あの人と出会ったのは家族の反対を押し切り飛び込んだ先で挫折を味わった時だった。
「如月美波里さんだよね?俺プロデューサー科の斉藤って者なんだけど……今日の試験を見て君をスカウトに来たんだ!」
彼は審査員の先生すら困らせる私の試験を見てそう言い放った。
「……理由はなんですか?あの試験……誰が見ても私が一番劣っていたのに……」
「……何言ってんの?そんなの当たり前だろ?」
「え?」
「あの試験お前以外の奴は内部進学組だぞ?3年前からアイドルになる為に努力してる奴らに1年目のお前が勝てるわけないじゃん」
「……そうなんですか?」
「いや……お前と同じクラスの奴らだろ?それくらい把握しとけよ……」
第一印象は最悪だった。これ以上言葉を交わしたくないと思うくらいには……でも家族の元から離れて心細かった私はそんな人とでも話したくて会話を続けた。
「……クラスメイトなんかに興味ないです。私はトップアイドルになる為に初星学園に入ったので」
「ハハ!そう言うストイックなところも良いじゃん!なあマジで後悔させないから俺の担当アイドルになってくれよ」
「……なんで私なんですか?」
「正直本人の目の前で言うの恥ずかしいんだけど……君の試験で見せたダンスに誰よりも熱量を感じたからだよ」
「……。」
「周りの事を見てないお前に教えてやる。あいつらはお前と比べればアイドルのベテラン、ここで過ごした3年間で自分の魅力と向き合って方向性もある程度固まってる段階だ。だからこの試験ではいつもの自分を出せば良いだけ……でもお前は違う。自分に何が向いてるのか自分がなりたいアイドルはどんな物かイマイチわかってないだろ?」
心中を全て言い当てられる不快感……
「だからがむしゃらに今自分にできる事をあの試験で見せた…最下位なんて当たり前。何故ならあのダンスで何を表現したいのか見ていててんでわからない。正しく闇鍋みたいなダンスだったな」
自分の不出来さを笑われながら的確に指摘されて悔しくて今にも逃げ出したい状況なのに……
「でも俺はそのなんでも具材にしようとする熱量に魅せられた!なあ美波里!俺と組んでトップアイドルなろう!お前なら絶対になれるって!」
何故か私の直感は『この人を逃すな』と告げていた。
「……貴方の担当アイドルになればそれが変わるんですか?」
「それは……わからない」
「……。」
もしかしたら私の直感は当てにならないのかもしれない……
「でも一緒に悩んでやれる!お前友達いないだろ?1人で悩んでも碌なことにならないのは今までの俺の人生で証明されてるから!これマジで!人生の先輩の言うことは聞いたほうがいいって!結果が出なかったら辞めても良いから取り敢えず半年だけでも組んでくれ!絶対に後悔はさせないから!」
でも…私の心がこんな歳下の女の子にプライドもかなぐり捨てて頼み込む男に傾いてしまったのは確かだ。
「……わかりました。結果が出なかったら切り捨てても良いなら良いですよ」
「……!俺は期待に応える男だから安心しろよ!じゃあ明日また詳しい話しようぜ!俺これからバイトだからお疲れ〜!」
それからはまさに快進撃。1週間も掛からず私のなりたいアイドル像も磨くべき技術もあの人は教えてくれてそれにあったレッスンも作ってくれた。レッスンをこなせばこなす程に実力は上がって行き1カ月経った頃には内部進学のクラスメイトすら私に試験で勝てない程私はアイドルとして強くなった。それに比例するように、
「あいつ最近調子に乗ってない?」
「話しかけても最低限しか返さないし周りの事見下してるのが伝わってくるよね〜」
「すごいプロデューサーが付いただけなのに自分の実力って勘違いするのやめてほしい〜」
クラスメイトとの距離は遠くなっていった。
でも私はそれでもよかった。だって…
「プロデューサーはなんで私の事ここまで信じてくれるんですか?」
