抜きゲーみたいな島に住んでるボッチはどうすりゃいいですか? 作:くももん
「・・・だが、断る」
沈黙を打ち破ったまのは拒絶の言葉だった。
「・・・理由を聞いていいか?」
「・・・確かにNLNSの理念には賛同できる。正直、心を動かされた。」
「だったら・・・」
「だからこそだ。NLNSには賛同している。だからこそ、絶対にNLNSには入れない」
そうだ、逆にNLNSの理念に賛同出来ていないなら、俺は
一呼吸置く。
この事実は誰にも話したことはない。妹の小町にすら話していない。この学園でこの事実を知るのは、この学園の生徒会長でもある冷泉院くらいだろうか。
「・・・何故なら、俺は」
これは、代価だ。仁浦知事との交渉で勝ち取った利益の代価。
「・・・俺は
「ッッッ」
橘兄の顔に緊張が走る。完全に強張った表情をしている
。片桐と橘妹は今まで見たことのないほど目を見開いて驚きを示している。
橘兄が妹と片桐を守るように前に出て、手を前に出す。
そう、橘兄にとってこの状況は絶望という他ない。味方の本陣に敵を招き入れてしまったのだから。
「・・・なら、童貞というのは嘘か?俺達を騙すための!」
「いや、確かに俺は童貞だ。というかお前達に童貞って公言してないから、嘘もクソもないんだが。」
話の流れ的に片桐が橘兄に説明したのだろう。前に片桐と話したときに、自虐的に童貞であることを言っていたような気がする。それを記憶していて橘兄に伝えたのだろう。
「・・・それに童貞だからSHOに所属してはいけないという決まりはない」
「・・・っ!!たが!だが、何故だっ!何故、比企谷お前はSHOなんかに所属している!お前もこのドスケベ条例に不満を持っているはずだ!アサちゃんも助けてくれた!なのに何故SHOに入っている!」
最もな質問だ。確かに俺はドスケベ条例に不満を持っている。ドスケベ条例は頭のおかしな条例だと思っている。なくなればいいのに、そう思ったことは何度もある。
「・・・この島から出るため?そうなの、八幡?」
片桐 奈々瀬が質問してくる。そう彼女とは入学してから約1年間の長い付き合いではある。ある程度の身の内は把握されている。
特に俺は妹の小町の話をよく片桐に言っていた。そして、小町に会いたいと、よくボヤいていた。
「どういうことだ?奈々瀬?」
「八幡はこの島、青藍島に殆ど監禁状態って前に聞いたのよ。そして、本島には妹さんを残してるって」
「・・・妹を・・・。だが、監禁状態っていうのはどういうことだ?」
橘兄は妹の麻沙音の方を見る。自分が同じ状況なら、どうしていただろうとでも考えているのだろうか。
妹のためなら仕方ない。そう思っているような顔だ。本当に妹思いの良い兄貴だな。
「詳しくは知らないわ。仁浦知事が八幡を出さないようにしているってくらいしか」
「あの仁浦知事が!?」
仁浦知事の名前に橘兄が反応する。
反交尾勢力にとって仁浦知事は諸悪の根源。黒幕、ラスボスとも呼べる存在だ。それに過剰に反応するのは別におかしなことではない。
「・・・俺がSHOに入ったのは島から出るためじゃない。だが半分は合っている。確かに俺はSHOと、つまり仁浦知事と交渉をして、代価としてSHOに入った。だがその交渉内容はお前達に言うつもりはない」
交渉内容はNLNSには言わない。いや、絶対に言ってはいけない。何故ならそれはドスケベ条例の撤廃に大きく関わることだからだ。
後悔はない。やり直す機会があっても、何度も俺は同じ選択をするだろう。この選択に迷いはないし、間違っているとは思わない。
「・・・待って、兄。SHOっておかしくない?普通高校生ならSSに所属するんじゃない?」
兄の後ろに隠れながら、橘妹はおずおずと発言する。
普通、この学園に通いSHOに入りたいと思う人間はSSに入る。SSは学園内のドスケベを奨励する、いわばSHOの高校生版だ。SHOの候補生といっても差し支えない。
「・・・確かに。何か理由があるのか?比企谷」
「それはだな・・・働きたくないからだ。より正確にいうなら、働くことを最小限にしたいからだ」
再び、辺りに静寂が訪れる。しかし今度は緊張による静寂ではなく、呆れを確かに含んだ居たたまれない感じの静寂だ。
「・・・確かに仁浦からは最初SSへの所属を促された。しかし、しかしだ!SSの活動内容を見てみろ!暴徒、非性産者への武力行使を用いた制圧、体を張ったドスケベを行うこと。あげくの果てには、ドスケベイベントの主催ときた。そんな組織に加入してみろ。社畜コースまっしぐらだっ!」
「・・・兄ぃ、私絶対にSSには入らないと決めたよ」
「安心しろ、アサちゃん。アサちゃんがSSに入るなんてあり得ないから」
「・・・凄い熱量なのだわ」
