諦めたPと篠澤広   作:ラ メ ル テ オ ン

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疲労困憊

 

「篠澤さんが転校しました。」

 

「は?」

 

突然の宣告に頭の中が真っ白になる。場所は職員室、あさり先生から告げられた言葉が到底受け入れられず言葉が漏れてしまう。

 

「なんで…ですか?」

 

「詳しくは知りません。しかし噂ではもう耐えられないと」

 

あさり先生から感情と言う物を感じられないくらいに無機質な返答だ。

 

「先生、正直もう愛想がつきました。何回も同じ間違いを繰り返していつになったら学ぶんですか?」

 

あさり先生がそんな顔でそんな言葉を言ってくるわけがない…はずだ

 

「本当ですね。全くこんな人間を一瞬でも友達と思っていたのすら恥ずかしいですよ」

 

一条まで今まで俺に見せた事のない顔を見せて来る。なんでそんな目で見るんだよ…

 

「本当にあなたって人は学びがないですね…そんなんだから私に捨てられるんですよ」

 

あさり先生と一条の間を割って俺のことを捨てたアイドルが迫ってくる…ああやっと分かった、これは

 

ヂリリリリリリリ

 

クソみたいな夢だ。

 

「ッ…クッソ飲み忘れてた…」

 

ベットからテーブルを覗くと昨日飲み忘れていた薬が置いてある。疲れが溜まっていると悪夢を見る俺にとって必要な物なんだが…疲れが酷い時は飲む前に力尽きることも良くある。

 

俺がここまで疲れているのは最近バイトを増やしたせいだ。プロデュースには色々な情報や根回しが必要だそのためにはどうしても金がいる。篠澤はどうしても実力不足が目立つ。

 

あいつがアイドル活動を始めた時上手く軌道に乗ってもらうには適切な魅力を発揮する機会が必要だ。その機会は多ければ多いほどいい…だから去年の営業先なんかに挨拶まわりをするために金をためている。

 

学校からも補助金なんかは出ているが生活費の足しくらいで挨拶まわりに行くとなると話は別だ、俺の噂を弁明するためにはそれなりの誠意と時間がいる。交通費だってタダじゃないし挨拶まわりをしている間は生活費すら稼げない…そのため過密スケジュールで未来に備えていたんだが…ちょっと頑張りすぎた…

 

「はあ、今日は夜勤かよ…」

 

今現状朝から夕方まではほとんど学園で過ごしているためバイトを入れるなら夜勤になる。そのせいで睡眠不足も常態化して疲れが抜けず連日悪夢ばかり…もう1か月くらい2時間睡眠がデフォルトになっている…

 

「…まあ頑張るしかねえよな」

 

弱音はここまでにして自分を奮い立たせる今日は朝練に授業に夜勤と盛りだくさんだ。しかし今日を乗り越えれば少し休みが取れる、まあ頑張りどころってやつだ。洗面所に向かい顔を洗う鏡に映る自分と目が合い、

 

「今度は間違えない。俺は学んだんだ…そうだよな」

 

語りかける。もう2度と担当アイドルに窮屈な思いはさせない、そう自分に言い聞かせて身支度をする、篠澤との朝練に間に合うように。

____________________________________

 

「プロデューサー、顔色すごく悪い大丈夫?」

 

朝練の為篠澤を女子寮に迎えにいくと開口一番で心配して来る。

 

「普段が良すぎるんだよ」

 

「最近ずっと悪い、よ。ちゃんと寝てる?」

 

最近は事あるごとに心配して体調を聞いてきたり昼寝を誘ってきたりしていたが今日はいつにも増してしつこい…

 

「まああんま寝れてねえけど…でも今日が終われば少し休めるから心配すんなって」

 

「わかった…あんまり無理しないでね」

 

心配してくれるのはうれしいが…普段から無理して倒れまくって心配かけてる奴に言われたくないと心の中で突っ込んでおく。

 

方針を決めてから1ヶ月たったが3回に2回はレッスン中に倒れる。倒れてない時もその場で座り込んで動けなくなるだけでレッスンを最後までこなせてるわけではない…けど着実に耐えてる時間は増えてきてる。朝練も、

 

「今日は6キロだな」

 

「ふふ、大きな…進歩…」

 

