魔法の実在、実用化に伴い世界の常識、法規制や軍事、民間事業などは大きく変貌を遂げた。二十一世紀において、世界をもっとも変革させた技術という点では魔法は他の追随を許さない技術体系であることだろう。
魔法師と呼ばれる職種が誕生し、魔法は一般市民にも認知されるくらいの知名度にはなっていた。とはいえ、高い新技術を人が常に善く運用できるとも限らない。魔法師の絶対数が少ないおかげで深刻な問題にこそなっていないが、実際に魔法を用いた犯罪も生じている。
もっとも、街中には
魔法とは、扱えぬ者にとって実体の見えぬ強大な力である。魔法的素養のない者にとって魔法式は視認不能、視るためには
ゆえに公で大規模な魔法を見る事のできる“九校戦”は魔法の使えぬ一般人たちにとっても一大イベントなのだ。
魔法とは認知こそされていても、よく分からないという分類に入るモノ。魔法的素養を持つ者が少数派であること。魔法の発動や使用に高度な実践環境と学習が必要であるという事実。
だからこそ、良くも悪くも魔法による事件の絶対数は少なかった。
そこに飛び込んできた魔法を良く知り、学んだ者からすればありえないと驚嘆すべき事件。突如、ダークウェブ上に投稿された動画の数々。
タイトルは“
“magic”の誤字だろうか、それとも明確な意図があってのことか。題名はともかくとして最初に投稿された動画の内容は、魔法を利用した廃墟でのパルクールというべきものだった。
空中にありえない速度で跳び上がり、不自然な停止や加速、物理的には不可能というべき回転をする少年少女。時には壁面をニンジャよろしく平行なまま走り抜けている。どう見ても魔法を使用したというのが明らかな映像。
投稿された動画の中には、駆け抜ける映像以外にも“フラッグ”と呼ばれる陣取り合戦めいた遊びや、魔法を使った鬼ごっこというモノもあった。競技やルールは何処か九校戦と近しい要素もあったが、それよりも自由度が高いような印象を受ける。
動画に映る若者たちはそれぞれが身体全体で楽しみながら、魔法を発動して廃墟を駆け抜ける。眼下にいる観衆たちも、興奮の雄叫びを挙げて魔法を使った身体操作を声高らかに褒め称えていた。
特に一人だけ明らかに質、いやレベルの違う魔法を使う者が一人いた。満月を背負い、誰より高く宙を飛び跳ねる少女?……いや少年だろう。“そうであるはずだ”。
腰までかかる髪を乱雑に纏め、彼は威風堂々と廃墟となった遊園地を自在に駆け抜ける。女性よりも、男性よりも、形容する事さえ不釣り合いとなるような美貌が映像の中で常に輝いていた。中性であるがゆえに達することのできる美の領域か。
“ヨシヤ”とだけ呼ばれる彼は常に集団の中心にいた。喧嘩の仲裁、悪態を吐き合う連中の間に入って場を取り持つ目立つ容姿。美し過ぎるがゆえ埋没できぬ麗人。
目深にかぶったキャップ、時には防塵ゴーグルを付け、映像には顔の全体が映らないよう常に独特な立ち位置を選んでいた。立ち居振る舞いから分かる、魔法師としての高い教育を受けていることが。
その周囲の不良集団の若者たちが気づいていないことこそ、魔法を知る者からすれば不自然に思えてくる。
そんな、魔法を違法に使う彼・彼女らは不定期な間隔で動画を投稿し続けていた。実際、彼らからすれば誰の迷惑にもなっていない。ただ自分たちが楽しむためだけに魔法を使っているのだ。誰に憚る必要もないと考えているのかもしれない。
だが、魔法を緊急的な自己防衛や救助活動以外で使用することは違法、いわゆる不正使用に該当していた。これは魔法師であっても同様。ただ、一般人にまで規制が適応されるかと言うと話は変わってくる。
“一般市民は魔法を使うことができない”。その大前提があるゆえ、魔法の不適正使用で一般人を拘束ないし逮捕することは現行法では実行不能。想定外というべき法の抜け穴。
違法な魔法使用の映像が出回る。それも単なる遊び目的にしか使われないある種、健全というか毒気のない内容のものが、だ。
今までは在り得なかった類いの新たな魔法犯罪。実害がないとはいえ魔法を使用した違法行為は、魔法師の社会的立場を脅かす可能性がある。
それに遊びだけで満足できず、魔法を使えるようになった若者たちが強盗や傷害目的で魔法を使用しないとも限らない。“
