「ただいま〜どうだ?どんなライブやりたいか想像できたか?」
学園長に謝りに行った後、篠澤の成長に必要な物を集めてきた俺を迎えてくれたのは、
「……全然1時間じゃない」
待たされすぎて少し不機嫌になっていた篠澤だった。急いでたから携帯見てなかったけど2時間くらい経ってますもんね…連絡を返すことすらやってなかった事実に申し訳なく思い俺は篠澤に謝る。
「その…ごめん…思ったより段取りに手間取って…」
「おじいちゃんに謝りに行ってたんじゃ無いの?」
「謝るついでに倉本に勝つ為に必要な事の許可取ってきたんだよ。ほら荷物もあるだろ?まあ…それは後で発表するとして……方向性どっちにするか決めたか?」
「うん。言われた通り私がどう言うライブをしたいのかの言語化もできた、よ」
篠澤は怒りより疑問の方が強かったのかいつもみたいに笑って胸を張っている。俺は、
「流石大卒JK。じゃあ早速聞かせてくれ……篠澤はどんなライブがしたいんだ?」
そんな篠澤をこれ以上不機嫌にしないように褒めながら話を進める。篠澤は一呼吸おいた後、
「私は……ライブを見に来てくれた人の悩んでいる事や今起きてる辛いことを忘れさせて思わず笑っちゃうくらい心を可愛いで埋め尽くすライブをしたい。
……だから私は神秘性を捨てる、よ。ふふ、ごめんねプロデューサー」
すごく楽しそうに神秘性を捨てる事を宣言した。謝ってるくせに全然申し訳なく思ってなさそうな篠澤に俺は、
「別に謝る必要なんてねえよ。俺の生き方は『在るべき自分よりなりたい自分』だからな。神秘性の方が自分に向いてるからやりたい事を辞めるなんて言われる方が嫌だ。それと……悪いと思ってんなら笑ってんじゃねえ」
「ふふ…痛い」
自分の生き方を教えつつ篠澤の頭に軽くチョップする。
まあ……ぶっちゃけ篠澤が神秘性を捨てて可愛いを取るなんて予想できていた。成功が約束された人生を捨てた篠澤にとってここ数ヶ月頑張った技術を捨てるくらいわけないだろう。
俺が知りたかったのは篠澤が求める可愛いの種類だ。可愛いと言っても倉本みたいな無邪気な可愛さと藤田みたいなポップ系の可愛さなど色々ある。
「ふふ……」
多分篠澤が求めるアイドル像的に……多分藤田の様な可愛さを求めているんだろう。だが……それは篠澤にはもう無理だ。だってこいつ配信で幼虫を食ってんだもん……アレがただ可愛いを追い求めるならノイズすぎるんだよな……それにこいつ基本的に変人で面白い事に突っ走っていくから王道の可愛いなんてできるわけないし……
「ふへへ…」
ってなると……電波系だな。普通の人間からするとかなり理解不能な価値観を持ってるのにQUINTETで見せたライブは誰しも心に残る可愛いを表現できてた。この方向性なら篠澤のなりたいアイドル像もクリアできるし篠澤の性質がかなり生きるプロデュースもできるだろう。
「ふひひ…」
でもまあ……流石に次のライブが1週間もない今方向性を大きく変えると倉本に負ける可能性が出てくるから…FINALEでは篠澤がQUINTETで固めたライブ表現で戦うか。そこまで方針が決まった時、
「なあ……さっきからなんで笑ってんの?」
俺は今後の方針を考えている横でずっと声を漏らして幸せそうに笑う篠澤に疑問をぶつける。
「ふふ……プロデューサー私今すごく変」
「いや……お前はいつも変だろ」
「そう言う話じゃない。とても苦しくて大変な状況が終わっちゃったのに……
私がなりたい姿も見つかってNIAのランキングでも一位になれたのに……
やっと初めてできた友達の隣に立てたのに……
苦しい事をうまくいかない事を求めてアイドルになったのに……
何もかもすごくうまくいってるこの状況がすごく楽しい……そう感じる自分がすごく変」
