あれから貴方は、彼女に魔力が溜まる様に様々な方法を試した。
職場の弁当、マッサージ、温かい夕飯、髪を梳かす、仕事の愚痴、ゲームに添い寝。
様々な方法を試した貴方であるが、その結果は上々らしく、順調に魔力タンクには魔力が溜まっていた。
今日の貴方は自身の膝の感覚がなくなるまで彼女に膝を貸していた。
「おかげでフルパワー全開っス!! これでこの後の用事も万全っスね!」
どうやら彼女は出かける様であるらしいと気づいた貴方は彼女に問いかける。
――今日はもう仕事に行くのだろうか?――
「そうなんすよねぇ~、この用事が終わったら仕事なんで、人間ちゃんと一杯触れあえるのはまた先に……」
ならば彼女の言った魔力集めとやらがが行えるのは、少し先になりそうだと貴方は考えた。
しかし、普段外出と言えばもっぱら仕事である彼女、貴方はその用事の内容が気になるだろう。
「ほら、人間ちゃんに接触しても大丈夫そうな団体を探してて、いくらか候補はあるんスけど、実際に調査しとかないと」
彼女の用事とは貴方の為の伝手を探すことだった。
ならば貴方に出来ることは彼女を送り出すことしかない。
「吉報を待ってて欲しいっス!」
――しかし、具体的に人間である自分に協力してくれる都合のいい組織などいるのだろうか――
貴方の疑問に彼女は答える。
「人間ちゃんに友好的な組織は考えるとたくさんあるっスよ。淫魔なら人間ちゃんと仲良くなりたいなんて全員思ってるっスから」
聞こえのいい言葉であるが、彼女の表情は悩まし気だ。
淫魔達の言う仲良くという言葉を薄っすら理解し始めていた貴方も、彼女と同じように眉間にしわを寄せた。
「多分、普通の淫魔なら悪意とかなく初手襲うっスね、人間ちゃんがキモチいならきっとハッピー、こっちもキモチ良くて倍ハッピーって感じっス、実際私も初めは同じ考えだったっスから」
―― 残念ながら一方的な精神支配を
「私が淫魔の中でも指折りの腰抜けで、初めて会った人間ちゃんの命が風前の灯で話す時間があったおかげで自分は理解できたっス」
貴方は彼女に拾われた幸運を再確認した。
貴方は、衰弱から目覚めた後にそのまま腹上死していたかもしれない未来を想像し身震いする。
「だから、そういう人間ちゃんのあれこれを理解した上で保護してくれる場所を幾つかピックアップして、そういう組織の中で窓口になってくれそうな私みたいに拗らせた淫魔を探して匿名でコンタクトを取るつもりなんすよね」
――それはいったいどのような組織であろうか――
「うーん……、第一候補に前に言った異世界への移動を研究してる場所っスね、人間ちゃんの実物なんて穴という穴から手が伸びる程に欲してるっスけど、一歩間違うと研究材料にされそうだから慎重に」
その研究機関がどういったものかは分からない貴方は、貴方の世界の常識で考える。
――宇宙開発機関にいきなり宇宙人が仲良くしたいと現れるようなものだろうか――
やぁ異星の友よウェルカムパーティーとなれば素晴らしいが、そうならない可能性の方が大きいだろうと貴方は考える
現実は、隔離・検証、その後にめくるめく政治というテーブルでダンスを踊ることになるのは貴方の想像に難くない。
「次に、他には消えてしまった人間の研究をしてる場所っスね、そこなら人間ちゃんの保護を優先してくれるんじゃないかと思うんスけど……、保護どころか一生人間ちゃんを隔離する気もしなくもなくて……」
さきほどが宇宙開発機関ならこちらはどういう扱いを受けるか貴方は考える。
――考古学で恐竜を研究してたら大学に恐竜が現れたようなモノだろうか――
すぐに解剖して論文に、……とはならないだろうが、保護施設送りにされ接触すら許されずに観察。
当然、元の世界に帰りたいという意見は封殺されるのではないだろうかと貴方は考える。
「最後に純粋に人間LOVEな団体っスかね、割とあるっスよ例えばこの人間を愛でることを目的にした“人間大好きクラブ”なんて大手っス、会長を含め上級淫魔どころか他の魔族も多く所属してるっス」
――これは人の世で言う……、世で言うなんであろうか――
「人間はサブカルにて最強っスからね、最近なら娯楽産業で最大手の淫行堂の“ぱこ あ なにもん” とか
様々なツッコミどころをスルーし、貴方は最後の一点だけに絞って疑問をぶつける
――人との生活? 自分以外に人間がいるのだろうか?――
「見た方が早いっスね」
彼女の手の平から映し出された映像を貴方はのぞき込む。
「今、飯と服を買って、使いもしないトイレとお風呂を家に増設して震えてる。これたぶん私、人間ちゃんと同棲してたわ」
「わらわの家族である人間ちゃんが19人目の子供が生まれたから城を増設したのじゃ」
「なぁ知ってるか? 人間の平均身長は1.6M そして私は今アパートの柱1.6Mの所にテープを張った。これ確実に目の前に人間ちゃんいるわ」
それは深遠であった。
画像に映る景色に人間など姿かたちなど見当たらない。
恐らくそういう一過性のミームだと恐れ戦いた貴方は画面から弾かれたように目を背けた。
「いや、この手の人間を推した産業は昔からあるっス、グッズとかアホほど売ってるっス」
――
「まぁ、私も元々こっち側の淫魔というか……、だ、だって実際に夢にまで見た人間ちゃんが現実に現れたら狂喜乱舞どころじゃないっスよ、オレの嫁とかほざいてたらガチで画面から推しが出てくるレベルっス」
日ごろからその狂喜を乱打してくる彼女が言うならその説得力は非常に高かった。
「こういう団体の上級淫魔達と密かに繋がれば、かなり上手くいきそうなんスけど、……正直言うと愛ゆえに暴走してしまわないか……、というか暴走は確定として何しでかすか予想がつかないというか……」
淫魔社会において軟着陸を望む貴方であるが、人間という存在が現れたことにおける社会への衝撃は凄まじいものになるのだと貴方は何とか飲み込んだ。
「というわけで、接触する相手は厳選に厳選を重ねなきゃいけない訳っすね、今日はこの後でそのために出かけるっス」
貴方の命運は常に彼女に委ねられている。
貴方は――