魔法の使用、研究などのエキスパートである“魔法師”では断じてなく、あくまで魔法を
魔法を遊びのためだけに不適正使用する若者たち、違法な活動に励む不良集団というのは魔法師協会を通じて
“魔法不正使用対策課”という名目で与えられた一室で、大型コンソールの前でダークウェブに挙げられた動画を見ていた青年は一度、大きく伸びをしてから画面を閉じて席を立つ。
そんな上司の不真面目さを糾弾しようと後ろに座っていた男性が口を尖らせる。
「警部、捜査資料はきちんと見てください。画面に映った廃墟の様子から彼らの拠点の位置を割り出せる可能性が──!」
「捜査資料といってもねぇ、ダークウェブの動画をそのまま流してるだけじゃないの。動画の発信元は幾つかハブを経由されてるおかげで判明しないし……。撮られた場所が日本ってことは分かるけど、そっから先は進展なしときたもんだ」
「ですから、士気が上がらないと?」
「というより、緊急性が低いものに本腰を入れらんないでしょ?今んとこ彼らがやってるのって夜中に集まって友達らと遊んでるだけよ、稲垣君?大体、子供が楽しく遊んでるところに警察官がのこのこ空気も読まずに踏み入るのもさぁ~」
「呑気な事を……ともすれば彼らが魔法を使って犯罪行為に走る可能性もあります。それを考えれば、不正に魔法を使用できる環境、共同体を確保するのは急務です。きちんと働かないと評価に響きますよ」
「はいはい、公務員のツラいところだ。……でも、魔法を使った犯罪か。それは今のこと心配しなくていいんじゃない?」
「またそんな楽観視を……」
「いやね、犯罪に手を出すとしたら、もうとっくにやらかしている頃合いでしょ?かれこれ三カ月くらいだっけ、動画が投稿され始めて。これだけ魔法を使ってるのに、今のところ魔法を使った犯罪件数に変化は見当たらない。しびれを切らして魔法を私利私欲に使うヤツが出てもおかしくない期間だよ?これはよっぽど頭のいいリーダーが仕切ってるんだろうね。統率が恐ろしいほど取れている、少なくとも頭がすげ変わらない限り魔法を犯罪に使おうって輩は出ないでしょ、間違いなく」
真剣を思わせる鋭い表情で推理、というよりも予感を言語化する上司を見て、稲垣警部補は軽口を叩いてみせる。
「……剣士の勘、ですか?」
「そこは刑事の勘って言うところじゃない?」
部下の稲垣警部補のしかめっ面をにやけ顔で相手しながら、千葉家の長子である千葉寿和は手慰みに入れたインスタントコーヒーを不味そうに飲み干した。
「……そうですね、確かに頭の切れるリーダーが仕切っているのは間違いないでしょう。映像に出ているランナーたちの個人情報は一切ヒットせずに梨のつぶて。全国の魔法科高校の生徒だけでなく、ライセンスを得た魔法師さえ照合できませんでした。となると、本当にただの一般人が、魔法を使用していると?」
「この映像が合成でないってのは鑑識のお墨付きだよ?」
「しかし、自分には信じられません。魔法師でない者が魔法を使うばかりか、“CADも無しに高速で魔法式を組み上げる”など……」
「ま、確かに信じられないけど映像じゃ実際に起こってるんだ。……これは、単なるお遊びでは済みそうにないかもなぁ。……あ、これは刑事の勘ね」
「真面目にやってください、警部」
「いや、やってるって。しかし、真っ当な捜査で手掛かりがないとなると、少し奇策、というか変則的な捜査に繰り出さないとかなぁ?」
寿和は再び席に座って、動画をもう一度開く。マギアランナーの動画に映っている走者たちは、誰も彼も十代後半くらい。どれだけ年を多く見積もっても二十代前半の大学生くらいしか映されていない。
もっとも多い年齢層だと高校生、それも一年生ほど。まだ何処か幼さが残る学生が非常に多かった。ちょうど自分の妹であるエリカと同じくらいの年齢だろうか。
そこで寿和はふと変則的な捜査方法について思いつく。妹はちょっかいを出されて不機嫌になるだろうが、それでも久方ぶりの感動の再会ということで我慢してもらおう。
「──巻き込んでしまうのは心苦しいけど、高校生の流行りってのは同じ年代でないと分からないもんだし、しょうがないかな」
魔法科高校は魔法師の専門教育に特化した国公立の魔法科大学附属の高等学校だ。特に第一高校は、全国的に見ても一段レベルの高い学校として名を馳せる。十師族が二名も在籍し、
