第四魔法科高校の優等生   作:悪事

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 九校戦前のオリジナルエピソード。さっくりと四~五話くらいで済ませる予定。

 百合香様の出番はがっつり削れて四四八をメインに話が回る予定。
 第一高校からはレオとエリカをキャスティングして、盛り上がるよう進めていきます。


祭囃子編【1】

 

 

 時代がいくら進もうと変わらないもの、時代の流れを問わない共通項というものは存在する。特に不良というジャンルはどのような時代でも一定数は確実に出てくる。体制への反抗心というか、若者特有の反抗期というものか。世代がいくら積み重なろうとも不良、悪ガキという在り方は未だに現存していた。(ちなみに暴走族という体系は自動車、バイクの高度な自動運転技術が導入されてしまったことで絶滅している)。

 

 

 学校や家庭、理由は様々だが、西暦2095年という二十一世紀末であろうとも不良と呼ばれる少年少女たちはどの町にもある程度はいるのが実情だ。

 

 魔法という非化学が現実となった時代でも変わらない少年少女たちのスタイル。社会に不満はあれど、それを発散することが出来ずに有り余るエネルギーを持て余した者たち。

 

 

 

 漠然とした不満、矛先のない力と意思の持ち主。凡百の有象無象ら。

 

 四葉百合香と“四葉四四八(よしや)”は彼らにこそ目を付けた。

 

 

 

 

 

 夜の帳が降り、すっかりと陽が落ちた時間帯。ヘルメットを被った少年やバンダナを付けた者、肩口のタトゥーを見せつけるように上着を着崩した少女たちが廃墟となったアミューズメント施設に続々と侵入していく。

 

 侵入のため円状に切られた金網は正規のゲートめいて、中に入ると元はショッピングホールだったであろう場所の壁面にはスプレーで描かれたストリート調のラクガキが我が物顔で陣取っている。

 

 そこは数年前とあるアミューズメント企業が鳴り物入りで建造した施設なのだが、食料品によるトラブルと土地権利に関する訴訟を発端に倒産、施設の管理権を放棄した場所でもあった。通常であれば、すぐさま更地となるはずだったが企業の多額の負債と土地権利の問題が残留し、国や東京都側が持て余す事態となってしまっている。

 

 更地にするには数々のトラブルを解決し公的資金を投入しなくてはならない。

 

 結果、廃墟となった遊園地がほぼ手付かずで放置されている状況だ。

 

 

 もっとも建て壊しや解体工事が進まない一番の理由は裏の権力者である東道青波のコネと根回しが大きく影響しているのだが、2095年現在においては数年前に何かしら事故があった曰くつきの場所という空虚な噂がまことしやかに語られている。

 

 

 企業が捨て、国や公的機関が接収を放棄した誰のものでもない空間。警備員さえ常駐しておらず、監視カメラもほとんど飾りの状態。自然、行き場のない若者たちがたむろするには格好の場というわけだ。

 

 

 そんな廃墟となったアミューズメント施設に多くの若者たちが続々と集まっていく。彼らはこれから起こるエキサイティングなひとときに胸を高鳴らせて足早に廃墟となった施設の奥へ、奥へと進んでいく。

 

 

 彼、彼女らが施設のほぼ中心、巨大な観覧車の地点まで進んだところで数名の人影が高速で動いているのを目撃した。ありえない速度の疾走、常識を超えた高度での肉体運用にアウトローを気取る少年少女たちが絶叫にも似た歓声を挙げる。

 

 

 点滅する弱々しい照明に照らされた人型の走影、彼らは各々が凄まじい勢いで打ち棄てられたアミューズメント施設の屋根や高所を高速で跳ね回る。奇声を張り上げ、壁面を蹴り付けて駆ける少年は重力を無視した動きで宙に飛びあがると身体を三回転させ、愛らしいキャラクターが描かれた看板に重力を無視して着地した。

 

 高さ、6,7メートルの位置にある看板に地面と平行な形で直立不動するという有り得ない体勢。周りの悪童たちが手を振り、その有り得ない(トリック)に賞賛の声を謳い上げる。

 

「ナイストリック~~!!」

 

「マジやっべぇ、今の動画撮ったッ!?」

 

「かっけー!おいおい、俺たちも早くはじめよーぜっ!」

 

 

 常識ではありえない物理法則を無視した身体運用をまるでスケートボードやインラインスケートの(トリック)さながらに少年少女たちは無造作に披露していく。廃墟と化していた遊園地は、摩訶不思議で愉快な魔力に支配されていた。

 

 

