第四魔法科高校の優等生   作:悪事

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第五話

 

 

 

 達也は改めて慨嘆する、今日この一日は激動だったと。

 

 第一高校の工房は、なるほど魔法大学附属だけあって達也でも感心するほどの設備だったし、射撃場では偶々、七草家の息女にして生徒会長である七草真由美の実技を直接、視ることができた。

 

 しかし、昼休みには食堂で一科、二科の差別問題で席を譲ったりしたため食事も落ち着いて取れなかったりと嫌なイベントにも遭遇してしまった。

 

 差し引きで良し悪しの判別できない日だと思いながら、下校しようとしたとき更なるトラブルが発生した。

 

 

 深雪と一緒に下校したいA組の生徒たちとエリカたちE組の面々の言い争いだ。

 

 “今日は厄日だったか”と他人事な感想を内心に沈め、達也は目の前のクラスメイトと一科生、深雪のクラスメイトらの口論を眺めていた。いや、達也も当事者ではあるのだが、それ以上に一科生の物言いにエリカ、レオ、そして意外なことに美月までもがひどい反発をしてしまっている。

 

 ブレーキ役というか、物静かで落ち着いた美月までもが言い争いに関与すれば、仲裁に止める人間は誰もいなくなるわけで。

 

 なお、二科生制度のくだらなさを知る達也に口論を止める気はなかった。花冠(ブルーム)雑草(ウィード)という呼称も、差別も、事実を知っていると滑稽にしか思えない。

 

 生真面目に差別思想に取り合おうとする気も失せるというもの。

 

 

 ただ、美月たちは一科生たちの理不尽な物言いを前にそうは思わなかったようで……。

 

「別に深雪さんは貴方たちを邪魔者扱いしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら着いてくればいいだけでしょう。何の権利があって、二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

 そこで達也は“おいおい、引き裂くって”と美月の表現に違和感を覚える。深雪も自分も住んでる家は一緒なんだから、誰と帰ろうが結局は家で合流できるのだ。引き裂くという大仰な形容をしなくても、と思いながらヒートアップする美月を止めようとして──。

 

「み、美月ったら、何を勘違いしてるのでしょうね?」

 

 何故か、慌てた素振りの深雪を半眼に見て達也は不思議がる。

 

「?深雪……なんでお前が焦っているんだ?」

 

「いえ、そんな。──焦ってなどおりません、よ?」

 

「疑問形なのも不思議なんだが……まぁ、今はこの場をどう収拾したものか」

 

 

 

 そこからはまさに売り言葉に買い言葉という有り様。一科生側は深雪となんとしても帰りたいが、二科生側は理不尽な相手の要求に唯々諾々と従いたくないと意地になってしまった。

 

 確かに“二科生だから”という理由だけで深雪個人の交友関係にちょっかいを入れようとする一科生側の要求は理不尽なモノ。しかし、その理不尽で非論理的な言い分を、差別対象である雑草(ウィード)に指摘されて、一科生側も引っ込みがつかなくなってしまったようだ。

 

 このまま騒ぎになれば、風紀委員や生徒会が出てくる可能性もある。十師族の七草、十文字に入学二日目で目を付けられたくはない。此処は大人しく退くべきか……しかし、ガーディアンとして深雪の下校時に傍にいないというのは達也にとって論外。

 

 どうしたものかと悩んでいるうち、事態が悪い方に転がっていく。エリカとレオに挑発めいた正論を叩きこまれ、一科の男子生徒がいとも容易く逆上した。

 

「えぇい、うるさい!──余所のクラス、ましてウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

 ほぼ有名無実化しているとはいえ、校則で禁止されている差別用語を衆目の前で口に出すとは。そこで真っ先に、男子生徒の暴言に反応したのは、意外というか納得のいくことに普段は気弱な美月だった。

 

「同じ新入生同士じゃないですか!入学したばかりの、まだなんのカリキュラムもこなしてない私たち(ウィード)貴方たち(ブルーム)が今の時点でどれほどの違いがあるというんですかっ?」

 

 美月の言うことは確かに正論ではあるが、同時に構内にはびこる歪んだ価値基準に適合しない論法でもあった。一科生の優位性を否定するかのようなセリフに、A組の男子生徒が低く、威圧するような声を発する。

 

「……どれだけの違い、だと?ふん、入学したてとはいえ僕らと君たちの間にある明確な優劣、知りたいというなら教えてやるぞ」

 

