ダークアーカイブ:キヴォトスは闇鍋、異論は認めない。 作:yto楽団
前回のあらすじ。
千成ムウ&狐坂ワカモ「イヤーッ」
ヘリコプター「グワーッ」
先生一行を乗せたヘリはシャーレビルを目指して空の旅をしていた。
「いや~。まさか、名だたるマンモス校の重役さんらが護衛やなんて・・・珍しいこともあるもんやね?」
「ええ、まぁ、緊急事態ということでしたから。ツアリさんこそ、ヘリのパイロットはいつ以来で?」
コックピットでは
「生徒会長の捜索に人員が必要というのも分かるけど・・・各自治区の状況も無視できないわよ。
うちだって、破壊されたインフラ施設の修繕に莫大なコストが掛かってるのよ?」
「今回の件によって停止した重要プロジェクトも少なくありませんので・・・
そうですね、優先事項の対処が済みしだい連邦生徒会内で協議いたします」
「そういえば、スズミさん。先月の立てこもり事件でも押収したランチャーについてですが、トリニティで一般的に流通しているどの型番とも合致しませんでした。
出所については現在も調査中ですが、そちらで何か情報を入手した場合は共有していただけると助かります」
「わかりました。
トリニティのものではないとなると、より一層の警戒が必要になりそうですね」
そのほかの生徒たちも、目的は違えど会話に勤しんでいた。
そんな中、この場で唯一の大人たる先生は何をするでもなく、ぼーっとみんなの会話を聞き流しているようだ。
6席の後部座席が向かい合うなか、先生の左前に座っている七神リンが様子に気付く。
「・・・先生、先程からずっとそのようにされていますが、大丈夫ですか?酔ったようでしたら、酔い止めを差し上げますよ」
「・・・えっ?あ、あぁ、大丈夫。酔ったわけじゃないよ」
エレベーター(どこか)で聞いた返答に、リンは思わずため息をつく。次いで口を開いた彼女を見て、先生は少したじろいだ。
「先生、体調が優れないようなときはすぐに言ってください。
私たちはなにも、先生を冷遇するつもりはありませんから」
リンの気遣いに対して、先生はほっと一息ついた。小言の一つでも飛んでくるんじゃないかと思っていたのは、先生だけの秘密である。
「本当に大丈夫だよ。さっきぼーっとしてたのは、なんていうか・・・懐かしい気持ちに浸ってたんだ」
「懐かしい気持ち、ですか?」
「うん。記憶のない私がいうとおかしな話なんだけど、みんなが仲良く話してるところを見ると、なんだか胸の中が温まる気がするんだ。
それで、気分が落ち着くというか・・・」
先生が緩く笑うと、リンは半信半疑といったふうに眉を下げた。
「でしたら、よいのですが。
・・・記憶喪失、ですか。治療には専門医が必要になることもあるでしょう、シャーレの居住区に診療所を設置できるよう、こちらで手配しておきます」
「えっ、気にしなくていいよ?七神ちゃん、代行業務で十分忙しそうだしさ。余裕ができたら、自分で近所の診療所調べて行ってみるよ」
リンの眉間にしわが寄り、彼女はゆっくりと親指と人差し指でもみほぐす。
「・・・先生には、要人としての自覚を後ほどじっくり説くとしましょう。
それよりも、余裕がある今の間にやっていただきたいことがあります。先生」
「ん、何かな?」
リンが窓の外をチラと一瞥する。地上には大小様々な建物が建ち、ドーム球場や建設途中のビルなど、大型な建造物がよく目立つ。
周辺の地理に詳しければ
「名前を考えてください。思い出すまでの仮名でも構いませんので」
「名前?」
「はい。先生は立場上シャーレの職員ですから。名簿や報告書を作成するときに、名前がなくては困るでしょう?」
「なるほど、任せて!