篠澤はそんな当たり前のことをすごく楽しそうに嬉しそうに話している。
良かった……トラブルに巻き込んでばかりでまともなアイドルの道を歩ませてやれてないから心配してたけど…ちゃんとアイドル活動を…好きな事でうまくいくのを楽しいって思って貰えてるんだな……
人よりも能力が高くて当たり前の事を感じれなかった篠澤に当たり前の感覚を味合わせてやれたことを感慨深く思いながら俺は話しかける。
「……ライブ一緒に行った時に言っただろ?お前が今まで味わってきたつまんねえ成功とは比べ物にならねえ成功を味合わせてやるって、あの時言ってた状況とは少し違うけど…胸躍るだろ?」
「うん。ふふ…この気持ちは今までの成功と全然違う……プロデューサー。好きな事で上手くいくのってすごく楽しいんだ、ね」
そう言って笑いかけてくる篠澤に俺はすごく嬉しくなって、
「だろ?でもこれで終わりじゃないぞ!この紙に書いてある事をやってお前をもっと最高の気分にしてやる」
俺達の今後の予定が書いてある紙を渡し学園から貸してもらった配信機材を組み立て始める。
「……握手会?」
「そう!3日後初星学園の敷地内でやれる様に話つけといたから楽しみにして良いぞ!」
「ふふ、ファンの人達と関わるの初めてだからすごく楽しみ」
篠澤は声だけでわかるくらいに喜んだ後、
「でも……急に握手会を開催してファンの人達は来てくれないと思う」
現実的な問題について話し始める。
「まあな…なのでそこをなんとかする為にこれから篠澤に雑談配信を行ってもらいます。配信の最後に握手会の宣伝したら篠澤の知名度的に30人くらいは来てくれるはずだ」
俺は高鳴る感情のままに想定より多い人数を篠澤に伝える。
QUINTETのおかげもあって篠澤の宣伝用アカウントのフォロワーは約1000人、経験則的にわざわざ現地まで来てくれるファンは大体1%くらいだから……まあ多くて10人とかだろう。でもこいつの事だから人が来なくても楽し〜ってなるんだろうな。そんな楽観的な俺の予想は、
「……そんなに来てくれるんだ。それはすごく楽しみ、だね」
外れていたようで篠澤は自分のためにファンが30人も集まってる未来を想像してかQUINTETで俺が元気になった時に見せた幸せそうな表情をしている。
めっちゃ楽しみにしてるじゃん……やべえ…今の状態でファンがあまり来なくて落ち込む篠澤なんか見たら……多分俺が篠澤に気を使わせるほど落ち込む……なんとかして30人以上集めよう…そんな決意を胸に俺は再び教室から出ていく準備をする。
「……じゃあ俺は握手会に向けて他にもやる事があるから配信頼んだ。初星学園が出してる配信マニュアルここに置いていくからちゃんと読んでから配信付けろよ」
「わかった。告知はどんな感じでやればいい?」
「それはこの紙に書いてある事そのまま読めばいい。特にこの部分は絶対に言えよ、これ言うだけで来る人20人くらい変わるから」
「……本当にこれだけでそんなに変わるの?」
「アイドルオタクは推しの普段とは違う一面大好きだからな。これの為なら仕事休んでくる奴もいる」
「ふふ、わかった。プロデューサーの事を信じる、ね」
「……期待しててくれ」
俺はすごく楽しそうにしている篠澤にそう言って教室を飛び出す。
プロデューサーとしてこの握手会だけは絶対に成功させてやる…!成功させる為に宣伝とか色々やりたいんだが取り敢えず今日は雨夜に握手会の手伝いを頼もう……俺1人じゃファンの誘導ができないからな……
せっかく篠澤がうまくいってるのに楽しそうにしてくれてるんだ…頼むからうまくいってくれ……そう神に祈りながら俺は生徒会室に向かった。