 彼の上から目線な挑発は、一科生の自負と共に実戦や経験から来る誇りに裏付けられた自信が込められていた。彼の挑発を前にして誰より先にレオが嚙みつく。

 

「はっ、面白れぇ。是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

 

 

 美月、レオの煽るような発言に男子生徒は怒りを堪えきれなくなったらしい。

 

「だったら、教えてやる!」

 

 瞬間、男子生徒の手首が霞んだと思えば、小型拳銃めいた演算機器、CADが即座に抜き構えられていた。術式補助演算機(CAD)、魔法師が魔法を高速発動するため生み出された現代の杖。

 

 それが西部劇の早撃ち(クイックドロウ)めいて抜銃されている。

 

「特化型だと!?」

 

 レオが驚いた声を出すも、一か八か魔法発動前にCADを叩き落とそうと腕を振るう。驚愕からの回復と行動までのラグは最小、しかしタイミングが際どかった。先んじてCADを払い落とすか、それとも魔法式が間一髪で構築されるか。

 

 達也の明敏な知覚はゼロコンマ三秒で魔法式が先に構築されることを読み取った。

 

 もし、あれが特化型でなく、汎用型であったなら……。

 

 

 この時、一科生の男子が抜いたものは、特化型と呼ばれる戦闘用の高速発動に長けた代物だった。CADを使用した魔法を他者に向ける、それは学内のルール違反どころか、現行法に照らしても厳罰を免れない一大事。

 

 現代において魔法師の無許可ないし不必要な魔法行使は、厳しい罰則が与えられる。それもそのはず、魔法は発動速度を考慮しなければ道具がなくても行使ができてしまう。手ぶらでも、魔法師は人を傷つけることが可能である。

 

 魔法の犯罪利用を妨げられるのは同じく魔法を扱える警官。それを除けば魔法師自身の倫理観に委ねられているのだ。

 

 

 

 特化型が武器の形状をしているのも単なる見せかけではなく、本当の銃器や刃物同様の危険性があることを示す証でもある。要するに学生同士の言い合いで抜いていいものでは当然ないはずだ。

 

 これはさすがに看過できない。達也はゆらりと片腕を掲げて特化型の構築している魔法式に照準を合わせる。

 

「お兄様っ」

 

 しかし、深雪の慌てた声に頷いた達也が何らかの行動を起こすよりも先に魔法行使は速やかに防がれた。

 

「ガッ──」

 

 残光を曳いた鈍色の軌跡、いつの間にか男子生徒の手にあったCADは弾き飛ばされている。それを成し遂げたのはエリカの持つ伸縮警棒。エリカの余裕に満ちた笑みと警棒の残身。エリカにとって一連の攻防は容易いものだったことを示す証左。

 

 エリカはにやり、と牙を剥いて笑みを浮かべる。

 

「この間合いなら、身体を動かしたほうが早いみたいね」

 

 この余裕しゃくしゃくな発言に、レオは怒りに震えて口を挟んだ。

 

「そりゃ同感だが、テメェ今、俺の手もろともぶっ叩くつもりだったろ。当たったらどうする気だったんだよ」

 

「な~に言ってんだか。躱せるかどうかなんて身のこなしを見てれば分かるわよ。アンタってバカそうに見えるけど、腕の方は確かみたいだし。いや~、さっすが私の見立てね」

 

「俺を出汁にして自分を上げんじゃねぇよ。つーか、テメェ、俺をバカにしてんだろ?」

 

「やーね、考え過ぎよ。まぁ、知恵が回るようなら発動中のCADに素手で触れようなんて考えも実行もしないでしょーけどぉ?」

 

「やっぱバカにしてやがるな、コイツ!」

 

 二人がぎゃいぎゃいと漫才を繰り広げていると、A組一同の後ろの方にいた女子生徒が最初に我に返り、腕輪型の汎用型デバイスを操作する。構築される魔法式、咄嗟に達也がその魔法を解析しようと精霊の眼(エレメンタル・サイト)を使ったとき、同様の高次領域からの視線が交錯した。

 

 達也は思わず歯噛みしながらも、それを表情には出さず隠し通す。

 

 一方、同じく精霊の眼(エレメンタル・サイト)を行使した“千葉エリカ”は級友である司波達也から、自分と同じ高次領域の視線を感知。それはかつて四葉よりやってきた門下生と兄たち以外で、エリカがはじめて遭遇した自分以外の精霊の眼(エレメンタル・サイト)の気配だった。