、
、
、
んー、あー、ダメだ思い浮かばない。一旦保留で!」
先生は大きく頷き胸を張った。が、すぐに頭を捻ったと思えば、諦める。あまりの変わり身にその場のみんながズッコケた。
「いや、諦めんのかい!・・・はっ。す、すみません先生」
豚林ツアリのツッコミがヘリ内に響く。
思っていたよりも活発な反応に先生は虚をつかれたが、しだいに目じりを下げて微笑んだ。
「ナイスツッコミ!気にしてないよ。
そういえば、君には自己紹介してなかったね。私は先生。さっきの話の通り記憶喪失だけど、今日からこのキヴォトスで先生をすることになりました。よろしくね」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。
私は
ツアリは先生に会釈すると、再びヘリの操縦に意識を戻す。片側タイプのヘッドセットにつけられたスイッチを押し、専用回線から現在の高度計規正値を受け取った。彼女はそのまま気圧の変化でずれた高度計の校正を始める。
校正用のノブを回すツアリの後ろでは、会釈を返した先生が自身の名前を考えている。
ふと、先生の頭に天啓がひらめいた。
「そうだ、せっかくだしこの場のみんなで改めて自己紹介しない?私、みんなと仲良くなりたいんだ。袖振り合うも他生の縁って言うし、私がシャーレの先生として働いてたらみんなとはまた会うと思うんだ。
あと、みんなの名前を私の名前の参考にしたいな。参考に、したいな!」
「すごい食い気味・・・ま、まぁサンクトゥムタワーでは私もおざなりな自己紹介でしたし、この場で改めて、というのは賛成です」
「私も構いません。先生が言うようにまたどこかで会う機会はあるでしょうし、今紹介を済ませてしまった方が良いでしょう」
「そうですね。私の名前が参考になるかは分かりませんが、この場で自己紹介をするのは良い考えだと思います」
早瀬ユウカや羽川ハスミ、守月スズミといった後部座席の面々は前向きな考えを示す。静観している七神リンも先生を咎めようとする雰囲気はなく、むしろ先生に対して小さく微笑んだ。
先生は小さくガッツポーズを取ると、身体を傾けコックピットの左席に目を向けた。
「私も構いませんよ。座席の関係上、面と向かっての自己紹介は難しいですが・・・やるというのならぜひ」
左席に座る火宮チナツは先生の顔が見えないながらも頷いた。先生はチナツの返答を聞いてパァッと笑う。
「みんなありがとう!それじゃあ早速自己紹介といきたいんだけど、みんな順番とか希望はある?」
シーン・・・
生徒たちの頭に体育のバレーボール授業がよぎる。飛んできたボールを譲り合って取り落とす風景が脳裏に浮かんだ。
少しして、ヘリ内に突如生まれた気まずさを我慢できなかったのかユウカが咳払いをする。
「ん゛んっ。ええと、誰も出ないなら私が最初でいいかしら。
ミレニアムサイエンススクール所属、2年の早瀬ユウカです。セミナー、いわゆる生徒会では会計として予算管理などを担当しているので、こういう役柄はめったにしないんですけど・・・やるからには、きっちり先生を守りますから安心してください。
改めてよろしくお願いしますね、先生」
ユウカが一礼すると、動きに合わせて彼女のツインテールが揺れる。白シャツに黒スーツという会社勤めのような制服は彼女の真面目さを彷彿とさせていて、白いアウターから感じる清潔感も合わさり、見る者にセミナーとしての威厳を感じさせた。
「では、次は私がさせていただきます。トリニティ総合学園の羽川ハスミです。普段は正義実現委員会の一員として、トリニティの治安維持業務を務めています。トリニティに来られた際にはぜひ本部にいらしてください、先生」
ハスミは翼と手をひざ上で合わせペコリと頭を下げる。腰から生えた翼は濡羽色のような色艶で、その羽毛には手指程の大きさがある。手に嵌めている手袋や着ているセーラー服、果ては髪色まで黒に統一されているためか、白磁のような肌は余計白く見えた。
「同じくトリニティ総合学園の守月スズミと言います。所属は違いますが、私もハスミさん同様トリニティ周辺のパトロールをしているので、トリニティで困りごとがあれば気軽に頼ってください」
スズミが先生に微笑みかける。白シャツに黒いキドニーベルト、グレーのアウターが彼女にシックな雰囲気をまとわせていた。ポンチョのようになっている袖には金と黒で飾られたバッジが着けられ、盾の意匠とトリニティの学匠が自警団としての自負を感じさせた。
「先生には既にお話しましたが・・・連邦生徒会の七神リンと申します。首席行政官として統括室を管轄しているほか、現在は行方不明となった連邦生徒会長の代行を務めています」
リンは眼鏡のヒンジを掴み上げて位置を整えると、周囲の面々を一瞥してから先生を見た。全体的に白でまとめられた制服はトレンチのワンピースとコートを合わせたような見た目で、コートの裏やネクタイには夜の星空を思わせるデザインが仕込まれている。星型のイヤリングや空色のアイラインも相まって爽やかな印象だ。
「・・・最後は私ですね。ゲヘナ学園、風紀委員会所属の火宮チナツと言います。委員会では救護係を担当しているので、外傷であれば相応の応急処置は可能です。絆創膏などは常に携帯しているので、皆さん必要になれば言ってください」
チナツは後ろに振り返り、左手に持った絆創膏をゆらゆらと振って見せた。手を覆うタイツイブニンググローブや胸元のリボンは真紅に塗られ、シャツの前立てにあしらわれたフリルと合わせてみればガーリーな装いになっている。一方、ウェリントン型のメガネや頭のバンダナ、ミニ丈のプリーツスカートは黒く染められていて、全体的には風紀委員らしい引き締まった雰囲気を出していた。
先生は5人の自己紹介を聞き終えると、その中で初めて名前を聞いた生徒と目を合わせて顔と名前を一致させていく。
「ハスミちゃんとスズミちゃん、そしてチナツちゃんね。よし覚えた。
みんな・・・もちろん、ユウカちゃんや七神ちゃんたちも、改めてよろしくね!」
自己紹介をつつがなく済ませ、後部座席が先生を中心に賑わい始める。
そのとき、異音が鳴いた。
ゴガッ!!
