ダークアーカイブ:キヴォトスは闇鍋、異論は認めない。   作:yto楽団

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失踪したいので初投稿です。


キヴォトスの開始を宣言しろ!アロナァ!!

諸君らは、学園都市キヴォトスを知っているか。

 

学生、獣人、オートマタ・・・多種多様のニンゲンが住まうこの都市は、学園が国家として振る舞い、隆盛と衰退を繰り広げている。

 

住民はみな強靭な肉体をもつため、銃やナイフなどの兵器に対する恐怖心は薄い。それは軍事産業の発展が著しいというだけに留まらず、戦車や軍用ヘリすらも日常に組み込まれた超銃社会を生むに至った。

 

学園同士が文化と利益のために競争し、零れ落ちた学生は集団で道を踏み外す。そんなありふれた青春の1ページでさえ、紛争地域もかくやというほどの弾丸と怒号が飛び交う無法都市こそが、キヴォトスの本質だ。

 

ああ、その在り方はなんて・・・

 

なんて美しいんだ!!!!

 

あ。ん、んん゛っ。とにかく、キヴォトスがそのような無法地帯であることは到底容認できない。

 

そんなわけでキヴォトスの惨状を回復すべく立ち上がったのが、一人の超人を長とする()()()()()だ。

 

さながら救世主の如くキヴォトス中の学園を取りまとめ、インフラの整備から新しい学園の設立までこなしてみせた連邦生徒会は、破竹の勢いでキヴォトス住民からの信頼を手に入れた。

 

そのまま、キヴォトスに恒久的な平和をもたらすかのように思われた連邦生徒会だが・・・超人たる連邦生徒会長の失踪を皮切りに崩壊が始まる。

 

連邦生徒会の主要事業は軒並み無期限の計画延期、犯罪率は以前にも増して膨れ上がり、キヴォトスの街並みは再び混沌の影を帯びてきた。

 

「さて、現状の整理はこんなところか・・・おや、新しいニュースかね?ふむ、連邦生徒会に謎の女性が現れたと」

 

どうやらあちらでもプロローグが始まったらしい。こちらもそれに伴って相応の対応が必要になるな。まずはあいつを呼び出さねば・・・

 

おっと、うっかり諸君らを忘れていた、失礼。とはいえ、キヴォトスの初歩的な事項は伝え終わっている。先生の来訪(プロローグ)も始まったことだし、私の役目はひとまず終わりだ。君たちはこれから、正しい視点(せんせい)から物語を見ることになるだろう。

 

ではな、読者諸君。次の機会には私の仲間をお披露目しよう。

 

 


 

 

「え、じゃあ生徒会長さんが居なくなってからは、リンちゃんがその人の業務を全部やってるの?」

 

「えぇ、まぁ・・・そうですね」

 

私は清潔感のある廊下を長身の少女と歩いている。

 

私は俗にいう記憶喪失だ。名前はあやふや、身長と体重もはっきりと覚えてない。年齢も分かるのは成人済みってことぐらい。自分について明確なことと言えば、職業くらいだろうか。

 

目が覚めたらこの建物の応接室に居た私は、先生としてこの都市に招待されたらしい。

 

教えてくれたのは絶賛私とお話中の少女、七神リンちゃん。彼女はこの都市を統括する連邦生徒会で幹部を務めているらしい。加えて、連邦生徒会の会長が居ない今は会長代行も務めているのだとか。忙しい身だろうに私の歓待までしてくれて、ほんとうにありがたいです。なにせ私、自分のことも分からないので。

 

しかもこの子、大人っぽい見た目のわりにまだ未成年なのだ。キリっとした目や透明感のある眼鏡も相まって、成人はしているだろうと思っていたが・・・まさか高校3年生にここまで敗北感を覚えるとは。

 

「リンちゃんってホントにすごいね。会ったばかりの私に言われても困るだろうけど、もっと偉そうにしてもいいんじゃない?実質トップなんだし」

 

「いえ、私はあくまで代行ですので・・・それより、先生」

 

おや、改まってなんだろう?なんだか言い淀んでいるけど・・・まさか、私の社会の窓が開いてる・・・!?