これも“九校戦連覇”という称号を持つがゆえの特異性だろう。優秀な人材はより良い環境での勉学と経験を得たがるのが常。第一魔法科高校はいわば魔法に関する選りすぐりのエリートたちが揃った学び舎なのだ。
そんなエリートたちも一科・二科と校内で更なる優劣を付けられるのだから、魔法という特殊技能を学ぶ環境の厳しさたるや筆舌に尽くしがたい。
駅前でCADを持たず(当然のことだが)、地元の友人たちと待ち合わせをしている彼、西城レオンハルトは刺激に満ち溢れた高校のことではなく、何気ない平凡な中学時代のことを思い返していた。
授業をそこそこ真面目にこなし、友人たちとはしゃぎ、笑いあった日々。
時には突っかかってくる上級生と喧嘩などもして、結果なぜだか仲良くなった先輩たちと遊びまわったり、と今にして思うと自分の中学生生活が普通からは少しかけ離れていたかもしれないと反省しかけていた。
エリート、落ちこぼれなんて、くだらないレッテルが嫌いだったっけ。
自分の在り方を定義するうえでそんなもん意味がねぇ。
だからか、オレはいわゆる非主流派、不良一歩手前くらいの奴らとつるむことが多かった。いや、優等生の類いの生徒とも仲良くしてたが、どちらかというと不良っぽい連中の方が一緒にいた気がする。
まぁ。気に入ったヤツなら誰であろうと仲良くなるし、気に入らないなら真っ向から悪態を吐く。
そういう分かり易い考え、というよりは動物的な直感でオレは動いていた。
しばらくして古なじみたち、地元の中学時代の仲間と無事に合流する。
高校生になって、髪を染めた者もいたが昔の面影を知るオレからすれば、高校に進学した仲間を見つけるのは造作もない。
「久しぶりだな、お前ら。元気してたか!」
「そーいうレオっちこそ、すげー魔法学校いったんだろ?ちゃんと馴染んでるのかよ」
「レオなら心配ないだろ。うちのガッコで一番、腕っぷしが強かったんだしよ」
「そーそー。それに高校生になったら魔法も使えるんだろ?じゃあ、無敵じゃん!」
「あのなぁ、周りも魔法使えるんだし、オレより魔法の勉強してきた先輩たちがいるんだ。オレなんか足元にもいかねぇ人ばっかりだよ」
こっちがそういっても仲間たちは、“嘘ばっか”と取り合いもしない。まったく、中学の頃の喧嘩自慢が高校でどれだけの意味を持つというのか。近場の運動施設に行きながら、第一高校のことを友人らに話していく。
「はぁー、レオよりも強そうなやつらがゴロゴロしてる?なにそれ修羅の国なんか?」
「魔法師って皆マッチョなんかな?」
「いや、魔法師なんだからすげー魔法使えるんだろ。ムキムキである必要はねぇって」
「お前らなぁ、そんなに筋肉の部分を強調するかね、普通?」
レオは呆れながらも仲間内のバカ話に笑い、友人たちとインドア・スポーツに興じる。透明な箱状の空間で行うドッジボール、またはレッグボールというフットサルの発展形の球技でおおいに遊び尽くした。
レオ以外の面々が疲労し始めたところで、いったん休憩となり透明な箱状のドームを出て自動販売機のスポーツ飲料で乾杯をする。レオの古なじみたちは昔以上に動けているレオの身体能力に感心していた。
「にしてもやっぱ、そんだけ動いても平気そうじゃんか、さすが体力お化け」
「おばけって、レオっちは魔法師だろー」
「魔法の勉強ばっからしいのに全然なまってねーのな、レオ」
「おいおい、高校なんだから体育の授業くらいはカリキュラムに含まれてるぜ?勉強もだけど、ちゃんと体を使った授業もあるさ」
「そっか……なぁ、それってレオが、あー二科生?だからじゃ、ないんだよな?」
「どーしたよ、急に……。別にそんなんじゃねーよ。二科生も、一科生もカリキュラムはそう変わんねぇって。魔法の実習で詳しく教えてくれる先生のスケジュールが一科より少ないってだけだって」
「大丈夫なんかよ、聞いたぜ。魔法の勉強ってあぶねーこともあるんだろ。先生とかいない状況で事故とか起きれば──」
「そーいう危ない魔法は立ち合いじゃないと使えもしねぇの。だから、二科生だと一科生よりかは勉強のレベルが落ちちまうが、しゃーねーさ。オレよりも優秀な奴らが山ほどいるんだ。有望な連中にこそ時間かけるべきだろ」
「でもよ~、レオっち。それって差別とかなんじゃ」