 ある小柄な少女は風のような速度を一切緩めることなく走り、己の足だけで観覧車を一周してみせたり、何の変哲もない地面をアイススケートさながらに滑走する青年もいた。

 

 それは見る者が見れば、“魔法”によるものと判別がついたろう。高速の疾走は連続的な自己加速術式。地面の滑走は慣性操作と摩擦係数の低減。どの魔法もそれなりに魔法を学び、CADの使用が許されれば、ライセンスを取得する前の魔法師でも同等のパフォーマンスが可能である。

 

 

 しかし、此処に集った彼ら、彼女らは魔法に対する学習を一切受けていない。更には高速での魔法発動に必要不可欠な“CAD”すら所持していなかった。

 

 

 だというのに誰も彼もが熟練の魔法師さながらの魔法を行使して、園内を目にも留まらぬ速度で駆け抜け、飛び、跳ね回る。皆が思い思いに魔法を操り、(トリック)を見せびらかしているところに一人のしなやかな影が夜を切り裂いて飛び込んでくる。

 

 

 美しい、と誰もが心から思う。規格外、絶世、形容すら許されない美貌は狂気と正気の紙一重。ただひたすらに“彼”は美しかった。

 

 しなやかで研ぎ澄まされたシルエット。一見して、その人影は何故か女性的なイメージを想起させるがすぐさま男性的な印象だと思考が“訂正”される。

 

 誰もが“彼?”を目にしてハッと息を呑む。中性的な、ありえないほどの美貌を前に思考が融解する。女性的なしなやかさに男性的な雰囲気。線の細さを忘れてしまうほどに凛とした気配と視線に宿る意思の強さ。男性的な魅力と女性的な魅力の完璧な均衡点。中性的な立ち振る舞いは美しさのあまり不思議と妖しさと麗しさを漂わせる。

 

 街を歩けば誰もが目を、意識を、思考を、心を奪われるほどの存在感。

 

 女性を思わせるほど長い黒髪を乱暴に一纏めに結び、スポーツキャップのつばには四葉のクローバー型のバッジが付けられている。廃墟の弱い照明に照らされた彼の影を目にし、集った悪童どもが“彼”、この魔法イベントの立役者である四四八(よしや)の下に駆け出した。

 

 

 男女の区別なく皆が四四八(よしや)に駆け寄り、無邪気に声を掛ける。

 

四四八(よしや)さ~んッ!お疲れッス!!見てくださいよ~、オレってばあったらし~(トリック)思いついちゃってぇ~」

 

「待って待って、こっちの方から聞いてよ~。私ってば、もう、びゅんって速いヤツはマスターしたかもしんないんだ~!」

 

「だぁ~っ!テメェら何、四四八(よしや)にムラがってんだボケどもがッ。どけどけっ、クソ発情期のクソサルどもッ!!」

 

「ひっどい語彙な、クソしか言えないの?」

 

「はぁ~?!なに、自分のこと棚上げてんのよ、ワンコロども!アンタらこそ四四八(よしや)の【ピー】狙ってんじゃねーのぉ?」

 

「ぶち転がすぞ、ボケたれ」

 

 ゴリゴリに筋肉を搭載した巨漢を相手に罵倒を打ち込む不良少女たち。もしくは意見の対立した男同士もメンチを切り、手が出る一歩前くらい。

 

 

 なんとも子供みたいなケンカをしている連中に、ため息をこぼしながら“俺”は口喧嘩の仲裁に入る。

 

「喧嘩しても良いが、やるならきっちり“ルール”の中でやるんだな。俺はお前らがくだらない理由でドンパチした怪我に“回復魔法”をかけるのはごめんだぞ」

 

「うっぐッ」

 

「キッチィ~、相変わらずのスーパードライ。そこは女の子の味方してくんないとさ~、四四八(よしや)ぁ──」

 

「だから、色目使ってんじゃ……しゃーねぇ、おい此処は“バトル”で白黒つけんぞ、テメェらぁ!!」

 

「じょーとう、その喧嘩買ってあげる!!」

 

「「「「「おぉぉおおおお!!!!」」」」」

 

「実は仲いいんじゃないか、お前ら?」

 

 息ぴったりに雄叫びを上げる彼、彼女らは思う存分に暴れ、競い合う好機(チャンス)に興奮を隠し切れない。俺はそれを黙って傍観している。理由は二つ、真剣勝負という状況はデータ収拾に有意義だし、どちらかに肩入れすれば面倒だからだ。

 

 ざっと周囲を視てみたが魔法の起動は正常にできている。あとは発動速度だが、それも現状では問題なさそうだ。

 

 仮想精神体、いや彼ら風に言うなら“使い魔”にも異常なし。

 