着実に歩ける距離を増やしている。このままのペースで成長してくれるなら思っていたより早くアイドル活動を始められるかもしれない。想定よりもだいぶ早い…嬉しい誤算なのに準備ができてなく素直に喜べない自分の力量不足にイラつく。

 

クッソ…寝不足で小さなことで心が揺れる。プロデューサーたるもの常に冷静に…俺は焦る気持ちを抑えながらいつも通り台車を取りに行き、

 

「それではこの篠澤号にお乗りください」

 

「変な名前をつけないで欲しい」

 

もはや見慣れた光景となった台車で担当アイドルを運ぶプロデューサーという異様な状況で女子寮に戻る。道中すれ違うアイドル課の生徒とも軽くあいさつを交わした。

 

星南が大丈夫と判断したからなのかあの騒動以降俺が女子寮に出入りしても不快感を示す生徒は減ったような気がする。まさに生徒会長様様だ。

 

最近は色々とうまくいっているような気がする、苦難を乗り越えた先にあるご褒美を堪能している気分だ。だけどなんだろうこの感じ前にも感じたことがある気が…そんな嫌な既視感を抱えながら今日も篠澤を食堂に運び終える。食堂に着くなり咲季が話しかけてくる。

 

「広、朝ごはんできるわよ!貴方も食べていく?」

 

「いや俺はいいよ。来る前に食べてきた」

 

まあ嘘だが。最近は飯を食べると眠気が止まらなくなるから最低限しか食べないようにしている。食堂には咲季と藤田と月村が席につき先に食べ始めていた。

 

料理はこの前食べた時の宇宙食みたいな奴から大幅に変わっており見た目も美味しそうになっていた。この前と違い月村も満足そうに食べている…一条がこの3人をプロデュースしていると聞いてあの後少し調べたが、この3人仲が悪い事を除けばユニットとしてほぼ完璧と言っていいライブパフォーマンスをしている。

 

1か月前にユニットを組んでいると聞いたときは朝からけんかしていた二人を見て正気を疑ったが本当にあいつは見る目がある…

 

「いただきます」

 

台車から降りて席に着いた篠澤は流れるように朝ごはんを食べ始める。篠澤もプロデュースを始めてからだいぶ変わった。前は朝練の後の朝ごはんをすごくしんどそうに食べていたが、今は特に疲れを見せる事なく食べれるようになっている。

 

しんどそうにしてた時の方が楽しそうに見えたのは気のせいであって欲しいが…そんなことを思いながら朝ごはんを食べてる篠澤眺めていると、

 

「あの〜大丈夫ですか?」

 

藤田が口を開く、何が大丈夫なのかわからず首を傾げていると

 

「顔色すご〜く悪いですけど」

 

「そんなに悪い?」

 

「今にも倒れそうな色してる」

 

やはり心配なのか篠澤も口を開く、篠澤だけならともかく藤田にも心配されるとは…今の俺はどんな顔色してんだよ…

 

「まあ今日頑張れば休めるしなんとかなるよ」

 

「まったく…最近暑くなっきてるから気をつけなさいよ」

 

咲季まで心配している。月村がさっきからチラチラこっち見ていたのもそれが理由だろう。特に体に異常は感じないが…ここまで言われると無視はできないな。

 

「じゃあ俺はちょっと課題して休むよ。また後でな」

 

「うん、またね」

 

そう言って席を立つ。その時、

 

ドサッ!

 

休めると思い気が抜けたのか足を踏み外し思いっきりずっこけた。こけたことを皮切りに体の異常に気づく、酔っ払っている時のような世界が回っている感覚がして立ち上がれる気がしない…心臓の音が鳴りやまなくて眠れるような状態じゃないのに意識がどんどんと落ちていくのを感じる…

 

中々立ち上がらない俺を心配して篠澤や咲季達が集まって来る。何か言ってるが水の中に入ってるみたいに音が聞こえるせいで上手く聞こえない。

 

床がひんやりしててなんか…すごく眠くなってきた…これはちょっとやばい…

 

混濁した頭でさっき感じた既視感に気づく。そうだ、あの時、見捨てられた時も営業でうまく行ってるのに浮かれて肝心なことに気づけなかったっけ…篠澤が泣きそうな顔で俺の身体を揺らしている景色を最後に俺の意識は途切れた。

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