VOICEROID in バカテス 作:かなりまな板だよこれ
「……何ですかこのアホでかい教室は」
二年生のクラスがある三階に足を踏み入れると、まず目についたのが教室とは思えない程広い教室だった。
折角なので皆で大きめの窓から中を覗いてみる。
ふむ…………黒板の代わりに壁全体を覆うほどの大きさのプラズマディスプレイを使っているのですか。
「あれで映画上映会みたいのをやったらおもしろそうだよね」
「前提条件として学園側の許可が必要そうですがね」
そして生徒の席にはノートパソコン、エアコン、リクライニングシートが各自備わっている。
「これなら学校でもPCゲームが出来そうですね」
「ゆかりん、実は懲りてないよね?」
で、生徒用のロッカーは指紋認証システムがついていて、そのロッカーの隣には冷蔵庫が各自備わっている。
「ずんだ餅とかあるんでしょうか?」
「いや、さすがにないと思う……」
そして周りにはいかにも高そうな絵画やら壺やらが装飾品として飾ってあると。
「Aクラスに入れなくて良かったですねマキちゃん。危うく壺を弁償するところでしたよ」
「何で私が壺を割ること前提なの!?」
……なんというか、凄まじい教室ですね。設備の維持費に一体いくらかかっているのでしょうか?
「……あれ? ゆかりちゃん?」
「ん?」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこにはふわっとしたピンク色のロングヘアーで、マキちゃんと同じくらい自己主張が激しい妬ましいものを持った女の子の小学生からの友人である姫路瑞希ーーーーユキちゃんがいた。
「おはようユキちゃん」
「おはようユッキー」
「おはよう瑞希ちゃん」
「おはようございます、瑞希ちゃん」
ユキちゃんに私達は挨拶をする。
因みにユキちゃんはアキ君が小学生の頃につけた渾名で、マキちゃんはその渾名をもじったユッキーという渾名で呼んでいる。
「おはようございます。
……それで、皆はどこのクラスに入ったんですか?
私はAクラスでした」
「知ってると思うけど僕とゆかりちゃんはFクラスだよ」
「私は瑞希ちゃんと同じです」
「……え……Fクラス……」
「えっ、マキちゃんFクラスなんですか!?」
私達……というよりマキちゃんがクラスの結果を言うと、ユキちゃんは目を丸くした。
「一日目の試験を休んでしまったゆかりちゃんはともかく、文系の科目は良く出来るマキちゃんならAクラスに行けると思ったのですが……」
「ユキちゃん、肝心なところで詰めが甘いマキちゃんですよ。そんなあっさりとAクラスに行けるわけ無いじゃないですか」
「あー……」
「ちょっ、そんなこと思ってたのゆかりん!?
ユッキーも『あー、確かに』って顔しないで!!」
「そ、そんな顔してませんよ!?」
いや、してましたね。完全に。
「……そ、それにしてもゆかりちゃんは結局Fクラスですか……」
おっと、露骨な話題転換ですね。まあ今回はあえてのりますが。
「まあ流石の私でも苦手科目5教科で挽回は無理ですからね」
得意科目ならいけたんですがね。
……あー、なんで理系科目が1日目に集中してるんですか? そうじゃなければまだ可能性はあったんですが……。
そんな未練たらたらなことを考えていると、
「……ごめんなさい」
ユキちゃんが突然謝ってきた。
「何ですか、急に?」
「だって、私が電話を怠らなければ明久君とゆかりちゃんは遅刻しなかったのに……」
何を言い出すかと思えばそんなことですか。
「ユキちゃ「瑞希ちゃんは悪くないよ」ん……は…………」
悲報。私の台詞がアキ君と被る。
「そうですよ。悪いのは寝坊したアキ君ですからね」
「そうそう……って何で僕一人⁉︎ ゆかりちゃんも同罪だよね⁉︎」
「そんな……あんなことまでして私が悪いって言うんですか……?」
「ちょっ、そんな誤解を招くような表現は止めて!」
「あ、あんなこと⁉︎」
「アッキー一体何やったの⁉︎」
「ずんだですか⁉︎」
「皆も真に受けないでよ! ってずんだ⁉︎ 何でずんだ⁉︎」
「言ってみたかっただけです」
「それだけ⁉︎」
今日もアキ君のツッコミが冴え渡りますね。
「ナイスツッコミ」
「うるさいよ!