 

「・・・あの、足元に何か?」

 

セーフっ。いや、なんでもないよ。それで、私がどうかしたリンちゃん?」

 

「そのリンちゃんというのは・・・どうにかなりませんか」

 

あぁ、名前呼びが気になるのか。確かに、会って一日も経ってない相手から下の名前で呼ばれるのは、気になっちゃうかも。私の良くない癖ってやつかな?

 

「なるほど、気づかなくてごめんね。七神ちゃん」

 

「いえ、私のことは七神行政官と呼んでいただければ・・・」

 

「・・・七神行政官ちゃん!」

 

「ですので、行政官とだけ付けていただければ・・・」

 

「行政官ちゃん?」

 

「・・・お好きなように呼んでいただいて結構です」

 

「ありがとう!よろしくね七神ちゃん!」

 

やったー!

 

あ、エレベーターだ。今度はあれに乗って移動するのかな。

 

「ところで七神ちゃん。私たちずっと歩いてるけど、これどこに向かってるの?」

 

目が覚めてすぐに「やらないといけないことがある」って言われて移動を始めたから、ホントに何にも分かんないんだよね。歩きながらお話してたのだって、応接室で訊けなかったことを訊くのが主旨だったし。

 

わっ、このエレベータースケスケなやつだ、展望台みたい。すごいなぁ、街を見下ろすのってやっぱりわくわくする。海もめちゃくちゃ青いし綺麗。あ、ビーチ行きたいなぁ。

 

「・・・そうでした。すみません、はっきりとはお話していませんでしたね。

 

応接室で、先生にやっていただかなくてはいけない事がある、と言ったのは覚えていますか?」

 

「・・・えっ!?あ、あぁ、うん。たしか、学園都市の命運をかけた大事なこと・・・なんだっけ?」

 

「・・・はい」

 

この間っ!バレているっ!!外の景色に現を抜かしていたことがっ!!

 

・・・気まずいな~。何だか呆れのこもった視線も感じるし、この牢獄から早く出たい・・・!

 

[チン]

 

つ、着いた!何も助かってない気がするけど、助かった~!

 

[ざわざわ]

 

「話を続けますが

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

 

あ、七神ちゃん眉間にしわ寄った。

 

「・・・うん?隣の大人の方は?」

 

ツーサイドアップに強気な態度・・・この子はツンデレだ!青い髪色が黒スーツとマッチしててかっこかわいい!

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

 

デカァァァァァいッ説明不要!!・・・お姉さん系だ!黒統一の容姿と黒い長髪がザ・撫子って感じ!

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

風紀と書かれた腕章に黒縁メガネ・・・真面目ちゃん枠だ!ピンクの髪に黒のリボンカチューシャがかわいい!

 

「あぁ・・・面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

七神ちゃん顔が!表情が隠しきれてないっ!

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」

 

七神ちゃん今度は怖い!笑顔ではあるけど笑ってないっ!

 

「こんな暇そ・・・大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。

今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために・・・でしょう?」

 

今「暇そう」って言いかけたな?もしかしなくても七神ちゃんって、怒らせると怖い人か。

 

うん、よし。七神ちゃんを怒らせるのはやめておこう。というかエレベーターの一件は危なかったのかも?あのタイミングでエレベーターが着いてホント良かった・・・

 

あれ、しれっとさっきまで居なかった子が混ざってる。

 

黒髪お姉さん(はねかわハスミ)と同じ腕章ってことは、同じ学校の生徒なのかな。

 

銀髪のサイドアップ?とモノトーンな服装がクールな雰囲気だね。かっこかわいい。

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。

 

これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

・・・ところで、皆の手元に銃が見えるのは幻覚かな?黒髪お姉さんも戦車とかヘリコプターとか言ってるし。アメリカの方が治安良さそう。

 

「こんな状況で、連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

たしかに、連邦生徒会長ってなんで居なくなったんだろう?立場としては一組織のトップなわけだし、軽い理由じゃないことは確かなんだろうけど。

 

「・・・はぁ。連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

「・・・え!?」

 

「・・・!!」

 

「やはりあの噂は・・・」

 

ふむ、黒髪お姉さんはうっすら情報掴んでた感じ。まぁ何週間も前から居なくなってるんだし、隠しきれる程目立たない立場でもないし、妥当か。

 

むしろ、同じ学校の子っぽい銀髪ちゃん(もりづきスズミ)が驚いてるあたり、結構情報は秘匿できてたのかな。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」

 

サンクトゥムタワー。まぁ、建物の名前だよね?管理者が居なくなると行政制御権が失われるあたり、かなり重要なやつ。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが・・・先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」

 

ふんふん。つまり、さきほど見つけたと・・・ん、さきほど?

