温かい…身体が程よく圧迫感を感じて布団に包まれていることがわかる。目は覚めたが体が起きてないそんな状態だろう…俺は寝返りを打って布団に潜り込む。最近はアラームで無理やり起きているからこんなに心地いいのは久しぶりだ…働いてない頭でそこまで考えた時俺は気づく、
「遅刻する!?」
今の俺がアラームがかかる前に起きれるわけがない!遅刻したと思い急いで起き上がった俺の眼前に広がったいたのは篠澤のプロデュースで見慣れてしまった保健室だった。
「あれ?」
「…随分と騒がしい起床ですね」
声をかけられた方に視線をやると膝の上にノートパソコンを広げた一条がパイプ椅子に座っていた。
「なにこれ?どういう状況?」
「思い出せませんか?あなた朝女子寮で倒れたんですよ」
一条はノートパソコンを打ちながら説明をしてくれる。ああ、思い出した。急に立てなくなってそのまま意識が飛んだんだ…
壁にかかっている時計に目をやると時間は14時を回っている。授業が終わったどころかあと1時間で篠澤のレッスンが始まる時間だ。それに気づいて起き上がろうとしてみたが体がまだ休みたいと悲鳴を上げている…
それでも起き上がりレッスン室に向かおうとする俺を、何故か一条がベットに押さえつけようとしてくる。
「ちょっと、起き上がらないでください」
「うるせえ、篠澤のレッスン見てやんないといけないんだよ」
「そんな状態で来られても心配で集中できませんよ…これ以上担当アイドルに心配をかけてどうするんですか?」
一条は呆れながら俺を窘めてくる。くっそ…一条の言う通りだ。今動いたって篠澤に心配をかけて俺がしんどいだけだ何もいい事はない…
「…わかったよ」
俺は寝ていたベットに腰をかけ自己管理能力の低さに呆れる。頭がしっかり回る今駄目だった点がはっきりとわかる。
季節の変わり目に寝不足と栄養不足で動き回って倒れないわけがない…眠くなるからと言って飯を抜くなんて馬鹿すぎる…自分の空回り具合に呆れ、
「はあ…なんもうまく行かねえな」
「それは当たり前でしょう」
漏れた小言にパソコンを打ちながら一条は反応する。
「…なんで?」
「超人的な体力があるわけでもないのに同時並行でいろんなこと進めようとしてるからですよ。完璧なプロデューサーで居たいのはわかりますが倒れてしまっては元も子もないでしょう?」
…流石優秀なプロデューサー、嫌なところを的確に見抜いて突いてくる。
「…俺だって倒れたくねえよ」
プロデューサー科は過酷だ、授業や課題、営業先の確保、アイドルのケア、アイドルの成長に必要な情報の精査に取得、あげればキリがない程にやる事が多い。
だからプロデューサー科の生徒はお互いに助け合い少しでも効率よく活動していく。俺も去年は過労で倒れるなんてなかった…けど今は違う、去年俺の噂のせいでクラスメイト達のプロデューサー業に散々迷惑をかけた。
今年に入ってようやく落ち着いてきたけど俺は気まずくてクラスメイトの顔すら碌に見れてない…だから助けなんて求めれないし全部自分でやるしかない。
「でもしょうがねえだろ?いろんな奴に迷惑かけて…それでも夢に縋ってるんだ1人でやるしか…いや、1人でやるべきだ。それが散々迷惑をかけたクラスメイトにできる最低限の配慮だろ…」
俺は一条に申し訳なく思いながら語る。一条は、
「…素晴らしい配慮ですね。でもそれに篠澤さんは関係ありますか?」
俺の事を見ている瞳のような真っ直ぐとした意見を述べてくる。
「…ないな」
「なら人を頼るべきですね」
「…そんなこと言っても誰も助けてくれねえよ。俺嫌われてるし」
「嫌われてる事については否定しませんが頼れば助けてくれる人なら目の前にいますよ」
「お前が?3人もプロデュースしてんのに?」
「ええ。大切な友人の頼みなら」
