諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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篠澤の選択

「聞きたいのだけどなんであの人にプロデュースを頼んだの?」

 

星南は篠澤に疑問を投げかける。なるほど…台車で運ぶたびにアイドル科の生徒からすごい目で見られていたからな…その生徒たちからの相談が生徒会にでも届いたんだろう。ならこのままあいつに喋らせてればいいだろ、喋っていれば自ずと誤解だってわかるはずだ。

 

俺はそう思いそのまま学園一のアイドルと実技0点のポンコツアイドルの邂逅を見守ることにした。

 

「私がアイドルになるためにはプロデューサーが必要だから。あの人とは縁があったから私のプロデューサーになってもらった」

 

「そう、特にプロデューサーにこだわりがないってことかしら。なら私がプロデューサーになるわ」

 

「は?」

 

話が想定していなかった方向に飛び驚きが口から漏れる。その声で俺に気付いたのか星南が振り返り俺に話しかけてくる、

 

「あら、居たのね。丁度よかったわ。私に広のプロデューサー譲りなさい」

 

星南は俺を軽蔑しているのか話す言葉の節々に敵意を感じる。

 

「…いきなりわけわかんねえこと言ってんじゃねえよ。大体なんでお前に担当アイドル譲らなきゃいけないんだよ」

 

そんな態度に思わず敵意で返す。先ほどまでの学園1のアイドルに向けられていた周りの人間の羨望のまなざしが俺への敵意に代わるのを肌で感じる。

 

「プロデューサー、私…」

 

「うるさい。今あいつと喋ってる」

 

何か言おうとした篠澤を遮り、臨戦態勢に入る。2週間前の俺ならさっさと篠澤を渡していたかもしれないが、プロデュースしていく内に俺のくそみたいな評判もなんとか出来る兆しが見えてきたんだ…簡単に渡してたまるか。

 

「理由ならいくつもあるわ。まずここ2週間広の生活、朝から倒れる寸前まで走らせて、昼の授業まで部屋から出てこない。出てきたと思えば疲れが抜けきっていないのかフラフラと教室に向かう…とてもじゃないけど健全な学生生活とは言えないわね」

 

星南は淡々と俺が篠澤のプロデューサーとしてふさわしくない理由を挙げる。この言い合いに負けると篠澤を奪われる気がして真っ当な意見にどうやって言い返すか頭を悩ます…

 

「それは…まあそうだけど…でも人より遅れてるなら多少人よりつらい思いするのは当たり前だろ?」

 

「ええ、そうね。私だってプリマステラになる前は至らぬ点が多かったから実力を上げるためにそれなりに大変な思いしたと思うわ。けれどそれは自分で選んで歩いた道よ。あなたが広の学園生活を犠牲にしていい理由にはならないんじゃないかしら」

 

俺の苦しい言い訳にプリマステラは容赦なく正論で追い詰めてくる…くそ…何も言い返せねえ…俺が篠澤の我慢強さに甘えていたところを的確に見抜いて突いてくる。

 

「そもそもプロデューサーはアイドルを何よりも大切にするべきじゃないかしら?」

 

「…大切にしてないわけじゃない」

 

「じゃあなんで限界を迎えて動けなくなった担当アイドルのことを台車ではこんでるの?大切に思っていたら出ない発想じゃないかしら?そもそも…限界が来る前に止めるのがプロデューサーの仕事ではなくて?」

 

「それは……そうだな…」

 

言葉一つ一つが胸に深く突き刺さる。俺はこの2週間これからうまくやろうだなんて考え去年の自分を顧みて篠澤のプロデュースに生かそうとしなかった…去年もこうやって担当アイドルのことを考えずに自分のやり方を押し付けてしまっていたのだろう…人に言われないと気づけない自分に嫌悪感を抱く。

 

星南は何も言い返せない俺に理由を説明するのは充分だと思ったのか篠澤に向き直り話を続ける。

 

「私なら、実力が足りなくても貴方を最高のアイドルにして見せるわ!今年は後継者を育てようと思っていたの。この提案には私にも利があるから申し訳なく思う必要はないわ。どうかしら広、私をプロデューサーにしてみない?」

 

星南は自信満々に胸を張って篠澤を勧誘する。人だかりも悪徳プロデューサーからアイドルを守るプリマステラに大盛り上がりだ。

 

星南と俺を比べるならまさに月とスッポン。俺は悪評のせいで営業で仕事をとるのがかなり難しい。どのアイドルも最初は地道に知名度を増やしていかないといけない。

 

