貴方が目を覚ました時、彼女は既に目を覚ましていた。
貴方のすぐ前に彼女の顔がある。
「お、おはようっス」
またいつものように、自分の寝顔を見ていたのかと思った貴方であるが、、自分が彼女の手を強く握っていることに気づいた。
「準備しようとしたんスけど、人間ちゃんが掴んで離さないから、つい一緒に……」
――すまない、自分は寝ぼけていたようだ――
どうやら貴方はかなりの力で彼女の手を握っていたようだ。
汗ばんで密着した手を貴方は離し、ベッドから起き上がる。
彼女はしばらく握られた手を眺めてしばらく黙り込んだ後に貴方に続いてベッドから降りた。
いつもの彼女なら『二度と手を洗わないっス』などでも言いそうなものであると気づけるはずの貴方であるが、なぜか妙な寂しさを感じて手を握っては開く貴方はそこまで思い至らない。
「じゃあ準備を始めるっスよ」
――彼女に同意する――
彼女の声に貴方は現実に引き戻され、貴方は今回の作戦について思い返した。
貴方の目的は元の世界に戻ること。
そのためには淫魔の社会へ進出し、貴方が元の世界へ戻るための協力を取り付けなければならない。
それは情けないことを承知でいうならば『なんやかんや偉い淫魔に協力させて帰る』という他力本願。
さらに、貧弱な人間種たる貴方にとって、最低限の魅了の類への耐性がなければその交渉すらまともに行えない。
その対策として、魔族の精神干渉を防ぐ魔道具の存在を作るために今まさに貴方達は奔走している。
「正直に言うと、もう、工作魔法陣を自由に使うための伝手は切れてるっス」
――果てしない道の一歩目で既に心が折れそうな心地だ――
下準備の下準備のような果てしなさ、しかもその段階でも貴方達は壁に当たっている。
「じゃあ止めて淫魔の国で私とスローライフとしゃれ込むっスか?」
――それも悪くないが、貴女にはぜひ自分の世界をゆっくり紹介したいものだ――
「へへっ、じゃあ意地でも成功させるっス!」
彼女の冗談に貴方が返すと互いに口の端を持ち上げる。
「こうなったら出たとこ勝負! 前回の工作魔法陣で作った魔法陣で人間ちゃんを限界まで隠匿するっス、べらぼうに魔力がいるっスけど、そのための魔力タンク! 人間ちゃんと一緒にシコシコ貯めたコイツが役に立つっスよ!」
彼女が貴方に手をかざすと、貴方の目には自分の手先から消失していく様子が見える。
――製造用の魔力分は足りるのだろうか――
「無問題! 魔力タンクをどう使うかは初めに決めてるっスから!」
彼女はそう言い切った後に貴方へ手を伸ばす。
「ここが勝負どころっス! 行くっすよ人間ちゃん!」
彼女のまっすぐ伸ばされた手を見て貴方は――