あの時は危なかった。あのままSSに入っていたら社畜になっていたところだった。糺川先輩と冷泉院にこき使われ、女部田に一生からかわれ続ける未来が見える。
そんなことが、起きないように俺は自分がいかにSSで使えないかを仁浦知事に力説した。「お、おうそうか」と少し引きながら了承していたのは気の所為だと信じたい。
「・・・だが、それはSHOの方も同じじゃないのか?」
「確かに。SHOでも同じ活動はするが一つ、大きな違いがある」
「・・・その違いっていうのは・・・そうか!比企谷、お前にはもしや重要な役割が与えられ・・・」
「リモートワークが出来るか否かだ!!」
「・・・」
何だ、その目は。
橘兄からはジト目で見られて、片桐からは「あぁ、そういえばこういうやつだったのだわ」と呆れた目で見られる。
しかし、何故か橘妹からはキラキラと羨望の眼差しで見られている。
「・・・SSではリモートワークの概念がない。そもそも学園に登校してるんだから、そのまま働けっていう話だ。」
「そこまで、リモートワークに拘る理由は・・・」
「極力、人と関わりたくない。時々、それを理由にして学園で公休が取れて、家に引き込もれる。何よりもサボっていてもバレるない。」
「うわぁ・・・」
「・・・呆れ果てるのだわ」
ついに言葉にされて、呆れられてしまった。
「兄、兄ぃ!私もリモートワークして家に引き込もってゲームしていたい!!」
「リモートワークなのにゲームしてサボっちゃめー、でしょ。・・・何だろう、比企谷。お前はアサちゃんと関わらせたら教育に悪い気がする」
「・・・同意見なのだわ」
「人を質の悪いメディアコンテンツみたいに言うの、やめてくれませんかね」
教育に悪いっていうなら、この青藍島自体が既に教育に悪いだろうが。将来の子どもが、「パパ〜、ママ〜俺、将来青藍島に行きたい!!」とか言ってきたら、どう反応すればいいんだよ。全国のパパママの苦労が知れる。
つまり、俺は悪くない。社会が悪い
「・・・まぁ、そういうわけだ。以上の理由から俺はNLNSには入れない。諦めてくれ。この施設については、公言するつもりはない。信じてもらえるかは知らんが」
「・・・とういうことはつまり、ドスケベ条例に不満を持っていることは違わないだな?」
「・・・」
不満を持っていることは、否定しない。しかし、やはりそれとこれとは別だ。
「・・・よしっ、それじゃあ仮加入してくれ!」
「は?」
何?仮加入?なにそれ?イベントをクリアしたら正式加入するの?どこのソシャゲ?
「気が向いたら、NLNSに加入してくれ。それまで、俺達は待っている」
「・・・何を言ってる。俺は敵だぞ。お前達の敵、SHOの仲間だ」
そうだ、俺はSHOに所属している。望む望まないに限らず、それは事実だ。そして反交尾勢力とは相容れない存在でもある。
「確かにSHOは敵だ。だが比企谷、お前は敵じゃない」
また、その目だ。
その真っ直ぐすぎる目が俺の感情を揺さぶる。本能のまま、感情のまま生きられたらどんなにいいか。だが、俺の理性がそうはさせない。どこまで言っても俺は仁浦知事が言っていたように、理性の化け物なんだろう。
「・・・帰るわ」
「・・・あぁ、また来てくれ。そのときは歓迎する」
俺は逃げるように、NLNSの秘密基地を後にする。
橘 淳之介。彼なら、否、彼らなら、少ない可能性だがドスケベ条例を無くすことが出来るかも知れない。そんなことを、俺は理性ではなく感情で思ったのであった。
だが、それでもやはり
やはり俺がNLNSに加入するのは間違っている
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いつもの人目に付きづらい帰宅ルートを通り、家に帰ってくる。
勃たないことを伝えたり、実際に勃たないところを見せれば別に人に声をかけられても回避することは可能なのだが、やはり人とは極力関わりたくない。それがボッチの性というものだ。
俺はこの青藍島では何と一軒家に住んでいる。
大体、男の一人暮らしならマンションやアパートが普通だと思うが、この島でマンションやアパートに住むということは確実に隣人トラブルを招く。
安いアパートやマンションを選べば、防音性がなく確実に情事の音で寝れなくなるし、隣からセックスのお誘いもあるだろう。それを勃たないです、と説明するのも面倒くさいし、可哀想な目で見られるのも屈辱ではある。
まだから一軒家が最適解なのである。
しかし問題は金なのだが、これは仁浦知事が負担している。家賃や生活費は仁浦知事から毎月送られてくる。俺のSHOの給料とは別にだ。
養われることが夢である俺だが、俺をこの島に拉致した仁浦知事に養われるのは抵抗感はある。しかし、仁浦知事の目的や考えは分かるし、
ガチャと玄関の扉を開ける。
そこには・・・
「おかえりなさいませ。八幡様」
そこには、