 

 

 

 

 エリカは以前、千葉家の門下生だった少女、四葉百合香との雑談を思い出す。

 

『──精霊の眼(エレメンタル・サイト)は魔法師が持つ知覚能力の到達点。先天的であれ、後天的であれ、理論上は誰であろうとも開眼が出来るものなのです。魔法師を魔法師たらしめている情報知覚能力を突き詰めていけば、最終的に精霊の眼(エレメンタル・サイト)へ辿り付くでしょう。それを前提として言うなら、私は大それたことはしていませんよ?』

 

 過去のエリカはその謙遜にもならない戯言に悪態を吐く。その悪舌を受けてなお、百合香の微笑は崩れなかった。

 

『──ふふ、そう言われましても精霊の眼(エレメンタル・サイト)は元々、エリカさんの内にあったもの。謙遜や皮肉ではなく、純粋な話。私は開眼までの力添えをしただけに過ぎません──』

 

 百合香は自分以外に、先天的に精霊の眼(エレメンタル・サイト)を有していた九島光宣のことや後天的に目覚めた千葉の兄妹たちのことを引き合いに説明していた。

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)は確かに特殊な眼ではありますが、そう珍しいというほどでもありません。比率で言えば、霊子過敏症の特性を有する者と同程度かもしれませんね。とはいえ、他者の魔法特性を吹聴するのは、あまり褒められたことではないですが──』

 

 脳裏に過ぎった百合香の雑談が霞んだ時、エリカは此処で自身の兄たち以外で初めて、精霊の眼(エレメンタル・サイト)を有する者と直接、出会ったことになる。

 

 

 しかし、その驚きより差し迫った魔法発動にエリカたちは対応することができず──。認識外から飛来したサイオンの弾丸が発動寸前の魔法を撃ち抜いた。

 

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

 魔法を強制キャンセルされた女子生徒は、自身の魔法発動を阻止した相手である生徒会長、七草真由美の姿を見て力なく崩れ落ちそうになる。隣の小柄な女子生徒が彼女を抱き止めたが、同じくらい顔色は蒼白としていた。

 

 対人で魔法を行使しようとしたのは重い罪となる。

 

 それが、争いを止める目的の魔法だったとしても──。

 

 

 七草真由美の華奢な体躯からは活性化したサイオン光が迸り、侵しがたい威厳を小柄な体から発していた。一年生たちが真由美の存在で、呆然自失としたところで威圧的な声がその場にいた面々に告げる。

 

「君たち、1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞かせてもらう、着いてきなさい」

 

 冷たく硬質な響きさえ纏った命令形の声は、真由美の隣に立つ三年の女子生徒から放たれたものだった。

 

 

 達也は入学式の生徒会紹介を聞いていたおかげで──。

 

 エリカは自身の家の門下生であり気にくわない相手だからこそ──。

 

 七草真由美の隣に立つ彼女が何者なのかをよく知っていた。

 

 

 三年生の風紀委員長、渡辺摩利──。

 

 

 彼女のCADには魔法式が既に展開済み。一科生、二科生問わず一年生たちが抵抗しようものなら待機状態の魔法が速やかに抵抗者を制圧するだろう。

 

 

 誰もが黙りこくり上級生の沙汰を大人しく待とうとする中、自然体で虚勢を張るでも委縮するわけでもなく、泰然とした足取りで達也は風紀委員長である渡辺摩利の前に毅然と立つ。その背後では、兄に付き従うように位置どった深雪の姿。

 

 

 攻撃されそうになっていた側である二科生が出てきたことに摩利は不思議そうな顔をする。彼女に不審がられるより先に達也は先手として、軽い一礼をして事態を何事もないという形で収めようと口車を回した。

 

「すみません、どうやら悪ふざけが過ぎてしまったようです」

 

「悪ふざけだと──?」

 

 唐突というか、明らかに事実と異なりそうな言い分に摩利は疑わしそうな声を出す。しかし、達也は真面目くさった顔のまま、この場を煙に撒こうと話し続ける。

 

「はい、森崎一門のクイックドロウは有名ですので──。後学、ないし参考までに見せてもらうだけで留めようと思っていたのですが、あまりに真に迫っていたもので思わず手が出てしまいました」

 