 

ね、ねぇ七神ちゃ

 

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

「はい。

この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

「!?」

 

「!」

 

???

 

「この方が?」

 

「・・・ほんとに私が?」

 

「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」

 

ツンデレちゃんが初めてこっち見た。さっきから居たんだけどね・・・

 

「キヴォトスではないところから来た方のようですが・・・先生だったのですね」

 

さっきなったばかりだけどね。

 

「はい。こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

 

さっきから話に出てくる連邦生徒会長さん。私のこと随分買ってくれてるようだけど、正直覚えがないんだよね・・・会長さんなら私の過去(きおく)も知ってるかな?

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名・・・?ますますこんがらがってきたじゃないの・・・」

 

新事実の洪水にさすがのツンデレちゃんも気概が削がれてるね。

 

というか、代理人を指名した上で行方不明になるのは、もう丸投げする気しか無いよね?

 

ん、七神ちゃんが突っついてきた。かまってちゃんかな?ふふ、かわいいやつめ。え、違う?自己紹介?あ、はい・・・

 

「えーっと、ひとまず、自己紹介させてもらうね。

こんにちは!私は、先生。今日からキヴォトスの先生として働くことになりました。

名前とか趣味とか色々言いたいところだけど、あいにく記憶喪失でね。自分のことは初対面の君たちと同じ程度にしか分からないの。ごめんね?」

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの・・・い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて!

というか、記憶喪失って・・・!?」

 

すごい混乱している・・・ごめんねツンデレちゃん、今じゃなきゃ記憶喪失って言い出せなそうだったから。

 

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと・・・「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

 

「うん、早瀬ユウカちゃんね。よろしく!」

 

ツンデレちゃんの勢いが復活した。というか、七神ちゃんさっきからツンデレちゃんに当たり強くない?

 

「・・・先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。

連邦捜査部『シャーレ』」

 

ガラス板(シャーレ)

 

「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。

連邦組織なため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区において、制限なしに戦闘活動を行うことも可能です」

 

お、おぉ!なんかカッコいい!あとすごい特権!でも、戦闘活動はあんまりしたくないかな。

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが・・・

ともかく、シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。

先生を、そこにお連れしなければなりません」

 

ここから30kmって・・・遠くない?しかも外郭地区って、連邦生徒会長は私のこと好きなの?嫌いなの?

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど・・・」

 

『シャーレの部室?』

 

わっホログラムだ。すごい、近未来的、私もやりたい。

 

モモカちゃんは・・・小学生かな?ピンクのツーサイドアップがかわいい。

 

『あー、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』

 

「大騒ぎ・・・?」

 

『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

 

「・・・うん?」

 

え、戦場になってるの?

 

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』

 

焼け野原に、巡航戦車。地域の不良とはいったい・・・この都市おかしいよ。

 

『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

 

「・・・」

 

ひえっ、七神ちゃんの顔が。

 

『まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな・・・あっ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』

 

ブツッ

 

「・・・」

 

ぷるぷる

 

「な、七神ちゃん。えっと、深呼吸とかしてみる?」

 

「・・・だ、大丈夫です。

・・・少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

七神ちゃんの怪しい視線の先には・・・突然の漫才に置いてきぼりを喰らった4人が。

 

いったいどんな企みがあるというのか?

 

「・・・?」

 

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

 

あっ(察)

 

「・・・えっ?」

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

やっぱり反論を与える隙もなく巻き込んだ!しかも言いたい事だけ言って歩き出した!?

 

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」

 

「シャーレですが『リン行政官、ちょい待ってくれへん?』

 

またホログラムだ!

 

ツリ目に七三ヘアー・・・絶対にクール系だ!黒縁メガネと軍服みたいなスーツがイケてる!しかも豚耳みたいなカチューシャが・・・ん?あれホントにカチューシャ?

