「……クソ……全然上手くいかね……」
学園長を保健室送りにした次の日、俺は篠澤に呼び出された事務所代わりの教室で頭を抱える。クソ…!せっかく解決策がわかったっていうのに……なんか事情説明したら学園長笑い転げた挙句死にかけてとんでもない大事になってあさり先生からめっちゃ怒られたし……学園長ルートを諦めて美波里に頼もうにも一昨日目にクマができるくらい疲れてたから今は流石に休んで欲しいから頼めねえし……昨日大事になってなければ体調不良とか言って篠澤と会うの避けれたのに…寮に住んでる学生の間で話題になったせいで流石に呼び出されたし……それもこれも学園長のせいだ!なんで倒れるまで笑ってんだよ学園長!大体学生のお悩み相談で腹抱えて笑うとか教育者としてどうなんだよ!
そんな昨日のことを振り返りながら上手くいかない現実に文句が出てきた頃、
「やっと観念した、ね。プロデューサー」
昨日体調不良と嘘をついて煙に巻いた割には怒ってない篠澤が教室の扉をあけて教室に入って来た。俺は、
「やっとって……まだ2日しか経ってないんですけど」
やはり意識してしまっているのか普段通りにはできず篠澤を直視するのが照れ臭くて視線を逸らしながら言葉を吐く。そんな俺の所作を気にしてないのか篠澤は、
「今の私達には時間はすごく大事。千奈に勝つ為には1日でも長すぎるくらい、だよ」
よくわからない事を言いながら普段通り俺の隣の椅子に座ってくる。俺は近づかれたことにより緩みそうになる表情をポーカーフェイスで誤魔化しながら、
「いや……直近で倉本と争うことなんてあるか?FINALEなんて出れるわけないし……」
話を続ける。面白い事に全力疾走なこいつにバレたら何されるかわからないんだ……絶対に隠し通せ……そんな俺に、
「……もしかしてNIAのランキング見てないの?」
篠澤は少し呆れた様子で呟く。
「え?まあ…色々あったから見てないけど……」
「なら見てみるといい。きっと驚いちゃう、よ」
俺は言われるがままに携帯を取り出してNIAのランキングが載っている公式サイトを開くと、
「……なにこれ」
1番目立つところにあった篠澤広という名前の横に書いてある1位という順位に思わず言葉が漏れた。
「ふふん、すごいでしょ」
そんな上手くいき過ぎている現実に思考停止している俺を見ていつものように自信満々に胸を張る篠澤に俺は、
「いや…!流石に1位はおかしいだろ!なんでこんなことになってんだよ!」
説明を求めて詰め寄る。そんな俺に、
「わ、私も詳しくはわからないけど…QUINTETの運営アカウントからライブ映像がネットに上げられてから千奈達と出た配信の再生回数が爆発的に伸びてた。多分そのおかげ、だね」
篠澤は自分で調べたであろう内容を説明してくれる。なるほど……元々話題になってた動画と961プロのアイドルを打ち負かしたという実績の相乗効果でこうなったって感じか……でも…
「……それだけで1位取れるもんなの?」
去年も美波里を投票で1位してやれたが…それはプロデューサー科の奴らと色々とイベントやライブを企画してなんとか取れたんだ……今年も簡単な道のりじゃなかったとは言え…テレビに出まくっている倉本を押し除けて1位はどう考えてもおかしいだろ…俺は全てが上手く行き過ぎている夢としか思えない現状を受け入れる事ができなくて思っていた事がそのまま言葉に出る。
「それだけじゃなれなかったと思う、よ。プロデューサーこれを見て欲しい」
「えっ……」
困惑を隠せない俺に篠澤が見せてきたのは美波里のSNSアカウントだった。美波里のアカウントの最新の投稿はQUINTETの公式が出した篠澤のライブ映像を引用して美波里本人が付け足したであろう『完敗でした。次は負けません』の一言。
「美波里が私のライブ映像に反応してくれてる。これが1番伸びた要因」
そんな勝ちにこだわる961プロのアイドルとは思えない美波里の投稿に拗れてしまっていた美波里との関係が改善された事を実感して俺は、
「そっか…そりゃ伸びるわけだな……」
感慨深くなった。美波里はもうすでに961プロでアイドルとして活躍している。そんな美波里が負けを認めて篠澤をライバル視するような投稿をすれば篠澤の注目度は跳ね上がる……だが同時にアイドルとして格下と言ってもいい篠澤に負けた事を世の中に…応援してくれているファンに伝える事になる……こんな事知っていれば黒井社長は止めるはずだ。きっとあいつなりに迷惑をかけた分のケジメをつけようとしたんだろうな……相変わらず馬鹿みたいに実直だな……そんな事を思い、
「プロデューサーすごく嬉しそう」
笑みを隠せない俺を見て篠澤は嬉しそうにしながら俺をいじってくる。
「……はいはい嬉しいよ。そんな事よりFINALEに出るなら決めなきゃいけないことがある」
「ふふ、わかった。じゃあ久しぶりのミーティング、だね」
篠澤のいじりをいなしつつ俺はプロデューサーとして、今篠澤広というアイドルに吹いている大きな風に乗れるように方針を決めていく。篠澤は今まで俺の噂やトラブルがあったせいで基本的に限られた選択肢を常に押し付けられていた……だがNIAが始まる前に抱えていた問題とNIAが始まってから出来た問題が全て解決してくれた今は自由なプロデュースができる……そんなやっと得たなんでもできる状態で1番最初にやる事は、