 達也に視線を送られ、エリカは不承不承に肩を竦めて見せる。摩利はエリカの持つ警棒と地面に転がった拳銃型デバイス、そして魔法行使を強制キャンセルされた女子生徒をぐるりと一瞥する。震えあがる一科生側の一年生を余所に、傲然と身じろぎもしていない達也に冷笑を向けた。

 

「──なるほど、特化型デバイスを抜いた件はひとまずそれで納得してもいい。だが、その後にA組の女子が君たちへ向けて魔法を発動しようとしたのは、どう説明してくれる?魔法が発動寸前まで実行されていたのはまぎれもない事実だが──」

 

 問い詰め、逃げ道を潰していこうとする尋問の手口そのものな摩利の語り口に対し、達也は白々しい口ぶりで対応する。

 

「咄嗟のことで驚いたんでしょう。自衛目的か、仲裁目的かは分かりませんが反射的に起動プロセスを実行できるとは、さすが一科生ですね」

 

「……さすがって君なぁ。友人が魔法によって攻撃されそうになっていたというのに、呑気な感想じゃないか。クラスメイトが怪我を負う可能性もあったというのに、あくまで悪ふざけと主張するのかね?」

 

 

 そこで達也は敢えて“エリカ”の方に視線を向ける。

 

 不意に見つめられたエリカは要求されていることを察すると、嘆息してから気に食わない相手である渡辺摩利の方に歩み出る。

 

「攻撃なんて大げさに騒ぐほどでもないでしょ。A組の子が発動しようとしたのは、ただの目くらましの閃光魔法よ?それも……失明したり、視力障害を起こしたりするレベルでもないみたいだし──」

 

 エリカの視線は虚ろに、先ほど女子生徒が魔法を発動しようとした空間をなぞっていた。しかし、周囲の人たちは達也と深雪を除いて、エリカに対して疑わしそうな眼をしている。

 

 当然のことだ。魔法の起動式は膨大なデータ、情報の塊。発動者ならいざしらず、外部の人間が見ただけで理解などできるはずがない、在り得ないこと。

 

 これを例えるならCDをなぞって、そこに焼き付いている情報を読み解くような理外の行為。

 

 だが、エリカの発言に摩利はなんとも言えない表情で同意する。

 

「……君がそう言うのならば、事実なんだろうな……」

 

「ええ、実際に“視ている”からね」

 

 片目に手を当てたエリカが不満そうにつぶやくのを聞いて、摩利の横にいた七草真由美がハッと息を呑む。

 

「貴女、ひょっとして千葉エリカさん……?」

 

 生徒会長の発言に周囲の人間が驚いた視線を殺到させる。家名のことを出され、エリカは苦々しい表情を取る。

 

 千葉、それは数字付き(ナンバーズ)の中でも特に高名な家、“剣の魔法師”と呼ばれる魔法を併用した凄腕の剣術家を多数輩出する名家。

 

 周囲の反応を煙たがりつつ、エリカはこくりと無言で真由美の問いに頷いた。対して、真由美はかねてより噂に聞いていた少女との思わぬ対面に目を剥いていた。

 

「──少し前に聞いたことがあるの。千葉家が生んだ世界有数の白兵戦に特化した三人の魔法師。あの“百合香さん”が剣技と天賦の才を見込んで“精霊の眼(エレメンタル・サイト)”を千葉家の長男、次男、そして息女に付与したと」

 

 その発言に周囲がざわつき、まさかと驚愕に震える。

 

「“精霊の眼(エレメンタル・サイト)”だって!?」

 

「本当に存在しているの……」

 

「なぜ、そんな特殊な魔法を使える人が二科生に……」

 

 

 エリカは周囲の驚愕を払いのけるように手をパタパタと振って口を尖らせた。

 

「……そんなご大層な話じゃないですよ。単にこの“眼”は月謝代わりに“アイツ”が押し付けていったものですから」

 

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)、それは高次情報体であるイデアにアクセスすることで物理的情報と非物理的な魔法情報を緻密に読み解く異能の一種。BS魔法と混同されがちだが、魔法師の極まった感覚の呼称であり、これはもう魔法というよりも異能に近しい。

 

 解析という分野において最高峰の利便性を持つ一種の“魔眼”。

 

 ともすれば、三次元的な物理情報しか見ることのできない七草真由美の知覚魔法“マルチスコープ”の上位互換というべき代物でもあった。

 