 実験は問題なく進行している──。

 

 俺が実験場の様子をぼんやり眺めていると、元は有明の方で無頼少年集団(アウトローチーマー)のリーダーをしていた男が俺の方へ手を振ってくる。

 

四四八(よしや)~、バトルの“ルール”決まったぞ」

 

「ようやくか、それで結局どのルールに収まったんだ?」

 

「そりゃ、シンプルに“RUN”よ。正面ゲートから、二つ三つくらいチェックポイント挟んで観覧車のテッペンまで」

 

 “RUN”、それはこの廃墟を根城とする彼らが決めた独自の魔法戦。このフィールドの創始者にして元締めである四四八(よしや)と集った不良少年、少女たちによる遊びの中から自然と生まれた六つのバトル方式の一つ。

 

 魔法を併用した走行による目的地到達までの時間を競う競技。

 

 魔法の基礎中の基礎を磨くためのバトル方式。とはいってもルールは実に単純明快、チーム単位、あるいは一対一で指定された目的地(ゴール)までの競争。もちろん魔法使用可。どっちが(はや)いか、ノロいのか。その一点だけが勝敗を決める。

 

 

 ──ただの速さ競争と侮るなかれ。

 

 これは四系統八種からなる系統魔法の中でも特に押さえておくべき運動エネルギーに直結した加速・加重・移動の三種の魔法を効率よく鍛え上げられる競技形式。気づかぬ間に魔法の扱い方を上達させ、多種多様なデータを採取することを目的としたものである。

 

 それを知らない若者たちにとっては、今最高にアツいエクストリーム・スポーツとなっているのだ。言い争いをしていた者たちも口こそ悪いが、誰もが口角を上げ心底楽しそうに、笑みを浮かべて悪態と吐きながらじゃれ合い続ける。

 

「鈍くさい筋肉ダルマなんかに負けないよ~!」

 

「言ってろ、カスモヤシどもが」

 

「おっ、クソ以外にボキャ増えたじゃーん、褒めたげよっか?」

 

「いやそこで煽るなっつーの……四四八(よしや)さーん!!」

 

 

 呼ばれた俺は“重い胸部”の所為で凝り固まった肩を回し、開始の宣言を行う。

 

「それじゃあルール決まったし、“バトル”を始めるぞ。ルールは“RUN”。目的地までチェックポイントを通過し、先にあの観覧車の天辺に着いた方の勝ち。妨害はしてもいいが相手に怪我をさせたら負け。あくまで間接的、怪我の無い範囲で無茶をしろ」

 

「割と四四八(よしや)も無茶苦茶言ってるよーな?」

 

「怪我しても回復魔法あんじゃん、そこまで気ぃ張らなくても」

 

「いいから、さっさと位置につけ」

 

 

 呆れた四四八を前に口汚く罵り合っていた少年、少女が位置に着く。口元には抑えきれぬ喜悦と好奇心、漏れ出る歓喜を笑みに変え、魔法発動の準備をする。自分のうちにいる“使い魔”に意識を向け、発動(RUN)する魔法を選び出す。

 

 周囲の観衆たちは今か今かと開始の合図を待ち、固唾を呑んでいた。

 

 バトルの当事者たち、二人の準備が整ったのを確認して俺は被っていた帽子を外して勢いよく振り下ろす。

 

 

 瞬間、二人の影が爆発的な加速で飛び出していった。フラッシュライトめいた想子光の奔流が弾け、自己加速の魔法式が発動する。凄まじい加速に少年、少女が険しい顔で暴力的なGに耐えて、チェックポイントを目指す。

 

 物理的な常識ではありえない急加速。一般人であれば目を見張る機動であろうが、普通の魔法師からすれば、なんともお粗末な加速だったろう。

 

 一般的には加速の魔法式は初速、加速、最高速で数値を変えておくのがセオリーである。最初から最高速度の数値を設定すれば、急激なGに晒されるうえに身体にも大きな負担がかかるからだ。魔法を正しく学んでいない者たちは負担も、常識も知らずに魔法を発動させる。

 

 ただ、楽しくて、面白い、というインスピレーションの赴くままに。

 

 

 急加速によって身体に叩きつけられる暴風の壁。腕や足にかかる遠心力。体内の血が加速の方向によって偏り始めるも、胸には途方も知れぬ歓喜と愉悦、心や意思が思考を無視して高鳴り弾む。魔法を発動するたび、次の一瞬に何が起こるのかという未知を踏み締める喜びが全身を貫いた。

 

