いつもの体を覆い隠す装束に着替えた貴方は彼女に連れられ、街に繰り出していた。
「おっでかけ! おでっかけ!」
鼻歌でもしだしそうな程上機嫌な彼女の腕の中で貴方は揺られる。
――淫魔達のデートスポットとはどんなものがあるのだろうか――
「ラブホっスね」
――予想はついていたがそれはデートの末に行きつく場所ではないだろうか――
初手王手に等しい剛腕である。
もっと風光明媚な優しいデートスポットはないのかと貴方は彼女に問う
「映える場所っスか? 山肌からマグマが滝みたいに流れ落ちる溶岩瀑布とか、水が落ちずに吸い上げられる異常地形の逆流海、巨大生物の骨が木みたいに林立してる骨樹林とかここらだと有名っスかねぇ……」
確かに貴方の常識を飛び越えた光景であろう、おそらく見れば圧巻の光景ではあろうが、貴方はそれらの観光地に好奇よりも恐怖が勝ってしまう。
「溶岩瀑布はちょっと人間ちゃんには無理そう……、逆流海は異常重力でよくバラバラになる淫魔が出るし、骨樹林は骨の年輪解説ツアーがあるっスけど毎度ツアー客の数人が森に取り込まれちゃうんすよねぇ……」
――凄まじい吊り橋効果が期待できそうだが自分には厳しそうである――
もっと安全な場所を貴方は所望した。
「危険が少ないとなると発光胞子林とかっスね、巨大キノコが林立して胞子でキメまくって淫魔が乱痴気キメる愉快な場所っス、まぁ全員見えてるモノが違くて会話が一切噛み合わないのがデートスポットとしてちょっと減点っすね」
どうやら危険の範疇で彼我の圧倒的な断絶に頭を痛めていた時である。
彼女は突然吹き出した。
「冗談っスよ、人間ちゃんが喜びそうな場所を考えてるっスから、危ない場所なんて論外っス」
彼女のしてやったりという表情に貴方はまんまと罠にはまり表情を崩す。
それを聞いて胸をなで下ろす貴方、では一体どんな場所に連れて行ってくれるのだろうかと、貴方は彼女の腕の中で問いかけた。
「ラブホっスね」
貴方の予想はやはり裏切られた。
貴方の言葉数は明らかに減っていた。
薄暗い空から見ても目に刺さるネオン光のような光を放つ一帯。
煽情的な桃色の光が闇の中に煌々と照らしながら雑多な魔族たちが行き交っている姿が見えた。
「デートスポットといえば常夜市っスね、私達淫魔にとっては生活圏っすけど、他種族からしたら結構観光に良いって言われてるらしいっス」
確かにこれは一見の価値があると貴方は感じた。
まるで生活と欲望を混ぜて煮込んだサバト。
呼び込みの姦しい声、何故か音を出して踊る女体のネオン、遠くからは明らかな爆発音すら聞こえているのにそれが日常の音のように誰も足を止めない。
やけに甘い香りかと思えば、ただよう焦げた匂い、よく嗅ぎ分ければいくつもの香辛料を振るわれたような爆発的な香りが貴方の鼻腔を刺激する。
貴方は一回り見渡しただけで、まるで酔ったような心地になってしまう。
「あはは、賑やか過ぎてちょっと疲れちゃったでしょ? 安心して欲しいっス、私らがいく場所は
――落ち着いた床……――
彼女の言葉に貴方は僅かに反応を返す。
「期待しちゃっていいっスよ~、諸々のおかげで魔力はたんまりあるんで
――ヤリたい放題……――
「どうしたんスか人間ちゃん?」
貴方は彼女の言葉で正気に戻り首を振る。
どうやら淫魔との生活は貴方の言語中枢に明らかな障害を起こしているようである。
そのように無理やり納得させた貴方はなんでもないと彼女に言葉を返す。
「じゃあ早く目的地に行くっスよ!」
彼女はこの街のネオンが尾を引く程の速度で街を滑っていく。
振り回されぬよう密着する貴方、彼女と触れ合う部分が僅かに汗ばむ。
果たしてそれはどちらの汗か、光り輝く街並みは彼女の表情に影を落とし、貴方には伺い知れない。
そんな風にしていれば、不意に彼女の速度が落ちる。
「ここっス」
ラブホ
明らかにそれは一夜を目的にした者達が宿とする建物特有の雰囲気があった。
事実そういった場所に向かうと伝えられていた貴方であるがその動揺は隠しきれない。
――彼女は自分と無理にそういったことをする女性ではないだろう――
そう信じている貴方ではあるがその心は揺れる。
事実として貴方は、これから情事を交わす場に行くと言われ、不可思議に思いながらも大人しく彼女に連れて行かれるままここに来たのだ。
――相手の視点ではこれはほぼ同意と取られても仕方がないのではないだろうか――
ラーメン屋に行きますと言って、いざラーメンが出されてこんな物を食べるとは知らなかったとほざくが如き行為ではないだろうか
そんな蒙昧な例えが頭をよぎる程、貴方は一種の緊張状態にあった。
彼女は受付の類などせずに、ホテルを上へ上へと飛び、直接フロアに乗り込んでいこうとする。
貴方はこれから起きるかもしれぬことに対し、情けなくも乙女のように身を強張らせた。
彼女を拒絶することも出来ず、半ば受け入れることすら覚悟し。
とうとう貴方は目的地にたどり着くのであった。
「ついたっスよ!」
温泉
目の前に広がる光景に貴方はポカンと口を開ける。
「ここのラブホ、大部屋備え付きの大浴場っス!」
温泉の描写
「人間ちゃん言ってたっスよね、ここに来てすぐの時に元居た世界でおっきなお風呂に浸かってリラックスしてたって、人間ちゃん向けに調整したし、ここなら泳げるぐらいに浸かれるっスよ!」
貴方はふと、体の汚れを気にしてそんな会話をしたような朧げな記憶を思い出す。
――覚えてくれてたのだろうか――
「私が新しく知った人間ちゃんのことは全部、記録してあるっスよ!」
大げさな言いように貴方は気が抜けたような返事をするが彼女はそれを見て笑う。
「大げさじゃないッスよ、私の人間ちゃん日記を木から作って製本したら、森が一つ地図から消えるレベルっス!」
そんな余りにも明らかなジョークでありながら、彼女の言葉は真実味を感じさせる凄味があった。
なんにせよ、貴方は彼女のサプライズに心底驚かされていた。
「えへへ……、ちょっとドキドキしちゃったっスか? 運んでる時に精気がムンムンに漏れ出てたっスから」
つまり、貴方の動揺は彼女をちゃんと満たしていたらしい。
「安心するっス、人間ちゃんが本気で嫌そうなら、途中で止めるつもりだったっスよ」
貴方は、どうやら全ては彼女の策略の内であったようだと気づくだろう。
貴方は――