「そういう事だ!そして今回のミーティングの議題それは……篠澤のライブパフォーマンスの方向性だ」
トラブルまみれのNIAを通して得た技術の整理だ。やっぱり基本は1番大事だからな!そんな今まで俺がやってきた破茶滅茶プロデュースとは違うありきたりなプロデュースに篠澤は、
「プロデューサー……1週間後に千奈との真剣勝負が控えた今決める事じゃないと思う」
不満そうに口を挟んでくる。まあ……アイドルとしてそれなりに成長してちゃんとした結果を出している篠澤に今更すぎる話と言われても仕方ないんだが……
「いや今決めた方が絶対にいい。それくらい篠澤が表現してる物はチグハグなんだよ」
篠澤がQUINTETで見せたライブで使っていた技術は今まで培った技術と感覚で併用するには相性が悪すぎる。
「…どういう事?」
「いいか?まずQUINTET前の篠澤のライブパフォーマンスでは神秘性が主体だっただろ?でもQUINTETで見せたライブでは誰もが篠澤が可愛いと思えるようなライブをした」
「プロデューサーも可愛いって思ってくれたいいライブだった、ね」
QUINTETの後に開催した篠澤の事を褒めまくる大会を思い出してるのかいらない茶々を入れてくる……俺はそんな篠澤を無視して話を続ける。
「……可愛いと神秘的。わかりやすく言い方を変えると『可愛い』と『美しい』。これって真逆の魅力なんだ。篠澤は頭がいいからなんとなくわかるだろ?こいつらを混ぜ合わせるのはかなり無茶だからどっちにするか選んで欲しいんだよ」
「うん。不完全な物からも感じる『可愛い』と完璧なものを見ると感じる『美しい』が真逆の性質を持ってる。でも私は美波里にも勝ったスーパーアイドル。どっちの表現もできるならどっちもやればいいと思う、よ」
篠澤はできるだけ難しい事に挑戦したいのか自信満々に強欲な事を言ってくる。だが…
「まあ……トップレベルの才能を持つアイドルならできるかもしれないけど…幼少期からアイドルの英才教育を受けた星南だって曲によって感じさせる魅力は基本的に1つにしてるだろ?基本的に2つの魅力を1つのライブで同時に感じさせるのってそれくらい難しいんだよ。アイドル始めたての篠澤にできる芸当じゃない。どちらかに絞らないと中途半端になる」
篠澤は成長期とは言えまだ運動をし始めて数ヶ月レベルの身体能力、プロデューサーとしてプリマステラの星南ですら避けるレベル事をさせたくない。だからここ数ヶ月頑張って身につけた技術か自分で身につけた技術かどちらかを捨ててもらう。そんな俺の残酷な方針に篠澤は、
「そっか…じゃあ頑張って身につけた技術を捨てなきゃいけないんだ。それは……ふふ、すごくままならない、ね」
相変わらず楽しそうに笑っている……これは自由に色々できる今のうちに他の楽しみ方も教えてやらねえとな…その為には学園長の協力がいるな…やる事が明確になった俺は、
「まあそういう事だ……FINALEは観客を沸かせたもん勝ちの勝負になるからな。倉本に勝ちたいんならそこら辺ちゃんと考えないと負けちゃうぞ」
どちらを捨てるのか考えさせる為に篠澤をしばらく1人にするついでに鞄から菓子折りを取り出して学園長に謝りに行く。そんな俺を、
「……プロデューサーはどっちがいいと思う?」
引き止めるように篠澤は意見を求めてくる。
「…それは篠澤が決める事だ。俺の意見は関係ない」
「むう…私達は一心同体。意見くらい言ってくれてもいい」
「……前から言ってるけど俺は使えるもんはなんでも使う人間なんだよ。だから俺が口出すとお前のなりたいアイドル像に俺の方針が混ざるだろ?俺はそれが嫌だ。だから自分で考えて言語化してくれ」
俺は篠澤を拒絶するかのように言葉を吐く。いやまあ……一緒に考えてもいいんだけど……篠澤はアイドルをやってく上でプロデューサーである俺の意見をかなり取り入れてくれる……篠澤はうまくいかない事を楽しむ事に重きを置いていたせいか自分のなりたい姿についてはかなり曖昧な節があった……でもQUINTETは自分で考えた表現で挑んでいた。もしかしたら無意識のうちに憧れた姿を追いかけようとしていたのかもしれない……なら今は自分で考えさせるべきだ。そんな事を思い距離を置いた俺の態度に、
「そっか……でも私1人じゃすごく時間掛かっちゃうと思う」
少ししょんぼりしながら弱音を吐く。そんな篠澤に俺は、
「大丈夫だよ。俺の方針ガン無視してでも表現したかった事があるならすぐに言語化できるって」
いつものように嫌味を混ぜながら対応する。
「ふふ、わかった。じゃあ少し考えてみる、ね」
その態度に安心したのか篠澤は学園長室に向かう俺のことを笑って見送ってくれた。
「ああそうしてくれ。じゃあ俺は学園長に頭下げてくるから1時間後くらいにまたミーティング再開って事で」
「いってらっしゃい。待ってる、ね」
そんなやり取りをしながら俺はポーカーフェイスを保ちつつ教室を出る。そして教室を出てしばらく歩いた後、
「はあ……話すだけで滅茶苦茶しんど……」
かなり重症な自分に呆れながら呟く。ドキドキする自分を押さえながら話すのってここまでしんどいんだ……恋愛で頭がおかしくなるやつの気持ちが少しだけわかったな……学園長には違うこと頼みたいから折を見て美波里に黒井社長のアポ取ってもらお……