こうして貴方は再び穏やかな時を過ごすだろう。
彼女が出かける朝には見送り、帰ってきた夜には食事を並べ、眠る前には疲れた肩に手を置く。
どうやら彼女の言葉には偽りはなかったようであった。
彼女が魔力タンクと呼んだ容器は貴方の体感で一週間ほどで、八割ほどの量が溜まっていた。
「工場で密造した魔道具をメスカリで売りさばいた売り上げが三割、人間ちゃんが私にマッサージしてくれたり、一緒に添い寝をしてくれて五割……」
単純に体を休めてくれたらという思いで始めた按摩であったが、貴方はその光景を思い返し目を逸らす。
「ンふふ……! 遠慮がちな人間ちゃんのマッサージは最高だったっスね……!!」
いちいち嬌声をあげるその光景は、貴方にとってなにかいかがわしい行いをしている気分にさせられた。
「そんでもって残りは三割……、ここは人間ちゃんに頑張ってもらわないといけない感じっス」
完成への道筋が見えてきた貴方はそれを素直に喜んだ。
――なら、このままマッサージを極めるのも悪くはないだろう――
「あー、それなんですけどね人間ちゃん……」
申し訳なさそうに貴方を見る彼女は小さな声で話しかけてくる。
「いや、マジで最高なんすよ、家に帰ったら人間ちゃんがお出迎えして、いろいろ準備したご飯を一緒に食べて、疲れた体をマッサージしてもらって、夜は一緒に寝て……」
そこまで言いかけ、彼女の表情は固まる。
―― 一体どうしたのだろうか ――
「私、勝ち組すぎない? え、ヤバ、自分に嫉妬してきたっス」
――意味の分からない行為は自重してもらう――
既に妄想の世界へとトリップ仕掛けている彼女を呼び戻すため貴方は声をかけた。
「……んはッ!? いやぁ、人間ちゃんも遠慮がなくなってきて嬉しいっスねぇ」
しみじみと話す彼女。
事あるごとに意識を飛ばす彼女と過ごすせば貴方がこうなることも自然であった。
「私は仲良し感マシマシ嬉しいんすけど、実はその慣れってヤツが問題でして……」
彼女の言葉の真意を掴めない貴方は一体それがどういうことか問いかける。
「人間ちゃん、最近私に慣れてきてドキドキがちょっと控えめというか……、だからその分魔力の放出が控えめで……」
彼女達淫魔は感情すらもエネルギーに出来るとは聞いていた貴方。
つまり、自身が彼女に対して心を激しく動かされる頻度や規模が減っているということなのだろうと理解した。
「言ってしまえばマンネリ的な……?」
彼女との触れ合いで意図的に平静を装っていた貴方である。
それを止めて付き合うことに多少の葛藤を覚える。
「ウソウソ! ウソっス! 人間ちゃんは今のままでも十分っスよ!」
しかし、貴方の為に尽くしてくれる彼女のことを思えばその葛藤すら烏滸がましいと感じた貴方は自身に出来ることがないか、彼女に問いかける。
――ならば自分は何をすればいいのだろうか――
「え、えっとぉ~、そのぉ~、ちょっと良いんじゃないかと思うことがあってぇ、つまりドキドキすればいいっスから、その……」
言い淀む彼女の言葉を貴方は待つ。
彼女はチラリと貴方を見ると勇気を出したように貴方へ一言
「つ、つまり、人間ちゃん、私とデートしちゃわないっスか!」
言い終わった彼女は貴方の言葉を待ち、上目遣いでこちらの顔を覗いていることだろう。
――デート……――
もしも人間の感情が揺れ動けば動く程、淫魔にとってそのエネルギーが上質というのなら、その提案は余りにも合理的過ぎた。
貴方はその提案に動揺し、目線は泳ぎ、一拍遅れて言葉を返してしまった程なのだから。
「……ダメっすか?」
しかし、貴方の返答は初めから決まっていた。
というよりも目の前の彼女の目を見れば、貴方はそう答えることしかできない。
貴方は――