諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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62話 握手会 中編

 

 こいつらは知っている……確かオレンジ髪のギャルの方が幼少期にバレエで結果出してた紫雲清夏で白髪碧眼の方が留学生の葛城リーリヤだよな? 

 

 ギャルの方は普通にしてるが留学生の方は言葉に詰まってるし絶対俺の事怖がってるよな……しょうがねえ、少しネコを被ってやるか。俺にも優しかった番組プロデューサーの遠野さんを思い出しながら2人に話しかける。

 

「今日はよろしくね〜ファンの人が来始めたら適当に誘導してくれればなんとかなるから程々に頑張ってこ〜」

 

「猫を被るな……気持ち悪い」

 

 だが…俺を見て怯えてるのかどこかぎごちない葛城に配慮した態度がお気に召さなかったのか2人の後ろにいた雨夜は本当に気持ち悪そうに声をかけてくる。

 

「配慮してんの! 葛城さんに怯えられてんのに俺が普段通りに振る舞ったら更に緊張でガチガチになるだろ!」

 

「あ〜リーリヤは別に怯えてるわけじゃなくて……」

 

 俺の発言に紫雲は困ったように笑うと、

 

「……副会長の雨夜さんに臆する事がないなんて……清夏ちゃん! やっぱり日本の不良さんって凄いんだね!」

 

「あはは……」

 

 続くように葛城が息巻いて紫雲を困らせている。

 

 俺に怖がってるわけじゃないのはわかったんだけど……何この子。不良に憧れてんのか? 相変わらず変な奴多いなこの学園。でも急に言ったのにわざわざ手伝ってくれてるなら期待には応えてあげたいな……そんな事を思い俺は雨夜に質問する。

 

「俺って不良なの?」

 

「どちらかと言えば問題児だが……大差は無いな」

 

 よかった……取り敢えず期待には応えれそうだな……俺は、

 

「見てもらった通り俺は副会長公認の不良だから武勇伝とか聞きたかったらなんでも聞いくれて大丈夫だぜ」

 

 少し口調を変えながら葛城お望みの不良を演じてやる。

 

「ありがとうございます! じゃあ早速質問なんですけど日本の不良は喧嘩で1番強い人を決めるんですよね?」

 

「まあ大体そうだな。俺も最近961プロの社長ぶん殴って格付けしてきたし」

 

「す、すごいです! それと……普段はバイクとかに乗って不良仲間とツーリングとかするんですよね!」

 

「まあ一般的な不良はそうだな。俺は強すぎて毎日台車転がしてるけど」

 

「そ、想像以上です! 清夏ちゃん! アニメより凄いよ!」

 

 俺の演技は効果覿面だったようで葛城は身を輝かせて紫雲に楽しそうに報告している。本当のことしか言ってないからか上手く騙せたみたいだな……

 

「ふふ、良かったじゃん。プロデューサーさんも噂よりまともそうですごく安心したよ〜」

 

「まあ俺の噂は尾鰭がつきまくって……」

 

 そこまで言って俺はある事に気づく、

 

「…ん? ってか頼んでた人数には1人足りなくね?」

 

「安心しろ4人目として有村がいる。今は篠澤が貴様御所望の制服を着るのに手間取っていたから手伝っている」

 

「そうなんだ……」

 

 雨夜が教えてくれた事実に頭を抱えながら答える。いや……1人で着れないってなんだよ着物じゃねえんだぞ……マジで入学式の時とかどうしてたの? 

 

「話をすればなんとやらだな。篠澤と有村が来たぞ」

 

「頭を抱えてどうしたの? ふふ、問題発生?」

 

 雨夜の言葉と共に初星学園の制服を着た篠澤が俺の視界にひょっこりと顔を出す。こいつは本当に変わんねえな……

 

「違げえよ……1人で制服も着れない担当アイドルの事考えてたんだよ」

 

「そうなんだ。プロデューサーはいつも私の事で頭が一杯、だね」

 

「……優秀なプロデューサーは常に担当アイドルの事考えてるもんなの。寮長もこいつの面倒見てくれてありがとう」

 

 篠澤を適当にいなしつつ色々と手間かけてしまった有村にお礼を言う。

 

「これくらい先輩として当然ですよ。それより広の着こなし方に問題はありませんか?」

 

「プロデューサーお望みの篠澤広制服バージョン。頑張って着替えたから感想が欲しい」  

 

 篠澤はそう言っていつもみたいに自信満々に胸を張っている。

 

 俺が篠澤に制服を着てくる様に頼んだのには2つの理由がある。

 

 1つ目は篠澤に伝えた通りファンの集客のため。遠野さんは言っていた『配信でファンが求めているのはアイドルの普段とは違う姿』だと。経験と照らし合わせてもこれはアイドルのイベント全般に言えるファンのニーズだと思う。

 

 学園以外なんもないここにファンを呼ぶ為にはこれくらいのわかりやすい理由が必要だと思ったからだ。

 

 それに初星学園の制服はバリエーション豊かで制服目当てで入学してくる奴もいる程に自由度が高い。そんな学園の個性を使わない手はないからな。

 

 2つ目は……あのチラリズムの権化みたいな普段着でファンの前に立つのを辞めて欲しかったから。

 

 あの服装だとアイドルの握手会じゃなくてグラビアアイドルのサービス会になるからな……ただでさえ人手足りないのに盗撮とかの悪質な行為の心配しないといけないのは困る……

 

 そんな篠澤には伝えられる訳もない心配事が解消されて安心しつつめんどくさい事にならない様に篠澤を軽く褒めておく。

 

「ちゃんと似合ってるよ。てか普段もそれでいいんじゃねえの?」

 

