美波里が負けてしまった場合……美波里は十中八九アイドルを辞めてしまうだろう。私もそれは望まん…だから貴様にそうならんように協力してもらいたくてな」
そんな美波里の対応に困り果てたのかどこか歯切れの悪い黒井社長に怒りを感じる。担当アイドルを奪ったやつに弱い所見せんじゃねえよ…
俺は絶望が抜けきった頭で感じた怒りを今まで感じていた違和感の解消のためにため息と一緒に吐き出す。
「はあ……わかりました。できる限り協力するので教えてください。なんで美波里が俺の元を去ったのか…」
昨日は本当に失敗した…物事の本質を見ずに感情に任せて話に来てくれていた美波里に1年間行き場なかった感情をぶつけてここまでの事を拗らせた。だから今度は絶対に失敗しない。どんな事実があろうとも受け入れて冷静に判断を下してやる。