一条は去年と変わらない親愛を感じる笑顔を見せてくれる。
久しぶりに教室に行った時本当はみんなに頭を下げようと思った。けど…教室に入った時みんなが俺に向ける冷たい視線に…もうどうやっても戻せない現実を突きつけられているようで言葉が出なかった。
一条にだって迷惑をかけたはずだ俺の噂で飛んでしまった仕事だってあっただろう。それなのに一条は去年と変わらず目を逸らしてしまいそうになるくらい真っ直ぐに俺の事を見てくれる。そんな視線に、自然と距離をとってしまっていた俺たちの友情が戻ってきたような気がして、
「…そっか。ありがとう」
心の底からの感謝が口から出た。変わってしまったものばかりで勘違いしていたが変わらないものもあったらしい。1つ気負っていたものが無くなって少しだけ気持ちが楽になった気がする。
「とりあえず今は休んでください。休んでいる間篠澤さんの面倒は私が見ます。レッスン内容を教えてください」
一条は言いたかった事が言えてスッキリしたのかすごく穏やかな顔で手を差し伸べてくる。俺は遠慮なく、
「えっ嫌だけど?」
差し伸べられた手を払う。
「…どうやって休むつもりですか?」
「バイトは休むけどプロデューサー業は休まないよ?」
一条は遠慮がなくなった俺の言い分に堪忍袋の尾が切れたのか露骨に表情が歪む。
「えっと…じゃあなんですか?倒れるくらい体ボロボロだけど朝から1時間かけて学校に来て篠澤さんの朝練とレッスンを見るって事ですか?」
「うん!でも倒れるかもしれないから俺が倒れないようにサポートしてくれ友人だろ?」
しばしの沈黙の後、
「ハハハハハハ」
「ハハハハハハ」
2人の乾いた笑い声が響いた。そして一呼吸おいた後一条は立ち上がると同時に、
「いい加減にしろてめえ!忙しい中時間とってやるって言ってんのにわがままばっかり言いやがって!黙ってレッスン内容寄越せ!」
被っていた猫を捨て掴みかかってくる。
「い、や、だ!お前に任せて篠澤がお前に懐いたら捨てられるだろ!俺が他に担当アイドル見つけれると思ってんのか?」
「クッッッソメンヘラが!そんなんでプロデューサー変えるアイドルがいるわけないだろ!」
「いるかもしれないだろ!!去年見捨てられた理由がわかんないのにアイドル泥棒に任せられる訳ねえ!」
「勝手に泥棒にしてんじゃねえよ!もういい!てめえのパソコンよこせ!パスワード変わってないだろ!レッスン内容は勝手に見るからさっさと帰って休め馬鹿!」
「やめてえ!!変態に何もかも奪われる!!助けて!あさり先生!」
「…2人とも何やってるんですか」
俺の願いが叶ったのか、一条が呼んでいたのかいつの間にかいたあさり先生が呆れながら取っ組みあっていた俺たちを仲裁する。
「あさり先生からも言ってやってください!こいつ全然休む気ないんですよ!」
「こほん、斉藤くん。プロデューサーとアイドルは一心同体なんです。自分が心を許した相手がナスみたいな顔色でフラフラしてたら心配でアイドル活動どころじゃないですよ」
あさり先生は可愛い例えで俺を諭しにくる。一条の気持ちはすごくありがたい…でもアイドルに逃げられた理由がわからない以上必要だとしてもリスクは取りたく無い…
「でも…」
「でもじゃありません!はあ…これはもう篠澤さんと話し合ってもらうしかないですね…」
「なら私たちは席を外しましょう。篠澤さん、あとはお願いします」
「ん?」
そう言って2人は保健室から出ていく。一条はいったい何を言ってるんだ?まるで篠澤がこの部屋にいるみたいな…そう思った瞬間、
「ばあ!」
俺が腰をかけていたベットの下から間抜けな声と共に篠澤がひょっこりと顔を出してきた。
「……」
「…ノーリアクションは寂しい」
「驚きすぎて声が出ないんだよ…」
え?マジでどういう状況?