……だ、だからそんなに気に病むこと無いよ」
おっ、軌道修正に入りましたか。
「……そうですか?」
「うん、ゲームで寝坊した僕達の自業自得だしね」
「あっ、馬鹿」
折角誤魔化していましたのに……。
ユキちゃん怒ると怖いし、説教長いから……。
「えっ…………あっ」
アキ君も事の重大さに気づいたのか、顔を青ざめる。
私は恐る恐るユキちゃんを見る。さて……アウトか、セーフか……。
「ゲーム……?」
そして、顔がみるみる険しくなってきた。
こ、これはまずい。どう見てもアウトです。スリーアウトです。チェンジです。
「……アキ君、ゆかりちゃん、少しお話が――――」
「さて、早くFクラスに行きましょうか!」
「そうだね、早く行こう!」
「えっ⁉︎ ちょっ、ふ、二人とも、置いてかないでよぉ!」
「って待ってください!」
私達はまだ見ぬ自分のクラスを早く見たいが為に走り出した。
……決してユキちゃんから逃げたわけではありませんよ。
『あとできっちりお話を聞かせてもらいますからねっ!!』
「ねえ二人とも、今逃げても結局あとで説教されるから逃げない方が良かったんじゃないかな?」
「「…………」」
「……さて、Fクラスを探しましょうか」
「ゆかりん、ここがFクラスだよ」
「現実逃避したい気持ちは分かるけどさ」
マキちゃんとアキ君の言葉に、私は観念してもう一度教室らしきものを見る。
プレートにはFと書かれた紙がぞんざいに貼り付けられていて、その裏にはうっすらとEらしき文字が見える。
ボロボロのドアはたて付けが悪そうで、嵌め込まれている窓ガラスにはひびが入っている。
そして、ドアの上の方に挟まっている黒板消しはスポンジの部分が粉まみれだ。
……何というか……
「さすがにこれは……」
「酷すぎるね……」
外見だけでこれです。内装は……考えたくもありません。
「ま、まあここでいつまでも立ち竦んでるのもなんだし、早く中に入ろうよ」
教室のあまりの酷さに固まっていると、いち早く復活したマキちゃんがドアに手をかける。
……え? まさか気付いて無いんですか?
……いやいや、さすがのチョロマキちゃんでもあれに気付いて無いだなんてーーーー
「みんなおっはよー♪」
ドアを開けて元気良く挨拶するマキちゃん。
その頭にドアに挟まっていた黒板消しが落ち、マキちゃんの頭に当たった。
「……え?」
呆然とするマキちゃん。ああ、これマジで気づいて無かったんですね……。
「……え?」
……アキ君、貴方もですか。
「ふっ、無様だな明ひ……って弦巻か」
私が二人に対して呆れていると、教卓の方から声がする。
そこには、ライオンのたてがみのような髪型をした赤いゴリラがいた。
まさかゴリラまで生徒の一員とは……さすがはFクラスですね」
「誰がゴリラだコラッ!」
「……坂本君。人の心を覗き見るなんて……変態」
「普通に声に出してたからな!」
「ちょっとユウユウ! この黒板消しは一体どういうつもりなの⁉︎」
と、ここでようやく事情を把握したマキちゃんが坂本君に詰め寄る。
「ん? ああ、すまんすまん。本当は明久に当てるつもりだったんだ」
「え? 僕?」
ふむ……本当はアキ君に当てるつもりだったと。
「アキ君はともかく他の人に当たったらどうするつもりだったんですか?」
「僕はともかく⁉︎」
「その時はその時だ。まあお前らの登校時間に合わせて仕掛けたからそこまで問題は無かったと思うが。
で、結月は気づくが明久は気づかず突撃。結果明久に当たるという流れだったんだが…………まさかチョロ……弦巻に当たるとはな」
「待ってユウユウ。今何か言いかけなかった?」
「まあチョロマキですからね。仕方ありませんね」
「チョロッ……!?」
「ねえ、僕はともかくってどういうこと⁉︎」
「おはよー」
アキ君とマキちゃんの抗議を聞き流していると、ポニーテールの女の子が入ってきた。