 

 これまで精霊の眼(エレメンタル・サイト)は先天的な異能に属するもので後天的な習得は不可能と考えられてきた。その大原則は少し前に十師族、四葉家の精神干渉系魔法師、四葉百合香の魔法によって覆されたのである。

 

 物理的な距離を問わず、物理、非物理に関わらず、あらゆるものの情報構造を読み解く超越の認識力。それこそが精霊の眼(エレメンタル・サイト)

 

 

 そのような凄まじい異能を持つというのに、エリカはその特異な異能を触れがたいものであるように振舞っている。これには七草真由美も賞賛したり、どのようなものかと質問することもはばかられる。

 

 エリカが発動間際だった魔法に対し言及をして、場の雰囲気が何とも言えないものになった所、先ほどまで矢面に立っていた兄を庇うように司波深雪が進み出た。

 

 そして、生徒会長や風紀委員長へ向かって、これまでの緊迫した雰囲気を払拭するように丁寧かつ誠意に満ちた一礼を行う。

 

「エリカさんの見立て通り、行使されそうだった魔法に同級生を傷つける意図はございません。──兄の言うように真実、些細な行き違いによるものだったんです。私どもの諍いに先輩方のお手を煩わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 

 率先して皆の模範となるように頭を下げた深雪に続いて、他のA組の生徒たちやレオ、美月らも生徒会長たちへ頭を下げた。

 

 こうなっては厳罰を下すのが難しいというのも人情である。

 

「摩利、もういいじゃない。一年の皆も反省しているようだし、事の重大さを理解してもらえたのなら、これで充分でしょう?ねぇ、達也くん。本当にただの見学だったのよね?」

 

 

 “気づいたら名前で呼ばれてるんだが……”と達也は不思議なほどに心理的な距離感を詰めてくる七草家の令嬢に思うところはあったが、それはそれ。いや、本音を言うと十師族と迂闊に関わるのは思うところがある。

 

 しかし、この騒ぎを大事にしないでくれるというなら、達也としても真由美の助け舟を無碍にする意図は無い。真面目を装った顔つきで達也が頷くと、小柄な生徒会長、七草真由美は得意げに“貸しだからね”と言うような微笑をしてくる。

 

 彼女は、そこで表情を真面目なものに引き締めて下級生たちに訓示を伝えた。

 

「いいですか、生徒同士で教え合うことは確かに禁止こそされていません。しかし“魔法”の行使には起動するだけで生じる様々な制限があります。この制限は、魔法の危険使用を抑制するだけでなく、未熟な魔法師を不慮の事故から守ることも考えられて成立したものなのです。その詳細は一学期のうちに授業で触れると思いますが“何故”、制限されているのかという理由を学ぶまで、魔法の発動を伴う自習活動は控えたほうがいいでしょうね」

 

 場を締めようとするお小言を先に言われ、風紀委員長である渡辺摩利は仕方なく、今回の一件に対する追求を此処で取りやめることとする。

 

「会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問とする。ただし、今回の措置は例外であるということをよく認識しなさい。以後、このようなことのないように」

 

 頭を下げた下級生たちに冷ややかな宣言をした彼女は一同を視界に入れることもせず、踵を返した。しかし、摩利が一歩踏み出そうとしたとき、立ち止まって振り返らぬまま背中越しに声を掛けた。

 

「君の名前は──?」

 

「一年E組、司波達也です」

 

 そこで摩利は首だけを振り向かせると、切れ長な目で達也の像を捉える。それは剣士が間合いを測るような、檻にいる獣の爪の長さを目測するような、剣呑とした探りを入れる視線。

 

 

「君は最初から、この一件を小さな小競り合いで済ませようと話していた。だが、クラスメイトの千葉さんがいなければ、君はどういう言い訳を語ったんだろうな?それとも、彼女がいるということを前提に話していたのか。……ふむ、君は運がいいだけか、それとも計算高いのか判断がつかないな」

 

「クラスメイトに恵まれた、という点では幸運だと思っています」

 

「口も上手いようだな。まぁ、なんにせよ、君の名前は覚えておこう」

 

 

 摩利の言い草に、達也は思わず“結構です”と“勘弁してください”のどちらを口に出そうかと逡巡したが、その迷いのおかげで失言を回避できたのだから、この点についてはまぎれもなく幸運だと思い込むことにした。

 

 

 





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