 

「・・・ツアリ書記官」

 

『さっきはモモカさんの話に割りこめへんですまんかった。話にあった不良たちの対応しとってな、暴動はこっちのやつが何とかする言うとるから安心して来てくれ』

 

「・・・ありがとうございます。

ちなみに、どなたが担当を?戦車で砲撃しながら手榴弾を投擲するような方の場合、お断りさせていただきます」

 

ほ、砲撃しながら手榴弾って、それ手榴弾必要ないんじゃ・・・?

 

『あのボマーは別業務に就いてるとこなんで安心してや。

向かったのはウチの最高戦力。もう不良たちと交戦しとるようやし、あいつなら規模的に10分もかからん。ヘリで着くころには誰もおらんのとちゃうかな』

 

どうやら、戦闘についてはツアリちゃんとその仲間が解決してくれたようだ。

 

よかった~、何とか戦わずに済みそう。

 

「・・・千成(ちなり)ムウ、ですか。あなたはよく彼女の破壊行為に胃を痛ませているのでは?」

 

『あいつにも他所様に迷惑かけん良識くらいはある。

・・・あるよな?

と、とにかく、シャーレの部室に向かうんやろ?ヘリポートまで来てや、待ってるで』

 

[ブツッ]

 

「・・・ということですので、ヘリポートにご案内します。先生。

それと、ご足労いただいた各校の皆様方には申し訳ありませんが、緊急時ですのでまた日を改めて訪問をお願いします」

 

七神ちゃんの「緊急時ですので」から並々ならぬ圧を感じる・・・!

 

絶対ここで別れてうやむやにする気だ。

 

「ちょっと!シームレスに別れようとするのはやめてくれる!?

行方不明になった連邦生徒会長はもういいとして、いや良くないけど・・・とにかく!

先生だとかシャーレだとかについて、より仔細な説明を求めます、代行!」

 

分かる~!いきなり先生からシャーレ就任まで分かんないことばかりだったから、めっちゃ分かる~!

 

ごめんね七神ちゃん。今の私はツンデレちゃんに賛成派だよ。

 

「ですから、それらのより具体的な説明はまた後日、正式な場所を整えてからさせていただきます」

 

「あぁ、もう!今すぐにって話でしょうが!わざわざ    

 

やばい、口論が始まってしまった。絶対こんなことしてる場合じゃないのに・・・ど、どうしよう。あそれ、どうしよう。

 

「あの!」

 

その声は、真面目ちゃん(ひのみやチナツ)!何かこの争いを止める秘策が!?

 

「・・・千成ムウさんが不良たちと交戦中なんですよね、七神代行?

私たちは万が一の護衛ということにして、ひとまずシャーレの部室に向かわれては?」

 

押し切れそう(めいあん)っ!!乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

「私もこの子に賛成だよ。

ツアリちゃんって子も待ってるって言ってたし」

 

「私も同意です。相手勢力が高射砲を保有していた場合、首席行政官と先生、ツアリ書記官だけでは対応しきれないのでは?

少なくとも、先生の無事が保証できるとは思えませんが」

 

七神ちゃん、みんなに護衛してもらおう!

 

 

 


 

 

 

紆余曲折を経て先生一行がヘリポートへ向かっている頃、シャーレの部室付近-正確には9時方向に500m離れた公園-にポツンと立つ人影があった。

 

ややオーバーサイズのパーカーを纏いながらも、顔は翠色のフードですっぽり隠したその人型は、公園のブランコに腰かけて高く聳えるシャーレの部室を眺めている。

 

♪~♪~

 

不意に賑やかな楽曲が流れ出すとブランコの人型はポケットからスマホを取り出し、画面を見ずに応答ボタンを触ってフードの中に突っ込んだ。

 

「はいはーいこちらノンフェイス。とりま、シャーレの部室?近くの公園にいるよー」

 

『そうか。そちらから当該戦線、あるいは首級の確認はできるか?』

 

公園に呑気な少女の声が響く。声の出所である人型     少女は、通話相手の問いに首を傾げて、なんてことないように答える。

 

「んー、見えない。いやぁ、困ったっスね」

 

澄み切った青空に一陣の風が吹いた。公園の樹木たちがささやく程度のそよ風は少女のフードを揺らし、三日月のような口元が露わになる。

 