 最初のチェックポイントである銅像が伸ばした手にハイタッチして、空中で二回転捻りを加え、外灯を足場に少年が夜空を駆ける。少女もまたチェックポイントをクリアすると、銅像の頭を足蹴に空中へ跳び上がって建物の壁から壁へ飛び跳ねていく。

 

 目的地までの自分が思う最短ルートを自由な発想と魔法的な機動で駆け抜ける。

 

 男も、女も魔法という概念を前に特有の差はない。ただ、自由だけがあった。

 

 吹き抜ける風を背に受け、少年と少女の二人は眼下の歓声を受けて、より高く跳び上がる。本職の魔法師である四四八(よしや)からすれば、無駄が多いようではあったが敢えて口にするほど野暮でもない。

 

 ルール違反がないのを確認していると、五、六人ほどの少年たちがこちらにやってくる。そのうち二人は見覚えがあったが、残った面子に心当たりはない。

 

「ちょっといいか、四四八(よしや)。この四人なんだけど、地元のツレでさ。此処の仲間に入れてほしいんだ。“使い魔”と契約させてやってくんないか?」

 

「──“使い魔”じゃなくて仮想精神体なんだが、まぁいい。仕様は教えてあるのか?」

 

「ああ、“使い魔”の魔法はこの場所でしか使えないこと、他の人間にあぶねー魔法かけようとするとフリーズかかるのだろ?」

 

「ざっくりとしか教えてないな?……怪我した時、魔法による治療がかかること。発動させる魔法式はせいぜいが一~三工程くらいしか起動しないこと。自動的に乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)が発動していること。サイオン切れになると魔法発動が出来なくなること。説明すべきことは色々とあるだろうに……」

 

「いやぁ、こまけーのは使いながら覚えるからさぁ」

 

「そういう奴に限って使い方の難解な電化製品の仕様書を捨てるんだよ。まぁ、変に暴れたり、喧嘩するようなことがなければ、俺がどうこう言うつもりはない」

 

「話が分かるぜ、サンキューな四四八(よしや)!」

 

 そういうと彼は四人の少年たちを呼び、俺の前に立たせる。四人がこちらに頭を下げようとするのを制し、俺は仮想体が格納されているCADを操作する。起動待機状態になっている仮想精神体に起動キーを打ち込み、精神活動と実体化を再開させる。

 

 一瞬、無駄のないサイオンの流入により、光が僅かに煌めく。余分なサイオンの注入がないため、静寂にも似た魔法発動。それを切り次に、虚空から四体の四足獣が姿を現す。

 

 

 出現したのは四四八(よしや)と百合香がシノと呼ぶタイプの仮想精神体。黒毛の柴犬が実に魔法的な形で出現する。あまりに非現実的、いっそファンタジーともいえる光景に四人の少年たちが興奮を露わにして口々に騒ぎ始めた。

 

「じゃあ、仮想体に触れてくれ。それで契約は締結されるから」

 

 俺のセリフに疑問を覚えたのか、契約という内容について新顔の一人が尋ねてくる。何か書面に書いたりするのか、というありふれた疑問。俺は少し口角を上げ、首を横に振る。

 

「いいや、契約ってのはまぁ分かり易さを優先した言い方だ。要するに魔法を使えるように使い魔と契約者を一体化させ、思念体となった使い魔に魔法発動を代行させるという仕組みなんだが、どうするもう少し深い所まで説明聞いてみるか?」

 

 お粗末なことに皆が揃って遠慮、というか面倒なところは割愛したがった。まぁ、無理もない。この施設の敷地内には百合香の精神干渉魔法が薄く掛けられている。魔法について深い思慮を巡らせることも、悪用の方法を思い描くことも、四四八(よしや)という人間の詮索をすることも、この施設の敷地内では思考すらできまい。

 

 加えて、使い魔には幾つかの安全装置が掛けられている。敷地の外に出れば、強制的に休眠状態となり魔法の発動は不可能。他者への事象改変時に停止する機能。基本的に実験場の外で魔法によるトラブル発生の可能性は事前に摘み取られていた。

 

 

 新顔の少年たちがおそるおそる黒の柴犬らに触れると、仮想体の姿が風となって夜闇に解け、少年たちの実像と重なって一体化していった。完全に柴犬たちの姿が消えるのと入れ替わりに少年たちの身体に纏われる想子の燐光。実に幻想的な光景のただ中にいると気づいた彼らは興奮気味にはしゃぎ始める。彼らを四四八(よしや)に紹介した少年が強めに咳ばらいの仕草をしてみせる。それで我にかえった者から四四八(よしや)に礼を言って背筋を伸ばす。

 