硬い衝突音がヘリの左側から響き、ヘリ内の空気は一気に引き締められた。戦い慣れた者は狭い機内でも正確に銃を構え、慣れない者は邪魔にならないよう距離を取る。
バゴンッ!
爆破音と共に左のドアが外れ、白煙交じりの外気と機内の空気が強風によって混ざり合う。
霞む視界の中で先生が風に耐えていると、発砲音が数回鳴り、外向きの風が止んだ。
ダンッ!カンッ!
「わっ!み、みんな大丈夫!?怪我は?」
「跳弾の音が近いですね。スズミさん、もう少し先生の傍へ。できれば覆いかぶさるように」
「声はこちら側だったはず・・・先生、動いていませんよね?」
「何も見えない・・・!えぇと、ツアリ書記!この煙どうにかならない!?」
「即効性のある換気機能なんてこのヘリには着いとらへん!窓割って煙抜くで待ってや!」
タンッ!タンッ!パリンッ
再び発砲音が鳴り、ヒュオオと風切り音がする。段々と白煙が薄れ、機内の様子が克明になってくる。
「先生、無事で・・・え?」
「やっほ。スズミちゃん、だったっけ。
んふふ、みんないい顔してるねぇ。正直ヘリと激突して泣きそうなくらい痛いけど、みんなの間抜け面が見れれば・・・十分、良い人生だった・・・う。
やっぱり痛ぇぇぇぇぁぁぁあああ!骨という骨が粉々粉砕されている気がするぅ!誰かにぼしちょうだい!あーんしてあーん!!」
煙が晴れた機内では、フードを被った少女が先生と入れ替わるように着席していた。安らかに微笑んだのも束の間、突然席から落ちて床で悶えている。
当の先生は口や手を布で縛られ、元々座っていた席の対面に座っていた。混乱と驚きからか声はしないものの意識はあるらしく、自身の胸部に広がった赤い染みを凝視している。
今さっき爆破された左側のドアは元の位置で溶接されていて、二度と開きそうにない。
ドアの足元には狐面の少女が寄りかかっていた。手には手錠が掛けられ首はぐったり俯いている。
「えっと、何がどうなって・・・って、先生!大丈夫ですか!?」
「私が処置します!一人で着陸可能ですよね、ツアリさん」
チナツが席を乗り出し先生の触診を始める。胸元は一目で重傷だと分かるほど真っ赤に染まっていて、チナツの頬に緊張の汗が伝った。
一方、操縦席のツアリは先生を直視していないこともあり余裕を取り戻している。墜落に気を付けながら揺れていたヘリを調整し、着陸の準備を始めていた。
「すぐ着ける。着陸するときはちょい揺れるで気ぃ付けてや」
「はぁ、誰も反応くれないじゃん・・・あれ、ツアリちゃん?奇遇「忙しいんで黙ってて貰えます?」
フードの少女はいつの間にか起き上がってツアリに話しかけていたが、食い気味に一蹴され身を縮めている。
少女を警戒しているハスミはライフルの銃口を彼女の後頭部に向けながら、鋭く睨んで威嚇した。
「以降、動けば発砲します。いくつか質問をしますので、答えてください」
「え。あー、サレンダーサレンダー。降参するからさ、手挙げていい?」
フードの少女は銃を向けられていることに気付くと、あっさり降伏する。
ハスミは訝しんだ。
「手は後ろ手に組んでください。
最初の質問です。あなたの所属と目的は?」
所属と目的を問われた少女が肩を跳ねさせ、露骨に動揺する。後ろに組んだ手の親指を突き合わせ、言い渋っている様子だ。
ハスミは訝しんだ。
「えっと、あのー・・・スゥー、ハァー。
アーカム学園所属の、千成ムウ、でーす・・・仕事でこの辺りの不良たちを殲滅してたんですケド、不良を率いてやつの抵抗がすごくテ・・・
なんやかんや空跳んでたらヘリにぶつかりました!ぜんぶ狐坂ワカモってやつが悪いです!」
ダン!
「ポッピー!?」
ハスミは訝しんだ。訝しみのあまり、撃った。
ムウは銃弾を紙一重で躱し、穴の開いたソファを見て顔を青ざめさせる。
「は?」
「嘘じゃないんです!学生証あります!!ヘリにぶつかったのも事故デェ・・・!」
ムウは体を震わせながらハスミの足元に縋りつく。
そんなムウの姿を見て、ハスミは怒り混じりの溜息を吐いた。
「・・・では、先生を襲撃したのは何故です?」
「あ、血まみれの?あれはね」
「こ、これは!」
先生を診ていたチナツが突然声を上げ、二つの声が重なる。
「ペンキ」/「ペンキ・・・?」
そして一行は、シャーレのヘリポートに着陸した。
ストックしてた分が無くなりました。
つまり失踪します。
次回も未定です。