貴方は今、彼女に小脇に抱えられ空を飛んでいた。
しかし、彼女を外から見れば、わき腹でも痒いのか片手を腰に回して空を飛ぶ彼女だけが見えているだろう。
「いいっスか? 手を離した後は私から離れないでくださいっスね」
――たしか……、この魔法は離れるとダメだったのだろうか――
「感情に敏感な淫魔っスからね、生半可な隠蔽魔術じゃ無理っすから、距離が離れたら術者側の私でも見つけらんないっス、そうじゃなきゃ安全で目立たない所に隠れて貰ってたっスよ」
貴女と彼女はこれから潜入のための手順を改めて確認していた。
――その職場で工作魔法陣にさわれられるチャンスが出来次第、二人で向かい、魔道具を作ると……――
「そうっスね……、あそこは工場の心臓みたいな場所っス、本当なら一人で入ることはないし、使用時間の割り振りも管理されてるっス、ハハッ……、しかも最近、魔法陣の魔力消費の帳尻がおかしいって監査が厳しくなったんすよねぇ……」
――帳簿に嘘は付けないということか――
「うーん、そんなヘマはしない様にしてたんスけどねぇ……? 私の割り当て作業時間で魔力を浮かして、一日の最終計測で人間ちゃんと作業して、大体は帳尻が合うようにしてたんで……」
そう言うのならば貴方は彼女の言葉をそれ以上疑うことはない、しかし、問題として今までの型破りな方法はもうとれないということは事実だった。
「といっても、適当な職場っスからね、現場判断で足りない部品を融通しろなんて事もしょっちゅうっス、チャンスは間違いなくあるっスよ」
そういった後で彼女は少し心配そうな目で貴方を見る
「そんな忙しない場所なんで、本当は私の体にずっと抱き着いてもらった方が良いんスけど……、危険な作業もあるからそうもいかないんスよね」
貴方はその程度の危険は覚悟の内にも入らないと言葉を返す。
「離れて欲しい時、抱き着いて欲しい時には合図を出すっス、とにかく淫魔は気分屋なんで何するか分からないから直ぐに近くの物陰に隠れて欲しいっスよ」
貴方はその合図の事も既に伝え聞いていた。
「お願いっスから呼んだらすぐに抱き着いてくださいッスね人間ちゃん、来なかったら自分、大声で叫んじゃうっスからね?」
――いきなり大きな声をあげれば、計画は破綻するだろう――
(……聞こえますか?人間ちゃん……?)
――こいつ直接脳内に……!――
「感応魔法の感度は良好っスね……、けどバレない程度の出力なんで、普通の会話が聞こえる程度の距離でしか通じないっスから気を付けてくださいっス」
頭の中に声が響くなど創作ではありふれた現象であるが、実際に体験した貴方はその奇妙さに驚く。
方向も声量も分からない、脳の中から聞こえるとしか言いようのないその不可思議さ
実際に耳で聞いているのか、思考として浮かんでいるのか分からない心地に思わず貴方は頭をさする。
(こっちが繋いでる時に意識して人間ちゃんが言葉を浮かべれば、伝わるっスよ)
説明と実際の体験による齟齬はあったが、そうやらこれで貴方は身一つで放置されるわけではないことに安堵する。
「そうだ人間ちゃん、一応これを預けとくっス」
彼女は今思い出したかのような声を出すと、懐から封筒を貴方に渡す。
――いったいこれは何であろうか――
「万が一、人間ちゃんとはぐれた場合にこっそり開くっス。中には地図が入っていて私が魔法を飛ばすと合流地点が表示されるようになってるっス」
――まるで魔法の地図みたいだ――
「魔法の地図っスよ? まぁ正確には受信機能だけのちゃっちいモニターっスね」
貴方のファンタジーな憧れからでた言葉に、彼女は夢も減ったくれもない現実的な説明をするので、貴方は思わず噴き出した。
「笑い事じゃないっすよ、その魔道具は今してる隠匿魔法と相性悪いんで、受信時に僅かに魔力の流れが歪んじゃうんスよ、だから受信側の特定を防ぐため一回きりの使い捨てっス。滅多なことで開かないようにして欲しいっス」
貴方は彼女の説明を素直に聞いた。
「他に気を付けることは――」
貴方は彼女と潜入作戦の詳しい手順を再確認しながら空を飛ぶ。
そんなことをしている内に貴方は――