『はぁ・・・作戦行動に影響はないな?』

 

少女の耳にスマホを介して呆れる声が届く。とはいえ、対象を認知できていないという問題が発生しても作戦続行を確認する言葉は、相手から少女への信頼を感じ取るには十分だろう。

 

しかし、当の少女にとっては満足のいく内容ではないようで、背を曲げてブランコから足をぶらつかせている。

 

「はーつまんな。たまにはもっと慌ててよねークルツ。総統閣下殿は遊びが足りませんよーだ。

 

ま、作戦に影響はないよ。通勤ついでにどっちも見てきたし」

 

少女は公園の滑り台に目を向ける。

 

滑り台の奥にはシャーレの部室である高層ビルが聳え、同じ方角から微かな銃声や爆発音が空気を震わせている。

 

『・・・うるさい。総統はつまんなくても務まるんだよ。つか!この前私のなりすましアカでクソリプしてたのお前だろ!翌日苦情で夜も眠れなかったんだぞ!?』

 

「あっはははっはっは!だーれも気づかないから興が乗っちゃったよねー!

いやー、その節は失礼しましたね我らが総統。お詫びにビュッフェ奢るから許してぃ」

 

『おまえなぁ、全く・・・

二度目がこれでは格好がつかないではないか

 

ひとしきり笑ってすっかり上機嫌の少女は、ブランコからぴょんと立ち上がって大きく伸びをする。

 

スマホを持っていない方の手にはいつの間にか拳銃が握られ、艶のある黒い銃身が物々しさを醸している。

 

少女はスマホに耳を傾けつつ、時計台にも目を向けた。

 

あと1分もすれば、時計台の頂点で長針が短針と重なるだろう。

 

「あー笑った。

んじゃ、総統からの励ましも貰ったんで頑張りますかね」

 

『ただの確認連絡だったんだが?

・・・まぁいい。時間がないからな、今回の目標だけ確認させてもらおうか』

 

少女はスマホを肩に挟みながら、公園脇のバイクに搭乗しているところだった。

 

スマホスタンドにスマホが挟み込まれる。

 

すらりとした黒い車体からはドドドドとアイドリング音が鳴り、スマホの奥にも届きそうな轟音になっていた。

 

「ん、目標?

あー、大丈夫!あれでしょ!えっと、なんだっけ・・・

あ、そう!!」

 

少女がクラッチからゆっくり手を放すと共に、バイクもゆっくりと発進し始める。

 

「茶番なし。全員殺す」

 

『怖っ・・・ホントに殺すなよ?

 

 

 


 

 

 

現在時刻     12:02分

 

先生一行がヘリに搭乗して3分経過。

 

少女が公園を離れ2分経過。

 

戦場となるシャーレの部室周辺は、少女たちの到着を待たずしてすでに混沌と化していた。

 

「クソっ!スモークで何も見えない・・・!

いてっ!おい、誰か知らないがこんな煙の中で発砲するな!」

 

「戦車の引き上げはまだか!?

スモークグレネードに落とし穴・・・いったい誰が仕掛けたんだ?」

 

「スナイパーライフルが使えない・・・

ブービートラップだけで敵はいないみたいだし、もう帰ろうかな」

 

戦車は落とし穴によって無力化され、スモークによって悪くなった視界がクレイモアの危険度を上げている。

 

不良集団は目に見えてシャーレを攻めあぐねていた。

 

膠着した戦線に焦れる者も現れ始める中で、一歩離れた地点の歩行者デッキから眺める者が一人いた。

 

「・・・」

 

黒を基調とした裾の短い着物を着るその少女は、頭頂部に生えた耳と揃いの狐面によって表情を周囲に悟らせない。

 

「ふむ。妙ですね。

いくら不良を進ませても、トラップばかりで敵兵の影もない・・・」

 

狐面の少女はこの不良集団の首領であった-正確には、裏で手を引く黒幕というべきであるが-。

 

加えて、狐面の少女はこのような局面、いわゆる攻城戦には慣れていることもあり、戦地からは一歩引いた場所で今自軍に起きている混乱を俯瞰できていた。

 