「いや……担当アイドル信じてないプロデューサーなんかいないだろ…」
「そうじゃなくて……たまに私が勝つ事前提でプロデュースしている時ありますよね?なんでそこまで私の勝利を信じられるんですか?」
「美波里だからだろ」
「…え?」
「俺はお前が毎日限界まで頑張ってるの隣で見てるんだぞ?誰がそんな奴の負けを勘定に入れるんだよ。お前が頑張り続ける限り勝つ事を信じるのがプロデューサーの役目だからな!来週からNIAが始まるんだぞ?いらない心配せずレッスンに励んでこい!」
プロデューサーだけは私の事を信じて私を支えてくれる。持てるすべての力を私に注いでくれる。だから私はその期待に応えるべきだった……なのに……NIAでは2位しか取れなかった。勝つ事だけが勝利だけが出来損ないの私でもプロデューサーに贈れるものなのに……
「プロデューサー……ごめんなさい…」
「……美波里は出せるだけの力は出してたんだ、それで負けたんならしょうがないよ」
「でも…それじゃあ…」
「な〜に負けの1つや2ついい経験だって。それに負けても問題ないようにするのがプロデューサーの仕事だろ?」
「えっ……」
「……何驚いてんだよ。お前についてるのはクラスで2番目に優秀なプロデューサーだぞ?負けた時のことも考えてるに決まってんだろ」
「……すみません」
「謝らなくていいっていつもみたいに優秀な俺に感謝しながら褒めてくれ」
「……ごめんなさい」
「えっと………俺がごめん…テンションおかしかったよな、あんまり人の事慰めるの上手くなくて……」
いつからだろう彼が私の勝利を疑うようになったのは、いつからだろう私の頑張りが足りなくなったのは……
それから私は必死で考えた今以上に頑張る為にはどうするべきか負けない為にはどうするべきか。そんな時、
「君、如月美波里だね?」
「はい……貴方は?」
「俺は極月学園の学園長であり961プロの社長を勤めている黒井崇雄という者だ。君と少し話したいことがあってね。まあ敢えて端的に言うならスカウトという奴だ」
黒井社長から声が掛かった。でもこんな大事なこと1人で決めることなんて出来なくて話を聞いた後プロデューサーを探した。そこで、
「あそこまでやって結果出せないアイドルが悪いよなッ…!?なにすんだよ!!」
私を馬鹿にするクラスメイトを殴りつけるプロデューサーを見た。
「ち、ちょっと!落ち着いてください!」
「うるせえ!!意図が見え見えできめえんだよ!!お前は俺にプロデューサーとして実力が足りなかったから結果が出ませんでしたって言って欲しいだけだろうが!!そうだよ!!俺の実力が足りなかったんだよ!!これからお前の前歯も足りなくなるけどな!!」
「てめえ…!!」
「こ、こんな所で殴りあわないでください!!」
ああ……私はプロデューサーに私だけじゃなくて自分すらも信じられなくなる様なライブをしてしまったんだ……なら……プロデューサーが私の勝利を信じて疑う余地すら無い程の実力を身につけよう。そう思って移籍したのに……
「美波里……お前の負けだ」
「え……?」
彼が連れていた何もかもが足りていないアイドルに負けてしまった。
「う、嘘ですよね?私があんな子に負けるなんて……」
「……俺がこんな嘘をつくと思うのか?」
黒井社長は今まで聞いた中で一番優しい声色で私の敗北を告げる。
「…………じゃあ何のために…私は……」
もう何をすれば良いのかわからない……やれる事は全部やり尽くしてしまった……自分がやってきた事がすべて無駄になったかの様な感覚……もしかしてあの記事が出た時……彼もこんな気分だったのかな…?
そんな絶望の上塗りを繰り返していた時、
「随分と酷い顔だな美波里。正しく敗北者って顔だぞ」
初めて会った時のみたいに最悪な印象を与える発言をぶら下げて彼が会い来てくれた。