58話 友人達との作戦会議
壮絶な出来事ばかりだったQUINTETの次の日、俺は新たに出来た問題の解決のために頼れるプロデューサー仲間を生徒会室に集めた。
「ごめん待たせた!忙しい中集まってくれてありがとう星南、一条」
「全く……呼び出したのは貴方なのになんで遅れてるんですか」
まあ……最近の睡眠不足のせいで寝坊しちゃったんですが……
「それは…寝不足で今までずっと寝てたって言うか……その…本当にごめん……」
俺はHIFに向けて忙しいであろう2人を待たせてしまったことに対して罪悪感を感じて頭を下げる。NIAは1週間後のfinaleで人気投票1位と2位が争い終わりを迎え、その1週間後にHIFの予選が始まる。つまりHIFに向けて最終調整を行っている時期に2人を呼び出している……それなのに遅れてるのは申し訳なさすぎて頭を上げられない……そんな俺を見かねてか、
「まあ……それは良いとしてこれは一体どう言う人選なのかしら?一応私とこの人は敵同士なのだけど……」
星南が助け舟を出してくれた。俺はそれに全力で乗り込んで説明を始める。
「それは……プロデューサーやってる男女両方の意見が聞きたかったからだ。俺超嫌われてるから相談できる人がお前らくらいしかいないんだ!」
「何でそんなに自信満々なの……」
俺の胸を叩きながら誇らしそうに発した言葉に星南は呆れて頭を抱える。浮かれている俺に慣れている一条はいつも通り話を進めてくれる。
「それで本題ですが相談したいことは一体何なんですか?」
「えっと……一条ならわかると思うんだけど……俺は今プロデューサーとして1番良くない状況に陥っている」
「……貴方まさかまた問題起こしたわけじゃないわよね?」
プロデューサー科じゃない星南には上手く伝わらずすごい誤解をされているが……
「それは……もしかしてアレですか?」
「ああ……アレだ」
「それは……本当に困りましたね」
一条にはバッチリ伝わったようで遅刻した俺に呆れていた表情から真面目な表情に変わってくれた。そんなプロデューサー科だけがわかる緊急事態に、
「ち、ちょっと2人だけで盛り上がらないで頂戴!プロデューサー科じゃない私にも分かるように説明してもらえるかしら?」
星南は痺れを切らして説明を求めてくる。事態は深刻。正直説明してる時間も惜しいが……女の子でプロデューサーでもある星南の意見も欲しいから俺は星南にもわかるように問題について話す。
「その……つまり…篠澤のこと好きになっちゃいそうなんだ!」
俺の発言に生徒会室はしばし静寂に包まれ、
「……え?ああ…そうなの。………だからどうしたの?」
事態の深刻さをまだ理解できていない星南が口を開く。
「…だからどうしたじゃねえよ!プロデューサーとして1番駄目な状態だろ!」
「そうですね…事務所所属ならプロデューサー交代も視野に入れられる案件ですよ」
「……ごめんなさい。私プロデューサー科の授業を受けてる訳じゃないからわかるように説明してもらえると助かるのだけど」
星南の話を聞いて一条がペンを取りホワイトボードの前に立って説明を始める。
「まあ…言わずもがなですが幻想を売っている以上アイドルと恋愛は切り離すべきもの。プロデューサーとアイドルの恋愛が始まったら大変なことになります。ここまでは自身がアイドルの星南さんも共通認識ですよね?」
「ええ、そうね。アイドルにとって恋愛とは捨てなきゃいけないもの。どんな魅力を売りにしていてもアイドルという形を取って活動をしている以上応援してくれるファンの人達を裏切る真似は何よりも避けなきゃいけない……それはわかったのだけど何でプロデューサーである彼が広の事を好きになって致命的なのかしら?彼が自制すればいいだけだと思うのだけど…」
「それがそうでもないんですよ。プロデューサーとは常に冷静でありながらも担当アイドルに対して熱量を持っていなくていてはいけません。異性として担当アイドルを好きになりすぎるとそのバランスが崩れてしまうんですよ」
「なるほど……入れ込みすぎて周りが見えなくなってしまうということね」
「そういう事です。プロデューサー業において客観性はかなり重要ですからね。自分が担当アイドルの魅力だと思っている部分を人に伝えるためには一度担当アイドルに対する先入観などを消さないといけないのですが……好きになりすぎるとそれができなくなってしまうんですよ」
「……確かにそれは困ったわね」
「特に彼は自分の直感や自分なりの分析をかなり信じているタイプの人間ですからね……そこが狂うととんでもないことになりますよ」
星南はプロデューサー科の最初の授業を要約した一条の説明に納得してくれたようで事態の深刻さに頭を抱えている。
「ちなみに今はどんな症状が出ているんですか?」
「今は篠澤がカブトムシの幼虫頬張ってる動画が愛おしく感じる」
「……イカれてるんですか?」
「仕方ないだろ!そう感じるんだから!そう感じないようにする為に作戦会議しようって言ってんの!」
「正直手がつけられないくらいに重症だと思うのだけど……」
俺の今出ている症状を聞いて2人ともいきなりお手上げ状態になっている。おい!せめてもうちょい悩んでくれよ!集めた意味ないじゃん!そんな事を思いながら、
「マジで頼むって!やっとプロデュースが面白くなってきたのに他のやつに任せるなんてしたくないんだよ!」
俺は解決策を求めて懇願する。そんな俺に2人は大きくため息をついた後、