 俺はぞんざいに手を振り、気にするなと言外に応えてキャップを被り直す。四葉のクローバーのバッジが付けられたそれは四四八(よしや)という少年?のトレードマークのようでもあった。

 

「最初に使える魔法は基礎的な加速・加重・移動の一工程(シングルアクション)。それと回復魔法くらいだな」

 

「──“回復魔法”?」

 

 “回復魔法”。それは劣化した“再成”の魔法の俗称でもあった。

 

 劣化しようとも効力は絶大なものを誇り治療分野において規格外と言ってもいい理外の魔法の一つ。不良少年たちに分かり易さを優先して伝えたことで、呼び名こそチープになったが効力そのものはなんら劣化することはない。

 

「ああ、どんな怪我でも一時間以内なら、たちどころに治せる魔法だ。とはいえ基本的に怪我するような無茶はするなよ」

 

「すんません、聞いておきたいんですけど一工程(シングルアクション)ってのはどういうのですか?」

 

「そうだな、簡単な一動作。三~五秒以内の動きに影響する魔法だな。走る、跳ぶ、空中に滞空する。まぁ、初心者(ルーキー)はそれくらいしかできない。使える魔法を増やしたいなら、もっと魔法に慣れてからだな」

 

 適当に話を済ませようとすると、横からしたり顔でにやける少年が会話に割ってきた。

 

「あとはバトルに勝ち進むって裏技もあるだろ、四四八(よしや)?」

 

「まぁ、それも一つの手だが……その辺は誘ったお前が責任持って説明するんだな」

 

「おっけー、いつもあんがとな四四八(よしや)~!また、あとで俺の魔法も見てくれよな。──よっしゃ、行こうぜお前ら。まずは思いっきり走って、跳ぶのから始めるぞ~!」

 

 

 新顔の四人とその教官を気取った少年が離れていくのと同時、周囲で四四八(よしや)の様子を伺っていた他の少年少女たちが群がっていく。自分の魔法の上達を見てもらうため、彼と会話するため、自分を覚えてもらうため、新しい魔法をもらうため、様々な思惑こそあれど、皆が四四八(よしや)を慕って彼の下へ集う。

 

 

 四葉百合香の別人格、男性面を司る四葉四四八(よしや)。彼には不思議と大勢の人々の者たちから慕われる奇妙なカリスマを持ち合わせていた。百合香がその美しさ、柔らかな語り様から信頼を不思議と得るのに対し、四四八(よしや)はそのぞんざいさ、変に冷静で深くは立ち入らないのに情の深さを所々に感じさせる性質により信頼を獲得する。

 

 言ってしまえば、四葉四四八(よしや)は司波達也とある種同一のカリスマを持ち合わせていた。無理もない、四四八(よしや)は在り得たかもしれない達也の在り方。四葉の正式な後継者としての達也に極めて近しいのが今の四四八(よしや)なのだから。

 

 もっとも、達也はそれを知らない。深雪だけは薄々、兄に対する特別な情愛から気取るかもしれないが、それでも彼女は達也しか愛せない。ゆえに深雪が四四八(よしや)の正体に辿り着くことは不可能に等しかった。

 

 

 

 

 夜の遊園地を舞台にした誰もが魔法を扱うことのできる夢のような空間。

 

 徐々に口づてで参加してくる者も増えてきた。祭りの場が賑やかになるのは喜ばしくある。けれど、このままいけば外からの人間が流入する恐れもある。

 

 その外部の人間が魔法の不正利用をやめさせようとする可能性はもちろんあった。

 

 既に最低限の稼働データは手に入ったが、元老院に出すなら念を入れてもう少し実証実験を行いたいという気持ちもある。欲をかく必要はなかった。そもそも、データを出しても数年は寝かされる技術であることに違いない。

 

 さて、この実験場、そして此処に集った者たちをどうしたものか──。

 

 四四八(よしや)は麗しい、と形容される端正な顔立ちで微笑を浮かべる。遠くの観覧車の頂上で少年が勝ち誇る声が届いてきた。どうやら、決着がついたらしい。勝った方、負けた方、共にいい顔で笑っていた。勝ち誇り、悔しがり、それでもなお笑い合える。

 

 そんな光景を目にして、四四八(よしや)はとりあえずの方針を決める。

 

「此処は成り行きに任せてみるか。案外、策を弄さない方が上手く回るかもしれん」

 

 

 賑やかな歓声が遮音結界の中で響き渡る。全観衆が歓喜の声を謳う中で四四八(よしや)はキャップを深々と被り直し、月光を背にして夜空へと軽やかに跳び上がった。

 

 




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