ちょっと前に校内で、平等、公平とか言っていた同盟の生徒たちと同じことを言い出そうとした友人に待ったをかける。
「それ以上はいいよ。別にオレもそこまで専門的で、特殊な魔法の勉強がしたいってわけじゃないからな。山岳救助隊に就職するために必要な知識と体力づくり、あと魔法師のライセンス試験に必要な勉強をさせてもらえれば、学校側には特に要望もねーのさ」
あっけらかんと言うレオの姿に、中学時代の仲間たちは納得のいかなそうな顔をしているがレオとしては本当に気にしていなかった。学校側に求めるものは特にない。それよりも良い友人に恵まれたことに感謝さえしている。
ただ、レオの友人たちは素直に納得できなかったらしい。
「でもよ、魔法の上手い、下手でんな露骨に分けるとか、おかしくねぇか」
「だよな、魔法を普通に使えるだけですごいんだしさ」
「つっても、魔法を勉強するために魔法科高校に行ったんだ。魔法のことで分けられるのも仕方ねぇの。おら、それ以上グダグダ言うと此処らでお開きにすんぞ」
「っとと、わりーわりー……」
「レオがそういうならさぁ……仕方ないか」
「…………なあ、レオっち。実は、さ。此処だけの話なんだけどさ。いきなりですげー魔法が上手く使えるようになる方法があるって言ったら、信じる?」
胡散臭い、というか余りに疑わしすぎる切り出し方にガクンと肩を落とす。
レオは古なじみが怪しげなことを言い出したのに眉をひそめた。自分を騙そうとしているのかとも考えたが、友人との仲を信じている彼は敢えてもう一度聞き返す。
「いきなりだな。まずはじめに言っとくが、そんな方法あるわけねーよ。魔法ってのは、家柄とか才能でほぼほぼ決まる分野だぜ?オレだって魔法が使える家の出だけど、それでも天才っていう魔法師はもっと良い家柄でないと生まれようがないんだ。だから、お前がどんな話を聞いたか知らねぇけど、魔法を一朝一夕で上手くなる方法は在り得ねぇの。どこのどいつだ、そんなデマ吹き込んだのは?」
少し不機嫌気味にレオが目を細めたのを見て、話を切り出した青年が慌てて手を横に振る。
「いや、ホントなんだって!?オレも胡散臭いかなーって思ったんだけど、中学んときの先輩たちがいたろ。あの人たちの紹介で、俺たち魔法を使って遊べるとこに入れてもらったんだ!」
「“俺たち”?……ってことはお前らも」
「……ああ、半信半疑だったんだけど、マジでオレたち魔法を使えたんだぜ」
「確か、ほらこの動画見てくれよ」
そう言われてもレオはまだ信じ切れなかった。友人たちが悪質な詐欺、もしくは洗脳を受けている方がまだ信憑性としては──。
見せられた端末の画面を見て、レオは目を見開く。
動画には友人たちが自由自在に、魔法を使って廃墟らしき遊園地を駆け抜けている。移動系統の魔法だろうか、風を味方につけ、ジェットコースターの鉄骨をサーフィンさながらに滑走する。
空中で回ろうとしてジタバタと不格好な体勢をしたり、加速魔法の数値ミスだろうか、初速から急激な加速をしていたり、と拙いながらも魔法を使っている光景が記録されている。“魔法”の教育も受けたことがないはずの友人たちが、画面の中では魔法を扱っていた。
しかもよく見ると友人たちはCADすらつけていなかった。だというのに、彼らは第一高校の一科生もかくやというスピードで魔法を発動させている。いくら一工程の負荷の少ない魔法とはいえ、常識では考えられない練度をしている。
「おい、これって一体、どういうことだ。どういうモノを使ったら、いやそもそも道具とかでどうこうなるような話じゃ……」
「いや、簡単だって。此処の場所を仕切ってるボスに話を通して“使い魔”をもらえば、誰でも魔法が使えるんだよ」
「“使い魔”?」
「え、レオっち知らないの?魔法を使えるようにしてくれる犬だよ。それと契約するとさ、こう、なんだ、思っただけで魔法が使えんの。まぁ、俺たち入りたてだから、簡単な一工程の魔法しか使えないけどな」
「は、いや使い魔ってなんだよ?いや、それよりも契約って、お前ら変なことされたりとかしてねぇよな!?」
がしりと肩を掴んで友の身体に妙な傷や手術痕がないかを確認する。とはいえ、目視で視えるような痕は見当たらない。それがかえってより強い危機感を煽るが……。友人はどこ吹く風だった。