俺はそのきっかけを作るのが難しいんだ…とんでもなく苦難な道だろう。それに比べて星南は学園長の孫娘にして学園1のアイドル、使えるコネだって違うし困っていれば周りの人間だって全力で助けてくれる。これなら実力が足りてない篠澤だって簡単に最高のアイドルにしてやれるはずだ。

 

もしかしたら成績最底辺のポンコツアイドルが誰よりも光を放つ一番星にだって…そこまで考えて俺は覚悟を決めた。

 

夢を諦めるにこれ以上ないくらいの理由、せめて最後の挨拶くらいはしようと思い篠澤の言葉を待つ。

 

そして一呼吸おいた後、

 

「星南、気持ちはうれしいけど大丈夫。私はこの人とアイドルを目指す」

 

「「えっ」」

 

流れをぶち壊すような篠澤の発言に俺と星南は思わず声を上げる。俺は、

 

「お、お前馬鹿じゃねえの!?絶対星南の方がいいって!」

 

自分が選ばれたことのうれしさより成功の道をかなぐり捨てた篠澤に対する困惑のまま言葉を吐く

 

「私は今のままならない日々が好き。簡単に成功する日々はもう十分」

 

「な…」

 

あまりに贅沢な言い分に言葉を失う。急展開に忘れていたがそういやそんな奴だったな…

 

「それに、星南はプロデューサーのこと誤解してる、よ。プロデューサー確かに鬼畜で容赦がないけどとっても優しい」

 

「…本当に?碌な噂きかないわよ?」

 

「心配なら明日の朝練見に来てもいい、よ」

 

「そう、ならお邪魔するわね。貴方、明日だけレッスンメニュー変えたりしないでね」

 

星南は俺に向き直り釘をさしてくる。相変わらず俺にだけ刺々しいな…

 

「わ、わかったよ。じゃあまた明日」

 

「ええ、また明日」

 

星南はそのままさっそうとこの場を後にする。自然とできていた人だかりも解散していき俺と篠澤の二人だけになった。

 

「ふふ、プロデューサー私をとられないように必死だった、ね」

 

「うるさい…」

 

急なハプニングに篠澤の軽口をうまく返す体力もない。あさり先生…こいつのこと理解するにはまだまだ時間がかかりそうです…

 

___________________________________________________

 

 

「ぜえ…ぜえ…プロデューサー…どうだった?」

 

「1時間半で4.5キロ歩けてるな。成長してるぞ〜」

 

「ねえ…朝練ってこれだけなの?」

 

「ぜえ…プロデューサー…追加メニューある?」

 

「ねえよ。目輝かせんな…」

 

星南との邂逅の次の日。約束通り朝練に合流した星南は驚きを隠しきれていなかった。そりゃそうだ。やってることは喋りながらペースを落とさずに歩くだけ、こんなのでヘトヘトになってる篠澤がおかしい…

 

「その…昨日は何も知らないのに言いすぎたわ、ごめんなさい」

 

星南は俺に頭を下げてくる。流石プリマステラで生徒会長な優等生だ自分が間違った時こそ潔く謝るべきだと感じているんだろう。俺も学ばないとな…しかしこいつは使える…俺は、

 

「…別にいいよ。俺の噂が酷すぎて篠澤のこと心配して焦ってたんだろ?なら変な噂流れてる俺も悪いし…まあ、申し訳なく思ってんなら困った時助けてくれ」

 

将来の手助けをお願いする形で対応する。一番星に借りを作れるチャンスなんて他にない!星南は思惑がわかりやすい俺の言葉に少し微笑んだ後、

 

「ええ、困ったことがあればいつでも相談に乗るわ」

 

そう言って生徒会長らしい威厳を放ちながら胸を張る。まあなんだかんだでうまくまとまったんじゃないだろうか…俺は昨日から緊張で張っていた肩からようやく力が抜けた気がする…

 

雑談の後、俺は星南にこの場を任せて篠澤を運ぶために台車を取ってくる。しかし今回の一件で改めて思い出した。担当アイドルは自分の評判を挽回する道具でも夢を叶えるための道具でもない。心のどこかでそんな風に思ってしまっていたから俺は去年見限られたのだろう…でも篠澤はそんな俺を選んでくれた。

 

心を入れ替えよう。今からだって遅くない篠澤が毎日少しずつ成長しているように俺だって人として、プロデューサーとして成長しよう。俺はサボってた分篠澤以上に周りより遅れてるからな…今日から計画を練ろう。クソ忙しくなりそうだな…俺は大きくため息をついた後自分の胸が少し高揚していることに気づく。

 

なんだろう…すごくよくない影響を受けてる気がする…

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