貴方は相手を刺激するのは得策ではないと考えた。
――自分は一度貴女の話を受けた、一度受け取った物を返すのは貴方に失礼だろう――
「だ、だったら」
――しかし、自分にも目的がある――
貴方の一言に淫魔は目に危険な色を映し始める。
それを見た貴方はすぐさま次の言葉を射かけた。
――なので自分は折衷案を提案する――
「折衷案ですか……?」
――同伴で良ければ、自分は貴女に尽くす――
「本番は!? 本番はないのですか!?」
――それは、貴女の頑張り次第だろう――
貴方は優柔不断に目を逸らす。
「そ、そんな、お、お金だって持ってないしデートなんて……」
――食事を一緒に摂らないだろうか? お金は今、そこそこあるので是非ご馳走させてほしい――
これなら、自然な形で彼女にお金を返せるだろうという考えもありながら、相手を満足させなければ貴方はその身が襲われかねない。
貴方は命を賭けたデートを行うことになった。
「えっと……、どこでご飯を食べましょうか?」
貴方を抱かれながらはるか上空。貴方は早速危機に直面していた。
――そもそも、この国の外食事情を自分は知らない――
貴方はそれとなく、相手から情報を聞き出そうと模索した。
――好きな食べ物などはあるのだろうか――
「あんまり食事はしないですね、やっぱり割高なんで……、あっ、でもバイコーンの精子を上司に奢ってもらった時、すごくおいしかったです! あっ……、でも公園の子達に淫魔の食事は大抵不評なんですよね? なんかそんな話を最近聞いた気がします」
貴方は初めに彼女から渡されたヨーグルトを思い返す。
――では、普段自分たちが食べる場所ならどうだろうか?――
「たしかに、そういう人達向けの屋台とか軽食屋はありますけど……、淫魔が行ったら嫌な顔されちゃいませんか?」
その話は貴方の方が詳しいのでは?
そんな表情を浮かべる相手に貴方は少しだけ焦りを覚えた。
どうやらこれ程までに大らかな性産業が発達した淫魔の世界ではあるが、異種族間で性を絡めずに楽しめる場所というのは少ないのかもしれないと、貴方は予測した。
――数は少なくても淫魔とそれ以外のカップルはいるはず。彼らはどうやって付き合っているのだろうか――
「やっぱりお家でしっぽりですかね? 淫魔の国の娯楽って、なんだか他の種族にあんまり受けなくて……」
貴方は、彼女の家で見た本や映画を見て、あまりにも性欲に重きを置いた作品群を思い返し、眉間を揉んだ。
この国は何もかもまずは性ありきで回っているのは淫魔故仕方がないのだろうか。
どうやら、それは常識らしく、そんなことをいちいち聞いていれば相手は貴方に疑問を持ち始めるだろう。
貴方は早急にデートプランを練り直す。
――ここの近くに、淫魔達が使うスーパーのような場所はないだろうか――
貴方と彼女は初めにいた公園にいた。
――ここで、やっても本当にいいのだろうか――
「確か、柔らかい芝生、開けた場所で清涼な風が吹き抜けて、木々があるような落ち着ける場所が理想的なんですよね? この魔界でそんな穏やかな所はあんまりないんですよね」
確かにここ以外の開けた場所は余りにもワイルドすぎる。
貴方の狙いから外れてしまっていると言えるだろう。
「この場所は魔法で環境が保たれているんでかなり丈夫な場所ですし多分大丈夫ですよ、……それで、食材を買ってどうするんです?」
――バーベキューをしようと思っている――
「野外で調理? なんでですか?」
――BBQである――
翻訳の機能は正しく伝わっているのだろうか、貴方は力強くバーベキューの開催を宣言した。
――薪程度の大きさの安定した火が欲しい、可能ならナイフと串、コンロ……、調理用の金網付き火鉢のような物は作れないだろうか――
「火は簡単ですけど、串とナイフはちょっと時間を貰えれば……、ふ、複雑な物質の出力はちょっと難しいかもです……」
――それで構わないことを伝える――
貴方は感謝を述べながら、淫魔の世界のスーパーというべき場所から見繕った生鮮食品を取り出す。
公園の端でありながら、貴方の行動は周りの目を引き、遠巻きにその様子を伺う者もいた。
何かの睾丸に、立派な陰茎、それに白く粘つく液体
「できました! 割と上手にできましたよ!」
貴方は途中でめげそうになるが彼女から手渡された道具でその食材達に挑んだ。
ちょうどよい小粒の睾丸とブツ切りにした陰茎に串を打っていく。
食材の大きさを揃え、肉の繊維に直角に刺してしっかりと固定するように貴方は心がける。
――陰茎と睾丸の肉の繊維とは一体どう走っているのだろうか――
少し切れ味が悪い包丁に太さが疎らな串、それらを駆使しながら貴方は肉を縫うように刺しながらなんとか下準備を終わらせる。