「おわっ。いや大丈夫大丈夫!マジでなんともねーから。契約っていっても使い魔の犬に触るだけだしさ。でも、魔法はあそこでしか使えないのが不便なんだよなぁ」
「……オレじゃ聞けば聞くほどわけわかんねーよ。一から説明してくれ」
友人たちの支離滅裂ぎみな話によると、魔法は特定のエリアでしか発動できないということ。魔法を使う前に使い魔、黒い犬と接触する必要があること。
なにもかも、通常の魔法教育を受けたレオからすれば信じがたいことばかり。
ただ、友人たちが魔法を使っている映像があるために信じざるを得ない。
「お前ら……そういう変な話には無闇に乗っかるなよなぁ……」
「うぅ、ごめんよ。レオっち」
「すまん、いや明らかにヤバかったら逃げるつもりだったんだけどさ」
「魔法使えるのが思いのほか楽しくて」
「今からでも遅くねーから、とっとと逃げろよな……」
レオの半ギレな顔に三名の古なじみが頷いたのを見て話は纏まった。これで友人たちの身は安全だろう、けれどその前にレオとしては仲間に妙なちょっかいを入れられた意趣返しに軽く殴り込みにでもいってやろうかと牙を剥く。
学外で無闇にトラブルを起こす気はないが、友達に変なことをされて文句も言えない腰抜けになるなど真っ平ごめんだ、とレオは腹を決めていた。その廃墟となった遊園地に突撃する気でレオは友達からより詳しく話を聞こうとする。
「そんで誰なんだ。遊園地を仕切ってる親玉、ボスってヤローは?」
「ええっと、先輩たちの知り合いの知人って話で、あ、すっごい綺麗な男なんだ。モデルかもよ」
「ばっか、あんなモデルとか見たことねーよ。どっかの雑誌に掲載されていたら一発で分かるさ。少なくとも芸能人とかじゃないな。でも、芸能人顔負けのルックスだぜ、マジで」
「話ずれてる、ずれてる。えっと、長い黒髪でたまげるくらいの美人の男で、周りからもすごい信頼されてる人、かな?……こう言うとさ、レオはきっと“騙されてるだろ”って思うかもだけど、俺には悪い人にはどうしても見えないんだよ。良い人だぜ、間違いなく」
ボスという人物の擁護が出たところでレオはそれ以上の主観的な内容を聞き取るのをやめて簡潔に聞く。
「そいつの名前は──?」
「……苗字は知らないけど、名前は聞くよな」
「本名じゃなくてニックネームっぽいけど」
「そこはいいから、名前教えろって」
「えっと、確か……“ヨシヤ”って言ってたよ」
その名前は、あまりにもレオに馴染みがあった。
その名前を知っている。美しく笑う少年の面影に未だ脳が焼かれている。記憶は時間の流れの中で思い出となり美しさをより増していく。腕を引かれた感触は今なお鮮明に残り、華を思わせる香りを忘れられない。
覚えている、憶えているのだ。
『四足す四で、八。それで
よしや、ヨシヤ、
西城レオンハルトはその名の少年に命を救われている。祖父とともに調整体の宿命から解放され、彼は今も健全健康に生きられている。
いわゆる命の恩人。子供の頃から長らく探し続けた魔法師。
目の据わったレオは友達の肩を掴んで、もう一度聞き直す。
「ホントに、本当にそいつは
「えっと、たしか……」
「落ち着けよ、レオ!さすがに漢字はわかんねぇけど、名前は間違いなくヨシヤって言ってた。それだけは確かだぜ」
「うん、ヨシヤさんがあそこを仕切ってるボス、ってかリーダーみたいな感じなんだ」
「なんというかオーラがあってさ。あの人の前だと自然と気楽で、楽しくなれるっていうか」
レオは頭を悩ませる。どうすべきか、友人たちに魔法を与えた謎の人物がかつて自分を救った人と同一人物である可能性。それに本気で頭を悩ませる。
どうすればいいか、どうしたいのか、と。
もう一度、会いたい?
それとも友人に変なことをしやがったと文句を言いたいのか?
それとも一目見るだけで満足すると?
分からない、ただ名状しがたい感情だけが濁流となってレオの裡で渦巻いている。感情は乱れ、心は行く先を定められない。
答えは明確に出ないまま、それでも、と彼は一歩踏み出し──。
「頼む、みんな。オレを
長い葛藤の末にレオは友人たちへ頭を下げた。
作者が単純なため、感想、ここ好きなどが執筆速度に直結してます。
良ければ感想やここすき評価など、どうかよろしく。