……ってあれは……
「美波ちゃん?」
「その声は……ゆかり!? 何でここに……ってそっか、試験サボったんだっけ?」
「それはこっちのセリフですよ。何で貴女までFクラスなんですか? 最悪でもEクラス並の点数は取れるはずでしょう?」
「うっ……」
私がそう問うと、美波ちゃんが小さく呻き声をあげた。
そして目を逸らし、頬を掻きながらボソリと呟いた。
「あー、こ、今回は読み辛い問題文が多くてね……」
「ああ……」
そういえば美波ちゃんは帰国子女でしたね。見た目は日本人ですし会話してもあまり違和感が無いからすっかり忘れていました。
……まあそれが理由とは到底思えませんが。
「みなみん、私もいるよー」
「あっ、おはようマキ」
「……何で私がここにいることについて驚かないの?」
「予想通りだったからよ」
「なして!? 私これでも一応Aクラス並の点数取ってるんだけど?」
自分が馬鹿っぽいという自覚はあったんですね……。
「何でも何も……あ」
と、ここで美波ちゃんが、私の後ろにいたアキ君を目にし、パァッと顔を輝かせた。
……まあそれしかありませんよね。美波ちゃんがFクラスになった理由は。
「アキもおはよ」
「おはようございます美波様!」
「うぇっ⁉︎」
……美波様?
「さすがは美波ちゃん。私の知らない間にアキ君に上下関係を叩き込んでいるとは……」
「ご、誤解よ誤解‼︎」
いつかはやると思ってました……。
「違うよゆかりちゃん。ただこれは美波様の命令でーーーー」
「アキもその呼び方止めなさい! 普通に美波で良いから!」
「でも命令は絶対だって「いいから!」……分かったよ、美波」
命令? ……そういえば点数で負けた方が勝った方の言うことを一つだけ聞くとかいう約束をしてましたね。
で、結果は見ての通りと。
そりゃそうですよね。元々実力は拮抗していて、それでいてアキ君半分程テスト受けてませんしね。これは美波ちゃんが勝つに決まってますよ。
まあこの結果じゃ美波ちゃんは命令することに納得いかなかったでしょうけど、そこらへんはアキ君が上手く言いくるめたんでしょうね。
「ようやくアキ君の名前が呼べて良かったですね美波様」
「べ、別に良かったとか……ってその呼び方止めなさい!」
「お主らは相変わらず騒々しいのう」
美波様……ちゃんをからかっていると、見るからに女性と間違われそうな美少女……じゃなくて美男子がこっちへとやってきた。
「おはようございます」
「おはようヒデヒデ。ヒデヒデもやっぱりここかー」
「うむ、二人ともおはよう。そして弦巻、それはこっちのセリフじゃ」
「……ねえ、皆の中で私ってどういう存在なの?」
「どういう存在と言われてものう……」
「それを……言葉にするのは……」
「その……ねぇ……」
「まあ……言葉にしない方がお前の為だな」
「ということで気にしない方が良いと思いますよ」
「何その反応⁉︎ 本当にどんな存在なの⁉︎」
「…………良い被写体……何でもない」
マキちゃんを皆で弄っていると、不穏なことを呟きながらムッツリーニまでやってきた。
「被写体?」
被写体という言葉にマキちゃんが食いつく。
「…………そんな言葉、言った覚えが無い」
ムッツリーニ、失言を誤魔化しにかかります。
「いや、今はっきりと言ったよね?」
しかし、マキちゃんにはしっかりと聞こえていた様子。
「…………それは…………」
さあ、どう出ますか? ムッツリーニ。
「…………ひ……」
「ひ?」
「…………冷やした鯛の間違い」
……もっとましな誤魔化し方は無かったんですか……?
「ああ、そっちかー」
……急にマキちゃんの将来が心配になってきました……。
「いやー、鯛と同じ存在だなんて照れるよ」
「照れるの⁉︎」
そしてマキちゃんの中で鯛の存在は一体どうなってるんですか……?