バラバラにされた陰茎が突き刺さった串に、睾丸が団子のように突き刺さった串。
およそ食欲を失うような光景であるが、貴方の手元をのぞき込む淫魔はそれを興味深そうに眺めていた。
「はぁー、すごいですね、それっぽいです」
貴方はそれを数本ごとに纏めて指に挟み、淫魔が作ってくれた薪の外側で炙る様にじっくりと火を通す。
「わわ……、おいしそう……!!」
パチパチと炙られる肉塊に汗が染みだし始める。
――下味もないのではすこし口寂しい、何かソースでも塗れば良かったのだが……――
そう思いながら焼き続ける貴方は淫魔の視線に気づく。
それは貴方を見ているわけではない、その視線の先にある彼女の好物らしいと言ったから購入したバイコーンの精子。
「ソース……」
貴方は彼女が何を考えているのかを理解してしまった。
――いやまて、だがしかしそれは……――
貴方は苦悩する。
しかし、貴方は淫魔を満足させるため、心を込めたモノを作り上げる必要がある。
――……なにかスプーンのような物を作ってもらえないだろうか……――
「はいっ!」
料理は愛情という言葉がある。
正確には食べる者のことを考え、相手に最も合った気遣いを料理に反映することこそがその深奥である。
――肉にヨーグルトソースは合う、そうこれはヨーグルトなのだ――
貴方達を眺める者達は、貴方のその常軌を逸した行動に露骨に距離を置くような視線を投げかける。
それすらも無視し貴方は焼け焦げる肉串に冒涜的な白濁液を塗り込み、仕上げにかかった。
「す、すごい! え? これ食べていいんですか!!」
――おあがりよ……――
「うわっ……、あいつら何やってんだ……?」
「途中までは、まだ食えそうだったのに……、食べ物で遊ぶんじゃねぇよ……」
「オイオイオイ幸せで死ぬわアイツ」
「ほう精液かけ局部焼きですか……、たいしたものですね」
「恋人に作らせた料理は魔力の効率がきわめて高いらしくSEX前に愛食する上級魔族もいるくらいです」
「けどよぉ、あの子はただの一夜の相手だぜ?」
どうやら貴方の料理の評価は二分されている。
「お、おいしい!! すごい美味しいですよこれ!!」
しかし重要なのは食す相手ただ一人であると貴方は考える。
「一緒に食べますか?」
――貴女の為に作った物だ。是非平らげて欲しい――
貴方は串焼きを彼女の口元へと運んだ。
「あっ、わぐっ……、え、えへへ、もう一口たべたいです」
貴方は彼女に促されるまま雛鳥の餌付けのように食物を口に運んだ。
「それに特大サービスのあーん……、これも即効性のエネルギーです しかも汚れた口元を拭ってくれて感情バランスもいい」
「ちょー羨ましいんだけど……、えっあの子この後空いてないかな……」
「それにしても客と嬢だというのにあれだけの真心をこめたサービスが体験できるのは、超越的なお得という他はない」
――それにしても周りが騒がしくないだろうか――
「う~ん、しあわせ~」
目的たる淫魔の満足度は高い
そう思いなおした貴方は甲斐甲斐しく肉を頬張る相手を世話し続けた。
「食べたら、眠くなってきた。ねぇ、やっぱり一緒に寝ない?」
――膝枕で許してもらえないだろうか――
「えっ……、それは……、う、うーん……」
貴方はすかさず相手の方へ膝を向ける。
「あ、抗い難し……!」
彼女は容易くこちら側に転んだ。
「くっ、見せつけてきやがる!」
「ここら辺の嬢は基本イメージプレイNGなんだぞ……!」
こちらを遠目でみる姦しい淫魔達との声をものともせず、しばらくすると膝の上に乗った頭から小さな寝息が聞こえ始める。
貴方は幸いと、懐の大金を彼女につかませ、しばらくして膝が痺れた頃に抜け出す。
貴方はふらふらとした足取りでその場を離れた。
「君が手をかけたものなら、きっとどんなものでも魅力的に見える。……試してみたいんだ」
「君の料理を味わってみたい。……いや、君が作ったという事実ごと、ね」
貴方の行く手は阻まれた。
一度、口蓋を切ったのなら自分たちもと貴方は淫魔達に囲まれる。
その圧力は前日の比ではなく、貴方は猛アタックをその一身に受けるだろう。
「その子に触るのはダメっス。……悪いけど、私が先っスから」
貴方は聞き慣れた声の方に目を向けるとその手を握りしめた。
「うわぁぁぁぁ!! アンタか!? アンタの女だったのかよド畜生ォォォォ!!」
「管理人!? 結局淫魔は地位だってのかよ!?」
「アイツなら私の方がすっごい魔力なのに……!! 金か!? 結局金なのか!?」
「夜の付き合い悪い癖にやることはやりやがって!!」
嫉妬と怨嗟の声を振りまかれながら、彼女は構わず貴方を攫う。
「ほら、行くっすよ」
貴方は――