(3日ほど、矯正局から脱走してここに来るまで、確かに時間はありました。私がここ(シャーレビル)の襲撃を計画し始めたのは情報提供者(ひがいしゃ)の話を聞いてから。

私の襲撃についてリークがあり、もしくは予測してあらかじめトラップを仕掛けておくのは想定内。

ですが、トラップのみ設置して人員を配置していないというのは・・・)

 

狐面の少女が襲撃先をシャーレビルにしたのは、特に深い意味があってのことではなかった。

 

矯正局(どくぼう)から出てきたので、憂さ晴らしに連邦生徒会(ジャマモノ)への嫌がらせ(しゅうげき)を考えていたら、丁度良く重要らしい場所があった。これに尽きる。

 

狐面の少女からすれば日常。襲う場所を適当に決めたら、駒を集めて実行する。

 

少女の人となりをある程度知っていれば、それこそ警察局(ヴァルキューレ)の犯罪対策課などは対策を講じるくらい容易いことだろう。

 

では、このトラップもそういった治安維持組織の仕業だろうか?

 

(違いますね。このような雑な対策で終わらせるほど、舐められた覚えはありません。

そもそも、警察局(ヴァルキューレ)は今矯正局の脱走事件やらで人員に余裕もないはず。外部組織に依頼したと見るのが妥当でしょうか?)

 

狐面の少女は銃声の減った戦線を注視する。次から次へと上り続ける煙と同じように、色々な可能性が少女の脳内で生まれては消え、繰り返す。

 

太陽の陽射しが眩しいくらいに降り注ぎ、考えるのもバカらしいんじゃないかと少女が思い始めたとき、少女の脳にふと閃きが舞い降りた。

 

「・・・もしや。人員を配置していないというのはフェイク?」

 

人っ子一人いないのに、トラップだけは徹底されている理由は。

 

敵を一か所に留め、機を見て包囲するための作戦なのではないか?

 

もしくは、投入予定の戦力にスケジュール的な都合があり、到着までの時間稼ぎが目的なのではないか?

 

敵はもちろん少女への対策を講じている。『災厄の狐』呼ばれ恐れられた少女を相手取れる強者など、このキヴォトスにはそういない。

 

狐面の少女は弾かれたように周囲を見回し、警戒する。

 

否、しようとして、それよりも早く背後から機械的な音声が這いよった。

 

『kosaka ushiro』

 

「っ!」

 

少女―狐坂(こさか)ワカモは振り向くよりも先に手元の銃剣-深紅の災厄-で背後に殴りかかる。

 

見えない相手を捉えた一撃はしかし、その根元を掴まれたことで当たることなく急停止した。

 

ワカモの視界でバイク用のグローブが愛銃のボトルを掴んでいる。

 

「なーいす反応。

なんだ、最近矯正局に入ってたって聞いたけど、腕は鈍ってなさそうだね」

 

ワカモが首を傾けると、銃を片手で抑えながらもう片手でスマホをいじる少女がいた。

 

フードで目元を隠したその少女に、ワカモは苦い顔を向ける。

 

「よりによって、あなたが敵になるとは思いたくなかったです。ムウ」

 

「一応極秘で()りに来てるから、ノンフェイスって呼んでよ。ワカモ」

 

会話ついでにワカモが銃剣を引っ張るものの、銃剣もムウの手も動く気配はない。

 

ワカモの背を冷や汗が濡らす。ワカモはこの状況が薄氷の上で成り立っていることを理解していた。

 

ワカモとムウの関係は一言で表すには難しく、その交流はワカモが留年する以前から続いている。故に、ときに敵として、ときに仲間としてムウと戦場を駆けたワカモは、ムウに遊び癖ともいえる悪癖があることを

知っている。

 

(少人数と接敵してから1分間、戦わずに相手と話す癖は相変わらず。

・・・深紅の災厄を掴まれたのは失敗ですね。声をかけられた時点で距離を取るべきでした)

 

鼻歌交じりのムウがスマホの画面をワカモに見せる。青白い液晶にはテキストの打ち込まれた丸角の枠と簡素な再生ボタンが映っている

 

「じゃん。見てこれ、さっき使った読み上げソフトー。

 

男声しか入ってないし、機会音声っぽさ満載だけど、みんな驚いてくれるから気に入ってるんだよね」

 

「・・・いまどき機械音声とは、意外と希少なのでは?」

 