「正直たるんでるとしか言いようがないとは思いますが……まあ友人の頼みですからね。知恵くらいは貸しましょう」
「ありがとうございます!星南さんもよろしくお願いします!」
「はあ……わかったわよ…とりあえず貴方がそうなった原因を教えてもらえるかしらQUINTETが始まる前はそんな感じじゃなかったわよね?」
問題解決のために情報を求めてくる。
「それは…その…篠澤のライブが始まる前に不意打ちでほっぺにキスされてから意識しちゃって……」
「「ああ……」」
理由を聞いて2人は納得したのか揃って声を漏らす。
「篠澤さんも良くやりますね…恋愛がタブーのアイドルの大会で……というかよくそれ話題になってませんね」
「まあ……美波里がライブした直後だったから注目が美波里に集まってて見られてないのと俺がその後黒井社長ぶん殴ったからそっちの方が話題になってる的な……」
「ち、ちょっと待ちなさい!そっちの方が大問題じゃない!貴方本当に何してるの!?」
「あっ、そっちは大丈夫。黒井社長から許しもらってるから気にしなくていい」
「本当にどういう事なの……」
俺がついでのように放った情報に星南は相談どころじゃなくなってしまった。まあまだ1日しか経ってないからわかんないけど……記事も出てないし美波里も何とかなったし多分大丈夫だろ……多分。
「まあ…色々と聞いたいことは増えましたが……それなら簡単な解決方法がありますね」
「まじで!?」
流石頼れるプロデューサー仲間の一条くん、まだ話し始めて10分も経ってないのにもう解決策を思いついたらしい。
「そうかしら?好意を持つ強烈なきっかけがある以上簡単じゃないと思うのだけど……」
「ならそのキッカケを汚してやればいいんです」
「つまり……どうすんの?」
「つまり……貴方が怖いと思ってる人に頬にキスしてもらうんです。そうすれば思い出が汚れて思い出したくなくなり自然と感情も元に戻るでしょう?」
一条の発言で俺の頭に一筋の電流が走る。そうだよ……キスが原因で意識しちゃうならキスで上書きすればいいんだ……そしてこのアイドル業界で勝利にこだわり勝つ為なら手段を選ばない一介のプロデューサーなら敵にまわしたくなくて誰もが恐れる男が1人いる。そして俺はその人にでかい借りを作ったばっかりだ……これは神が言っているんだ……その人にキスをしてもらえと。…
「……なるほど。かなりのショック療法だけどやる価値はあるかもしれないわね」
「問題は都合よくそんな人がいるのかという所ですが……星南さん心当たりは?」
「彼が怖がって怯えてる人よね……燕とか?」
「……異性は駄目ですね。新たな問題が生まれる可能性があります」
俺が神の啓示を受けている間も2人は問題解決のために案を練ってくれていた。そんな頼れる友人達を安心させる為にも、
「2人ともありがとう!もう問題は解決したも同然だ!」
自信満々に発言する。
「そうかしら?かなり人選に悩むと思うのだけれど……」
「大丈夫だって!キスをしてもらうのにぴったりな人間を俺は知ってるし丁度昨日借りも作った」
「……誰ですか?」
そんな自信満々な俺に嫌な予感がしているのか2人は疑い深い表情で見てくる。俺はNIAが始まったばかりの作戦会議の時のように、
「それはもちろん黒井社長だ!」
「「は?」」
不敵な笑みを浮かべながら答えてやった。
「てことで解決方法がわかったから早速解決してくる!今から学園長にアポ取ってもらえるように頼んでくるよ!2人ともマジでありがとう!金入ったらなんか奢ってやる!!」
「ち、ちょっと待ちなさい!」
そう言って俺は夏休みで人が少ない校舎を学園長を探して走り去る。待ってろよ黒井社長!あんたの唇は俺の物だぜ!
______________________________________________________
斉藤が走り去った後生徒会室で、
「では、我々を集めた奴もどこかに行ってしまったので解散と言う事で」
斉藤の奇行に慣れている一条は帰り支度を始める。そんな暴走している友人を放置する一条に星南は少し引きながら質問する。
「あれ放っておいていいの?またとんでもない事やらかしそうな勢いなのだけど……」
「去年からの因縁にケリをつけて浮かれてるだけなので大丈夫ですよ。まあ……こんな忙しい時に下らない理由で巻き込んでくるのはやめて欲しかったですけどね」
一条は久しぶりに見た友人の浮かれている姿に笑みと愚痴をこぼす。
「そう……貴方がそう言うなら信じるわ」
「……意外ですねもっと嫌われてる者だと思いましたが」
「私からことねを奪った貴方のことは嫌いよ。でもことねを見出した貴方の観察眼は評価しているの……だからもう一度だけ聞きたいのだけど本当にあの人を放っておいて大丈夫?また問題起こったりしないわよね?」
星南はこれまでの斉藤が見せてきた姿を振り返り安心するために見る目だけは信じている一条に再確認をする。
「まあ……発想が馬鹿すぎて学園長の笑いが止まらなくなるかもしれませんが……起きてもそのくらいだと思いますよ」
「そう……それなら安心ね。笑いすぎて救急搬送なんて聞いたことがないし杞憂が過ぎたわね」
「それは……流石にないでしょうね。もしそんなこと出来るなら彼はプロデューサーじゃなくて芸人にでもなるべきでしょう」
そんな冗談を言い合い笑い声が響く夏休みで人が少ない初星学園で学園長が呼吸困難で保健室に運ばれてしまったのはまた別の話。