「それは…毎日見たいくらいに可愛いって事?」

 

「そこまでは言ってねえ……! せっかく制服あるならたまには着た方がいいって事! 後聞く相手違うからな! ファンの人達に聞けよ!」

 

「まだ来てないからプロデューサーで我慢してる」

 

「……じゃあ同級生にも聞いてこい多分褒めてもらえるぞ」

 

「ふふ、わかった」

 

 そう言って篠澤は紫雲と葛城の元に褒められに行った。やばいな……自分でも篠澤の軽口に過剰に反応してる気がする……ちょっと喋っただけなのにめっちゃ鼓動を感じるんですけど……

 

 そうやって高鳴る胸に手を当てて馬鹿みたいなことを考えていると、

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

 雨夜が指示を求めてくる。

 

「後10分くらいしたらファンの誘導を始める感じだな。カラーコーンとか机とかの設営は俺が全部やったからやる事無いな」

 

「えっ……これ全部1人でやったんですか?」

 

「そうだよ……マジで大変だった。この集会用テント絶対1人で設営する様に作られてないな……」

 

 俺は1人で建てたサンシェードを指さして少しだけ愚痴を呟く。

 

「……言ってくれれば流石に手伝ったぞ?」

 

「時間かければ1人で出来ることまで頼むのは流石に申し訳ないからいいって、だからしばらくはゆっくりしてくれてて大丈夫だぞ。時間になったらまた言うから」

 

「わかりました」

「わかった」

 

 そう言って2人は折り畳み椅子に腰をかける。

 

 いよいよか……篠澤初めてのまともなアイドル活動。失敗は絶対許されないからな……一応何か忘れてないか確認だけするか。そう思いメモ帳を取り出す為に鞄の中を漁る。すると篠澤に渡すのを忘れていた今日の為に買っておいた見せパンが出て来た。

 

 あっ……これ履かせるの忘れてた……まあ別に無くても良いんだけど今回金取ってないから変な奴混ざる可能性あるんだよな……俺が悪い意味で話題になってたし盗撮とかされてネットに流されたらかなりグロい事になる。まあ取り敢えず確認からするか。

 

 俺は見せパンを鞄から取り出して葛城と紫雲と楽しそうに話している篠澤に近づいて、

 

「篠澤、お前今スカートの下何履いてる?」

 

 篠澤のスカートの中が守られているのか確認する。俺の言葉に3人はすごい顔でこっちを見た後、

 

「……プロデューサーのエッチ」

 

 篠澤が呆れながら呟く。あっ! やばい……この聞き方じゃ急にセクハラした奴みたいになってるじゃねえか! 急いで訂正しないと……

 

「ごめん聞き方が悪かった……見せパン履いてる?」

 

「履いてない、よ」

 

「ならこれ履いてこい」

 

 俺は用意していた見せパンと事務所の鍵を篠澤に押し付けて胸を張る。

 

「俺みたいな優秀なプロデューサーを持てた事を感謝しろよ」

 

「……可愛くない」

 

「そりゃ可愛かったら意味ないからな。でも篠澤も自分のパンツがネットにばら撒かれる方が嫌だろ?」

 

「ファンの人達はそんなことしないと思う……」

 

「そりゃファンはしないだろうけど…ファンじゃない奴が混ざってたら起きるかもしれないだろ? 今回のは金とってるわけじゃないんだからさ。だから一応履いてきてくれ」

 

「……わかった」

 

 篠澤は渋々納得してくれた様で事務所がある校舎へ歩いて行く。見送った後後ろを振り返ると、

 

「貴様……流石に過保護がすぎるぞ……」

 

 気を遣ってくれたのか雨夜が話題を作ってくれた。

 

「これくらいプロデューサーなら普通だろ」

 

「普通じゃないと思うよ〜なんて言うか……お父さんみたい」

 

「なら優秀なプロデューサーってことだな。優秀なプロデューサーって奴は父性が溢れ出てるもんなの。プロデューサー選ぶ時の参考にしていいぞ〜」

 

「そうなんですね! 参考になります!」

 

「この人はかなり特殊なプロデューサーだから参考にはならないんじゃないかな……」

 

 雨夜が作ってくれた話題のお陰で俺のセクハラ発言は流れてくれたみたいで凍りついていた空気が元通りになってくれていた。あっぶな……握手会を前にとんでもない空気にするところだった……雨夜さんマジで感謝します……

 

 そんなやり取りをしていると校門の方が少しガヤガヤとしているのを感じる。携帯を見てみると握手会開始まで15分を切っていた。もうそろそろ敷地内に入れて並ばせてないと警備の人から怒られちゃうな……

 

「盛り上がってる所悪いけど、そろそろ時間だしファン誘導始めて篠澤が戻って来た時びっくりさせてやろう」

 

「はーい」

「わかりました!」

 

 そう言って俺達は少し騒がしくなっている校門へと向かう。その道の途中で、

 

「それよりこの人数で本当に大丈夫なのか? 極月学園のアイドルのアカウントで共有してもらったと聞いているが」

 

 雨夜が人手面の不安をぶつけてくる。

 

「まあ〜ネットでそこそこ話題になったとは言え駅からまあまあ距離ある初星学園までわざわざ来るファンなんてそんないないから大丈夫だと……」

 

 そこまで言って俺は校門の先に広がっていた驚き口を閉じる。

 

 校門の前では篠澤の握手会に来たであろう人たちが列を作って行儀よく並んでいる。ここまで民度がいいのは想定外だったけど、それより…ぱっと見で50人以上人がいるように見えるのは気のせいだよな? まだ15分前だぞ……? 

 

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