「そうかなー?先月知り合いにもらってさぁ。

もらったときに日々の労いだって言われたんだけど、労いのプレゼントとは到底思えなくない?」

 

「ええ、まぁ・・・」

 

戦場における1分は、日常の1分と比較にならない重さをもつ。特に、一つの銃を掴み合うような至近距離であれば、銃弾が相手を襲うまで1秒もかからないだろう。

 

じわじわとすり減っていく時間は炙るようにワカモの余裕を削っていく。

 

「・・・ところで、今回の件は連邦生徒会に依頼されて?」

 

「いんや、今回はこっちから動いた。

あぁでもワカモとずっと敵対するって意思表示じゃないと思うよ?うちの人は誰彼構わず敵対する人だから・・・多分2、3日もしたら仲直りの賄賂か何かが届くと思う。

ま、とりあえずそういうわけだから、今日は楽しく()り合おうか」

 

「っ!」

 

銃剣を掴むムウの手が緩み、ワカモは咄嗟に引きぬいて飛び退く。

 

ワカモの足が少し離れたデッキの床に着いたとき、すでに銃剣の切っ先はムウを狙っていた。

 

ダンッ!

 

ムウが顔を右に傾けるのと、銃弾がムウのフードを掠めるのは同時だった。

 

フードの破れ目から細い光が入り、雫型のイヤリングを露わにする。

 

「まさかフードに傷をつけられるとは」

 

「避けなかっただけでしょう。私を騙せるとお思いで?」

 

ワカモの銃剣を握る力が強まる。狐面から覗く金色の視線は、イヤリングに注意しながらもムウの身体全体を捉えて外さない。

 

「・・・はぁ。最近みーんな反応薄すぎない?もうちょっと脅かしがいというか、騙しがいというか、まぁそっちの方がやりがいはあるけどさ」

 

ムウは文句を垂れながらスマホをポケットに仕舞う。

 

そして、手がポケットから戻ってきたときには代わりに拳銃-グロック43Ⅹ-が握られていた。

 

「さて、1分経ったしやりますかー」

 

「・・・相変わらずの手抜き癖。いつか足元を掬われても知りませんよ」

 

「大丈夫だってぇ。

みんなの腕じゃ、私の足元には到底届かない」

 

カッ

 

ムウのイヤリングから放たれた閃光が周囲を包み、イヤリングに意識を向けていたワカモは思わず硬直してしまう。

 

数瞬の後、戻った視界にムウは見当たらない。

 

「・・・上!」

 

「よっ」

 

ガンッ!

 

持ち上げられた銃剣とブーツの踵が衝突し、靴底の鉄板とバレルが火花を散らした。

 

ワカモが刺突を狙い銃口を持ち上げると、ムウは銃から飛び跳ね曲芸師のように片手でデッキの柵を掴む。

 

振り向いたワカモと逆さまの銃口が視線を結んだ。

 

「ばんばん」

 

タンタンッ!

 

「くっ・・・!」

 

手首への一撃は腕を引くことで回避し、顔を狙った一撃は銃剣を盾にして弾く。

 

発砲と共にデッキ下へ落下したムウを警戒して、ワカモは懐からガス弾-マスタードガス-を投擲した。

 

カンッシュゥゥゥ

 

(時間稼ぎになれば良いのですが。

ともあれ、ムウの攻撃が止んだ今は好機。今のうちに   逃げましょうか)

 

歩行者デッキから飛び降り、ガスに注意しながらビルとビルの隙間へ入り込む。

 

ワカモは薄暗い路地を右に左にと進み、通った路地にトラップを撒くことも忘れない。

 

路地に入って5分は経っただろうか。手持ちのトラップがなくなったころ、ワカモはうっすらと漂っていた腐乱臭がなくなったことに気づいた。

 

(さて、これからどうしましょうか。ムウが来た以上、あの建物を壊すにも相応のリスクが必要にですし・・・。

はぁ。何もせずに終わるのではここまで用意した甲斐がありません。せいぜい建物内を荒らす程度になりそうですが、あちら(シャーレビル)に向かうとしましょう。)

 

ワカモはビル群の隙間から覗くシャーレのビルに目を遣る。ガラス張りの壁面は青空を写し取ったように反射していて、ビル内の様子を窺うことはできない。

 

あてもなく歩き続けていた身体を振り向かせ、先ほどまでより軽く足を踏み出した。

 

ドンッ

 

瞬間、背後から衝撃を喰らい、後から浮遊感が身体を襲い続ける

 

「ぐっ!?」

 

「ちぃーすワカモちゃーん!さっきぶりぃ!」

 

ワカモの赤みがかった狐耳に真横から声が掛かる。その声の主は数分前に姿を眩ました敵であり、現在ワカモを抱えて某親愛なる隣人の如くビルの間を縫う少女

 

    千成ムウだった。

 

「ふっふーん。私から逃げ切れると、本当に思っていたのか?

ワカモから一旦退いたのは、シャーレビル周辺の不良たちを鎮圧するためだったのさ!

悪のたくらみを粉砕する女、タランチュラーマッ!」

 

「わけのわからないことを言わないでいただけます!?というか、なんですこの状況は!なぜ私を抱えてワイヤーアクションをしているんです!?」

 

ワカモたちがビルの屋上よりも高く飛び上がったことで、太陽が2人を照らし包んだ。

 

カシュッ!ジャコッ!

 

ムウのグローブからビルの屋上まで伸びていたワイヤーが巻き戻される。

 

ムウは自由落下を始めた身体に構わず、進行方向のビルに間髪入れずワイヤーを射出した。

 

ガッ!ギィィィ!

 

「見たら分かるでしょ、タランチュラーマンごっこ。ある日突然アラクネサイボーグになった主人公タランチュラーマンが、タランチュラパワーで街の闇と戦う映画。

え、もしかして知らない?うちの学園じゃ興行収入500億の大ヒット映画だよ?」

 

「あなたの学園の流行なんて知るわけないでしょう!?」

 

2人はビルの隙間をブランコのように勢いよく飛び上がり、だんだんと高度を上げていく。移動のたびにヒュオオと響く風切り音は十分大きく、2人が抱き合っていなければ話すことも難しかっただろう。

 

「その話は終わりです!もう話さないように!

はぁ・・・それより、こんな高さまで来て何をするつもりですか?」

 

既に2人は15階建てのビルより高く飛び上がり、シャーレビルのヘリポートを眼下に見据えている。

 

2人の横をカラスが通り過ぎる。

 

「おっ、いい質問だね。

実は今、シャーレビルに連邦生徒会の人らが向かっててさ。私はその露払いってやつ」

 

周囲で一番高いビルの屋上際にワイヤーを突き刺し、2人は再び滑空する。

 

「やっぱり、せっかく仕事任されたんならかっこよく遂げたいじゃん?

だから、ヘリポートまで飛んで行ってダイナミックワカモ着地したいなって」

 

「・・・は?」

 

振り子の最下点を超え、2人の身体はじわじわと上昇を始める。

 

「だぁから、ヘリポートまで飛んで「二度言わずとも聞こえました」

 

「この際単語には触れませんが、そうは問屋が卸しませんよ・・・!」

 

「ちょっ、こんなとこで暴れないでよ!」

 

ワカモは肩に回されたムウの腕を押しのけ、チョークスリーパーの体勢を狙う。押しのけついでに右腕を掴まれたムウはワイヤーを飛ばしている左手も使えず、抗うように身体を捻った。

 

「無駄な抵抗を・・・!観念してクッションになりなさい!」

 

「こっちのセリフゥ!クソ、片手じゃ話にならない!」

 

ワカモの攻撃に耐えかねたムウがワイヤーを巻き戻したことで、二人はシャーレビルを少し外れ真上を過ぎるような軌道で飛んでいく。

 

そして。

 

「よぉし左手復活!

さぁ決めようじゃないか、最後に立つのはどちらか!」

 

「望むとこ・・・なっ!?」

 

「あぁ?ちゃちなフェイントなんか「ムウ、後ろ!」ぐえっ首ぃ・・・え゛っ」

 

    その日、少女たちは運命に出会う。

 

「ヘリィィィィ!!?」

 

ゴガッ!!

 

 




誤字報告や感想など、よければ書いていってください。多分見ます。
異論も認めます(認めるとは言ってない)。
90%の確率で失踪します。
次回は未定です。
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